「ヒュンケル、まだいける?」
「愚問だぞダイ、なんとしても今日中にはロン・ベルクに一矢報いる!」
日の出前に起きた三人は、昼食以外ほぼずっと実践稽古をして日が斜陽に傾いてもダイとヒュンケルは止める気配はなく、息は二人とも多少乱れているがダイは剣をヒュンケルは槍を構える姿勢に乱れはない。
またぶっ倒れるまでやるか?上等だ、いくらでも付き合ってやる。
朝から付き合っているロン・ベルクは、勇者と戦士を二人同時に相手取っても疲れる気配はなく、まだ二人から一太刀も浴びていない。
だがいい線まで行くようになっては来ている。徐々にだがお互いの動きを意識して即興で連携めいたものが出来る余裕が生まれてきている。
二人は間違いなく戦いの天才・申し子と言っていいほど才がありそしてそれに見合う以上の努力もしている。
ここまでしてもバーンに届くにはまだ不足してやがるんだから頭が痛くなるが、一行全員で戦えばギリギリ届くとは見積もっている。
その前にミストバーンとキルバーン攻略出来て、回復は・・・・お嬢さん戦場に出したかねえんだがそっち専用にさせてほぼ全回復させてからバーン戦が望ましいんだよな。
一時バーンの下で働いたことがあり、それだけにあの二人と先日あった変態野郎の戦力も分かっている分、ダイ達の戦力が少々不足しているのが分かってしまい歯がゆいことこの上ない。
だからと言って手を貸すにしても戦場に自分が出向くのも何か違う気がし、もしもダイ達が敗れた時は、一緒にあの世に行ってやるかくらいで考えている。
確かにこいつらといるのは楽しく先の世を共に見てやりたい位に気に入っているが、そこまであがいて生きていたいかと聞かれれば否である。
どうにも自分は偏屈が過ぎるらしいが、性分であるからしょうがないとどこかで自分とこの世界に見切りを付けている。
あがいているダイ達を全力で鍛える気持ちに嘘はない、世界を守りたいひいてはお嬢さんも守りたいと言う高潔な心を自分は持てずに、眺めて満足しているのだからどうしようもない。
だからこそ稽古であっても手は抜かず、ダイ達が死なないように甘い動きをすればすかさず手痛い反撃でボコボコにし体で覚えてもらう。それでは戦場で何度も死んでいると。
それでも文句も言わず食らい付いてくる二人は大したもんだ、夜通し稽古やってやるか!
ダイとヒュンケル、そしてロン・ベルクの気合が臨界まで高まる寸前に、ポップがルーラをして双方の間に割って入ってきた。
「よう、ダイ・ヒュンケル。ロン・ベルクもお邪魔するぜ。」
ルーラをマスターしてから轟音と着地で転ぶことが無くなったポップは軽やかにダイ達に挨拶をする。
「ポップ!ティファは?目を覚ましたの!!」
そんなポップにダイは剣を大地に突き立てむしゃぶりつくように両手を掴み、魔法使い特有の華奢な体をがくがく揺さぶりながら質問攻めを始める。
ティファはまだ眠っているのだろうか?もう心配で心配でたまらない!!
「って!落ち着けよダイ、それと今腕痛えんだよ。少しは馬鹿力加減してくれよ。」
「え?ポップ・・腕焦げてる・・・」
「ああ、今師匠に新技教わって形にはなってきたんだがまだ威力制御できなくて腕焦がしちまうんだよ。」
「マトリフさん治してくれないの?」
大切な仲間の怪我を、身勝手な理由で見逃したダイはしょげながらポップのみを案じて子犬が泣きそうな顔になってしまった。
「そんな顔するなよダイ、こいつは俺が治さねえでくれって言ったんだよ。」
「どういう事だポップ。」
「おっと!そうおっかない顔してくれんなよヒュンケル。本当に重傷なら師匠がそんな言葉許してくれる訳ねえだろう。」
「・・・・たしかに。」
「だろう?俺がきちんと制御して新技ものにしたあかつきに治してくれって頼んだんだよ。」
「そっか、へへ。」
「ん?なんだよダイ。」
「だってポップがかっこいいこと言うんだもん。」
「は?」
「そうだな、本当に逞しくなった。」
「よせやい二人とも、お世辞でも嬉しいけどなんかムズムズし今うぜ。」
「違うよ~ポップ。」
「本当に思った事を言っただけだぞ。」
「もうよせよ!」
天然ジゴロなダイとヒュンケルコンビの思惑なしの褒め言葉にポップは陥落寸前で赤くなって止めようとするが、通じない天然コンビの二人はさらに褒め言葉を乗せてくるので質が悪い。
言い出しておいてなんだが口頭での呪文の説明で上手くいくかと内心不安であったポップだが、デルムリン島でティファのアドバイスで氷系呪文にも苦手意識が無くなっていたのが功を奏したのか直ぐに形になって、あの師匠から驚きの顔を引き出せた上にべた褒めされてもう嬉しい通り越して恥ずかしくって逃げるようにお使いに来たのに、その先でも同じ目に遭うとは・・
少し離れた木に腕を組んでもたれているロン・ベルクは黙って笑ってみている。
きっと平和になれば、毎日こんなに気持ちいい奴らの楽しい出来事を見てられるのかと本当に先を見てみたくなる。
なのに俺って奴は・・
「ティファは起きたぞ。」
「ほんと!元気?食べてる、ああ!!ポップ一緒に連れて来てよ!!!!」
・・・・あいつは妹の事になると大暴走する癖何とかさせた方がいいのか?
「ポップ、何故連れてこなかった?」
「あいつ今買い物でベンガーナのデパートに行ってるよ。マァムとメルルの三人で。」
「「デパート⁉」」
「そ、そんでロン・ベルク、ティファがこの前の昼食会みたいなやつを今日の夕食でしたいんだと。俺の師匠の洞穴近くの海岸でやんだけどあんたも招待したいってさ。いいか?」
「・・・お嬢さんの発案か?」
「おう、迷惑と心配かけたお詫びとダイ達で楽しい夕食が食べたいんだと。俺からも頼めねえか?あいつのお願い聞いてほしいんだわ。」
「ロン・ベルクさん・・・」
「ロン・ベルク・・・・」
「分かった分かった。だからそんな潤んだ瞳で俺を見るんじゃねえ。行く、今からか?」
「助かるわ。そろそろ帰ってくる頃だと思うから今から行くぞ。」
「うん!早く行こうポップ!!」
「・・・その前に泥位落としていけよ二人とも。」
「「分かった!!」」
疲れていたはずの二人はティファに会えるとなった途端に元気百倍になり裏の井戸にすっ飛んで行った。
だが気持ちは分かる。自分もティファのこの御願いを聞いた時嬉しくなったのだから。
パックもいなくなりさぁ特訓に行こうとしたポップ達をティファの遠慮がちな声が引き留めた。
「あの・・・その・・」
「ん?どしたティファ。」
この声は何かお願い事の前振りだとポップはもう察知する能力を獲得している。大抵の事は叶えてやる、さぁどんとこい!
「買い物行って、皆で夕食食べたいんです。」
「ダイやヒュンケルも呼んでか?」
「それと・・・できればメルルさん、ロン・ベルクさんも。迷惑かけたし心配もさせちゃったから、また昼食会みたいに楽しくみんなで食べてお詫びと楽しい事したい・・今が大変な時でみんなも余裕がないと思うけど・・・・駄目かな?」
ティファのお願い事を聞いたポップは上を向き数舜目をつむり思考する。
確かにあの鬼岩城戦の後と今は違う。そろそろ大決戦が待ち構えている今は特訓の時間に時間を当てたいのが本音だ。
だが、戦いの事だけに心を囚われるのは自分達のこれまでの行動とはそぐわない気がする。
今まで戦いの寸前であってもティファがあの手この手で自分達を笑わせてくれて心に余裕を持たせてきてくれたではないか。
なら今度は自分達がティファに返す番だ。
思考が直ぐにまとまったポップはマトリフの方を見る。
マトリフも似たような思考した上で、少し頷いて許可を出す。
「分かった。いいぜ、やろう夕食会。マァムもおっさんもチウもそれでいいか?」
「賛成よ!私の腕によりをかけた夕食用意するわね。」
「これは特訓でお腹を空かせんとな~。」
「はい!僕も合図が来て鎖を引く迄筋トレして鍛えてお腹すかせます。」
「決まりだな。」
「・・・ありがとう皆・・」
ポップ達の気遣いが心に沁み、ティファは嬉しくてポップにしがみついてポロポロと涙を流して喜ぶ。なんと素敵な仲間たちだろう
「買い物は市場か?」
「ううん、ベンガーナのデパートまで行く。ガルーダならすぐだから。」
「・・・・遠すぎねえか?」
「駄目?」
「うううんん・・」
「ポップ、私が付き添うのはどうかしら?ついでにメルルも呼ぶんだから一緒に行ってくるわ。」
「いいのか?」
「ええ、今日半日は自分なりにみっちりとやった積りだから大丈夫よ。」
「そしたらメルル呼びに行ってくるわ。」
話が決まればポップの行動は早かった。
王城にルーラで乗り付け、門番に言伝をしてメルルを呼び出してしまう。
さっき来たばかりなので何度も入るのは気が引けるし、また城内が自分を見て師が来たのかと勘違いをされてピリつかれたらとっても困る。
「どうしましたかポップさん。」
門番は気を利かせて誰にも会わないルートでメルルのいるテラン王の居室に行き、素早く連れて来てくれた。
「勇者様達には返せぬ恩ばかりです。このくらい当然です。」
お礼を言ったポップに、門番はさわやかな笑顔で男前な事を言って再び門の守備に戻った。
「いい人だな~。」
「はい、ところでポップさん私に何か用事があったのでは?」
「・・・うっかり忘れてた、ティファが目を覚ましてな・・・」
ティファが目を覚まし少し元気を取り戻し気配も明るくなった事、そしてしたいと言っていた事を伝えたところメルルは涙をにじませ喜び、フォルケン王に言ってきてよいか許可を取ってくるとスカートの裾を摘まんで駆けて行き、程なくして許可が取れましたと可愛い笑顔で告げてきた。この笑顔ずっと見ててえな~
二人が洞穴についたころ、何やら中は少々物騒だった。
ティファが床で正座し、少し俯いて目をきょどつかせている。
そんなティファをマトリフが椅子に座って腕を組んで見下ろしている。その目は三角で怒っている!
「なぁマァム、ティファなんかやらかしたか?」
クロコダインとチウは出掛けた後の様で見当たらないので洞穴の入り口にいるマァムにこっそりと尋ねる。
「ティファったらね・・・私とメルルもガルーダに乗せようとしたのよ。」
「はっ!!」
「キメラの翼での移動も嫌だから、ガルーダに乗って三人でガルーダで行きましょうって。」
「・・・・・・・・あいつ何考えてるんだ。」
ティファは可愛いが、どこかぶっ飛んでるところあるなと思っていたがここまでぶっ飛んだこと考えるか普通?
少し遡った洞穴
「ティファ、ベンガーナのデパートまではどうやって行くの?」
「先ほど言ったようにガルーダです。」
「あ、ティファの事じゃないの。私とメルルはどう行くのかなって?ポップに送ってもらう?」
そうすれば帰りはティファから貰ったキメラの翼で帰って来れる。
「いえいえ、ポップ兄の手を煩わせません。女の子三人くらいならガルーダに乗れちゃいますよ。」
「へ!!」
「気持ちいいですよガルーダの飛行・・・」
ゴン!!!!
「馬鹿言ってんじゃねえ嬢ちゃん!!!」
「痛い!なんで頭に拳骨落とすのおじさん!!!」
「馬鹿野郎!マァムは大丈夫でもメルルのあのきゃしゃな体じゃ吹っ飛んじまうだろう!!安全第一で行けこの馬鹿嬢ちゃん!!」
「そんな!メルルさんは私にしがみついてもらうか、そうだ!安全ベルト私につないで・・・」
ゴン!!
「二度も!!」
「あたりめえだ!お前さんはもっと常識学んで来い!!マァム!今言ったことやりてえか?」
「私!・・・・・ティファちょっとそれは勘弁・・」
「そんな!!」
「少し話し合おうか嬢ちゃん?」
「あう!!」
味方なく孤立したティファは、マァムとメルルのとりなしがあるまで説教された。
解決案としてメルルはデパートに行ったことがあるのでメルルにキメラの翼を渡してティファはガルーダでその後を追い往復する事になった。
「・・・兄の薄情者・・」
「師匠に賛成、お前もう少し自重ってもん学んでくれ。」
とりなす二人の顔も確かに引きつっていたぞ
「あう、とにかく行ってきます。」
ドタバタはしたが、三人を見送りどっと疲れた兄とおじさんは予定通り特訓に向かっていった。
どうかティファが何もやらかさずにトラブルに巻き込まれず無事に帰って来ますように
ダイ・ヒュンケル・ポップにも苦しみながら少しづつ立ち上がっていただいています。
天才ポップ君にはデルムリン島の時点で氷系呪文に苦手意識なくさせた甲斐あり、
サクッとイメージ出来て早々に形にしてもらいました。
次回はダイ達にとって割と謎に包まれていた大戦時の主人公の足跡が出てきます。
手前みそになりますが、少し厭世感漂わせるロン・ベルクを書いていてかっこいい美中年だな~とか思ってしまう厨二な筆者です''`ィ(´∀`∩
主人公に知られたらロン・ベルク共々お説教されそうですが(;^_^A