勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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黒い世界しか知らない者が、光溢れた世界を知った時どう思い動くか


逃亡者

あぁ、どうしてこんなことになったのか

 

「きぃぃい・・」

「大丈夫、大丈夫だよ。ティファが絶対に守るから・・・」

 

 

 

浜辺でロン・ベルクに注文を細かく出すために注文票を書こうとしたティファは、何かの気配に気が付きヒュンケルの顔頭を膝からそっと下ろし、ゆっくりと森の方を向いて立ち上がった。

 

洞穴でダイ達を見守っていたガルーダも幽かな気配に気が付きティファの真横に音もなく降り立ち警戒の目を森に向ける。

 

それは本当に幽かで、話に夢中になっていたロン・ベルクは無論マトリフもクロコダインですらも気が付かなかった。

一体ティファとガルーダは何に気が付いたのかクロコダインとロン・ベルクは武器に手を伸ばし、マトリフもいつでも攻撃できるように魔力を静かに練り始める。

 

程なくし、一匹の小さなデビルが姿を現した。その気配は地上のいたずらデビルとは気配も形状も大きく違いどこか禍々しく一目で分かった。

 

「・・・・魔界の・・・君帰らなかったの!!」

 

ティファは驚きのあまりに咄嗟に大声を出してしまった。

魔界から来たモンスター達は許されたとはいえ終生魔界より出る事を昨日大魔王の名の下にハドラーから命じられたばかりで、一頭でも破れば連帯責任になるのは目に見えている。

折角助かった者達が命を落としかねない事態で、助かったと心の底から喜んだティファが叫んだのも無理からぬことであった。

昨日はハドラーの帰還命令の後、アポロを始めとした騒ぎが起き、このデビルはそのどさくさに紛れパプニカの森へと逃げ、空腹でこの浜辺から漂う料理の良い匂いにつられて出て来たのだ。

 

「-我も・・我も皆が好きだ!それでも・・・-」

 

この地上にいたかった

 

気配と同じく幽かな嘆きの声がティファの安定した心を再びかき乱す

 

ああ、暗き世界しか知らぬものが暖かきことを知ればそれを欲するのは自明の事では無いか。

温かい太陽が、満天の星空が、このデビルの瞳にはさぞ美しく羨ましく映った事かしれない。

だが、軍の命に背いた者を見逃すほど魔王軍が甘いとはとても思えない。

 

「・・・ガルーダ、単身で天界に行けるって言ってたけど、魔界に行ける?」

「-・・・あれを戻すのか?-」

「うん。」

「-・・・保護はしないのか?-」

 

今日の昼間凶暴化して傷ついたマーマンをデルムリン島へ連れて行き保護したようにはしないのだろうか。

 

「ガルーダ・・・昨日見てたでしょう。命令違反したらあの子助かっても他の子・・・」

 

ティファは言葉を切りいきなりデビルの下へと駆け出し叫び上げた。

 

「だめぇぇ!!殺さないで!!!!」

 

デビルの後方の背景がいきなり黒塗りになりティファには直ぐに分かった。

 

死神の空間が空いてしまった

 

叫びながら走り、自分の声に驚き固まってしまったデビルと振り下ろされる大鎌の間にその身を滑り込ませ、昨日アポロを庇ったように両手を大きく広げ懇願をする。

 

「お願い!殺さないで!!」

「っ!」

 

空間から振り下ろされた大鎌はティファの白い頬に切っ先を食い込ませて止まり、空間を開いてキルが姿を現した。

 

 

ティファ達が楽しい宴会をしていた時、キルはミストから一つの仕事を命じられて気が進まないながらも死神の仕事に務めていた。

昨日のアポロ騒ぎの時、もしやその機に乗じて逃げ出した者はいないか帰還したモンスター達の頭数を確認を魔界の配下に命じ、ミストに一頭足りない事がすぐさま報告が上がり、悪魔の目玉で探し今日の夕刻見つけ自室でのんべんだらりとしていた穀潰し死神に見せしめにするように命じ、まさか先にティファが発見するとは思っていなかったキルは驚いたが、これも仕事とティファの目の前ではあるが惨殺して空間で直接魔界に運ぶ算段を付けて大鎌を振り下ろしたのだが。

 

「お願いだから、殺さないで・・・」

 

大鎌を顔に当てられても気にもせず、瞳からほろほろと大粒の涙を流し懇願をされる。

味方である自分達は見せしめの処刑をしようとし、敵のティファが助けようとする・・・

 

「お嬢ちゃん・・・・これはね・・」

「分かってる!分かってるの!でも・・・けど・・」

 

どうなだめすかしてもこれは無理だ。お嬢ちゃんも本当にこの事態が不味い事は承知している。それでも助けたいと願っている。

 

「おっらあああ!!」

 

ザン!

 

一昨日の真夜中のように、またもやロン・ベルクがキルとティファの間に斬撃を振り下ろし、二人を分断する。

 

「手前が何でここにいるかなんてどうでもいい・・・おれがたたっ壊してやる!!」

 

こいつは絶対に倒したかった。それこそ大魔王やミストバーンよりもだ!!

 

「ふぅ~ん、僕の事が随分と嫌いなんだねぇ鍛冶屋さん。」

 

後方に飛んで斬撃を避けた大鎌を肩に担ぎ体勢を立て直したキルも、自分の邪魔をしたロン・ベルクを憎々しげに見つめる。

こいつさえ出しゃばらなければ、今頃お嬢ちゃんは僕の腕の中にいたのに!!

 

二人の戦意が高まり頂点に達しようとしたその時、ティファがデビルを抱えて森の方に飛んで行った。

足には空飛ぶ靴が履かれており、自分を庇うように動いてくれたクロコダインとマトリフを振り切り森の奥深くに潜り込んだ。

 

あの子は本当に!!

 

「クロコダイン君、分かっているよね。命令違反をしたものは死ぬまで追うのが僕の仕事で、魔王軍・ひいてはバーン様の総意だって。僕が帰らない時は魔界に帰った子達全員処分されるよ。」

 

それは脅しではなく事実だとクロコダインもよく知っている。

 

「マトリフ殿、ロン・ベルク殿、このキルバーンを今は見逃してほしい。」

「お前・・・こいつ見逃せってか!」

「そうしなければティファが悲しみ・・・それ以上に傷つくことになるのだ!無理は承知だ!それでも今は堪えて欲しい!!ティファも聞こえているだろう!!そのものが戻らなければどうなるか!!!」

「分かりが早くて助かるよ獣王クロコダイン君。」

 

クロコダインを説得したキルは大鎌を仕舞い上空に上る。先程の説明でおそらくマトリフも事態を飲み込み攻撃はしてこず、ロン・ベルクを止めてくれるだろう。警戒はとぎらせないが交戦して自分に何かあれば、魔界にいるあのモンスター達がどうなるか、それにより大切にしている嬢ちゃんの心が傷だらけになる。それだけは防ごうとして。

 

「出ておいでお嬢ちゃん!その子をこっちに渡してもらうよ!!」

 

森の中にいるであろうティファに堂々と呼ばわる。

 

「君の大好きなハドラー君が定めた約定を破る悪い子になってもいいのかい!その子の逃亡は残念ながらミストも知っている。可哀そうだけど見逃せないんだよ!!」

 

その呼び掛けに、デビルは不安な顔でティファを見上げぶるぶると震える。今自分達を探している者は強者だ!こんな小さい者が敵うはずもない!!もしや・・・これが殺してはいけない-人間の子供-とやらか?だから、あの強者はこの小さい者を見逃したのだろうか?

 

「-人の子よ・・・我はもういい-」

「そんな!」

「-我を引き渡せ-」

 

木のうろの中に身を潜ませたティファはどうすればいいのか思案に暮れたが、デビルの健気な言葉に心を決めた。

 

「師匠!なんであの野郎を攻撃させてくれねえんだ!!」

「離してクロコダイン!!あいつを斬るのに邪魔するなんて!」

「どういうつもりだロン・ベルク!!!」

「あいつを今攻撃したら不味いのだ!今は堪えてくれ!!!」

 

キルの大音声の呼ばわりは、当然洞穴にも響きダイ達を一気に覚醒させた。今すぐ斬り倒したい敵ナンバーワンのキルの気配は間違いようもなく、声を聞いた瞬間洞穴で寝ていたダイ達は無論、浜辺で深く寝ていたヒュンケルも跳ね起きたが上空にいる為洞穴に立てかけてある魔槍を取りに行こうとしたがクロコダインに止められ、浜辺に出て来て攻撃しようとしたダイ達もマトリフとロン・ベルクに止められ攻撃させろと躍起になっている。

チウとメルルは戦闘になった時足手まといになってはいけないと洞穴からその様子を見ている事しか出来ずに胸を焦がす。

 

訳を話すにはダイ達は熱くなりすぎ、どうすべきかマトリフ達が思案する前に森から数撃の斬撃が上空にいるキルに放たれた。

 

まさかお嬢ちゃんから戦端開いてくるとは

 

それを避けるために昨日のあの騒ぎであったが、よほどデビルを守りたく少々思考が鈍ったらしい・・・と思案している暇もなく次々に斬撃が襲ってくる。

避ける暇もなく間断なく飛んでくる斬撃を大鎌を出して応戦して気が付かなかった。

 

斬撃を大鎌で受け止める衝撃波に紛れ、ティファがいつの間にか背後を取った事を。

 

「あああああ!!!」

 

月に照らされて出来た影が覆い被さり振り向いた先にティファの足が自分の肩口を蹴り飛ばし、躱す間もなくもろに喰らったので衝撃を吸収し損ね浜辺へと墜落する。

ティファは蹴ると同時に握っていた雪白を逆手に持ち直し、浜辺に仰向けで墜落したキルの胸の上に片膝をついて体にのしかかり、右横顔すれすれに雪白を突き立て通告をする。

 

「今の貴方を私は倒せる!!」

 

はっきりとキルの目を見つめながら。

 

「けど見逃す!だから!!あの子を助けて!!!」

 

それは通告というよりも先程と同じ懇願。

 

両手で雪白の柄を握るティファの手はぶるぶると震え、まるで自分の方が殺されそうな程顔面を蒼白にし、大粒の涙が赤と黒の仮面を濡らしていく




今宵ここまで

キルバーンと魔王軍の実情と恐ろしさを身に染みて知っているクロコダインと、鋭敏な頭脳で事態の全容を把握し、主人公の心が深く傷つく事を厭ったマトリフ導師に止め役になってもらうという嫌な役回りをしていただきました。
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