ハドラーが去った塔の周辺は静寂のまま誰も動かない事に、ティファはまずい事をしてしまったと反省する。
あ~これ不味いな、やらかしたな。謝罪して状況説明して動かないと。
ハドラーが去り、モンスター達がいなくなってもやることは山ほどあるだろうに誰も動かないのはいけない・・責任取らないといけない事だ。
「レオナ姫、皆さんも騒ぎの原因を作ってしまい申し訳もありません。アポロさん、不快な思いをさせてすみません。以降このような事はしませんので今はお許しを。
私は大丈夫ですのでフォルケン王の護送と、あのマキシマムの残りの配下がいないかの警戒と巡回を。他にも何か魔法陣による仕掛けがないか魔導士たちによる巡回の強化をした方が良いかと。」
その現状にダイ達は違和感と苛立ちを覚える。
・・おかしいだろう、なんで大火傷を負ったティファが謝罪してる?何故無闇に戦端を勝手に開こうとした賢者アポロは謝らずに突っ立っているのを許されている?
いかにティファに非があろうとも、やってしまった事に自身が追いついていないとでもいうのだろうか?
「それと破壊されたとはいえ塔の周辺は聖水ですべて清めておいた方が・・」
「ティファ!!!」
背中の傷などないように、何事もなかったの如く振る舞いいつもの様に献策をする妹にダイは駆け寄り抱きしめる。
「もういいよティファ!マァム早く傷治して!!」
「ダイ!ティファの背中こっちに」
「いいよダイ兄、それよりもフォルケン王を早くパプニカ城で安静にしてあげないといけないよ。」
「そんなこと言ってる場合じゃねえだろう!マァム早く・・」
「いいといっているんですポップ兄!私なんか放っておいて!!早く周辺全員で見回ってきてください!薬でも振りかければ放っておいても治りますから。」
自分の身を案じるダイの手すら煩わしそうにティファは振り払い、言葉を発しないレオナに矢継ぎ早に献策をしていく。
「おそらく城下の方にもモンスター出現の報は言っているでしょから沈静化の一報を早くした方が良いかと。」
「その際勇者達がパプニカ及び連合国の兵達と共に退けたと知らせた方が民達も安心した上に人類の勝利がより伝わり希望が生まれるのでは。」
「ああ、その前にパプニカ城に至急伝令を飛ばして一報が必要ですね。ポップ兄、ルーラで三賢者さんの誰か連れて行ってきて。」
「え?レオナ姫じゃダメかって?姫は今ここの指揮官なんだから離れたら誰が命令下すのさ。その辺きちんとしないと駄目だよ。」
はっきりといえば異様な光景だ。
自身の痛みを無視している。
「ティファ!お願いだから治療させて!!ベホイミかければすぐだから!」
「マァムさん、周辺見てきた下さい。このくらい自分で出来ます。」
「ティファよ!何故分からん!皆お前を案じて・・」
「この程度で死にはしません!いい加減にしてください!!」
どうしてわからない!!こんな火傷なんてどうでもいいのに!!
自分の事なんてもうどうでもいいから放っておいてほしい
なんでみんな動かない、謝罪もしてアポロさんにも周りにも謝って、それよりも優先することがあるのに何で動かない。
ああ、面倒だ。
これではハドラーとお話していた方が余程楽ではないか
それこそが今のティファの心を覆いつくしている思い。
仲間は大好きだ、ダイもポップもマァム達は慈しみさえ感じる。
周り者達、三賢者もアキーム達も頼もしい味方だと思った・・・思っているんだ。
そしてこの世界を救う事が大事なのに・・
けどね、少し疲れた・・・放っておいてほしいほど疲れたんだよ。
何で放っておいてくれないの?まだ何かを私にー説明ーして欲しいの?
・・、謝罪した、献策もしたのにまだ足りないの?
少しでいい・・・ほんのすこしだけひとりでいさせてよ
自分は妹の何を見て育ったんだろう。
双子の妹は優しくて泣き虫で、でもやっぱり優しい妹はこんなことが出来てしまうなんて。
「ダイ!呆けてる場合じゃねえだろう!!!」
「だってポップ!ティファが・・ティファが放っておいてほしいて!!だから」
「だからティファをこの闘気の渦の中に一人でいさせるの?違うでしょう!!」
「ティファさん出て来てください!さっきティファさんが言った事全部やります!!治療が嫌なら薬塗るお手伝いだけします!!嫌なことがあるなら全部聞きます!!だから・・だから出て来てください!!」
「出て来てくださいティファさん!」
「ティファよ!頼むから出て来てくれ!!」
突如としてティファより発せられた白い闘気の竜巻が、ティファ一人を覆いつくし何人も近づけんと荒れ狂う。
マァムの説得もチウ・メルル・クロコダインの懇願すらも欠片も聞く気はないとばかりに渦巻く闘気の音が全てをかき消す。
その光景に、ダイ達は涙を流しながらもどうしてよいか分からないが、それでも必死にティファに言葉を発する中、ヒュンケルの心の中は暗澹たる思いと、己の不甲斐なさに忸怩たる想いが満たし尽くし、ティファに甘えすぎていた事を悟らされ、悔恨の念が尽きない。
ああ、ティファはここまで疲れきっていたのだ
ティファは泣かない、愚痴も弱音も自分達には言わない・・言えないのだきっと。
不甲斐無く頼りにならない自分達が、今のティファの何の助けになろうか。
あの人にしかできない
突然の出来事に呆然とし手が出せない兄達ではなく、懇願するマァム達の横をヒュンケルが通り、渦の手間で止まり槍の柄を地面に突き刺し固定する。
「ヒュンケル!何するつもり!!」
「止めるなマァム。アバン先生から教わった光の闘気系の技で威力を誇るグランドクルスをあの渦にぶつけて相殺させる!」
「ヒュンケル・・・なら俺が海波斬で!」
「ダイ、今のお前の状態ではリスクが高すぎる。ここは俺に任せてくれ。」
「そんな!」
ティファの身長よりも一メートル上を狙い一瞬でもいい、あの渦が途切れればすぐさまティファを保護する。
ティファを無傷でかつ保護できる手段は今のヒュンケルにはこれしか思いつかなかった。
あの技であれば範囲は広く、渦を消せる可能性は高い。今ティファは己を顧みず、途轍もない量の闘気を放ち続けている。手をこまねいて見ていれば魔力切れと同じ状態になり下手をしたら死んでしまう。
今この手段を取れるのは自分しかいない。ダイはまだ自身の力を持て余し完璧に制御しているとは言い難くリスクが高く、マァムとクロコダインも闘気系の技を持っているが闘気の桁が違いすぎて太刀打ちできまい。
分かっている、ティファを救うためなのだと。
それでも心が拒絶をする。かつて敵として相対し、ブラッディースクライドを放ちティファを傷つけた光景が脳裏をよぎり体を縛る。
ラーハルト、俺に力を貸してくれ
ーバラン様はティファ様が守ってくれよう、貴様はティファ様の助けとなってくれー
かつてこの魔槍の鎧の持ち主ラーハルトはティファを自分に託して逝った。
力はあるが純粋無垢で何でもかんでも受け入れ抱え込んでしまうティファの行く末を最後まで案じて。
その誓いを今果たさなくて何とする、ティファの心が悲鳴を上げている今こそ助けなくて何が仲間か!!
「グランドクルス!!」
ティファを救いたい、祈りにも似た思いで放った渾身のグランドクルスは白い闘気の渦を相殺し辺りはその威力で暴風が吹き荒れたが、ヒュンケルはものともせずに槍から手を放し瞬時にティファに駆け寄る。
呆然とし、ただ立っているだけのティファ。様々な事に疲れ果て、心もなく
許してくれティファ
ヒュンケルは駆け寄ると同時にティファの細い首筋に手刀を振り下ろし、前に傾く幼い体を抱き留める。
何と軽い体か、まるで今にも消え果そうな頼り無く儚げで、今までこんなに小さな体に頼り切っていたのかと思うと己の不甲斐無さと申し訳なさで涙が後から流れ出てくる。
「ヒュンケル!治療を・・」
「ここではしない、ポップ!今すぐルーラでマトリフ導師の所に飛んでくれ!!全員一緒だ、出来るか?」
「師匠の・・出来るけどいいのか?」
ヒュンケルの要請にポップは戸惑う。自分もティファを治したいが、今この場からがティファを連れ出してレオナが許すのか。
「構いません!ヒュンケルも考えがあっての事でしょう、行きなさい。
この場の全員に緘口令を敷きます。塔の周辺で見た事聞いたこと全て他言無用、よいですね!!」
アポロがしたことにもレオナは一定の理解を示している。あれは確かにティファに非がある。
今大戦最中なのに敵の、それも前回の大戦を引き起こしこのパプニカを壊滅にまで追いやった魔王ハドラーと親しいような会話をしてしまったのは下手をしたら敵との密通を疑われても文句は言えない程の非が。
だからといってアポロはあわやそのパプニカを火の海にするきっかけを作りかねなかったのもまた事実。
この件は自分一人には手に余りすぎる。
お父様
病室の中でも政務をとる父に裁可を仰がなければならない程の事を今この場で処断できることではない。
マトリフ導師の元ならば安全であり、一旦お互いを離せるきっかけになってくれる。
「感謝する姫、もう一つ頼みたいことが。」
「言いなさい、可能であれば叶えましょう。」
「三賢者の一人エイミ殿もお連れしたい。」
「・・・エイミを、深くは聞きません。早急に料理人ティファの治療に行きなさい。」
「感謝します。ポップ!」
「分かってる!ダイ、皆も全員掴まれ!!」
早く着いてくれ、ティファがおじさんと慕うあの人の下に
おせえ!パプニカに渦巻いていた魔界の気が霧散して随分経つのにポップ達が来る気配がないのはどう言う訳だ!!
バルジ島の対岸に位置する洞穴でマトリフはイライラと歩き回る。
昨日ポップ達が寝袋を取りに来た時に伝言を頼んだ。
勇者一行の料理人ティファにここに来るようにと。
自分の考えが正しければ料理人ティファは嬢ちゃんだ。あの時ネイなどと、誰でもないという意味のふざけた偽名名乗ったせいで探せなかったが今度こそ本名聞いて逃がすもんかよ!
心配なのだ。あの弱い心を持った幼子が成長したとはいえ親しい者達をその手にかけて何事もない訳がない。泣いているのかそれとも無理をして笑っているのか、アバンの真似事の為に心を押し殺しているのか!そう想うと堪らなくなる。
優しい娘に大の大人が寄ってたかって頼りにして重荷を背押せなければならない不甲斐無い自分達を殺したくなる。
今のティファの状態を自分の目で確かめたいと思っていた矢先に今回の騒動が起きた。
伊達に大魔導士は名乗っておらず、塔が転移してきた時点で気が付き水晶で見てみたが一瞬映ったきりで水晶は粉々に砕け散った。おそらく敵が結界を張ったのだろう。こんなおいぼれでボロボロな自分が行っても足手まといにしかならず、終わればポップの性格ではすっ飛んでくるだろう待っているのだが。
不意にダイ達が敗北したのかと嫌な予感がよぎった時、爆発音にも似たルーラの着地音が洞穴を揺るがせる。
なんだ!
マトリフが表に飛び出そうとした矢先にポップの悲鳴のような声の方が飛び込んできた。
「師匠!!」
焦りが滲んだ声に何事かと思えば大勢がどかどかと洞穴の中に押し入ってきた。
ヒュンケルを先頭にダイとポップが纏わりつくように、他にも見た事のない大ネズミと三賢者のエイミまでも迄いるがヒュンケルの腕の中にいるのわ!
「嬢ちゃん!!!」
・・・師匠今なんて・・
「ヒュンケル!嬢ちゃんに何が・・なんだこの背中の火傷は!!」
「落ち着いてくださいマトリフ導師!ティファは俺が手刀で気絶させたんです。それよりも背中の手当てを。」
「気絶させたって・・分かった、治療するから奥に・・・嬢ちゃん?」
「う・・・・」
懐かしい声がする、温かい気配がする。魔法のような深みのある声を私は知ってる
マトリフの気配を感じ取り、ティファの目が覚めかける。
自分が唯一縋りたいと思う人がいるとしたらそれは・・・
本当にティファは強すぎる、まさかもう覚めかけるとは。とはいえその方が今は良いかもしれない。
洞穴の奥のマトリフのベッドに辿りついたヒュンケルは目線でマトリフに断りを入れてティファを抱えたまま腰を掛ける。
「起きろティファ!ここにお前が慕う-おじさん-がいるぞ!」
「う?」
「お前は今より五年前、竜騎衆以外の出会いをしたはずだ!!お前に温かい言葉を、あの、世界は弱くもなく酷すぎもしないと俺達に贈ってくれたあの素晴らしい言葉をお前に授けてくれたマトリフおじさんがここにいるんだ!!」
「お・・・じ・・さん・・」
ティファの目が徐々に覚めていく。あの言葉を自分に教えてくれた魔法使いのおじさんが・・
「嬢ちゃん。」
ああ本当だ、本当に目の前におじさんがいる。
「嬢ちゃん!」
ああ、おじさんがきっと何もかも終わらせてくれるだろう。なら大丈夫だ。
薄っすらと目を開けたティファにマトリフは力強く呼び掛け、ティファは嬉しそうに目を細める。
「おじさん・・・ノヴァは?助かった?」
「つ!・・ああ、何もかも大丈夫だ。後は俺がやっておく、眠れ嬢ちゃん。」
「うん・・わ・か・・った・・」
マトリフの言葉に安心をしたティファは微かに微笑みを浮かべて眠りの底へと落ちていく。
-今-ではなく、五年前窮地に陥り死掛けた親友の身を案じながらも
おじさんがいればもう大丈夫だと安心をして
やっと五年前と、テラン編後の小屋でのヒュンケルとマトリフ導師の対談のフラグを回収できました。
残りフラグのリンガイアのお二人にも早く再会させてあげるように頑張ります。
アポロの気持ちと行動に理解を示すレオナ姫に次回頑張ってもらいます。