勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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少し日常に慣れてボケボケした主人公が肝を冷やします。
よろしくお願いします。


色々と気を付けないと・・。

ティファが初めての港町散策を満喫しているのと時と場所を同じくして、黒縁の眼鏡をかけ、銀色を混ぜたような青い髪を三段横ロールにした男が暗い顔つきで港町を彷徨うように歩いていた。

表情は暗く、其の胸中も同じくらいに暗くどん底であった。

 

ヒュンケル・・あなたは今どこにいるのですか?ひょっとして・・あの川でもう・・

 

先の大戦の勇者アバンは今日も必死に教え子のヒュンケルを捜している。

ハドラーを倒す前に戦ったバルトスの大切な忘れ形見・・騎士道精神に溢れた立派な敵から

託されたというのに・・。

ヒュンケルは自分の事を父の敵と攻撃をしてきた。

ハドラーを倒せばハドラーから生まれた禁呪生命体のバルトスも死んでしまうので、

間接的には敵と言えよう。

自分を敵と思い、ヒュンケルの生きる気力になるのならばそれでいいと思っていた。

世界を巡り素晴らしいものを見ることで、いつの日にかは心が光で満たされると思って。

しかしそれは甘かった・・長い事共に過ごしても心の闇は無くならず、卒業記念で輝聖石を渡した時にそれは起こった。

剣の腕前は天性の物だが、殺気がありすぎると教え諭そうとしたときに、

―父の敵‼―

斬り付けられ・・とっさのことで手加減が出来ずに川に落としてしまった‼

・・何と言う事をしてしまったのだろう・・

幼い子の心を闇から救えずに・・挙句があのざま・・なにが勇者なものか・・。

それでも・・ヒュンケルを捜すのを諦めるつもりはない‼

必ず見つけて、今度こそは光の道をともに歩いてゆこう。

 

今日は港町に来てみた。こういう町は人の出入りも多く、うわさ話に事を欠かない。

あの子はとても目立つ容姿をしている。銀髪の紫の瞳の少年が一人で居たら、噂になろう。

(酒場は何処でしょう)噂の多い所といえば酒場が一番と探している。

町をを歩いていると目の前にとてつもなく見覚えのあるマントを着て歩いている人がいた!

 

あれは‥カールの風よけマント!!・・まさか!!!!

 

            「ヒュンケル!!!」

 

以前ヒュンケルに上げたものと同じ柄!もしやヒュンケルかもしれない!!

ひょっとしたら譲り受けたのかもしれないが・・背格好がよく似てる。

 

「ヒュンケル!」

 

追いついて肩をつかみ振り向かせてみれば・・黒い瞳の女の子だった・

・・違った・・ガッカリとしたがとりあえず、謝らねば・・

 

「うっく・・」

「ん?」

「ひ・・う・・」

「・・お嬢さん?」

 

          「うわーん!!!!」・・しまった‼

 

振り向かせた女の子が驚いて大泣きする。それも当然だと思うが、女の子を泣かせてしまったと慌ててしまうアバンであるが、ティファの方がより驚き大泣きした。

 

何なのよ急に!のんびり歩いていたらヒュンケルなんて超あり得ない名前聞こえたと思って心臓がはねてビックリしたら目の前にすんごい形相のアバン先生の顔あるし!!

二重三重の意味で超怖いよー!!!

 

いきなり、会うとまずい人リストのトップスリーの一人に、鬼も裸足で逃げそうな形相で迫られたティファは本気でビビッて大泣きをしてしまい、反対にアバンを驚かせたが知った事ではない。

いきなり驚かせるほうが悪いのだから。

 

泣き止まない女の子に、アバンは本気で手を焼く。

 

どうしましょう!私としたことが・・ヒュンケルの事で焦っていたとはいえ、こんな小さな子を泣かせてしまって・・可哀そうに・・本当に驚いてしまったでしょうし・・・

 

「申し訳ないお嬢さん・・そうだ!!」

 

妙案を思い付いたアバンは、早速自分のズボンの中を物色しだす。

ポケットの中にはいつもあの子の為にと・・ありました!!

 

「お嬢さん、口の中にちょっと失礼しますね。美味しいですよ。」-パクー

 

どうか効いてください。

 

「うぇぇ~・・ヒック・・あ・・まい。あま・・いの・・ひっく・・これなに?」

 

良かった、効いてくれましたか。本当に申し訳ないことをしましたね。

 

心の中で冷や汗をかきつつ、少女が落ち着いてくれてホッとする。

落ち着いたらきちんと謝罪をせねば。いかに相手が小さくとも礼を尽くすのが筋である。

 

これ飴だ・・少しごつごつしてるけど・・美味しい・・この世界に来て初めて食べた。

 

飴は貴重品で中々手に入らないってウォーリアさん言ってた・・この人何でも持ってるのかな?

 

考え事をしながら飴をなめているティファの姿は、傍から見れば無心に飴を味わっている幼子の姿と映り、ティファの泣き声に集まってきた者たちと、アバンもホッとした。

 

少ししたら落ち着いたティファの様子に、アバンはホッとしながらティファと目線と同じになるように片膝をついて頭を撫で始める。優しい気配と手つきに、ティファは完全に泣き止んだ。

 

・・私が驚いて泣いてビックリしたろうな・・泣いた私もいろんな意味で驚いたけど。

 

「驚かせてしまって申し訳ありません。あなたが被っている風よけマントが私の捜している子のものと同じものでしたのでつい焦ってしまいまして・・こちらはお詫びになるか分かりませんが受け取ってください。」

 

貴重飴飴袋ごとくれるなんて本当にこの人は優しくていい人だ。

 

「大丈夫!!ありがとう。」

 

にっこり笑って謝罪受けよう。

焦ってる理由よく分かるし、アバン先生は本当にいい人みたいだしもう許しちゃう。

 

「あのね、私今お使いの途中なの。もう大丈夫だからおうちに帰るね。」

「引き留めてしまい申し訳ない。美味しそうなリンゴですね。ところでそのマントは・・」

「さっき道具屋さんがおまけでくれたの。場所はね・・」

 

・・まさかオマケでもらったマントのせいでアバン先生に会うなんて・・。

リンゴ買っておいてよかった。おかげでお使いですって言えた・・家に帰るまでがお使いだ。

 

あの後すぐにアバン先生と別れた。

向こうはヒュンケルの手がかりを探しに行って、私は反対方向に家があるように装って

子供らしく手を振って、内心冷や汗をかきつつ走って船に戻る。

・・もう油断しない様にしよう・・本当に驚いた。

あそこで辺に印象づけて、島に先生が来た時に思い出されてダイ兄と一緒に弟子入りいかがですかと誘われたら断りづらくなる。

以前会った縁のある子が―ダイの妹―として紹介された時、弟子入りを断った時不自然な印象を与えてしまいそうなのは困る。

・・あの人ものすごく記憶力が半端なさそうだし・・マァムの魔弾ガンなんてオーパーツこさえたり、輝聖石を削ってペンダントにしてお守りどころか神様クラスの加護までつけちゃう本物の天才だ。

一般人ポップを魅了して押しかけ弟子させて、ダイ兄とじいちゃんも一目惚れさせる、

そんなすごい人なら-転生者-ならぜひ自分も弟子にってなるんだろうけど、私はパス。

 

・・神様達は勿体ないって言っていたけれど・・これから私は原作知識をフルに使う。

いわば後出しじゃんけんのようなズルをすることになる。

ゲームで言えばイカサマで、これから起こるひどい出来事を黙っているずるい奴。

そんな私が―アバンの弟子・使徒―なんて笑っちゃう。

要するにずるをしている私からすれば、自力であそこまでになって、今も世界を良くしようと一人で頑張っているアバン先生はきれいすぎて眩しい存在だ。

私の実力バレない為にも、先生が島きた時モブに徹しよう・・。

 

でもどうしてヒュンケルはあんなに素敵な先生といたのに、心の闇を振り払えなかったんだろ?魂の貝殻みたいに凄いものが無いとやっぱりダメなのかな。

出会ったら何とかしてあげたい。

 

ともかく今は油断せずに色々と気を付けよう。




原作通り、アバン先生は超が付くほどの人格者です。
-あの子の為の飴-は後々に、-あの子-の心を救う手助けとなる大切なものです。

主人公は時折自分を卑下してしまう癖があり、自分と周りの悩みの種となりますが
様々な出会いを得て強く逞しく成長していきます。

この後主人公がいくら気を付けても、原作の主要キャラと出くわしていく予定ですので、よろしくお願いします。

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