休暇のプロローグ的なお話で短めです。
ミャ~、ミャ~
静かだな。波の音と海鳥の声と海風の音しかしない、こんなに静かな時間を過ごしているのはいつ以来だろう。
マトリフの洞穴から少し離れた砂浜に岩があり、その岩を背もたれにしティファは座って海の方角を見るともなしに見る。別段海を見ているわけではない。
寄せては返す波を、空を自由に流れる雲を眺め、海鳥の声をなんとなしに聞いてもう三十分近くがたっている。
そのすぐ横にはガルーダがあたりを警戒しながらティファを見つめている。
ようやくティファが休める。何もしなくていい、休みたいだけ休めばいいとガルーダは己から話し掛ける事無く、ティファのしたいようにさせている。
朝見た時、ティファは人間の老人に甘えていた、まるで鬼面道士のブラスに甘えるように。ああいうのが側に居てほしいものだとずっと願っていた。
ティファを心の底から安心させて甘やかせる者が。
昨夜洞穴にて大泣きした後、マトリフによりかかるように寝たティファの目はなかなか覚めなかった。
いつでも朝日の気配で目を覚ましていたティファが。余程心労が溜まっていたのだろうと戻ってきたポップ達が相談をしている声でティファの目が覚めてしまった。
「うん・・・ポップ兄・・・」
「あ!起こしちまったかティファ。」
「うんん・・・あ、あのね、マトリフさんとはその・・・」
「いいよティファ。」
目が覚めて開口一番、自分とマトリフ導師との事を説明しようとしたティファを、ポップは止めながらティファの居るベットに腰を下ろす。
「昨日師匠から全部聞いてるよ。お前と師匠の事丸ごと全部だ。だから説明はいらねえよ。」
「そう・・・」
説明はいらない
そう言った時ティファは何処かホッとしたような顔をした。自分達がどれだけティファによりかかり、事態に対して一から十まで手とり足取り教わってきたのかよく分かり内心自分の不甲斐無さに落ち込むポップだが表には出さず、大切な妹の頭をゆったりと撫でる。
撫でればいつもならば嬉しそうにしてくれるのだが
「どうした?」
何か嫌がっているように見えるのは罪悪感のせいか⁉
「・・・魔法グローブいや・・」
「ああこいつか。」
普段滅多な事では外さないグローブなので付けている事も時折忘れてしまいがちな代物だが、ティファはその感触を嫌がったようだ・・・自分に触られたくないと言われなくてポップは内心で泣きながらガッツポーズをし、手袋を外して改めてティファを撫でればえへへと可愛く笑ってくれる。
「ティファ、笑い顔可愛いわよ。」
「マァムさん・・・からかわないでください・・」
「そんなことないですよ、本当に可愛いですよねクロコダインさん。」
「そうだな、マァムやチウの言う通り可愛いぞティファ。」
「もう!クロコダインまで!!」
メルルはフォルケン王の身の回りの世話をする為にパプニカ王城に残り、ポップ・マァム・チウ・クロコダインが戻ってきて、昨日とは違う柔らかな気配を出しているティファに嬉しくなり、ついつい構ってしまう。それをティファが恥ずかしそうに真っ赤になっている姿がまたなんとも愛らしいが、それを言えば起こりそうなので褒められないのが残念だ。
ある人物以外は
「本当だぞ嬢ちゃん。」
「おじさん・・・」
「ほれ、レモン湯に砂糖入れたから飲め。こぼすんじゃあねぞ。」
「・・・こぼさないもん。いただきます。」
天下無敵の大魔導士マトリフは、毛を逆立てそうなティファに臆面もなく可愛いと言い切り、完全子ども扱いをしている。
ティファがどれほど強くなろうが、王侯貴族に物言える立場になろうがそんなことは知った事ではない。いつまでも心配の種が尽きない可愛い嬢ちゃん以外の何物でもなく、たとえ明日世界が滅びようともその思いが揺るぐことは無い。
可愛い愛弟子も嬢ちゃんに軍配を上げて枕元から引っぺがし、その位置に堂々と収まる。
だが追い立てられて立たされたポップも何となくマトリフの気持ちが分かるので文句は言わず、黙ってその場を明け渡す。
「うまいか嬢ちゃん。」
「うん、きちんと味感じるから大丈夫だよおじさん。」
「そうか、ならマァムに美味いもんうんと作ってもらえ。」
「・・・マァムさんに?」
「なんだ嬢ちゃんしんねえのか。おいマァム、お前さん一度も嬢ちゃんに何か作ってやったことないのか?」
「や!・・・えっとその・・・全部ティファに料理任せてたの・・」
「・・・おい・・」
「あ!おじさん!!私職業料理人だから!それが正しいんだよ・・だからね・・」
「分かったよ・・・だがな嬢ちゃん、今日は全面的に料理作りは無しだ。万能薬作りも俺がいるからやるんじゃあねぞ。」
「・・・そしたら・・・お部屋のお掃除を・・・」
「あのねティファ、マトリフおじさんの言う通り今日はティファは何もしなくていいからお休みよ。お昼にうんと美味しい海鮮スープ作ってあげるから。」
何もしないのは申し訳ないとティファが言う前にマァムは努めて元気な声で話し掛ける。
マトリフに言われるまで、ティファに料理を振舞おうと一度も思わなかった自分を恥じて落ち込みたいが、そんなことをしてもティファは喜ぶまい。ならば明るい笑顔になってもらうようにするのが一番だ。
「はい、ごちそうになります。」
ティファは本当に嬉しそうにはにかむように笑い、よろしくお願いしますと座ったまま頭を下げる。
そのほのぼのとした様子にポップは涙ぐみそうになり、クロコダインもチウも嬉しそうに見守る。
「嬢ちゃん意外と食べるから作る量間違えるなよマァム。」
こう見えてもティファはよく食べるのだからとマトリフはアドバイスするが、マァムも聞いていたポップ達も首をかしげる。
「ティファってそんなに食べたか?」
「ん?嬢ちゃんは朝からよく食べてたぞ?」
「・・・おとといの昼食会や夕飯の時も・・・他の時も私たちの半分以下ね。」
「嬢ちゃん!!!!」
「み!」
「一行の料理人掲げてる分際で、手前の体調管理出来てねえとはどういう了見だ!!」
「あう・・・」
マァム・ポップの思わぬ暴露話にマトリフは自分の体調管理どうしたと大激怒し、恐れをなしたティファはもしょもしょと毛布を被り丸まって隠れてしまった。
何だこの可愛いティファ!・・・デルムリン島でもこんな子供っぽいことしてるんの見た事ねえぞ。なんだろう、毛布ごとギュッと抱きしめたくなってきたポップとは対照的に、マトリフはため息をつく。
まったくしょうがねえな嬢ちゃんは。嫌な事あると直ぐ逃げるか隠れちまって。
「痩せてる女はもてねえぞ嬢ちゃん。」
優しい声を出しティファの背中の辺りをポンポンと優しく叩けば、ティファは亀のようにひょっこりと毛布から顔を出した。
「おじさんも痩せてるの嫌い?」
「そうだな・・女っていうか、どの種族も性別問わずに多少はふっくらしていた方がよかねえか?」
「・・・頑張って食べるね。」
「そうしろな。」
「ん・・」
旅が始まってから様々な事を考えて・・考えすぎて食欲が減退していたが別に体調に響かなかったので放置していたが、ベットの周りを見まわせば自分を心配しているポップ達の顔がよく見える。
「マァムさんのお料理・・・楽しみに・・」
あれ?なんでだろう、少ししかお喋りしていないのに眠い・・
「寝ちまえ嬢ちゃん。」
「でも・・」
「俺がいるんだぞ。」
「・・・うん・・ね・・る・・」
俺がいるんだぞ
ティファな何の説明も不要とばかりに再び眠りにつく。小さな子供が、親に包まれて安心しきって眠るように。
その様を見たポップは見ていて胸が痛くなる。
「師匠はすげえや。」
「何がだよ。」
「いやさ、ティファは師匠の言う事全部聞いて・・・頼りにして・・俺達本当に頼りなかったんだなって改めて思うわ・・」
ポップの身を切るような告白を、マトリフ鼻で笑い飛ばす。
「馬鹿言え、俺からすればお前さん達も嬢ちゃんもけつの殻がようやく取れたひよっこだぞ。俺の事いくつだと思ってんだよ。」
じき百歳になろうかという自分からすれば、ポップもティファも等しく可愛い子供でしかない。扱いに何の差があろうかと。
「へへ、そうだよな。俺達も頑張って早くそう言えるくらいにならないとな。」
「そうね、とりあえず起きたティファにうんと美味しいもの作るわね!」
「僕も手伝いますよマァムさん。」
「俺は・・・薪拾いくらいならできるぞ。」
「お願いね二人とも。」
良い奴らだなこいつらは。仲間が倒れても迷惑な顔しねえでみんな良い子だ。
それにしても、嬢ちゃんの疲れは大分深刻だな。
旅の間マァム達の半分の量しか食べていないという事は、見ていないところでは三食食べていたのかすらはなはだ疑問になる。少しの会話で疲れるのも体力的にと言うよりは心労が原因だろう。
ポップ達も極力明るく振舞ってはいるが、端々で案じる気配が漏れ出して、察しのいいティファが拾ってしまっている。
そこは何とかなろう。ポップもマァムも特訓をするので日中は食事以外会う事はなく、その間にティファの心の回復に務めればいい。
その事とは別に、マトリフは頭を痛める。
たっく、嬢ちゃんの奴この期に及んでまだ隠し事してそうだぜ
昨日心労を吐露してくれたが、全て話している感じが全くしなかった。
まだ奥底に隠している、それも途轍もない事が。
そんな時にあいつのお見舞いだの感謝状だのは見せねえ方がいいな。
心が乱れてる時に、キルバーンから渡された感謝状とお見舞い状は見せない方がいいと、ダイとポップ達が処分する前にマトリフがチウから取り上げ預かる事にして戸棚に隠している。
如何に敵からであっても、これは嬢ちゃんの物だ。きちんと悩み事話し終えるか心が元気になるまでお預かりだ・・・・・渡せるの何時になんだか頭痛くなる。
マトリフの勘は当たっている。
ティファもまさか大好きなおじさんに転生者でこの世界に起きてしまう災厄を全て知っているとは言えるべくもない。
他にも山ほど隠し事をしているが、最大の悩みを聞いたのはダイ達でもましてマトリフでもなく、この後に出会うとんでもない人物が聞く事になる。
主人公の休暇と、この物語が原作沿いの中でも全く違う結末を迎えるための分岐点になる為の話を書いて行きます。
どの話でもそうですが、結末に説得力を持たせるために丁寧に書いて行きたいと思います。
よろしくお願いします。