「俺達に世界なんて救えんのかな?」
「ポップ、やっぱり冒険辞めておく?」
「いや俺もこのまま行くぞダイ!俺も先生の敵討ちもしたい!!けどさ、不安が消えねえんだよ。」
「大丈夫だよポップ兄。」
「何が大丈夫なんだよティファ、相手は先生だって・・」
「あのね、世界は弱くもないし酷すぎもしないんだよ。頑張って進めばきっと誰かが手を貸してくれるよ。」
「そうか?」
「そうだよ。ダイ兄、ポップ兄、私達だけで世界を救うんじゃない。まだ会っていない誰かや皆と手を携えていけば大丈夫だよ。」
「そうか、そうかもな。」
「うん。」
デルムリン島を出た小舟の中で、不意に気が弱くなっていった言葉をティファは優し笑ってく諭してくれた。
「けどティファは良いこと言ってくれたな。」
「う?」
「俺なんて弱っちくって酷い奴だけど、世界は・・そうだよな広くて強い人達がごまんといるだろうしな!いっちょ俺も頑張んねとな。」
「・・ポップ兄も強いよ。」
「世辞はいいさ。それよりも含蓄があって深みのある言葉だな。ブラスさんの言葉か?」
「ううん違う。」
「違うのか?」
「うん、じいちゃんじゃない。外の世界であった・・・ティファのとっても大切な-おじさん-から貰った言葉なの。」
「・・・ティファ、それ誰?」
「ダイ兄顔怖いよ。その人とはもう随分会ってないよ。」
「そっか、会えるといいなそのおじさんと・・無事だと良いな。」
「ふふ、ポップ兄は優しいね。きっとあのおじさんなら大丈夫だよ・・・会えたら・・嬉しいな。」
そう言った時のティファの顔は複雑そうであった。その後すぐにロモスに着き迷いの森の一件で今まで忘れはてていたが、あの時のティファの顔は切なさと悲しみがあった気がする。
そして懐かしさも
大切に心に仕舞っていた宝物を取り出し慈しむ様な、本当に大切な相手を思っていたのが今なら分かる。
「ああもう!なんでこんな時に火傷の万能薬切らしちまったんだよ!!ストックもありゃしねえ!マァム!つなぎでいいからベホイミ掛け続けててくれ!内部のもしかしたら臓器まで火傷いっちまってるかもしれねえから表面の皮膚塞ぐなよ!!傷薬流し込めなくなっちまうからな!」
冷静沈着でいつでも、それこそ戦友のアバンが死んだと聞いた時も取り乱さず、その仇の魔王ハドラーと再会した時でも飄々としていたあのマトリフが慌て取り乱し、必要な薬剤以外どうでもいいとばかりに辺りに散乱させたまま薬作りに入り、マァムへの指示も怒声を飛ばしてしまっている。絶対に常のマトリフには見られないことだ。
そんなマトリフに長い付き合いのマァムを驚くが、ティファの小さな背の傷を見ればそんな驚きなどすぐさま霧散をし、マトリフの指示通りにする。
「出来た・・嬢ちゃん・・ラリホーマ。」
「マトリフさん何を!」
「落ち着けダイ。今からお前さんの妹の傷に薬を流し込む・・死ぬほど痛むことだ。」
「あ・・」
「深く眠っちまった方が嬢ちゃんの為だ、マァム流し込んだら通常のベホイミで大丈夫だ。」
「マトリフおじさんがベホマ掛けた方が・・」
「この万能薬と合わせれば死ぬほどの傷でもベホイミで間に合うんだよ。俺が改良したからホイミでもいいかもしれねぇが、様子見ながら指示出す。」
「分かったわ。」
気絶する様に眠るティファに更に強力な眠りの上位呪文を掛けられ慌てたダイをマトリフは難なく説明をする。
どうやら薬作りの間に気を落ち着けたようだ。
万能薬は今は斬撃・骨折用の二種類が出回ってる
火傷用は出回っておらず、ティファちゃん自身に説明してもらわんと作れんらしいのじゃ
もしや今世界を救っている万能薬の開発者にティファ殿も関わっているのではありませんか
なんでこんな時に火傷の万能薬切らしちまったんだよ!!ストックもありゃしねえ
どうして師匠がティファにしか出来ねえって言われた火傷の万能薬作れるんだ・・・昔会ったおじさん・・・・どこで?いつ・・・あって、そして・・
「万能薬作ったの師匠とティファか?」
治療の場には似つかわしくない呆けた声に薬をかけ終えたマトリフが即座に振りむき、その顔を見てポップは確信した。
「そうか、師匠か。師匠がティファと会って万能薬作ったんだんな。」
「ポップ・・」
「そうか、そうかよ!二人は知り合いだったのかよ!!俺達と会う前からティファは師匠と知り合いで!こんなすごいもん作ったのか!昔から!こんな途轍もないもの作れてつよくって・・・なんなんだよ一体!!」
ポップとてティファ同様に限界だった。
テランから続き、昨日今日と見せつけられたティファのすさまじさに、ポップの常人としての感性が異常だと訴え続けていたところに、実は師匠と仰ぐ大人物とティファが知り合い、幼い子供の範疇を完全に逸脱した事を成し遂げていたと知っては無理もない話であった。
一体自分達はティファの何を知っている?何も知らないではないか!其れこそ兄であるダイとても!!
いつでもふんわりと笑って自分達を包み込もうとしてくれて、その実敵のキルバーンの言う通り疲れ果てて心は壊れかける寸前で・・自分達は仲間ではないのか?なぜ自分達に頼ってくれない!何故ティファ自身の事を何も話してはくれない?
こうやって事実が明らかになるまで、自分達はティファの事を何一つ知らないではないか!自分達は何一つ知らせる価値もないお荷物だとでも言いたいのかティファは!!
その叫びはダイ達の胸中にも突き刺さり、マトリフも苦い顔をする。
ティファは本当に何一つ自分の事を話さず今日まで来た。能力・持ち物、そんなことはどうでもいい!
ティファ自身の話をしてほしかった、疲れていると、その時頼りたい相手がいるのだと。それを聞けば妹の為に、戦いの続く中でも世界中を探し出していたのに!
もっと、ティファが疲れているかもしれないと分かった時から嫌がられても聞きだせばよかったのだと後悔の念に押しつぶされかける。
「ポップ、確かに俺は嬢ちゃん・・このティファを知っていた。」
「師匠・・」
「だがな、俺も-嬢ちゃん-がダイの妹の料理人のティファだとは最近まで知らなかったんだよ。」
「それってどういう・・」
「・・・嬢ちゃんも落ち着いたみてえだしな。俺と嬢ちゃんの話をしてやる。その前に嬢ちゃんに何があったか詳しく話せ。
昨日のパプニカ城から俺の所に担ぎ込まれる寸前の話し全部だ。」
「分かった・・」
マトリフも、柄にもなく隠し事をしていた自分に後悔をしていた
テランの小屋でハドラーとベギラゴンを撃ち合い、その影響で後日吐血をした時にポップの願いで料理人のティファから届いた体内の治癒薬を見た時・・いやもっと前の、ロカの家に残された治療薬のレシピの筆跡を見た時から分かっていた。
だが、ポップ達にその事を話し、嬢ちゃんとティファが同一人物かどうか確認しようとは欠片も思わなかった。
-嬢ちゃん-と-坊や-との思い出を自分一人の胸に仕舞い続け宝物のように慈しんでいたから。
だが、テランの小屋でヒュンケルの話を聞いた時、即座に連れてこさせればここまでティファがボロボロになる事はなかったかもしれない。
その思いでティファに何があったのか、詳しく聞くことにしたのだ。起きた時のティファの心を癒す為に知っておかなければ対処できない。
ポップが話をすすめていくうちにティファの枕元の側に腰を据えたマトリフの顔はどんどん恐ろしいものとなり、アポロの時には怒気を発し、アポロが引き起こしたことを聞いた時は一瞬目をつむり開いた瞳には何の感情も見えず、正面から見えているポップは背中に冷や汗を一滴流しながらもここに辿りつく前に自分が見聞きした事すべて話しきった。
聞き終えたマトリフは、一言も発さずまず先にティファの頭をゆっくりと撫で始める。
「頑張ったな嬢ちゃん。辛え事を投げ出さず逃げ出さず、本当に頑張った。」
ティファを労わりつつ、冷静に頭の中を落ち着け整理していく。
嬢ちゃんが疲れきるわけだ。話したくもない心の傷につながる事を何度も聞かれ暴かれ、敵には執着をされて大魔王にまで目を付けられ・・・しかも今回の敵が本当に嬢ちゃんが嫌悪する者が相手で精神が乱されたのが容易に目に浮かぶ。
だがここで分からないのが、なぜ嬢ちゃんは騒ぎの一端になったハドラーとの普通の会話になったのか。
あの二人は敵同士、しかも嬢ちゃんは現段階では魔王軍の要注意の敵でハドラーにとっては邪魔もの・・・いや、確かテランの小屋で嬢ちゃんに会って謝罪だとか寝とぼけた事を言っていた・・俺やダイ達が知らない結びつきが二人にでもあるのか・・・嬢ちゃんが全回復したら聞いてみるか。
それは後にするとして、最初に竜騎衆達の話を聞きだそうとしたテランのフォルケン王に悪意はなかっただろうとは思う。
ハドラー大戦時に面識があり、理想が過ぎた者ではあったが、聡明であり心底の善人だったと今でも覚えている。
聡明なフォルケン王であっても、まさか嬢ちゃんと竜騎衆達が今話しに聞いたような強い結びつきがあったとまでは想像しろという方が酷であろう。
おそらく決戦間近なこの時期に、どこから他の王達に勇者とその妹が魔王軍の軍団長をしていた男の子供だと知られ、嬢ちゃんと三人の話が漏れ聞かれあらぬ嫌疑が掛かる前につまびらかにしておきたかったのだろうと想像に難くないのでフォルケン王に非はなかろう。
嬢ちゃんが疲れ切った原因はおそらく三つ
テラン戦の心に負った傷が回復していない事、敵からの精神的な攻撃
そしてテラン戦を除けば最大の原因はどう考えても
「三賢者のアポロか・・」
冷たく落ち着いた声に俯いていたエイミの肩がびくりと揺れた。
ポップに話を聞くまで、まさか昨日の疲れ切ったティファにそんな無理な事を、しかも自分達どころか姫様にさえ相談せずに独断で勝手に頼もうとしていたのを知らなかった。
その時間帯は確か各国の王達全員が、勇者達と料理人のティファの助けになろうと意思が固まっていた時にだ!!
そうか、ヒュンケルはこのために自分もマトリフ様の洞穴に来させたのか。同じ三賢者としてアポロをどうにかしてほしいと。
エイミがヒュンケルに視線を向ければ、ヒュンケルは申し訳なさそうにしながらも目線で訴えてきている。
「エイミさんよ。」
全てに合点がいったエイミに、マトリフが声を掛ける。
マトリフとて愚かでは無い。アポロのとった行動の原因はどう考えてもティファに非しかない。
それはティファも考えた事で、先の大戦でハドラーにもっとも傷付けられたのはこの国であり、今もまさに世界を蹂躙している相手の最高司令官と、穏やかに話をして良いわけがなく、アポロでなくともハドラー相手に誰かが、若しくは集団で暴発していたであろう事は容易に想像がつく。
だがそれでも、これは理屈では無い!まして自分にとっては世間の常識も何もかもがどうでもいいのだ。
一度は見限ったこの世界の助けをしているのはダイ・ポップ・マァム達一行の手助けをしてやりたいとの事もさりながら、矢張り大事なのはー嬢ちゃんと坊やーの方!
この二人がいなければ、本当に世界なぞどうでもよくなる程心を凍てつくしていたのを、温めてくれたのはこの二人で・・その片割れの嬢ちゃんをここまでにした要因の一つとして許せないのは自分の我儘・・
「三賢者のアポロ・・いや、三賢者全員の謝罪やその類を嬢ちゃんにしようとするだろうが、俺がいいと言うまで会いに来てくれるな。謝罪の手紙もなしだ。」
きっとティファは自分が悪いと自身を責め立て、許そうとして心の負担が増すばかりではっきりといえばティファの心の毒にしかならない。
「それを破れば、パプニカは大魔導士マトリフを敵に回すことになるとレオール王とレオナ姫に必ず伝えてくんな。以上だ。」
飄々とし惚けたところのある常のマトリフは何処にもいない。
今ここにいるのは、かつての大戦の死線を潜り抜けた今世紀最大の大賢者と世に名を轟かせた大魔導士マトリフが宣言を発した
自分がティファの後見人となる事を
アポロは知らず、虎の尾を踏み抜き大魔導士マトリフの怒りを買ってしまったのだ。
とうとうアポロさんは知らないところでマトリフの怒りを買ってしまいました。
作中ではマトリフさんの名声の呼び方が分からなかったのでオリジナルかもしれません。
そろそろ主人公もですが、一行全員も疲労が溜まりそうな頃合いなので一回お休み的な話になります。
原作ではがむしゃらに戦い抜いていましたが、それではこの作品の最終目標まで辿り着けないので大魔王の篩同様、完全オリジナルとなります。
なるたけ早目に原作沿いに戻しますがよろしくお願いします。
追記
マトリフさんの独白では主人公は名前ではなく嬢ちゃんで統一する事にしました