勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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一行フルでお出かけ・・その前に


真夜中の使者たち➁昼前

パプニカ王国は本日もお日柄が良く、小高いところから海を見れば水平線がきれいに見える。

港町は呑気にカモメが鳴き、猫が隙あらば漁師たちの網からいくつかの魚を取ろうと虎視眈々としている。

誰が想像しよう、昨日でパプニカが壊滅していたかもしれない事態が起こったことを。

人以外の動物たちは昨日の事なぞ忘れその日生きる糧を得ようとそちらばかり考えているが、往来を行く人々の顔にはまだ脅えが残り、微かな音にもびくつく者もいる。

 

それ程の傷跡が人々の心にも上陸をされた箇所にも残っている。

攻めてきた者の象徴のような壊れた鬼岩城が残っているのだから尚更なのかもしれない。

 

ティファもこの鬼岩城どうすべきと悩んではいた。

 

ノリノリで鬼岩城を罠に嵌めてやっつけてやったぜイヤッァホォ~、とか精霊達と大盛り上がりしたけど、一夜明けて少し落ち着い考えてみれば、この超巨大産廃物どうすればいいの?

 

➀魔王軍に苦情を申し立てて引き取らせに来させる。

人間界にはない物質も多分に使用されているはずだから解析されたら不都合でしょうとかなんとか取引風にして処理してもらいに来る・・・ないわぁ~。

 

➁コツコツ解体

泥から見えるところから解体して、引っ張り上げながら少しずつ崩しておうちの材料にする。

・・・そんな怪力どこにいるんだか。現実的でないし次いってみよう。

 

➂放っておく

ダイ兄の話だと中から感じたエネルギーの元になる物も斬ったって言ってたから、大戦終わるまで保留という事で。

ただしいつ再起動するか分からないから見張りは常時つくようになるらしいと、王様達とレオナ姫が出した結論はこれらしい。

 

その話は城を先に出た私は知らず、辞去の挨拶に行ったダイ兄とポップ兄がレオナ姫から直接聞いたようだ。

私は先に城出たけど。

 

 

「昨日ダイ兄の剣を作ってくれた人のところに一行全員でお礼をしに行きたいです。」

 

昼近くになってようやく目を開けたティファは、早速やりたいことをダイ達に伝えた。

もうそろそろハドラーの篩から決戦への道筋になるのは明白であり、今の内に一行全員とロン・ベルクとの仲を親密にしたい。

知っているだけの者達と、よく知っている親密な者達とでは手を貸す力の度合いも違ってこよう。

ロン・ベルクとて力を貸してくれるとなれば別に手抜きはしないだろうが、そこは情が絡んだ方がより一層奮起してくれるだろう。

 

あの人なんだかんだ言っても原作の生意気ノヴァを弟子に引き取ったくらいの面倒見のいいひとだし。

 

今回行くにも、ダイの剣を作ってくれたからというお礼の名目もあるので行っても大丈夫だろう。

 

「その際ポップ兄のご両親にもお礼をしたいのです。」

 

こっちは純粋なお礼を込めて。

 

ポップの父ジャンクが鬼岩城という強大な敵を相手にしに行くポップを止めずに送り出していた所も式鳩で見ていて申し訳なくなった。

送り出す瞳にはこらえがたい悲しみが込められていたのが分かったから。

何処の親が好き好んで我が子を死戦の場に送りたがるというのだ。

それも武人の家系でもなく、かつて鍛冶屋として城勤めをしていたとはいえ今は市井の者だ。

本当はポップに行くなと言いたかったであろうとは容易に察しが付く。

 

ポップ兄の無事な姿を見せてご両親を安心させてあげたいのです。

 

ティファの優しいい思いからの発案に、ダイ達に否やはなく直ぐに行くことに決めた。

これ以上ティファの心を乱すことが起きる前に、ティファを直ぐに城から出す算段も付けてある。

 

「ティファさん、実は昨日僕が逃がしたモンスター達の中にはけがをした者たちも結構いるんです。」

今そのモンスター達の面倒はヒュンケルといつも一緒にいるベホイミスライムが見ているのだが、多すぎて診切れないかもしれない。

「はりゃ、そういえばべほちゃんいないなとは思ってたんですが、そんな訳が。」

 

五年前に親友のノヴァが死にかけて以来、回復大事とべほちゃんと共に一緒にあちこち行って、今はヒュンケル専用と言っても過言ではないダイ一行の頼れる仲間の一人だ。

うちって人族とモンスター族の割合が半々なんだな。

 

人族

 ダイ兄(竜の騎士とハーフでも母は人だからいいよね)

 ポップ兄 

 マァムさん

 メルルさん

モンスター族

 クロコダイン

 チウ君

 ガルーダ

 べほちゃん

 

みんな仲良くて和気あいあいとしていて良い一行だな~。

出来れば()()()で蹴りつけられるのが理想なんだけど、どっちに転んでもいいようにしておいてあげたい。

その為にもロン・ベルクさんとの仲をより深く・・の前に行かないと。

「チウ君、怪我した仔達は何処いるの?」怪我した者を治すの先だ。

 

ティファはダイ達の目論見通り、怪我をしたモンスター達の方に気が行った。

ティファは誰よりも優しく、怪我をしたのが何者であっても放っておくはずがないとポップが発案をした。

 

「姫さん達には俺達から言っておくよ。お前だってまたアポロさんと会ったら気まずいだろう?」

「う・・えっと・・・」

「レオナだって分かってくれるよ。先に行っててねティファ。」

「でも・・」

「ティファ、チウと一緒に行っててね?」

 

んと・・ポップ兄達いやに張り切って私を城から出そうとしてる。ここは素直にお言葉に甘えよう。

 

ダイ達にお願いしますと言って、ティファはチウに案内をされて怪我をしたモンスター達の治療に向かった。

 

「-ヤッホー、ティファ~-」

「お疲れ様べほちゃん。手伝いに来たけどやる事ある?」

「-流石に骨折とかは僕のベホイミだけじゃ無理。ティファ来ると思ったから骨折の仔達分かるように、怪我した箇所に蔓を巻いといたよ-」

「流石べほちゃん!チウ君も手伝っていただけますか?」

「分かりました・・でも・・その・・」

「ん?どうかしました・・」

「僕に敬語を使わないんでほしいんです。」

「うん?」

 

チウは真っ赤になりながらも、ティファに敬語を使われると何だがティファと自分との間に壁が出来るようで嫌だとはっきりと言った。

自分もべほのように気軽に話してほしいのだとも。

 

「僕なんか弱いかもしれませんけど・・それでも・・ティファさんの心を軽くできたら・・」

 

この一行は誰もが強い。自分のいた世界が井の中どころか猫の額ほどの者だと思い知らされるほどにとんでもない人達ばかりで、そんな一行の中に果たして自分がいていいのだろうかと思ってしまうが、それでも自分はこの優しい少女の助けになりたいのだ。

 

あの時、王様から話を聞かせろと言われたときのティファさんの心は少しずつ澱み暗くなり、遂には冷たい悲しみが覆い始めたのが自分には分かった。

それはかつて自分がいた暗い場所に、ティファさんの心が堕ちてしまいそうだと怖くなった。

ブロキーナ老師に拾われる前の自分は、マァムさんに出会う前の自分は孤独と悲しみしかなかったせいか、あの時のティファさんの心の悲鳴が聞こえたのかもしれない。

部屋に行ってみれば、案の定ティファさんは泣いた顔をして眠っていた。

外の全ての事から身を守るように体を丸めて。

あれをまたみるのは嫌だ、ティファさんと友達になりたい。仲間よりも、もっとティファさんが気楽に接せる友達に。

 

「・・分かった、チウ君には敬語は使わない。チウ君手伝って。」

「分かりましたティファさん。」

「・・チウ君は敬語なの?」

「僕は良いんです。老師も婦女子にはきちんとした態度をとりなさいと教わりました。」

「老師って、拳聖って言われてるブロキーナさん?」

「御存知ですか?」

「マァムさんが教えてくれました。」

「そうですか!あの方は凄い方で・・」

 

ダイ達を待ちながらのんびりとチウとべほと共に怪我をしたモンスター達を診ながらティファは自分の心が穏やかな心持ちになって行くのを感じている。

先程までの遣る瀬無い怒りや悲しみの気持ちが、心優しいチウによって癒されて行くのが分かる。

 

友達

 

良い響き、大事にしないといけないものだ。

 

 

ティファ達はまったりと、ダイ達はレオナからアポロの所業は自分にも責任があるのだとあの時の思惑も話し、頭を下げての謝罪を受けていた。

 

「レオナ・・ティファなら許してくれるから大丈夫だよ。」

「そうだぜ、あいつは困っている人に酷い事は言わねぇよ。」

 

ダイ達はティファの代わりに謝罪を受け取り、ティファの気持ちも代弁もしたが、早々なんでもホイホイと許してしまうティファの事を聞いたレオナはかえって心配になった。

そんなに何でもかんでも受け入れてしまっているからこそ、ティファの心は今疲れきってしまっているのではないだろうか?

 

そしていつか、受け止めきれなくなった時にティファの心が壊れてしまうのではないだろうか

 

杞憂であってほしいと、ダイ達が辞去して去った部屋で一人レオナは暗い考えを振り払おうとした。

 

 

「チェックメイトか・・ねぇミスト、まだ夜にならないの?」

「・・・まだに決まっているだろう」

「あ~!もう!!早くお嬢ちゃんに会いたいのに!」

 

とある場所ではキルとミストがチェスをして時間を潰している。

 

真夜中になったら二人で使者を務める予定で待機中で、早く夜にならないかと騒いでうっとおしい事この上ないとミストは早々に邪険にし始める。

だがそこでめげずに親友にべたつくのがキルの特技であり、寡黙ながらも案外情に弱いミストはなんだかんだとキルの相手をしているから親友という言葉が成立をしている。

しているのだが

 

「そうだ!ねぇ~ミスト、魔界から術者呼んでラナルータ掛けさせてよ!」我ながらナイスアイディア

「・・・こ・の・・馬鹿者が!!!!」

 

天候呪文よりも今や希少な、伝説とまで言われる昼夜逆転をさせられるラナルータを何だと思っているのだこの馬鹿者は!!

そもそもそんな大規模異変起こした日には騒ぎになるわ!隠密行動とのバーン様の命を忘れたのかこいつは!

 

ミストのぶちぎり説教聞いてもキルはいつもの事とどこ吹く風。ミストが怒って怒鳴ってくれれば声が沢山聞こえるから寧ろ大歓迎。

だがその嬉しいはずの怒声も耳に入らない。

 

キルは今終えたばかりのチェス盤を見下ろす。

自分の陣は、キングの前にクィーンを置いて守りを固めている。

 

まるであの子のようだ。

 

キングと周りの者達を、己の全てを砕いて守っているあの子に。

 

そんなに自分を砕いていたら、いつか自分が無くなってしまうかもしれない事をまるで考えていないようだ。

 

可哀そうな子。いっそ僕の-死神-の力で今の状況から抜け出させて上げようか。

 

キルが死神と呼ばれている所以はたんに暗殺が得意なだけではない。

その力を-可哀そうなあの子供-に使ってあげよう。

 

キルは全ての感情が抜け落ちたような視線を自軍のクィーンに向けて、おもむろにクィーンを人差し指で軽く弾き、クィーンはコロコロ転がって盤上から転げ落ちる。

 

抜け出させてあげたい、そしてそろそろ自分の事をきちんと見てほしい。 

 

可哀そうな子供への憐れみと苛立ちが内包したキルは思う。

 

早く夜になれ、死神が出現をする逢魔が時を経た真夜中に




少しずつ築かれて行く一行の絆と、少しずつ軋み始める様々なお話し。

原作のチウの勝気さはロモスの武闘大会でダイとポップを素直に尊敬する人と受け入れてから消えましたが、彼特有の器の大きさと勇敢さは損なわれていません。
手探りながらも、ダイ達と共に世界と主人公を守ろうと誓った一人である事に変わりはありません。

次回やっとお出かけ・・できるかな?

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