勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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優しさは過ぎれば自身の毒になる


優しいが故に

ティファも落ち着きマトリフ達も朝食を終え、ティファに留守番するように言おうとした矢先にティファからお願い事をされた。

 

「あのね・・・おじさん達出掛けてクロコダインとチウ君も特訓でいなくなるでしょう?」

「ああそうだ。大人しく寝てろよ。」

「・・・・浜辺で散歩しちゃ駄目?」

「嬢ちゃん・・・」

「ティファ・・・」

 

今は眠気もすっかり覚めてしまったので、ベットで寝ていても寝れそうにもなく、暗いところでは嫌な考えしか浮かびそうにもない。

明るい日の光の下に行きたいと言うティファの願いも分からんでもないが・・

 

「-ティファよ寝ていろ、散歩などもってのほかだ。大人しく・・-」

「ガルーダがいても駄目?」

「-ん・・・いやしかし・・-」

「駄目?」

 

ティファの身を案じていたガルーダはずっと洞穴の外で待機し、ティファに大人しくするように促したいが、つぶらな瞳で弱々しくお願いされるのには弱い。

 

「嬢ちゃん・・・分かった、その代わりあまり洞穴から遠くに行かないように。何かあったらすぐにガルーダの指示に従って逃げるんだぞ。」

「分かった、すぐそこの岩がある海岸にいるね。」

「そうしろ、ガルーダ頼んだぞ。」

 

ティファに様々な注意を与えてマトリフ達はルーラでパプニカ城に向かえば案の定城は大混乱に陥り、すぐさまレオナがやってきた。

家臣一同の前で片膝をつき最上の礼をレオナがすれば瞬時に他の者達もそれにならい、立っているのはマトリフ達だけとなる。

先頭のマトリフは当然とばかりに礼を受けるがポップとマァムの表情筋がひくりと動く。

マトリフのパプニカでの影響力の凄まじさを目の当たりにし、これって自分達でフォローできるのかはなはだ不安になってきた。

 

「お姫さんよ、謝罪はいらねえよ。昨日俺が言った事を守ってくれればそれでいいんだからよ。他の奴らも立ってくんな。」

 

あれがアポロか

 

レオナに話しかけるが目線はレオナのすぐ後ろに控えている黒髪の逆立ったアポロを鋭く見つめる。

青い顔をして身を震わせているという事は絞られ相当身に沁みているようだ。ならば自分がこれ以上でしゃばる事はないし・・表には出さないが、どう考えても三流魔王と和やかに話した嬢ちゃんも悪い。

喧嘩両成敗って言葉に従うか。

 

「レオール王とフォルケン王の見舞いもしてえんだが。」

「分かりました。フォルケン王も昨日の夕刻に目を覚まされ今朝も食事を摂られました。

案内にエイミを付けます、私は父の見舞いを整えてきます。」

 

マトリフの影響はすさまじく、次期パプニカ女王を顎で使ってしまってる。その事実にポップ達は言葉もなく顔色を白黒させる。落ち着いたら絶対にレオナ労おう。

 

「師匠何でフォルケン王の見舞いに?」

「そうね、私達はとても気になるけどマトリフおじさんはどうして?」

「俺はテラン王とも面識あってな。昔っから病弱なもんで薬処方してやった事もあんだよ。」

「フォルケン王様って昔から病弱なのか。」

「ああ、会えるならもう一度会っておきたくてな。それに嬢ちゃん何にも言わねえがフォルケン王の事も案じてるはずだ。」

「それはそうかもしれねえ。」

「だろう、フォルケン王の体調が良くなっていたら嬢ちゃんへのいい土産話が出来る。」

 

 

「マトリフ様、ティファさんにこの度の様々な事誠に申し訳ないと・・」

「良いさ、お前さんの気持ちも分かってる。ひいてはティファとダイの今後の為にやった事だろう。人質の件ならやった奴が悪い以外ないだろう。」

 

マトリフが見舞いに来て早々、ポップ達を見たフォルケン王は開口一番頭を下げる。

あの後、自分が眠ってしまった後どうなったかをメルルに詳しく話すように命じ、事の顛末から疲れ果てたティファの話を聞いたフォルケン王は自分自身を責めた。

心労の原因は間違いなく自分も入っているだろうと。

 

「お前さんは元気になって、ティファに会う時笑って礼を言ってくれりゃあいいんだよ。その方があいつは喜ぶ。」

「そうですね・・・そうしましょう。」

「メルルって言ったな、お前さんも時間あったらティファの見舞いに来てくれ。」

「はい!必ず伺います!!」

「だってよポップ、良かったな。」

「な!何言ってんだよ師匠!!メルルはティファの見舞いにって!!!」

「はいはい分かったよ、それじゃあなフォルケン王。ゆっくり休んでくんな。」

「ええそうしましょう。ポップ君、早々にメルルを行かせるから頼んだよ。」

「王様迄!」

「フォルケン様!!」

「ほっほっほ、若いとは良い事じゃよ。」

 

マトリフはわざとメルルとポップの話を引き合いに出し、思惑を察したフォルケンも乗っかり若い二人を弄る。

最初部屋に入ってきた時の重い空気は軽くなり、ポップ達は笑って寝室を後にする。

 

「我が国の者達は本当に貴方には迷惑をかけてばかりいる。誠に申し訳ない。」

 

次のレオール王の見舞いも謝罪から始まったのには勘弁してほしいとマトリフは心中で呻いた。

自分は謝罪が欲しいのではない、ただティファを守れればそれでいいのだから。

 

だがレオール王は矢張りマトリフには負い目がありどうしても謝りがちになってしまう。

ハドラー大戦後に再三再四頼んで出仕してもらったマトリフを、当時の大臣達が嫉妬心から追い落としにかかり、うんざりとしたマトリフは何も言わずに城を出奔し当分行方をくらませた。

レオール王は戦後復興に忙しく、マトリフから助言を貰っていたがまさかそんな最中で策謀が蠢いているとは露知らずに知った時には驚きを通り越して激怒し、関わった大臣達一味全て、罪明らかになった即日に城から叩き出したがそれで済んだとはとても思えず今日まで来て、昨夜悪意なく、元を正せばとも思うが、滔々マトリフの逆鱗に触れたものを出してしまって最悪の心情であった。

 

「まぁ配下の責任はトップのお前さんにあると言えばそれまでだろうし、生憎そんな事はティファは望まねえよ。」

「その料理人・・・ティファは・・」

「ああ、あのアポロって奴を罰した日には自分のせいだって気に病み むな。お前さんにも思うところはあるかもしれんが当人が反省してんなら当面の間お互い会わない様にしてくれりゃそれでいいし、今回の件はティファの方にも落ち度があらぁな。」

「分かりました、もし会えるのであれば私も一度その者に会いたいのですが。」

「ほう、なんでだ。」

 

王自らが会いたいという言葉に、少し飄々とした気配を出していたマトリフの全てが鋭いものに変わるが、レオールとしては会って自分が少し謝して有耶無耶にしてもらおうなどの疾しいところは無いので気にせず話を続ける。

 

「他意はありません。ここ数日眠れなかったのを料理人が処方してくれた薬を飲んだら朝まで起きることなく眠れたのです。」

「薬・・・ティファのか。」

「はい、良く効く薬で助かったと一言お礼がしたい。」

 

じっと見つめてもレオール王の瞳は揺るがずに、確かに少しばかり顔色も良い。

生き物はきちんと眠ってこそ様々な活動を行える。さらに言えば眠れない者が病の回復などあり得ない。胃の激痛と体の痛みで近頃眠れなかったのが一昨日と昨日はよく眠れたとレオール王は久方振り笑ってレオナと話をしようとしたが、とんでもない事の連続でそれどころではなくなってしまったが、直接ティファにお礼が言いたい。

 

「分かった。ティファに伝えておく。それじゃあ・・・」

「お待ちくださいマトリフ様。」

 

辞去しようとしたマトリフを、医師長のロムスが引き留めた。

 

「レオール王、不意の発言をお許しください。」

「どうしたロムス。」

「マトリフ様に二・三尋ねたい事があるのです。」

「ふむ、よろしいかマトリフ導師。」

「俺は別に構わねえよ。」

「マトリフ導師もよいとの事だ、発言を許すロムス。」

「有難く、マトリフ様はもしやして万能薬発案者のお一人で、もしやティファさんもですかな?」

「そうだが。」

「それは何より。実はティファさんに処方していただいた王の薬の中に調合が少し難しいものがあるのでマトリフ様のお知恵を借りたく。長い話になるのでできれば別室にて。」

「・・・・俺は良いが・・」

「私も構いません。ロムス、よく話を聞くように。」

「かしこまりました。マトリフ様こちらに。」

「おう、ポップとマァムは先に市場で買い出してろ。帰ったら飯にすんぞ。」

「分かった。王様お大事に、姫さんも今度ゆっくりとな。」

「これにて失礼します。」

 

「それで俺に聞きてえ事って本当はなんだよロムス。」

 

ポップ達を追い出し、ロムスと別室に行ったマトリフは開口一番にロムスの真意を問いただす。

ロムスの為人はそれなりに知っている。患者第一の良い医者で、薬の事であれば患者が安心できるように患者の目の前で習い聞くような性格のはずだったと記憶している。

それが別室にとは何事かと。

 

「その前にマトリフ様に会わせたい者が・・・ちょうど来ましたな。」

 

話し始めた時扉のノック音がし、ロムスはすぐさま開けて入ってきた人物をマトリフに紹介する。

 

「この方は面ガーナの戦車隊長でアキーム殿です。アキーム殿、あちらにおられるのがマトリフ導師です。」

「お噂はかねがね、某は・・・」

「面倒な挨拶はいい!ロムス、なんだって俺とこいつを引き合わせた。」

 

ベンガーナ戦車隊長と自分を引き合わせていったい何がしたいんだ。

 

「マトリフ様におかれましては疑問が浮かぶのは当然かと。某とロムス殿は実はティファさんの心労の一つを知っているかもしれないのです。」

「・・・なんだと・・」

「マトリフ様、まずはこちらにお掛けになってこれをご覧ください。」

 

ロムスはマトリフに椅子をすすめ、腰かけた後書付の紙を二枚マトリフに手渡した。

フォルケン王以外の各国の王達は来るべき決戦に向けて早々に帰国の途につき、アキームだけがマトリフに説明するために居残りをクルテマッカに命じられて残っていた。

 

ティファがマトリフの保護下に入ったのはパプニカ城にエイミがもたらし程なくして各国の王達にも伝わっていた。

それ故にアキームはマトリフに説明役として残された。

 

二枚の薬の処方を見比べていくうちにマトリフの体は震え、遂には額から汗が流れた。

最初ロムスの方を見ていた時は、ロカの薬を強くしたものだと分かった。回復重視ではなく、痛み止めと眠れる効能を優先したものだと。

王の病状はそれ程までに酷く手遅れなのだと知りマトリフも胸が痛くなり、ティファは尚の事小さな胸を痛めた事だと思いを馳せる。

 

しかしその思いはアキームの薬処方を見ていっぺんに吹き飛んだ。

 

何だこの処方は!こいつは助けるための薬じゃねえ!!死の薬だ!!!筆跡は・・・嬢ちゃん!なんでこんなものを作った!!

 

「昨日アキーム殿より、この薬は世に知られてはいけないものかと相談を私が受けたのです。」

 

苦しそうになるマトリフの表情を伺いながらロムスが話し始める。

 

先の鬼岩城戦後ほどなくして勇者一行の料理人から大量の万能薬と的確な怪我の処置方法を記載されたメモが届き、大勢の者達が命を取り留めた。

幸いにも、渡された安楽な死が訪れる薬を使わずに済んだが、これは世間には生涯秘した方が良いかと他国にも名が届く賢医ロムスに内密に相談をし、その後に主たるクルテマッカ王に報告をした。

 

「王も・・・ティファ殿を思い泣いておられました。」

 

それ程ティファのしたことは痛ましい事だ。

あの頑固で猜疑心が強く、他者を思う心が少し薄いクルテマッカに涙を流させるほどに。

知識があるとはいえ、たった十二のそれも心優しい女の子が、助けられない事を想定したとはいえ死の薬を用意したとは。

 

「こんな事を続けていてはティファ殿の心が疲れて当たり前です。出来る事ならば、いえ、二度とはしてほしくは無いと言うのが我らベンガーナ一同の思いであり王のお考えです。」

「そうか・・・分かった。アキームさんよ、教えてくれてありがとうよ。二度とは作らせねえから安心してくれ。」

「はっ!王にも必ずお伝えします。」

「ああ、頼まぁ。」

 

辞去の挨拶をしたかどうかマトリフは覚えておらず城を後にした。

それ程の衝撃をマトリフは受けたのだ。

 

嬢ちゃん!なんだってこんなものを作っちまったんだよ!!

 

ロムスの処方された薬も、突き詰めていけば死の薬に辿りつく怖ろしいもので、この薬は自分だけが処方し他者には語らず墓場まで持っていくと言ってくれたロムスに感謝をする。

 

心優しく、どこか弱いままのティファがこんなも死の薬を作って、作っただけでも悲しみむだろうに、使われてしまっていたらと思うとぞっとする。あのティファに耐えられる訳がない。

 

隠していた事の一つはこれか、嬢ちゃんの奴俺にも死の薬を作ったとは言えなかったか。

マトリフも同じ思いに囚われる。ポップ達には絶対に知られてはならない。

優しい一行の料理人がこんな薬を作ったと知れば精神的ダメージが計り知れない。

こうした隠し事の積み重ねでティファは疲弊したのかと思うと堪らなくなる。

周囲を思いやり、助けるために己を削っていく・・・いつかティファが全てを使い切り消え果てしまいそうな怖れと共に。

 

しかしティファの最大の心労を聞き届けたのはマトリフではなく、あり得ざるべき、途轍もない人物が聞き届けていた。




主人公の心労を周りに周知し共有していくお話でした。

こうやって主人公の弱さを味方に晒し、主人公も助けが必要な者だと認識を広めていきます。

次回はこの物語重要分岐点になる話の一つです。

丁寧に書き切ればともいます。

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