私は一体何を聞いているんだろう?
大魔王バーンの篩って一体なんだ?そんなもの、原作のどこにもそれこそ劇場版にもアニメ版にもなかった・・この時点では、大魔王の影すら見えないはずなのに・・
聞いた内容が理解できずに、ポカンとした顔を晒すティファに、キルは愉快気に声をかける。
「不思議そうだねお嬢ちゃん。」
聞かれたティファは、不思議どころか疑問しかない。
「これは魔軍司令官も知っているのですか?」
たった数日前に彼からのメッセージをヒムから聞いたばかりなのに、横割りをされるような作戦をハドラーは反対しなかったのだろうか?
自分達の力で敵の実力を見定めると意見を言ってそうなもんだ。
「知らないよ。これは急遽決まったことなんだから、ハドラー君には知らされていないんだよ。」
「はぁ?」
「原因はね、君なんだよお嬢ちゃん。」
「私が!」
キルから知らされた新情報に、ティファは益々混乱を深める。
何それ?
鬼岩城を一撃で切り裂いたダイ兄でなく、なんで私が原因なの。
言ってる事が滅茶苦茶だ。現時点での料理人は、大魔王の目に引っかかることはしないように細心の注意を払って動いてきたつもりだ。
幼少時から島を出掛ける時も、ガルーダで出掛ける時も悪魔の目に映らないように主要都市国家は全て徒歩で歩いて入り、目玉の気配がしたらハイエントの結界・ジ・アザーズで自分を覆って目くらましをてきた。おかげで大戦が始まるまでこの世界の主要人物はおじさんか-小父様-以外は私を知らずに済んできた。
その私が大魔王の目に留まるだなんてどう考えても・・
思考の海を漂うティファに、キルは更に情報を与える。
漸く自分の言う事に耳を傾け始めたティファに気を良くして。
「君、自分がバーン様の目に留まることしてないって考えてるでしょう。」
「・・はい。」
「くっくっく、君って正直な子だね。考えてることが丸分かり。正直ないい子に教えて上げるよ。君、死の大地では物凄い活躍したじゃないか。」
「・・・・ほぼ泣き喚いていた気が・・」
瘴気のせいで、見たくもない自分の心に負けてのたうち回って散々な目にしか合っていないぞ。
「そこじゃないよ。二度目の時はなんでか瘴気は効かなくて小物君を躊躇なく殺そうとしたり、いきなり出現したハドラー君のオリハルコン製の部下君の胸を手刀で綺麗に貫いたりの大活躍してたじゃないか♪」
「・・むしろ勇者一行の者として恥ずかしくて死ねます・・」
自分がしでかした黒歴史に、ティファは内心悶絶しまくった。
深い穴掘って埋まりたい!
無抵抗になった無力化したゴミ屑でも一応無抵抗のご老体殺そうとしたり!うっかりでポーンヒムを生まれた瞬間お亡くなりあそばせようとして!!私どんだけダメ人間⁉
埋まっておきなさいよ!阿呆自分!
「君には恥ずかし~い事でもさ、バーン様は君の本当の実力はどんなものか知りたくなっちゃたんだって。」
ティファの顔はギリポーカーフェイスを装っているが、内心の悶絶を感じとったキルは、楽しそうに続きを話しながら、内心で本当の事を反芻する。
もっと言えば、力の方ではなく料理人の真の姿を。まぁこれはまだ内緒だけどね。
本当の所、-五年前の大騒動-の時、この子が本当に関わっているのかどうか僕も知りたくなってきたんだよね。あの当時はてんで興味なかったけど、この子が果たして意図的にしたのか偶発的に引き起こしてしまったのか、あるいはまったくの無関係・・・三番目はないか。
意図的ならばこの子供の真の正体は天界からの刺客に他ならない。
ただの子供が魔界の神にちょっかい掛けられるはずもなく、大魔王の思惑を知った天界が寄越した者だ。
しかしそれにしてはやり方が実にまだるっこしい。確かに当時の魔王軍は大混乱をしたが、それでも軍の立て直しが出来てそれ以降の干渉はなく大戦は開始された。
天界からの刺客ならば、二の手三の手を打ってくるかもっと直接的な干渉がありそうなものだがなかった。
そして本当に偶発的に引き起こした物だとしたら・・矢張り見逃せない。
天文学的な確率よりも低い偶発性を引き起こす者なんて、現時点での勇者よりも厄介だ。
なんで自分が標的なんだとぼやきながら頭をガリガリとかいている暢気なお子様。
自分がどんな事態を引き起こしているのか分かっていない。
「本当に迷惑な話だよ。」
「貴方がそれを言うんですかキルバーン。」
「迷惑なんだよね、誰もかれもが君に注目をしだして。」
君の-本当の正体-を知っているのは僕だけなのに。
不意にキルの雰囲気が一変をした。苛立を隠そうともしない瞳がティファを射抜く。
その赤い瞳に常の深みはなく、怒りとは違うもっと濃く深いものがちろちろと燻りはじめ、ティファの心を竦ませた。
なに・・あの目は・・
見た事がない、あんな色を乗せた瞳を自分は知らない・・
「私が・・注目をされるのは迷惑ですか・・」
あの色が怖くて、話しかけて変えようとしても上手く声が出ない。口の中がカラカラになって、何を言っているのか自分でも分からない。
「そうだよ、僕にとっては迷惑以外の何物でもない。-本当の君-を分かっているのは僕だけなのに。それにね、僕もそろそろ怒っているんだよ?僕の事を無視している君にね。」
「・・無視なんて!」
「しているよ。君は話し掛けてくれてはいるけれど僕がどんな気持ちを君に向けているかだなんてこれっぽちも考えたことないでしょう。こんなに君の事を想っている僕の気持ちを。」
怯え始めたティファに話し掛けながら、キルはゆっくりと前に進む。その歩は本当に緩慢な動作で、少しでも速度を上げれば警戒をし始めたティファは瞬時に逃げ出すだろうが、その境のギリギリの動きをしながら確実に近づく。
もうそろそろ自分も限界だ。これほど愛しているのに少しも知ろうとしない薄情者を逃がす気はない。
「いっそのこと、僕の空間に攫って二人っきりにしてしまえばいくら鈍い君でも気が付いてくれるのかな?」
「・・何言っているんですか?」
戦うや倒すじゃない。まして殺すでも無い事をなんで平然と言っているのこの人は!
「そうだよ・・君を攫って行けばいいんだよ!そうしたら篩なんてしなくて済むし、君もパプニカや周りにも迷惑を掛けなくて済むんだからそうしようよお嬢ちゃん。
君はさ、戦いに疲れているんだろう?」
「・・・・」
「だったら僕と楽しく過ごせばいいじゃないか。好きな食べ物も服も欲しいものは何でも上げる。退屈になったら遊び相手を攫ってあてがってあげるし。」
「・・・なにを・・」
「その代わり籠の鳥になっちゃうけど大丈夫。ちゃんと可愛がってあげて面倒を見て上げるから。僕の空間はお風呂も入れるようになっているから身綺麗にもして、寂しくなったら僕が子守唄歌ってあげるし、もう少し大きくなったら快楽も与えて上げるよ。」
この人は
パキリ
キルの言葉に怖れを抱いたティファは、顔を青褪めさせて近づいてくるキルから無意識に逃れようと一歩足を引いた先にあった小枝を踏み抜き、静寂が支配している森に大きな音として響き渡る。まるで何かが壊れる前の前触れの音のように。
「僕が怖いのかい?」
「急に一体何なんですか!」
自分が怖がっている事すらも楽しそうに聞いてくるキルの言葉を跳ねのけようと精一杯出せるだけの声でティファは怒鳴るが、その声に常の力はなく幽かに震えさえも混ざっている。
闘気や殺気は幼き頃の洞窟修行のおかげで怖れを克服することが出来たが今自分に向けられているものは違う!
それは-男の情欲-なのだと知るにはティファの心はあまりにも幼すぎ、分からないことが更にティファの怯えを助長させている。
「お嬢ちゃんがいけないんだよ。」
「なんでですか!」聞きたくない
「僕の言う事を一つも聞いてくれないから。」
「貴方は敵でしょう!」走って逃げたい
「そんな酷い事を言うんなら、いっそ死体の君でもいいんだよ。」
「・・死体?」
「そう、死体だよ。ねぇお嬢ちゃん、なんで僕が死神って呼ばれているか知っているかい?」
とうとうティファの目の前まで来たキルは、両膝を地面につけてティファと目線を合わせる。
ティファが逃げ出さないように小さな両の手を大きな自分の両手ですっぽりと覆って拘束をし、可愛い貝のような小さな耳に口を寄せてひそりと囁く。
「僕はね、殺した相手の幽体をこの世に留めておけるんだよ。」
余程の執着か魂の貝殻のようなレアアイテムかもしくは、自分がヴェルザーから与えられたこの能力は例外だが、この世界では亡くなった者の大半は-地霊-と呼ばれる死の神に仕えていると言われている灰色の精霊達によってあの世に幽体と魂を連れていかれる。
本来ならば殺しても情報を吐かせるために授けられたものだ。自分の旧主も魔界の大半の者達も程ほどという言葉が脳内に存在していないために編み出されて今のところ自分にしか成功していない与えられた能力だが、愛しい少女の幽体を永遠に繋ぎ止めることが出来るのならばこれほど素晴らしいことはない。
「ねぇお嬢ちゃん、僕と一緒に遊ぼう。生きていても、死んでいても僕は困らないから。」
小さな体を抱きしめて請い願う。
永劫の時を自分と共にいてほしい、オートドールの人形の体が朽ち果てるその時まで
とうとう様々な意味で主人公が捕まりました。
-地霊-は当然筆者のオリジナルで、後半でちょっとしたことで使うために創作した設定です。
キルバーンの能力もオリジナルですが、これは今回限りの主人公脅しネタ様です