「私もお外で寝たいんです!」
ダイ兄達と一緒にお星さまを見ながら沢山の喋りをしてグッスリと寝たい。
「駄目よ!あなた女の子なのよティファ。ロン・ベルクさんの厚意を受け取って私達と一緒にベッドで寝なさい。」
「そうです、女の子のお喋りも楽しいですよティファさん。」
「今度皆で野宿した時にお喋りしようよティファ。」
「むぅ~ダイ兄まで。」
外なんて危険だ、どんな悪意がティファに覆いかぶさろうと狙っているか分かったもんじゃない
「・・マァムさん、ベッドは三人は狭いのでは?」
いくら男物のベッドでも、私とマァムさんとメルルさんの三人はどうなんだろう?
「あら、だったらこうしましょうティファ。」
「ふぎゅ!マァムさん・・胸当たってます・・」
「ふふ、ティファって本当に小さいわね。ミーナとおんなじくらいの細さね。」
「あら、もっと太っても良いと思いますよティファさんは。」
「・・ひゃい・・」
こうやって抱きしめていれば、不意に-腕-が出て来てティファを攫おうとしても一瞬の気配で分かる
「ポップ、寝ずの番の最初は俺がするよ。」
「そうだな、おっさんとダイで組んで次が俺とヒュンケルで・・チウはダイ達と組んでくれ。」
「分かりました!気配したら直ぐに皆さんにお知らせします!!」
「うむ、頼んだぞチウよ。」
「あまり力を入れすぎるなよ、夜は長い。」
何処から敵が来ても対処できるように万全の守りを敷く
あいつら何考えてやがる?
ダイ達の動向をつぶさに見ていたロン・ベルクは疑問だらけだ。
こんな片田舎に魔王軍は一度も来たことがないと言うのに、まるで決戦前夜のような物々しさだ。
しかもその中心にいるのはどうやらあの少女。強いのか弱いのかさっぱりと分からない変わったお嬢さんをどうやら守ろうとしているようだ。しかも本人には何も告げずに。
ティファはいたって普通に兄たちと野宿を楽しみたいと言ってもすぐに却下をされ、女性とはいえ三人では手狭になるベッドでも抱きしめられて眠っている。
本人はすやすやと眠っているが、マァムもメルルもどこかピリピリとしている。
俺も周りに気を張ってみるか。
あいつらも矢張り勇者一行で、多くの敵から狙われているんだ。不意の襲来に備える方が当たり前なのだろう。ここにいる限りあいつらは俺の大切な客人だ、誰が襲ってきたとてみすみす見逃すつもりはねぇ。
かつて魔界の剣豪とまで呼ばれた俺の名に懸けて
八重に十重に二十重に、いくつもの守りが少女の周りに張り巡らせられた。
万全の守りと言っても過言ではない守りが、本当ならば何事もなく朝を迎えるはずだった。
-おいで-
ほの暗い水底から響くような重く幽かな声
-待っているんだよ-
どこか物悲しさを感じさせる声がティファの頭に直接届いた時、その守りの加護は脆くも崩れ去った。
ティファ自らがその守りの揺り籠から抜け出し、走って森の奥へと直走った。
マァムの腕から抜け出し、土間で剣を脇に置き椅子で寝入っているロン・ベルクの横を通り過ぎて扉を開け、-眠っている-ダイ・ヒュンケル・クロコダイン・チウ・ポップ達の間を走り抜けて意の奥を一路を目指す。
行かないと
焦燥感に駆られて走った先にいたのは・・
「今晩はお嬢ちゃん♪」
自分の出現に驚いているミストと違い、いつも以上に飄々とした雰囲気を纏ったキルが演奏止めて岩から降りてきて挨拶をしてきた。
「・・・今夜は・・キルバーン、ミストバーン。」なんで・・自分はここにいるんだろう・・
ただ声に導かれるままに来たティファは、挨拶を返してきたきりぽかんとした顔でキルとミストを見つめているだけで動かない。
流石のバケモノ娘も驚くことがあるのだとミストは意外に思った。
どの様な事にも動じずに、小憎らしいほど落ち着いて行動をしては自分達の作戦の邪魔をしてきた娘とは思えん。
一方のキルは内心でご満悦状態だ。
「ミスト~、お嬢ちゃんを誘き寄せる方法僕に一任させてくれないかい?」
「・・どうする?」また空間から攫ってくるのだろうか。
「ふふ、な~いしょ~。でもきっと来てくれるよ。あの子自身が僕達の下へ。」
そんな都合のいい話があるものかと馬鹿馬鹿しく思ったが、いざとなれば空間からキルに攫わせる算段を付けてダイ達の食事に一服盛った。
この場合ティファが用意をしたダイ達のパーソナルカラーのマグが災いをし、ティファ以外のマグの内側に無味無臭の眠り粉を塗りつけた。
それが出来るならば普通は毒殺を算段しそうなものだが、致死の毒に無味無臭はなく直ぐに感づかれて終わってしまう。神経を研ぎ澄ませた達人ならば、命に関わる事には尚更神経が行き渡るもので、ロン・ベルクの目をごまかせるとは到底思っていないミストは下手な欲はかかずに大魔王の命を忠実にこなす。今回の狙いはあくまでも勇者ダイではなくその妹なのだと。
こいつの目をかいくぐるのは至難の業だ
かつて因縁浅からぬロン・ベルクの実力を熟知しているミストは、キルに大量の無味無臭眠り粉をふんだんに渡し、ロン・ベルクの酒に大量に混入をさせた。その量たるやクラーゴンでも昏睡するだろう程の量に、流石のキルも少々引いた。
「ねぇ~ミスト、あの鍛冶屋さん殺したいの?」
そう言わしめるほどの量を平然と盛るように指示したミストは少しばかり私事も入っている。
「構わん、大魔王様に-二度-までも楯突いた奴だ。死んでもよかろう。」
「・・分かった・・」
粛々と、ダイ達が張り巡らせる守りの垣根を取り払うべくキルは思う存分暗躍をして夜は更けて、煌煌とした満月が空に昇り切った時に満を持してキルは死神の大鎌の握りについている-笛-を奏で始めた。
スルスルと音は夜空を上り、あたりに満たされ始めた時にそれはやってきた。
森の静寂をかき分け、ひた走る何かがこちらに近づき、藪をかき分けて出てきたのは寝具を着て髪を振り乱したティファだった。
やっぱり来た!僕の考えは当たっていたんだ!!
キルが吹いた音は-とある者達-だけに声として届く波長を笛に乗せて奏でたもの。
このあたり一帯にはその音を拾えるのは小屋の主とこのティファだけで、小屋の主には来てほしくないからミストが盛るように言ってきた馬鹿みたいな量の眠り粉を盛ってやった。
もしかしたら来ないかもしれなかったけれど、僕の考えは正しかった!
お嬢ちゃんはやっぱり僕たちの側に居るのが相応しい子なんだ♪
キルが心の中で自分の考えの正しさが証明できたと拍手喝采してる中、ティファは状況よりも、自分の落ち着きように驚いている。
なんでだろう?怖くない
キルとミスト、大魔王の直属の側近で魔界でも屈指の実力者が揃っているのに私はたった一人だけ。
ダイ兄達がいるわけでもないのに、本当に怖さを感じない。
それどころか美しいと思っている。
満月の光の中綺麗な白い衣装を着たミストは尚その白さを際立たせており、少し斜め後ろに佇むキルも相も変わらずにかっこいい。
そうだ・・これはまるで・・
「・・私は夢でも見ているんでしょうか?」
お伽噺の中に迷い込んだみたいだ。
・・何を言っているんだこの小娘は?
どう考えたらそんな非現実的な答えに辿りつくんだとミストは馬鹿馬鹿しさに本気で頭痛を感じた気になってしまう。
中身は暗黒闘気の生命体で、表は主の若く最高潮の頃の肉体であるはずなのにだ。
これはキルに相手をさせよう。一段落着いたらさっさと用向きを終えてバーン様の下に戻るべきだ。
ミストの思惑通り、キルはニコニコとティファに話しかける。
「お嬢ちゃんはちゃんと起きているよ。」
「え・・でも・・・」
「ふふ、魔物の僕達をそんなに綺麗に評価してくれるのなんてお嬢ちゃん位なものだよ。」
「・・・そうでしょうか?」
「そうだよ。そもそも普通はね、勇者様の仲間なら魔王軍の僕達と会った時点で警戒すべきなんだよ?君全くしていないけどいいのかな。」
「あ・・」
「それって勇者一行の者としては失格なんじゃないのかな。」
キルの言う通り、ティファは常時身に着けている雪白を発動させようという考えすら起きないほど無警戒のままで魔王軍の大幹部達と対峙をしてしまっている。戦場であれば、あり得ざる事だ。
・・・今日のキル・・何かヤダ・・
魔の森でもテラン戦でも、攫われた死の大地でもこんな物言いはしてこなかったのに。
絡みつくような粘っこい蜘蛛の糸で雁字搦めにしようとする様で気持ちが悪い。
「・・・私に、何の御用でしょうか?」
早く用件を聞いて小屋に帰るべきで。戦う気ならばミストがとっくに私に斬りかかって来ている。
つまりは今日は戦いに来たわけではなく、私を帰す気はあると考えて間違えではないだろうけど・・
「大魔王バーン様よりのお言葉だ。」
ティファの問いに、すぐさまミストが応えた。
長年バーンの側近くにいたヒュンケルやハドラーがいない今、大魔王の姿どころか影すらも見た事がないティファにならば声を聞かせても問題は無いだろうと。
「明日の朝、パプニカ国内において大魔王バーン様の篩を勇者ダイ達に行う。
もしも受けぬとあれば、パプニカ王国の滅亡と思え。以上だ!」
・・・・・はぁ⁉
今宵はここまで
ようやく使者たちの登場です。
キルバーンは主人公に関して、主人公自身も知らない諸々の事に気が付きまんまと誘き寄せました。
この時点では誘き寄せた方法は詳しくは書きません。
大魔王・ミストとロン・ベルクの因縁は今更なので割愛をさせていただきました。
そしてとうとう原作にはないオリジナルの戦いを入れさせていただきます。