勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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-五年前-と書いて因果関係が全部詰まった年と読む。


それぞれの・・

「そう・・・あの子マトリフ導師とも知り合いだったのね。

きちんと休めるなら何よりです。」

 

あの後様々にすったもんだがあった洞穴で、ダイとヒュンケルはレベルアップしてティファを付け狙う様々な者をぶった斬れるようにロン・ベルクの所に修行に向かい、居残り組はパプニカ王城に一晩泊ることになった。

 

「今夜だけは嬢ちゃんと二人きりにさせてくれ。」

 

遠慮呵責なく嬢ちゃんが辛い事を全て吐露できるようにと言われては、ポップ達とてティファの側に居たかったが、今夜一晩我慢する。

 

パプニカの城下町で宿をとっても良かったが、レオナも今頃は後処理で心労が溜まっているだろうと労いに来てみれば悄然とうなだれているレオナのいる居間に通されたポップ達はすぐさま労いの言葉を掛けまくってレオナの心を浮上させることに成功した。

 

レオナにとって、今日・・というよりは先程の事は大戦始まって以来の悪夢である。フレイザードの人質取られていたあの時の方がまだましに思えた程に。

 

「パプニカは他の国を蔑ろにするおつもりか?」

 

昨日勇者一行、ひいては料理人のティファを-全面的に-バックアップすることを誓い合ったばかりなのに、サミット主催国のパプニカの者が仕出かしたことはあまりにも罪が重い。

 

全面的にとは、ティファの敵味方問わず優しさを発揮する場面も盛り込まれているのは、昨日の竜騎衆達の話の後にリンガイアのサライ王・ベンガーナのクルテマッカ王が発案したことであった。

人の生来の気質は早々変われるものではない。ならばそのような場面に味方が出くわしたとしても、料理人が敵と通じているわけではないと末端兵士達にも徹底通達する段取りも組まれたところにあの騒ぎ。

まさしくアポロは各国どころか自国のパプニカに泥を塗ってしまったのだ。

 

謹慎では甘いのではないかとクルテマッカなどは言いたい顔をしていたが堪えてくれていた。大戦最中で決戦が近い時に他国の内政に干渉して話を乱すのを嫌ってくれたのは僥倖と言えよう。

 

どうするべきか喧々諤々になりそうなその時に、パプニカ王レオンが病の身をおして議会場に姿を現し、各国王に頭を下げ二度とないように戒める事を誓ってその場は事なきを得てくれた。

 

お父様に無理をさせてしまった。

 

自分が将として現場にいたというのに、側近中の側近でしかも三賢者筆頭を任せたアポロの暴挙を止められなかったのがなんと不甲斐無い事か。

 

しかもだ、リンガイアはアーデルハイド王のみならず、鬼岩城騒ぎで急遽国の防衛を息子に託し、王の護衛に馳せ参じた、勇猛でその名を轟かせる将軍バウスンが激怒して会議場に乗り込んできた。

道中でパプニカで起きている事態の全容を把握しようと情報収集をしている過程で、ティファに起こった事も全て聞いて到着早々王に挨拶をではなく猛抗議に来た。

 

「某はリンガイア国アーデルハイド王より将軍職を拝命しているバウスンと申します!ティファの事でお話したきことがあり各国の王達に拝謁つかまりたくまかり越した次第にて!!」

 

何事かと自国王も驚いていたが、バウスンがティファと-五年前-よりの知り合いであると聞いて謁見はそのまま許可をされ、詳しい話がなされた。

 

曰く、ティファと今代リンガイアの騎士団長をしている氷の勇者と呼び名の高いノヴァと交流があるどころかノヴァ自身の命の恩人であり、そして今世を助けている万能薬の発案者はティファとノヴァであると言う。

 

「あの娘は、間違っても魔王軍に与する者ではありませぬ!時折状況を忘れて妙な事をしてしまうところはあれど、あれほど心の清らかな娘は居りませぬ!」

 

数多の人間を見てきたバウスンをそう言わしめるほどのティファを・・・

 

最早バウスンがティファの良いところを話せば話すほどレオナは死にたくなり、全てが終わった後にポップ達が来てくれなければ本当に心が死んでいたであろう。

 

「姫さんよ、ティファだってきっと元気になるからな。」

「そうです、ですからレオナ姫様も。」

「ティファさんならきっと大丈夫ですから。」

 

パプニカ城は、ポップ達の優しい言葉に溢れながら更けていく。

 

 

一方魔王様執務室

 

「だはっはっはっはっは!実にあ奴らしい夢を持っているものだ。」

「あのねハドラー君、これって笑いごとにして良い類のものなの?」

「なんだこれしきの事で驚いているのか?あ奴に執着している割ではないな。」

 

なにそれむかつく

 

キルは死の大地に帰還して早々にハドラーの執務室にまいもどった。

ハドラーならば、ティファの心の内を知ったらどんな反応をするのか。

驚くのかあり得ないと一蹴するのかどっちだろう?

 

どちらでもなかった

 

聞いたハドラーは大爆笑してキルを驚かせた。

 

「無茶苦茶だが実にあ奴らしいではないか。茶会か、叶うならば一度はしてみたいものだな。」

 

何かハドラーまでもがとんでもない事言っちゃってる。

 

くふふ、本当に久しぶりに心の底から大笑いさせてもらったぞティファ。これほどの心持は二度目に会ったあの地底魔城以来か。

 

捕虜で敵しかおらず身に武具一つなかった状況で魔王にの自分に倒します宣言をしてきて以来に笑わせてもらったな。

あれは気ままで自然の様な物だ。今は疲れきり曇って大雨のようだが、早く元気を取り戻して晴れた顔で向かってこい。

 

「あのさハドラー君、一緒にお嬢ちゃん攫いに行かない?」

「・・・・何を言っているのだ貴様は・・」

「だってお嬢ちゃんはハドラー君好きみたいだし、ハドラー君だって・・」

「くだらんな。」

 

キルの誘いをハドラーは心底詰まらなさそうにキルを見て切り捨てる。

キルも強者である事に違いはないが、根本的に戦う者同士の心の在りようを理解していない。どこまで言っても自分とティファは戦う運命が待っている。

その中をいかに有意義にかつ相手を尊重して接している過程を楽しんでいるのに過ぎない。

そこを理解していないとは。

 

「話すことはもうない、出ていけ。」

 

ハドラーのにべもない断りを聞いて、キルはしばし思考しおもむろに立ち去った。

これ以上誘っても意味はない。お嬢ちゃんを攫うには、矢張り単独でやらねばならないか。

 

 

その頃のダイ達

ダイとヒュンケルはロン・ベルクの指南を受けてボロボロのへとへとになり、ダイは修行という名の扱き終了の合図と共に崩れ落ちて泥のように眠りに落ちた。

 

眠ってしまった弟弟子を抱え上げたヒュンケルは、その様子に内心は安堵している。

ティファの抱えている悩み、夢を知ってダイこそが一番苦しかっただろう。幼い頃より片時も離れずに育った双子の妹の心中を見抜けず、兄としての葛藤や苦しみも忘れて眠りについてほしい。

 

ダイをソファーに寝かしつけるとロン・ベルクが無言でゴブレットを投げてよこしてきた。

テーブルの上には数本の酒瓶がもう乗っている。

ヒュンケルも無言のままロン・ベルクの向いに座り、黙って注がれるままに酒を飲み干していき、次第にぽつぽつとティファとの事を話し始める。

 

自分とクロコダインの心はティファによって救われた事を、恋とは違う慕情をティファに抱いている事も余すことなく。

ダイ達にも救われているのは本当で、アポロにも恩義があるだけにヒュンケルも板挟みになり葛藤を抱えて辛かった。

あのフレイザード戦の後、真っ先にレオナ姫に自分達の助命嘆願をしてくれたアポロが、自分が慕いしティファに傷を負わせた事がどうしても許せずに・・・自分だとて、否!自分は殺すつもりでティファを傷つけた癖にだ!!

 

その事を詫びたくともティファは悲しい顔をするだろう。ならば、行動で返すほかないと心に決めているのに・・・

 

「なぜ・・・俺達はティファを助けてやれないんだ・・・・」

 

その言葉を呻くように絞り出して程なくして、ヒュンケルも机に突っ伏して眠ってしまった。痛々しく涙を流しながら。

 

眠ったか・・・

 

自分は生来誰かを慰めてやれるほど高潔な者ではないが、愚痴位は聞いてやれる。

そう思って酒を飲まして愚痴聞きしようと思ったら、ヒュンケルの心の深い所迄聞く事になろうとは。

 

「みんな・・・お前さんを案じてんぞお嬢さん。」

 

ダイ達が夕刻に来た時には何事かと思った。

顔は青褪めながらも、何かを強く決意した瞳を輝かせたダイとヒュンケルを見て、大魔王の篩どころではない何かが起きたのだと知って全てを話させたら、予想外なことだらけでティファに腹が立った。

 

あのお嬢さん!戦場のど真ん中で何やってやがる!!

 

アポロという男が、暴挙に打って出たくなった理由は分からんでもない。

周りの心情を丸無視したティファにも非があろうと。

そのティファが傷つき眠らせて知り合いの洞穴の所に保護された辺りでロン・ベルクは話を止めた。

 

「それでお前さんたちはどうしてここに来た。」

 

傷ついたティファの側を離れて。

 

「俺は強さが欲しい!妹がもう何物にも傷つけられずに守り切れる強さが欲しい!!」

「俺もだ。頼むロン・ベルク、俺とダイを鍛えてほしい。」

「・・・分かった、昨日以上に手加減しねえから死ぬ気で喰らいついてこい。」

 

その宣告通り、昨日の稽古以上にロン・ベルクは容赦なくダイ達を打ちのめし発破をかける。

 

「どうした、お嬢さんと世界を守るんだろう!これしきの事でへたばる奴に出来ることなのか?」

「つう・・・まだまだ!」

「もう一度!!」

 

日が暮れ月が昇り始めた頃に終了を言い渡し、眠るダイと潰れたヒュンケルにロン・ベルクは優しく毛布を掛けながらティファに説教するかと算段を付ける。

人に干渉されるのを極端に嫌い、自身も干渉する事を厭ってきた自分には珍しい事だが、ダイ達やティファはしたくなるのが不思議だ。

 

 

 

大勢の者達が案じるティファ自身は少しずつ目が覚め掛け夢を見始める。

 

「ティファ~父さんと母さんのお菓子無くなっちゃったよ。」

「それってダイ兄が食べたんでしょう。じいちゃんと今クッキー焼いてるから待っててよ。」

「おいガキンチョ、お前も向こうで飲みに行けよ。」

「誰がおかし作るのさガルダンディー。」

「ン?ニーナ作れないのか?」

「ラーハルトは作れるの?」

「こいつは作れるぞ、何せバラン様の身の回りのお世話をだな・・」

「余計な事を言うなボラホーン!!」

 

ああ楽しい。私の大好きな人たちがデルムリン島に来てお茶を飲んでる。

父さんも母さんも笑ってダイ兄の頭撫でて、ガルダンディー達が手伝ってくれてる。

テランの子供達なんて島の皆に夢中だ。

 

「お嬢ちゃん、お茶のおかわり貰えるかな?」

「キル飲むの早くないですか?」

「だって美味しいもの。」

「それは何より・・・ハドラーにも持って行った方がいいでしょうか。」

「一緒に行こうか。」

 

ハドラー来て爺ちゃん驚いていたけど、ヒムのハドラー讃美歌聞いたら毒気なくして受けてくれて嬉しいな。

 

みんな笑って・・・・あれ、アバン先生が一人でどっか行っちゃう・・

 

「先生、どちらに・・」

「ティファさん。」

「はい。」

「-眼鏡-を預けますよ。」

 

・・・眼鏡・・・ああそうだ。

 

アバン先生眼鏡してない。自分の顔を触ってみたら・・・ここにある。

 

アバン先生と来た道を振り返れば何もなかった・・・暗い空間だけ・・消えてしまった・・・

そうだ、私は自分で預かったんだ。アバン先生の全てを・・

 

「夢なのですね・・」

「ええ。」

「叶う事のない・・楽しい夢でした・・」

「・・・」

「もう起きます・・・・起きないと・・」

 

起きて、自分がなすべきことをします。だからどうか、悲しい顔をしないでくださいアバン先生

 

目が覚めたティファの双眸は、涙を流しながらうっすらと開いた。

 

ここはどこだろう?王城でも宿屋でもない。ロン・ベルクさんの小屋でもない。

ごつごつとした岩肌・・・ここは・・

 

「目が覚めたかよ嬢ちゃん。」

 

この声は!!!

 

あり得ない声に、ティファの意識は一気に覚醒し、上半身を起こして声の方を見やれば、飲み物を用意しているマトリフの姿があった。

 

「今茶を淹れてやるから待ってな。」

 

優しく深い声・・・私の大好きな魔法使いのおじさん・・・今の私におじさんに会う資格ある?

中途半端に先生の真似事をしても、結局は救えない者達が大勢いて、挙句が今日の騒ぎだ!!合わせる顔なんてない!!!

 

上半身を起こしたティファが一瞬のうちに加速し、マトリフの横をすり抜けて洞穴を出ようとしたが阻まれた。

 

「ヒャダルコ!!」

 

咄嗟で呪力を練り切らずとも、マトリフは洞穴の出口を全て隙間なく氷りつかせた。

 

嘘でしょう!水も何もないのに全部凍らせるなんて・・・でも砕けないわけじゃ・・

 

「逃げても無駄だぞ嬢ちゃん。地の果てまでトベルーラで追うからな。」

 

そんな!そんな事したらおじさんが!!

 

マトリフの発した言葉に、ティファは攻撃の手を黙って降ろす。高齢のマトリフが今言った事をしてしまったら死んでしまうではないか!

 

「狡いか、俺の命で嬢ちゃんを脅す俺は。」

「ずるいよ・・・」

 

そんな事を言われたら、逃げられるはずもない!

 

「逃げねえでくれ・・」

 

俯き方を震わせ握りしめた両手から血の雫がしたたり落ちるティファに、マトリフは懇願をする。きっと泣いているだろう。

これしか手段がなかった。優しいティファを引き留められる手立てはこれしか。

それでも止めて、そして・・

 

「ダイ達から全部聞いた。旅の始まりから今までを全部。」

 

後ろから抱きしめたティファの小さな体がびくりと揺れる。知られてしまった、大好きなおじさんに、自分が仕出かしてきた酷い事すべてを。

 

「それでもな、俺も坊やも、今はダイ達もお前さんの事が好きなんだ、大好きなんだよ。何があっても起こってもお前さんの事を嫌うものかよ。」

 

優しく優しく、幼い子供の中に沁み込ませるような声に、とうとうティファの心が溶かされる。

幽かに振るえ握りしめた両手は力を抜き、何かに縋ろうと前に出し、ティファはふいにマトリフに向き直りすがりつき声を震わせ泣き始めた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!あああああ!!!」

 

痛かった、自分の心だとて痛かった!!それでも・・・ダイ達には言えず、頼る人とてなく、不安で押しつぶされそうになっても止まるわけにはいかなかった。

この世界を助ける。自分はそうなるべくして生まれたのだから・・・今更投げ出せない!全ては自分で始めた事だから!!

それでも・・・誰かにこうして縋り付きたかった、泣きたかった、誰かに弱音を吐きたかった!

 

もっと早く嬢ちゃんをここに来させるべきだった

 

ティファの泣き声を老体で受け止め、マトリフもいつしか泣いていた。

なぜ、こんな状態になるまで放っておいてしまったのだろうと後悔の念に駆られながら。

 

ひとしきり泣いたティファは次第に泣き声も弱まり、頃合いだとマトリフはティファをベットに上げ、自身も上がり枕元に腰を掛け足を延ばし、膝の間にティファを座らせる。

 

「ふ・・・く・・・」

「辛かったのに頑張ったんだなお嬢ちゃん。」

「う・・・ん・・・・・」

「今は休んでいいんだぞ。」

「お・・じさん・・」

 

マトリフの優しい言葉に、ティファは今まで辛く悲しかったことを少しずつ話し始める。

 

自分もアバンの死は兄達と同じくらい辛かった事を。旅慣れているとはいえ、ダイ達を抱えての旅はうまくいくか最初から不安があった事を。敵と戦う度に兄達が傷つくのが嫌で、それでも守りすぎて弱いままでは死んでしまうと心を鬼にして戦いに出すたびに感じた胸の痛みも。

少しずつ話し、とうとう核心的な話が出た。

敵である者達に心を寄せ、味方であるものを厭うなど間違っていると。

 

黙って聞いているマトリフの胸中は苦かった。

自分もさんざん人間の醜さに嫌気がさし、モンスターや魔獣の方が余程上等な生き物ではないかとさえ、ハドラー大戦時にも感じたものだが、今はその思いを胸に仕舞ティファの言葉を黙って聞く。

 

「こんなんじゃ・・アバン先生・・・かな・・しむ・・・」

 

その言葉を最後にころりと涙を流しきり、ティファの瞳は閉じられた。

 

・・・・アバン、俺は今ほどお前さんの死を恨めしいと思ったことはねえぞ。

 

大切な嬢ちゃんに重荷を負わせて逝ってしまった仲間を思い、マトリフはティファを包み込んで共に横になる。どんなことからもティファを守り切れるように。

 

 




ようやく主人公だけではなく、一行の子達にも弱った心を吐き出させてあげられました。
がむしゃらに戦っていては、戦いがない時にいつか壊れてしまうのではないかと原作を読んでいてずっと感じていました。

心身共に元気になり、折れる事無く最終決戦まで行かせてあげたいです。
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