勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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原作のアポロファンの皆様ごめんなさい。


出来ることと言えば・・

「申し訳ありませんでした。」

 

とりあえず開口一番謝罪から入った。

 

アポロが連れてきたのは宮廷侍医長でロムスという人だった。

パプニカ王を出産時から取り上げて今日に至るまでずっと自分で診てきて他の誰にも診察をさせたことがないという筋金入りの侍医の鑑のような人だとか。

 

何でそんな人に睨まれてるんだ私は。そしてそんな現況を作った坊が説く説くと語っているんだどや顔までして。

そんな先達の顔を潰したって分かってるのかこいつは?

分かってないんだろうな・・この事態鎮静化させるためにも・・冒頭に戻るだまったく。

 

ダイやエイミたちの手前、この騒ぎの元凶はアポロだと言い募るよりも自分で頭を下げた方が早いとティファはさっさか判断し、やってもいないことに対してあっさりとロムスに頭を下げた。

 

「-ほんの少しだけ-薬学をかじったものがしゃしゃり出ようとして申し訳ありません。

ロムス侍医長にお会いして医師の造詣の深さを知り己の浅慮を痛感いたしました。」

「・・・謝罪を受けよう。話はこちらで。」

 

ティファから謝罪を受けたロムスは手近なテーブルではなく少し奥まったところにあるもう一つの方にティファと二人っきりで話をすると連れて行った。

ダイ達は事の発端を知っているだけに、アポロの不備を何故ティファが負うのか納得できずに心中穏やかではないが、アポロにもヒュンケル・クロコダインを擁護してもらった恩があるので表立って言えずに内心で怒りを抑えて事の成り行きを見守っている。

 

「アポロ殿ですね。」

「はい?」

「隠し立てしなくても結構ですぞ。本当の事の発端はアポロ殿が貴女に王の体の事を言いに来たのでしょう。」

 

入ってきた時やその後の対応とうって変わり、ティファと二人きりになったロムスの顔と声は穏やかなものになっていた。

 

「申し訳ない。自国の者が困った事をしたのに、貴女に詫びなぞをさせてしまい。」

 

ロムスはこのパプニカ王城に務めてもう半世紀以上になる。同僚というか同期で現役の城勤めの者はもうバダックの他は数名しか残っていない程の古株中の古株。

ロムスとバダックはこの城に務めているもの達の事を大半は把握している。

流石に洗濯女や釜焚きなどは知らなくとも、長年働いていればメイドに至るまで知っている程の情報通。

その情報通は鬼岩城戦の後で料理人が行った物資寄贈の事は全て掴んでおりおおよその為人も把握済みであった。

だからこそ今回の一件も勇者一行の料理人が言い出したのではなく、王と姫君をひたすらに案じるアポロが言い出したのだと直ぐに当たりはつく。

つくのだがそれでも不機嫌を装わざるをえなかった。

 

アポロは有能で普段は出来た男だが、正義感が強すぎ曲がったことが嫌いな清廉な人物で通っている。

普段はそれでもいい。腹芸などは賢者の仕事ではなく大臣・官僚の仕事だからだ。

だが今回はそのことが災いした。内密な話でレオナを呼ぶことはせずに、会議最中のレオナに報告して周りの耳目を集めてしまった。

一応アポロもティファに言われた内容で報告をしたが、それでも一介の素人の発言を超えていることに変わりなく、周りを宥めるために全てを承知しつつもロムスが不機嫌を演出したのだ。

勇者一行の料理人の越権行為は侍医長が叱り、料理人のティファも反省をするだろう

 

筋書としてはこんな感じだと周りには聞こえない小声でロムスはティファにからくりを話し、そのせいでティファが謂れのない評価下げに繋がってしまう事は防げない事にも言及をして申し訳なさそうに謝罪をしてきたのだ。

決してティファが悪いのではない。自分はその事をきちんと承知していると伝えるために。

 

この人凄い人だ。

ちょっとした情報で全部繋げて行動できてしまう素敵なお爺ちゃん医師だ。

ロムスさんはロモスのシナナ様をほっそりとさせた人で、後は髭の長さや茶目っ気があるけど凄さが分かるところまでもが。

 

ティファはロムスが話すパプニカ王の体調と処方してきた薬を聞いてるだけで、ロムスの医師としてどれ程凄い人か分かり目をキラキラとさせていく。

薬には作用と副作用がある。よく効く薬は当然のように副作用が強く吐き気・眩暈・頭痛等様々な事が起き、それに対処する薬も用いるので大量になりがちだが、ロムスは独自の精製法で毒気の強い薬の毒気自体を薄めて使っているという。

それはパプニカのレオン王を幼少のみぎりより見て来たからこそ、どのような薬が効くのか効かないのかを知り尽くしているからこそ出来ることだが、それでも薬の毒気を薄めるのはティファにも出来ないことであり、万能薬調合時に副作用に対処する薬草を同時に配合をしている。

 

是非ロムスから教えを乞いたい!

 

普段の自分ならばグイグイとロムスに迫るのだが、今はそんな気すら起きない。

 

パプニカ王を治してあげられない

 

ティファの内心にまたもや暗い影が落ちる。

 

胃痛・吐き気から始まり見る見るうちにやせ細り、近頃は吐血すらしているこの症状は-私-がよく知っている。

 

前世での私の死んだ原因の胃がんだ

 

この様子だとパプニカ王の余命は半年と見積もってもらった方がいい・・このことをレオナ姫は知っているのだろうか。

 

「ロムス様・・この事は・・」

「レオール王ご自身には告げてあります。もしも腹にしこりが出来た時はお命がつきかける時だと。」

「レオナ姫には。」

「・・まだその段階ではないので徒に姫のお心を乱すだけだと王ご自身より口止めをされている。」

 

そうか、王女様で帝王学習っていてもレオナ姫も多感な少女期だ。王様も国王としての立場で跡取りの姫に接するよりも、父親として娘の心を心配したんだ・・なんで・・良い人ほど早く逝ってしまうのだろう?

 

助ける薬の手立ては私にはない、出来ることと言えば精々苦しみを和らげることだけだ。

 

ティファは無言でポーチからメモの紙と羽ペンとインクの入った小瓶を出して無言で書き始める。

その様子は悲しさで満ち溢れ、悲壮ささへ出していた。

書き終えたティファは直ぐにロムスに渡し、読んだロムスはティファの様子にとても納得をした。

 

「ティファ殿・・これは・・」

 

ロムスは最後撫で言い切ることが出来なかった。

それは五年前にティファが、矢張り助けられない仔竜ミーナの為に作った眠りの死薬。

飲めば痛みを感じることなくねむるように逝く安楽死の薬。

今回は鎮静剤として薄めたものを処方箋に書き出したが、医療の特に薬学の造詣に深いロムスからすれば、その効能の恐ろしさを一目で看破したのだった。

 

「もう私には・・こんな事しか出来ないのです。」

 

悲しみを深くたたえた瞳を宿したティファにロムスも無言でうなずき一礼をして席を立ち、アポロとエイミにも一緒に退出するように促し部屋を去った。

 

ティファの薬の造詣の深さに脱帽し、出る直前にある事を質問した。

 

「もしや今世界を救っている万能薬の開発者に、ティファ殿も関わっているのではありますまいか?」

 

ダイ達はロムスの言葉に驚き、その可能性がある事に考えが至り驚愕の眼差しをティファに向ける。

それは先程-万能薬-と呼ばれている薬の事を知り、ロモス王がティファの端書メモに支払おうとした報奨金の高さから、自分達が普段使っているティファの薬の希少性が分かり自然と-ティファの薬-もイコール万能薬ではないかと結びついたからだ。

 

だが聞かれた当の本人のティファはその質問をされても驚きをあらわさず、是とも否とも言わずにただ黙って微笑むだけ。

 

これは無粋な事を聞いてしまったとロムスは自分に苦笑してしまった。

ティファのような者は自らの手柄話をするはずがないのだと分かっていただろうに、珍しく興奮して抑えがきかずに聞いてしまった。

それ程までに万能薬の魅力は凄まじく、効能を知ってしまった者達からは奇跡の薬とまで言われている。

長年医師をし、遂には侍医長となった自分をも虜にした薬の開発者と思しきものを間近で見て話が出来たのだから良しとせねば。

 

ティファの沈黙にロムスはまたも無言で一礼をして退出をした。

レオナ姫に-全て-を報告すべく。

如何に多感な時期の少女とはいえ、国王が亡くなった時に備えねばならない。

今の自分にできる精一杯の事を全てせねばならない。

たとえ姫君に恨まれようともだ。

 

 

何が奇跡の薬だ

 

自分に出来ることと言えばいつもこんな事だけ。傷はある程度のものを治すことが出来るが病には無力。助けることは出来ず、苦痛を和らげるだけ・・そんな事しか出来ない。




物語の都合上、アポロの中身を原作と全く違うものにしました。

ここでお詫びをさせていただきます。
sss様よりのご指摘があり、王城決戦⁉①で書いた、ロモス王が主人公にに渡そうとした褒賞金額がドラクエの世界の武具よりも低いとのご指摘を受けて調べてみたところ、確かに低すぎましたので一千ゴールドから百万ゴールドと訂正をさせていただきました。

これからも皆様のお力をお借りしながら続けていきたいと思います。
最後までよろしくお願いします。

sss様ありがとうございました。

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