勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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良い言葉も受けて次第で毒にも薬にもなります。


それは呪いか祝福か

エイミからの報告で王城に激震が奔った。

今まで表舞台に立つことのなかった大魔導士マトリフが、姫を助けた救国の勇者を支援していると知ってパプニカ王城は士気が上がった。

先の大戦での活躍を知る者達は多く、いざとなれば矢張り戦ってくれっるのだと純粋に喜んだものから計算高く喜んだ者達と様々な反応ではあったが、それでも士気が上がったことは喜ばしいことであり、病の床に就くレオール王の顔も綻ばせた程の効果があった。

それが蓋を開けてみれば、たった一人の少女の為に、国を相手取ると宣言をしてきたのだ。

常人であれば正気を疑われ捨て置かれるが相手は常人ではない。やろうと思えば本気で一国と戦える世紀の大賢者。

 

その大賢者が勇者の妹を嬢ちゃんと慈しみを込めて呼び、背中の大火傷一つで取り乱し、遂には宣戦布告までしてきたのだから落ち着ける者などいなかった。

 

古株の大臣達はマトリフの事をよく知っている。

情はあれどどこか冷めていて冷静沈着を崩すことなぞついぞなかったあの御仁の逆鱗に触れたのだから大人しく言う事を聞いておくべきだと。

 

「言葉を違えた時、マトリフ導師が敵に回ると、そうはっきりと言ったのですね。」

「はい・・」

「そう、分かりました。マトリフ導師の言う通りにしましょう。彼の方からの許しがない限り、パプニカの人間は洞穴に近づく事も伝書鳩を送ることも禁じます。

アポロ、貴方は沙汰があるまで謹慎を命じます。くれぐれも軽挙妄動を慎みなさい。マリン・エイミ両名が監視につきなさい、以上です。三名とも下がりなさい。」

 

エイミからの報告を受けたレオナは心中の不安や後悔を押し隠し、事態に対処していく。このくらいの事をせねば、今まであの小さな体で様々な困難にたった一人で対処しようと頑張ってきたティファに合わせる顔がない。

王族の責務を全うすることで、これ以上ティファの重荷になる事態を防ぐことをレオナは誓い、大臣達との協議の後に父王に報告をして相談する算段を付ける。

果たしてアポロの処分をどうすべきか、各国の兵達にも目撃されており王達にも今回の失態は伝わっているだろう。

各国は勇者たちを全面的に支援をしようと纏まってくれていただけに、今回のパプニカの失態を許してくれるだろうか?

 

 

「そんじゃ、嬢ちゃんと俺との事話すぞ。全員分の椅子があるから座れ。」

マトリフの真剣な様子に、ダイ達は椅子をもってきて座り、固唾をのんで見守る。それ程普段のマトリフと今のマトリフが纏う気配が違いすぎる。

 

マトリフは心底怒っていた。それはやらかしたアポロだけにではなく、ティファに対しても怒っている。

やらかしてしまった未熟な部分もさることながら、力は増し実力は断トツだが、ティファ自身の心が追いついていない。心は幼いころのままで知識という外側だけを育てて中身は-嬢ちゃん-のまま、はっきりと言えばティファは歪に育ってしまったのだ。

優しく温かい心は成長させても、自分を大切にするという生き物にとってとても大切で基本的な部分がまるで駄目だ。その事もひっくるめてすべて話す。

 

「ポップがさっき言った通り、嬢ちゃんと俺と、もう一人が中核になって万能薬はこの世界に誕生したんだ。もう一人の方はお前達もこの後会うことになるだろうからそっちは省かせてもらうぞ。」

「構わねえ、どんなことでも受け止める。だから師匠全部話してくれ、俺達の知らないティファを。」

「分かった。」

 

そしてマトリフは本当にすべてを話した。

七つのティファと、十になった坊やたちの話していた途轍もない会話から万能薬が誕生するきっかけになった事を。

やがてそれはリンガイア王の耳に届き国家規模の一大プロジェクトに発展し、程なくアバンも加わったことを。

 

 

「師匠!其れってティファは島に来る前から先生と面識があったのかよ!!」

「落ち着けポップ。アバンが加わった事は嬢ちゃんは知らねえ。俺の独断で引き入れたからな。ロカの回復の手助けの一条になるって言ったら奴さん目の色変えてのめり込みはじめてな。」

「そうか・・・わりい、話しの腰折っちまって。」

「気にするな、ここからは嬢ちゃんも知らねえ話だ。」

 

あの時のアバンの驚きようは今でも覚えている。試験薬の切り傷の万能薬を実演付き説明と途中まで完成させた火傷用の万能薬の論文を読ませた時、血相を変えていた。

 

-マトリフ!こんなに凄い薬を誰が考案したのですか!-

 

アバンは即座にそれがマトリフ自身が考案したものでない事を看破した。

長い付き合いの中、一度も薬作りをしているところを見た事も聞いたこともないからだ。

 

-うるせえな、んな事よりもアバン、こいつが完成すれば体内迄傷が回っちまったロカの助けになるかもしれねえだろう。黙って手を貸せ-

-確かに・・・分かりました、出所はもう聞きません。協力をさせて下さい-

 

「それって・・」

「そうだマァム。一時俺とアバンが頻繁にロカのもとに通ったのは万能薬の試験をしていたんだ。ロカが今生きているのはそのお陰なんだよ。

三年くらいして目途が立ってアバンの奴も新しい弟子を取ってからは実際に関わらなくなったが、それでも俺と嬢ちゃん達はずっと文の遣り取りを大戦始る前までしていたんだよ。」

 

「ティファは・・・俺達全員と会う前から繋がっていたのか・・」

「どういう意味だよポップ。」

 

話を遮るようにぽつりと言ったポップの言葉をマトリフが聞き返す。

 

「だってそうだろう師匠。その万能薬を中心に、師匠とアバン先生とロカさんと縁が出来た。つまり俺達とも間接的に関わっている・・・話聞いてて思い出したんだよ。俺がドジって崖から落ちて骨折した時、先生に飲み薬と塗り薬を使って治してもらったの。とても頼りになる友人からもらった薬だって。」

「そうか、あいつ俺がやった薬お前に使ったのか。」

「ああ、おかげですぐに治ったよ。俺は会ってもいない頃からティファに助けられていたんだな。」

 

「私も・・小さい頃に鉈で指を切ってしまった時に母さんがいそいで薬とベホイミを掛けてくれたおかげで失わずに済んだの。」

 

本来ならそのまま千切れてもおかしくはなかったのを、マトリフから渡された薬のおかげで助かったのだと、マァムも話す。

 

そしてクロコダインとは獣王の笛拾いの一件で、ヒュンケルとは育ての親同士のつながりで、バラン達とは五年前に・・・話せば話すほど、本当にティファは今起きている渦中の中心人物との関わり合いが凄まじい。

 

「あの実は・・」

「うん・・・僕もね・・・」

 

・・前言撤回、凄まじい超えてあり得なかった。

ポップ達の話を聞いて、メルルとチウまでもが、万能薬のお世話なっていると言ってきた。

 

メルルは心無い占い客に石を顔にぶつけられ城の中庭に逃げ込み泣いていた時、城勤め見習に上がったニーナに出会った。

泣いていた理由を聞いたニーナは憤慨しながら良く効く薬だと顔にかけてくれて、当時はホイミしか使えなかったメルルでも顔に傷跡が残ることなく治療でき、チウの方は老師との出会い時、捕獲され村人に私刑を受けてボロボロになった自分を洞窟に急いで連れて行き薬を掛けられ程なく良くなったという。

 

「・・・俺があいつに渡した薬なら間違いなく嬢ちゃんが考案した打撃用・斬撃用の万能薬だ。」

「老師も、知り合いから貰った凄い薬だと言っていたので間違いはないかと。」

「ニーナさんもとても頼もしいおねえちゃんから貰った薬だと・・」

 

全員がティファの寝顔を見つめる。ティファは本当にこの一行の者達全てと、出会う前から繋がりを作っていたのだ。

ティファは、良くも悪くもすべてを繋げてしまう、なんと数奇な運命をもっているのだろう。

 

「あと一つ、嬢ちゃんの事で話しておくことがある。」

 

まるで自分達の出会いと成した途轍もない事が前座であったが如く、マトリフは重々しく話しを再開する。

 

「お前達は嬢ちゃんの悪い癖を知っているか?」

「ティファの?えっと、直ぐに無茶をする。」

「口が悪すぎる時がある。」

「状況をすかんと忘れて敵・味方問わず話してしまう。」

「・・・無謀すぎる時がありすぎる。」

「・・・・色々あんだな・・」

 

予想してたよりも悪い癖多すぎねえか嬢ちゃんよ

 

「それもあるが、決定的な事がある。」

「それってもしかして・・」

 

悪い癖が多々ある妹だが、決定的な事はあれしかないとダイが答える。

 

「怒りに駆られやすい事?」

 

ティファは許さないと決めた時は徹底的に許さない性質がある。一度それで島のモンスター達を侮辱したウォーリアー船長の部下を半死半生の目にあわし、二度と島に入れる事を許さなかった。

 

「そうだダイ。万能薬作ったもう一人の子が、バジリスクに追われて瀕死の重体になった時、嬢ちゃんはバジリスクの群れを怒りに任せて惨殺したんだよ。」

「惨殺って師匠!其れは倒したって事だろう!!」

「いやポップ、あれは倒したとかそんな生易しいもんじゃねえ。ヒュンケル、お前さんなら倒したと殺したの違いが分かんだろう。」

「・・はい、助けたいと思うだけでなく、怒り憎しみにとらわれてしたのならば・・」

「そんな・・」

あの優しいティファがそんな事をしたのは流石のダイ達にもショックが強すぎた。

だが、今日見たマキシマムへの対応は、まさにそれではなかったか。

 

「いつか・・・それが嵩じて魂が堕ちるんじゃねえかと心配していたが、杞憂であってくれてよかったよ。」

「師匠・・・」

マトリフは本当に昔からティファを心の底から慈しみ案じていたのが良く分かる。

怒りに駆られやすいところは変わってなくとも、優しいままのティファにマトリフは安堵し、優しく微笑み眠り続けるティファの頭を撫でている。

 

「それとな、もう一つあるんだよ悪い癖が。」

 

その瞳を曇らせ、マトリフは呻くように話の続きを始めた。

 

「嬢ちゃんは自分を大切にしないんだよ、昔っから。」

「「「「・・・・・」」」」

「どうやら全員心当たりある様だな。」

「最後は・・いつもボロボロになってる。」

「それだけじゃねえ、嬢ちゃんは自分の事を-外れた者-だと思ってやがるんだよ。」

「そんな・・」

 

沈痛なマトリフの言葉に今度こそダイ達も言葉が出なかった。

 

自分だとて竜の騎士と人の間の子ではないかとダイには言えるが、それとは違う感じを受け、ポップ達もティファがそんなことを考えて抱えていたのかと思うと何も言えなくなってしまった。

 

「嬢ちゃんはどんな奴でも受け入れる。自分の中で許せないと思った者以外は、考えどころか種族・年齢問わずでだ。そうやって他人は受け入れるのに、嬢ちゃん自身は自分は世間には受け入れられる者ではないと断じて、最初に俺と会って以降一か月俺から逃げ回ったんだよ。」

 

その理由は自分がマトリフに怖がられて拒絶されるのが怖かったからだと程なくして知った。

 

「自分の力や知識が、並み以上だの神童だのでは片付かないことを承知していたんだろうよ。けどな、俺ともう一人の子は嬢ちゃんがどんなに途轍もなくても受け入れ共にいるって言ったんだよ。」

それこそがあの、世界は弱くも酷すぎもしないと贈ったあの言葉だ。

 

その言葉の意味は世界は素晴らしいと賛美のつもりで贈ったのではない。ティファがどれほどの事をしても誰かがきっと受け入れてくれる、だから自分を大切にしてほしいと贈った言葉だったのだ。

 

だが、ティファはそうとは受け取らず、良き世界を救おうと自身を削っているではないか。

世界を救いながらアバンの代わりを己に課し、一行を守る盾となり剣となり、陰日向なく一行の心身を守らんと




頼れるおじさんに頑張ってもらいます。
主人公の疲れの原因を全員で共有し、二度と同じ事態が起きないように説明の回となりました。

以前感想で、この世界は主人公を中心に回っていると頂きました。

主人公はいるだけで、居なくともかかわった者か物があれば全てを瞬時に繋げてしまいます。
それが良い方向と悪い方向両方に繋がり物語を思わぬ方へと導いていきます。

次回あり得ない者が洞穴にやってきます。
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