勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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問題だらけのお見舞いの回となりました


良い子に免じてお見舞いだけで帰るよ

「魔法使いのお爺ちゃんが、お嬢ちゃんに呪いをかけたんだね~。」

「お嬢ちゃん・・・俺が嬢ちゃんに呪いをかけたって?」

「そうだよ。僕も知っているよ。バラン君の時にもお嬢ちゃんは-世界は酷すぎも弱すぎもしない、いつか許してくれる人がきっといる-って言っていたのをよく覚えてる。あの言葉をお嬢ちゃんに教えたのはお爺ちゃんなんでしょう。」

 

洞穴の入り口の岩にもたれかかったままキルはマトリフを詰る。

あんな言葉はお嬢ちゃんにとって呪いでしかない。

 

「てんめえキルバーン!ここに来たからには無事に帰れるたあ思ってねえだろうな!!ふざけた事抜かさずさっさと失せろ!!」

 

妹の疲れの一人、ティファに贈られた素敵な言葉を呪いだなんて抜かしてタダでは済ませたくないが、今戦えばようやく深く眠りについたティファを起こしてしまう恐れがある。

如何にラリホーマが掛けられていても、ティファは敵・味方より一流の戦士だとの評価を受ける程の実力の持ち主、であるならば本格的な戦いの気配がすれば跳ね起きてしまうのをポップは厭い、今すぐ倒したいキルバーンに立ち去るように怒鳴りつける。

 

「お断り、さっき言った通り僕はお嬢ちゃんのお見舞いにきただけだよ。戦うつもりないから通してよ?」

「ふざけるなキルバーン!表に出ろ!!今すぐ俺が・・」

「よさねえかダイ!!」

 

飄々としたキルの態度にダイが切れかけるのをマトリフがすぐさま止めに入る。

 

「お前さん達もだマァム、ヒュンケル、クロコダイン。今そいつに邪気はねえ、言った通りに来たみてぇだからむやみに戦おうとすんなよ。」

 

この洞穴にはマホカトールほどではないにしろロカの村に掛けたのと同じ聖結界が施されている。

その結界が反応しないという事はキルと呼ばれている妙な奴は今すぐどうこうしようと言う気はなさそうだ。丁度いい、自分も話に聞いていたこいつの実際の所を知りたかったところだ。

 

アポロがティファの最大の疲れの原因だという見立てに間違いはないだろうが、ポップ達は別の者が最大原因だと口にした名前がこのキルバーンだ。

会う度にティファに絡み幾度も攫う変態死神野郎だとポップは言っていたが、その時のチウの反応がいやに気になった。まるでキルバーンはそこまで酷くはないと言いたげに。

今もダイ達は戦意を発しているが、キルバーンが見舞いに来たと言った時は意外そうではなく、どこか納得をしていたように見えた。

実際のこいつがどういう奴か知っておいた方が対処しやすい。

 

マトリフはティファの側を離れず座ったまま相手をする事にした。

 

「俺が嬢ちゃんに呪いをかけたってのはどういう意味だよ。」

「そのまんま意味だよ。お嬢ちゃんを甘い言葉で騙して人の世は素晴らしいなんて説いちゃって。結果お嬢ちゃんはその言葉を信じて、周り助けようとして寄ってたかって頼りにされちゃって雁字搦めになっているじゃないか~。みんながその子に甘えて理想押し付けて・・・可哀そうに、ボロボロになってしまって・・」

 

「ふざけんなよ手前!!」

「そうよ!ティファが疲れたのは昨日貴方がティファを攫ったのも原因の一つなのよ!!」

「マトリフさん!バルジ島にこいつ連れて行くからそこでならいいでしょう!!」

「分かってないな~君たちは。」

 

ダイ達の怒りに満ちた声にもキルは怯む気配はなく話を続ける。

 

「僕はね、お嬢ちゃんが半端にボロボロになる前に一度一気に壊してあげたかったんだよ。なんでだか分かるかい?」

「そんなの!ティファを攫いやすくするためだろう!!抵抗できないティファを死の大地の手前たちの所に連れて行くためのよ!」

「少し正解だけど違うよ魔法使い君。」

「んだと!」

「簡単な話だよ。複雑骨折よりも単純に折れた骨折の方が直り早いでしょう。それにお嬢ちゃんが壊れている間に僕たちが勝利してお嬢ちゃんを悩ませる元を全部消していればお嬢ちゃんが疲れる事はもうないでしょう。そんな‥‥お嬢ちゃん・・・」

 

滔々と自説を語るキルが不意に口をつぐみ、目を見開く。

いきなりな出来事にダイ達もキルの見ているところに目をやれば、いつの間にかティファがベットで上半身を起こしてい。

 

「嬢ちゃん・・・」

 

気配なく、それこそ手一つ分の位置にいたマトリフすら気が付かない程であった。

 

「キ・・ル・・?」

 

目の焦点は定まっておらず口調も気配もどこか虚ろで、まだ完全には覚醒に至っていないよだが、確実に異変を察して起きてしまったようだ。

 

嘘だろう!ラリホーマ掛けたのに!!

 

マトリフはティファの本当の底知れない強さを肌で感じ戦慄が走ったが、それ以上にティファの身が案じられる。これではティファをきちんと休めないではないか。

 

不意にキルが動き、ダイ達は即座に警戒して身構えたが、なんとキルが手を振りかざすと花が部屋に舞いだした。

花は一色ではなく色とりどりで甘い匂いが部屋を満たし始める。

花を部屋に投げかけながら、キルはダイ達の驚いた隙をついて空間を開けて一足飛びでティファの枕元に出現してにこりと笑ってティファに話しかける。

 

「夢だよお嬢ちゃん、ここはお嬢ちゃんの夢の中だよ。」

 

言った言葉はとんでもなかった。

 

「ゆ・・め?」

「そうだよお嬢ちゃん。ここが夢でなかったら今頃僕は勇者様達と殺し合いをしているよ。ここは夢の中で君の好きな人達しかいない素敵な所だよ。」

 

にっこりと笑いながらとんでもない嘘をしゃあしゃあと話し、ちゃっかりと自分もティファの好きな人に入れた図々しい事を平然と言いだす。

 

・・・こいつ絶対にろくでなしだ

 

マトリフの中のキルの立ち位置は決まった。自分も若い頃はキル以上のとんでもない事を平気で言ったもんで、同族のような奴でろくでもない奴だとすぐさまに分かる。

 

だからと言って、今攻撃をすれば今度こそティファの目が完全に覚めてしまい、下手したら傷が治った体をおして自ら戦う姿しか目に浮かばない。

ポップ達に黙っているように目で制し、起きてしまったティファの体を自分に寄り添わせ優しい言葉を掛ける。

 

「こいつの言う通りこれは夢だ嬢ちゃん。安心してもっと深く眠っちまえ。」

 

癪だがキルの言った言葉に乗っかる事にする。

 

「ふふ、魔法使いのお爺ちゃんの言う通りだよ。夢も見ずに深くお眠りよお嬢ちゃん。」

 

攻撃はないなと踏んだキルは図々しくも大胆に、なんとティファの顔をそっと両手で包み込み顔を近づけ小さな貝の様なティファの耳に優しい言葉を流し込む。

野郎!戦場で会ったら今度は全員で倒しつくすとポップは歯噛みしながらも隣にいるダイを見やる。こいつ切れて戦おうとしたらひっ捕まえてルーラでこの場離れようと算段をしたのだが・・・ダイの表情は凪いだ海のように静かで何の感情も浮かんでおらず、かえって不気味であった。

 

そんな兄達を他所に、不意にティファの可愛い小さな笑い声が聞こえはじめた。

 

「ふふふ、キル・・優しい・・・昨日と違う・・」

 

たどたどしく、それでもはっきりとキル呼び、優しいと褒めている。

 

「ここはお嬢ちゃんの夢の中だからね。誰もお嬢ちゃんが嫌がる事はしないよ。」

 

お嬢ちゃんが僕の事キルって呼んでくれてる!嬉しいな~、もっと聞きたい!!

 

「お嬢ちゃん、夢の中で何がしたい?」

 

今ならティファの本心が聞ける。リクエスト取っておいて自分達の所に攫えたあかつきにはぜひ全部叶えて上げよう。

 

夢で・・・ああ、夢ならいいよね

 

「お茶会・・じいちゃんやダイ兄達や・・・」

 

ティファは大好きな人達とお茶会をしたいという。なんと優しいティファらしい事だとダイ達も異常なこの状況な中でも優しい気持ちになりかける。

それは次の言葉を聞くまでは。

 

「ハドラーもお茶会に呼びたいな・・・」

 

・・・・今誰と?

 

「お嬢ちゃん・・・ハドラー君も呼ぶのかい?」

「うん・・・夢でもいけない?」

 

キルの確認を否定ととり、ティファは悲しげな表情を浮かべている。それが本当にティファの望む事だと分かってしまった!

 

「いけなくはないけど・・・彼は魔王だよお嬢ちゃん。」

「うん・・一流の・・ふぁ~・・魔王様だ・・・ヒ・・ムも呼んだら喜ぶかな・・」

「・・・他に呼びたい人はいるかい?」

「・・さ・・ん・にん・・」

「三人・・・そうだね、夢の中なら、ガルダンディ君・ボラホーン君・ラーハルト君達三人もきっと来てくれるよ。きっと・・・バラン君も・・」

「うん・・ミストも・・・くる・・かな・・」

 

眠いよう・・でも・・・今言わないときてくれないかも・・・

 

ティファの言葉に、洞穴に沈黙が降り積もる。

ティファが自分達やバラン、そして亡くなってしまった竜騎衆達の名を上げるのは分かるが、何故ハドラーやミストバーンを上げているのだ!!

ハドラーはアバン先生の仇で、ミストバーンはティファを殺そうとしたばかりではないか!!

 

「お嬢ちゃん・・・嬉しいけどね、ミストも呼ぶのはなんでだい?」

 

流石にキルも今のティファの発言どうなんだろうと疑問を持ったが、ティファは微笑みすぐに答える。

 

「あの人本当は面白そうな人っぽいもん・・・」

 

大魔王のお料理番しているならどんなご飯作るも知りたいのだと、ウトウトしながら話を続ける。

 

「そう、ミストとお料理作りっこしたいの?」

「うん・・夢なら・・・戦う事も・・憎みあう事も・・しな・・く・・・ていい・・・」

 

最後まで言い切れずティファの体はくたりと力が抜けマトリフの膝にあたもを乗せる形に倒れ、眠りの底へと落ちていく。

本当の夢を見る眠りの中に。

 

夢の中で誰かが出て来たかいい事があったのか、微かに笑みを浮かべて。

 

「・・・・・・参ったねこれは・・」

「・・何がだよ。」

 

キルは生き物のように頭を掻く仕草をしながら溜め息の様な声を吐き出し、それをティファを寝かしつけるマトリフが拾った。

 

「惚けなくていいでしょうお爺ちゃん。この子が言った事問題あるでしょう。」

「ふん、手前がお呼ばれされなかったのが問題か。」

 

確かにハドラー・ヒム、そしてミスト迄出て来て自分の名が上がらなかった事は少々斬根ではあったがそこではないのをお爺ちゃんだとて承知しているだろうに、認めたくないのかね~。

 

「勇者様達を見てご覧よお爺ちゃん。ショックで固まっちゃってるよ。」

「・・・んな事はみねえでも分かってるよ。」

「だろうね。勇者一行の者がこんな考え持っていて人間達は許してくれると思うかい?」

 

キルの言う通りダイ達はキルがまだいるのにティファの発言に固まってしまった。

 

ティファはバランとの戦いの時に言っていたことがある。

心底愛した者であれば相手は天人でも魔族でも魔王でも大魔王でも構わないではないかと。

あの場にはレオナもいたが、ティファの立場を思いやってくれたのか、ティファの言ってしまった事を胸の中にしまっておいてくれたようで味方や謁見した王達から問題視された気配が一切見られない。

だが、ティファの今の考えが、ティファ自身が疲れきりほろりと漏らしてしまったら?

それが万が一人に漏れたらティファは今度こそ敵と通じる恐れのある者として囚われかねないではないか!!

 

う~ん・・・そうなる前に僕がここで保護しよう・・・

 

「それでもティファさんは戦うって言います!きっと最後まで一緒に戦うって言います!!!」

 

さしものマトリフもティファが心の底に押し込め秘めていた願いを聞き青褪め、ダイ達も言葉を失いキルが連れ行こうとしたその時、力強い声と言葉が洞穴に響き渡った。

 

「確かにティファさんは優しく戦いでは無い事を夢に望むかもしれませんが!それでも最後までダイ君達と一緒に最後まで戦うと言っていました!!」

 

チウは小さな体を震わせながらも、力強くキルの瞳を見つめ言葉を続ける。

 

昨日のロン・ベルクの昼食会で言っていたから。

料理人が強いのは、最終決戦の最後まで一行についていけるようにするのだと。

怪我を治せるように医術に通じ、料理で心と体を癒すのだと。

全ては皆で勝つために!!

 

「僕は弱いです!それでも僕もティファさんと一緒にダイ君達と最後まで戦います!!ティファさんが戦わなくていいように僕はもっと強くなります!!!」

 

チウの言葉はダイ達の固まってしまった心を揺り動かす。

 

「そうだよ・・・ティファは最後まで俺達と一緒なんだ!俺の大切な妹で大切な俺達の仲間なんだ!!」

「こいつは大切な」

「私達の」

「俺達の」

「「「大切な仲間だ!!」」」

 

チうの放った言葉にダイ達の心に火が付き、キルの胸にも届いた・・・届いてしまった。

 

-ポオン-

 

「うん、君やっぱり良い子だね()()()。」

 

キルが相手をきちんと名前で認識して、空間開けて自分の腕の中に攫う程に。

 

「へ!・・わ!!」

「大丈夫、大丈夫。きちんと降ろしてあげるよ。()()()()。」

 

ニコニコととっても物騒な事を言う!今日はってどういう意味!!

 

「モンスターの君がお嬢ちゃんに一番近いんだね。今日は君に免じて大人しく帰るよ。その代わりこれをお嬢ちゃんに渡しておいてほしい。」

 

ティファの枕元にそっとチウを降ろし、良い子二人の頭をそっと撫でて満足そうに笑い、二通の封をした手紙をチウに渡す。

 

「なんですかこれは?」

 

頭を撫でられても嫌な顔をせず、渡されても迷惑そうな顔をしないチウにキルはニコニコ顔で答える。

 

「お城でお嬢ちゃんとお爺ちゃん達と約束した感謝状と、急遽書いたお見舞い状の二通だよ。

それ渡す時今日は大人しく帰るけど、次こんな事があったら僕がお嬢ちゃんを連れて行くって伝言もお願いね。チウ君も一緒だから安心して。シ~ユ~。」

 

やりたい放題し、言いたい事を言ってようやく帰った。

 

こっそりとティファのポーチに仕込んでおいた超小型の悪魔の目玉を回収して。

 

後に残されたダイ達は様々な事に呆然となる。

ティファの心の奥底のあの願いを、自分達はどう受け止めればいいのか。

キルが夢だと言う為に出現させた色とりどりの花が残り甘い匂いが漂う洞穴は、しばらく静寂が包み込んだ。




主人公は本当はハドラーも助けられる道はないかと模索して疲れた今、
本音として出てしまいました。
ハドラーを助けるための話もおいおいに出していきます。

本当は戦いたくはない主人公が、この世界の争い事をどう終わらせるまで見届けていただければと思います。

この場をお借りして、いつも誤字報告をしてくださる皆様にお礼を述べさせていただきます。

少しづつですが過去のも直していきます。ありがとうございます。
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