勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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物語を勧めるのに大切なお話ですが、痛くアンチ・ヘイトなお話です。
苦手な方はバックをお願いします。


味方は守らないといけないでしょう

人間というか、知性を有した生物は、時としてその知性や理知よりも感情を優先させることが多々ある生き物だ。

理性でも分かっていても、感情がそれを許さないというのはよくある話。なんで私はそのこと忘れてたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや~、魔界のモンスターの仔達嬉しそうに続々と塔の魔法陣通って帰っていくな。さっきまで生きるか死ぬかなら自決させられると考えていたんだから、ハドラーの言葉は地獄の底から天国に引き上げられたようなもんなんだろうな。

 

塔は魔界から転移してきた物であり、転移空間の力は一階中央の隠されていた魔法陣に移され、魔界と繋がっている。

そこを通ってモンスター達を帰した後はハドラーがベギラゴンで魔法陣を崩して閉じる予定である。

 

塔の残骸に座れる適当な大きさな物があったのでそれに腰を掛け頬杖をついたティファは本当に戦闘意欲零でモンスター達の帰還を見守っている。

元をただせば自分が巻き込んだような者達で、五年も処刑の恐怖を味合わせていたのかと思うと本当に申し訳なくなる。

モンスター達の帰還を、ティファは笑って見送っている。

 

ここでダイ達は疑問が生じる。ティファだとて好き好んでではないにしろ敵を散々切り殺しておいて、今回は何故元とはいえ尖兵予定であったモンスター達を気に懸け同情するのか。

その疑問を隣にいるレオナがさっくり聞いてみた。

 

「だって姫、彼等はそもそも誰も襲っていないですし、それどころかもう争いに巻き込まれたくないって言ってましたよ。」

「・・・今言ってたって、誰が?」

「ああ、実は塔に突入する前の作戦時に、縛り上げている時彼等に戦いは楽しいか挑発して聞きだしてみたんです。そしたらもう嫌だ、そもそも命を襲うのは間違ってる迄思想が発展しているみたいで、もうデルムリン島の子たち並なんですよ彼等。」

「ふ、ふ~ん、そうなの。」

「はい、なのでそんな良い子達が無事に・・ああ、そうでした。ハドラ~。」

 

一体ティファは自分達が見ていないとき何をしているのか本当に分かったものではない。あんな短期間で何をホイホイ情報収集しているんだか。

しかもなんかハドラーを呼びつけている!それも緊張感の欠片もなく!!

 

「おい、」

「はい。」

「お前は・・・もういい、何の用だ。」

 

今自分は使者で確かに争う気はないが、だからといって敵の軍司令官の魔王の自分をホイホイ呼びつける勇者一行の者はどうなんだ?

それを指摘するのがもう面倒臭くなったので突っ込まずに素直に聞いてしまった方が早い。

 

「これを。」

 

小さな布袋をティファは掲げた。

 

「中身はその・・・あの馬鹿が死なせた仔です。」

 

モンスター達解放のお知らせと帰還の方法を説明している間、ハドラー達は勿論ダイ達もそちらから目が離れている間に、ティファは死んでしまった仔の亡骸を手持ちのマジックリングに入れて、小さなポシェット状の布袋に入れたのだ。

 

「向こうで出してあげて埋葬してあげてほしいんです。」

「分かった、最後の者が魔法陣を通る前に受け取ろう。」

 

本当にこやつは戦う者なのかとハドラーは頭を痛めるが、そんな器の広い者を討ち果たしたい者に選んだのは間違いではなかったと嬉しくもなる。ただ強いだけの者は探せばいるだろうが、強く賢く、そして限りなく優しい者はそうはおるまい。

 

二人の心の内は一致している。自分の手で相手を倒したい。だが無駄な戦いや犠牲を増やしたくない。

片やティファは限りない優しさから、片やハドラーは戦士として弱い者を相手にする気がないのと少しばかりの慈悲からではあるがその辺りも一致している。

決定的に違うのはティファは人間側で、ハドラーは大魔王側で相容れることのない敵という事。

水と油で決定的な何かが起きない限り覆ることのない事実である。

 

それでも、ハドラーとティファは穏やかな瞳で互いを見て話を続けている。

 

「あの仔達はもう自由なのですか?」

「ああ、あそこまで争う気が無くなったのは魔界では少々不味いが解き放つ。」

「それって強いモンスターの餌食に・・」

「んむ、保護した方が矢張り・・」

「如何に弱肉強食の魔界でも・・」

「バーン様に上奏するか。」

 

それは歪で異様な光景にダイ達には映った。仲間の下に戻るそぶりはなく、敵である魔王と穏やかに話しているなど本来であれば許されることではない。

ここが戦場の中立化している場でなければ誰も許さない光景であった。

 

 

許さない

 

 

たった一人、割り切れない者がいたとしても不思議ではない。

さらに言えば、その一人以外の兵達の心も複雑であり、レオナ姫の命令が無ければ勇者達と共に魔王を討ち果たしたい心積もりではある。

しかし命令は絶対であり、それよりも戦端が開かれてしまった時の被害を考えれば個人の私心は封じなければならないのを兵たちは心得ている。

だが、残念な事に男にはその考えることが出来ない程に魔王軍への憎しみ強すぎた。

 

 

何故敵のモンスター達を案じる、何故敵の軍司令官と穏やかに話している!!

 

パプニカはオーザムのように蹂躙されたわけでも、カールの様に国を乗っ取られたわけではないが!それでも無辜の民にも被害が出ている!!

ヒュンケル達はまだ許せた。彼等は己の罪と向き合い、償ういばらの道を選んだからだ。

だが今目の前にいる者達は?

仮に元尖兵達は誰も襲わずに度と戦いに身を投じないといっているのが本当ならば許せるが、魔王ハドラーは違うだろう!

十五年前のハドラー大戦を自分は覚えている。

焼きだされ逃げていた母の震えていた手、怯えた声を。

城に保護され程なく大戦は勇者アバンの活躍で終息したが、あの時の事は決して忘れない。攻めてきた魔王を許さないと幼い自分の心に生じたあの憎悪を。

ここにいる兵達も自分と同じだろうに!何故平然と見ている、何故誰もこの状況の可笑しさを指摘しない!

姫様も、王侯貴族としての立場で動けないのだろうか?

ならば自分が法螺貝となろう!死しても戦う事を示す盛大な法螺貝に!!

その為にこの命とて惜しくはない!

 

「魔王ハドラー!!!」

 

 

 

 

 

普通の思考をすれば、それは防げたことかもしれない。

敵を目の前にした者達が、ましてや祖国を二度も蹂躙せんとしている者がいるのならば、どの様な行動をとろうとするのかを予測する事は容易であったはずだった。

だが急転直下のような出来事が次々に起こり、自分の思考も鈍っていたらしい。

ああ、ならばこれを止めるのは自分の役目か。

 

 

 

アポロの放ったベギラマは確かに盛大な爆発音をたて、周囲全ての者達の耳目を引いた。ただ、それは標的の魔王には当たらず小さな、それこそ自分の背の半分も無い者の背中を焼き尽くした。

 

「申し訳ありません魔軍司令官、戦場慣れしていない者が魔力の暴走を引き起こしてしまったようです。」

 

アポロ渾身のベギラマはハドラーに届く事無く、ティファがその小さな背中で受け止めた。

 

 

 

ああしょうがないか、普通に考えてみれば前の大戦でも散々な目に合わせたハドラーをそのまま帰そうとは思わないよね。その辺の心の痛みを無視してハドラーと話した私が悪いや。

 

周囲はしんと静まり、今にも飛び出しそうなダイをポップが羽交い締めにして止めている。

使者であるはずの魔軍司令官を攻撃したこちらの分が悪い。下手に動いて本当に戦端を開くことにでもなれば最悪である。それでは身を挺して必死に止めたティファの行いが無駄になる!

 

「・・・魔力の暴走か・・」

「はい、この者は能力こそ賢者ですが未だに戦場に出た事はありません。未熟な者が仕出かした代償は私のこの背中で許してもらえませんか?」

ああいやだ、本当はアポロさんの罪ではないのに、気安く敵の司令官と話していた私とハドラーの罪なのに。後でアポロさんに謝って、皆にも謝らないといけないことだ。

 

背中から全身にかけて激痛が奔り、気絶していれば楽であろうに。

 

ハドラーも長年の戦闘経験からダメージによる体の痛みと状態は熟知している。

あの黒髪の白い服の男の放ったベギラマを防御する事無く背で受け止めれば下手をしたら死んでいてもおかしくはない!

それでもティファは躊躇いもせずにベギラマを受け止める事を選んだ。

雪白で斬撃を放てば無傷であっただろうが、武器を出してこの中立の場を破ることを懸念してとの思惑もあるだろうが、それよりもベギラマを放った男も傷つける事を厭ったか。

今もそうだ。小さな体を大きくしようとするかの如く両手を精一杯広げ、男を庇い立てている。

 

「ダイ・・堪えろ、ティファの思い無駄にしてくれるな。みんなも動くなよ。」

 

取り押さえているポップだとて本当は駆け付けたい。マァムもメルルもティファの下に走り回復呪文を一刻も早くかけたかろう。それでも!ティファの行動を無に帰すことは許さない!早く手前も帰れハドラー!!

 

「・・・未熟な者が粗相をしたのはこちらが先だったな。その事とこれで互いに帳消しか。」

「そうですね、こちらももうキングマキシマムの事は言及しません。お騒がせして申し訳ありません。」

 

マキシマムを引き合いに出し、ハドラーはアポロの起こした騒動をそれで帳消しにする。

本来なら人質を取るつもりのなかった作戦を引っ掻き回し、大魔王バーンの名に泥を塗ったマキシマムはハドラーの登場と共にキルが空間に引きずり込んだ。

どうなるかは知らないが、この場を納める口実位の役に立った。

だが、ハドラーはそれだけでは良しとしようとは思えなかった。ティファのあの小さな背が焼かれた事に何故か胸が痛みキリキリとする。自分で倒す敵と定めているのに可笑しな話ではあるが、これだけで帰るのが何故か不誠実な気になる。

 

「ティファ、いや、この場全員に告げる。魔軍司令官たる俺も篩をするのは我が親衛隊の配下ヒムが先刻伝えた通りだが、一つ確約しよう。決して非戦闘員を殺さないことを・・・その時にまた会おう。」

 

確約を一つ置いて行き、ハドラーはそれ以上アポロ達を刺激しないように最後の一頭が魔法陣を通ったのを確認しベギラゴンで破壊尽くしキメラの翼で死の大地へと戻っていった。

ティファが渡すはずだった骸の入ったマジックリングを受け取らずに。




全国のアポロファンの皆さん申し訳ありません。
前書きの通り、物語を動かし後のフラグのために行動をしてもらいました。
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