勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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こんなのなしだと思う方がいると思いますが、フラグ立てます!


成されし賭け

後から後から流れるティファの涙でキルの仮面と衣装を濡らしていく。

その涙と同じくらいに懇願の声が降り続ける。

 

「お願いだから・・・あの子を殺さないで・・・」

 

幾度も幾度も-お願い-をする。何かを強く願いながらも、他者に対して助けを求めなかったティファが、初めて願い縋りついた相手は・・・・

 

 

あぁ困った、こんな時だというのにどうして僕って奴は・・・

 

雪白とやらがすぐ側に突き立てられ逃げる事は出来ず、周りには勇者一行のフルメンバーの中で捕まっているというのに、ティファが自分に縋りつくように願ってくれる事が嬉しいだなんて。

必死に他者の為に願いを口にするこの子が・・・・あぁそうか、僕はこの子が、この子の事が・・・・

 

 

 

            「分かった、殺さない」

 

 

 

 

 

「ふ・・・ぇ・・・」

「あのデビルの子は殺さない、見せしめに手足もぐ事もしないで・・・・・お説教小一時間と暫く一人で独房に入って・・三日の絶食位で済むようにする。」

「・・・で・・きるの?」

「君がお願いしておいてどうしてここで疑問持つのさ。」

 

いざ願いが叶ったティファは、そんな事が通るのかと泣いた顔のままぽかんとし、いまさら何を言っているとキルは苦笑してゆっくりと上半身を起こす。

 

その様子を、クロコダインとマトリフの説明で一応はキルに攻撃をやめたダイ達の警戒度は一気に引き上げ、ダイはパプニカのナイフでいつでもアバンストラッシュを撃てるように構え、ポップもマァムもそれぞれ備え、ヒュンケルもいつの間にか槍を手にしている。

 

だがキルはそんな事はお構いなしで飄々とした様子を崩さずティファを膝に乗せ、いつの間にか雪白から両手を離させ軽く自分の手を握らせている。

 

「僕こう見えてもバーン様とミストに重宝されている立場でね、今まであの二人にお願いしたことないから一度くらいは通してくれるよ。」

「・・・あの子・・・・助けてくれるの?」

「助ける・・・・まぁ殺さないことがそうだというんならそうなるね。」

「どうして?」

「ん?どうしてね・・・・・・お嬢ちゃんが僕に願ってくれたからかな。」

「・・・・わたしが?」

「そうだよ、ところでお嬢ちゃん、僕のお見舞い手紙と感謝状読んでくれたかい?帰る前に是非感想聞きたいんだけど。」

「・・・・私何時貰ったの?」

「そう・・・・チウ君!」

「はい⁉」

 

いきなり転がりつくす展開に付いて行くのに精一杯なチウは突如名前を呼ばれて仰天し、ダイ達を掻き分けキルの少し近くに寄って返事をしてしまった。

一体何事⁉

 

「昨日そこのお爺ちゃんの洞穴で渡したあの二通の手紙どうしたの?」

「あ!・・・・・その・・」

「俺が預かったよ。」

 

それまで沈黙し事の成り行きを見守っていたマトリフが狼狽するチウの代わりに返答をする。

 

「お前さんから渡されたもんをひょいひょいと嬢ちゃんに渡すと本気で思ってたのかよ。」

「酷いな~。何の罠もなく純粋に書いた手紙位渡してほしかったなあ。」

 

・・・・・おじさん何言ってるの?感謝状って・・・お見舞い状ってなに?キル何時・・・・いつって!

 

「おじさんの洞穴に入ったの⁉」

 

話の流れを推測して辿り着いた答えに驚愕し、ティファは本気で驚き絶叫に近い声でキルに問いただし、ロン・ベルクもあり得ないと隣にいるポップを捕まえ真偽を問いただせば・・

 

「来たよ・・・そいつは確かに師匠の洞穴に入っててきやがった・・・」

 

嘘を言っても直ぐに分かってしまうなら自分達の口からと、ポップは弱々しく認める。昨日確かにキルバーンが来て、手紙二通をチウに託した事も。

 

「お前達なんで見逃したんだ!」

「仕方ねえだろ!俺達が好きでこいつ見逃したって本気で言うのかよロン・ベルク!!」

 

捕まえたポップの襟首を締め上げるロン・ベルクに、ポップは力の限り怒鳴り返した。戦いに疲れ果てていた妹を慮っての事とは言え、それをティファの目の前で言えるはずもなく今も戦端が開けないことにいら立ちを募らせる。キルバーン本当に、自分達にとっては疫病神もいいところだ!!

幾度もティファを攫いつけ狙い心を搔き乱し傷つけ、かと思えばプレゼントだの感謝状だのを贈りつけ、挙句自分達がティファにされた事の無い事をされている。

 

ティファが他者に助けを求める姿なんて!ただの一度も見た事が無いのに!!

いつだって他者から助けを求められ、其の度に手を差し伸べるティファしか見た事が無いのに!!何故敵の、それもその疫病神キルバーンに!!!

 

そんなポップ達の様子を見て、キルは感謝状がティファに渡されなかった事に納得する。

 

仕方がないか、普通敵に対しての扱いはダイ達が普通でティファの方こそが異質なのだから。

 

読んでくれていないのは残念だが、これで贈った事は伝わった。本当に約束守ってくれたのかと、ぽかんと口を開けて見上げるティファの頭をそっと撫でる。

 

泣いてゴワゴワしてしまっても血色のいい頬、満天の星空を詰め込んだような煌めく黒い瞳が自分をじっと見ている様は嬉しく思う。

いつまでもその瞳を向けて欲しいと自分こそがティファに懇願したくなるほどに。

 

「お嬢ちゃん、僕はねずっと考えていたんだよ。」

「考える?」

「どうして僕はお嬢ちゃんが欲しいのか。その答えが今出たんだよ。」

「出た?」

「そう、きちんと分かったんだよ。」

 

幾度も幾度も考えた。最初は面白い子がいれば面白そうだと手元に置きたかったのが始まりだった。しかし会えば会う程、話せば話すほど、他者を助ける姿を、自分が傷ついていてもなお周りを守ろうとする姿を見るにつけ募っていくこの思いがなんであるのか今ようやく分かったのだ。

 

「お嬢ちゃん、一つ僕と賭けをしよう。」

「・・・賭け?」

「そう。僕はね、もう君とこういう風に会いに来ることはしない。」

「・・・会わない?」

「戦場以外で会いに来ることはしないし、攫う事もしない・・・・バーン様の命令なら別だけど。戦場でもハドラー君が開く篩と、ハドラー君との戦いの時も邪魔をしない。」

「どうして・・・」

 

いきなりのキルの提案にティファは本気で戸惑い、戸惑う自分にも驚く。

キルは元々が敵でこうして会って話をしている事自体がおかしくそれがないのが普通なのに、なのに会いに来ないと言われてどこかで嫌だと言っている自分の気持ちを持て余し上手く返答が出来ない。

 

「賭けの内容はね、僕が君の事をどう思って欲しがっているのか、その答えを君が見つける事。」

「キルが・・・私を欲しがる・・・・邪魔だからじゃ・・・」

「それは不正解だよお嬢ちゃん。」

 

違う?ずっとそうだと思っていたのに違うって・・・戦力削ぐために私を追いかけまわしていたと思っていたのに。

 

「・・・・分かってくれないかな~僕の気持ちを。」

 

それは寂しい事だとキルが感傷にふける前に、ロン・ベルクから言葉が飛び出した。

 

「機械仕掛けのオートドールの分際で!気持ちが分からないかなどと戯言言ってんじゃねえ!!!お嬢さんもいい加減にそいつ追い返せ!!!」

 

この中で一番キルが嫌いな人物の堪忍袋がとうとうぶちぎれた。

事情は分かった!そいつ返さないとどんな惨事になるのか、その為に見逃すことは我慢しよう!昨日来たことも今更見逃したなんだ言っても後の祭りだからその二通の手紙は燃やしちまえばいい!!だがら!いつまでも居座らせるなとロン・ベルクはティファの方にぶちぎれ、もののついでにキルの正体をぶちまける結果となった。

 

「ロン・ベルク・・・なんだよその・・オート何とかって・・」

「オートドールは、魔界で作られる機械仕掛けの自動で動く人形の事だよポップ兄。」

 

聞いたこともない単語にポップは戸惑い、ダイ達もキルから視線を外しロン・ベルクを見る。長く魔導に携わり、魔界の文献にも触れたことあるマトリフも知らない言葉だが、答えたのはロン・ベルクではなくティファだった。

 

「・・・・お嬢ちゃん、僕の事知ってたの?いつから?」

「・・・・・・森であった時に、心音しないで歯車の音聞いた時から・・・でも貴方は貴方だ、キルバーンであって意思無き人形じゃない・・・少なくとも貴方には心がある・・・・貴方だって生きていて何かを思う気持ちがあるのはおかしくないよ・・」

 

人の内部を暴く事を忌避するティファは、キルの事を暴く事に申し訳なさそうに、それでもキルにも心があるのだと言い切る。

 

そんなティファだからこそ、自分は魅かれるのだ

 

周りの騒ぎが不思議と煩わしく感じない。ダイ達の怒りの声も気配も外に追いやり、キルは賭けの続きを話す。

 

「さっきの続き。もしも君が僕の思いがなんなのか正解したその時は、僕は君の物になる。」

「・・・・・わたしの?」

「そう、その答えが正解だったら、バーン様やミストが目の前にいてもその瞬間僕の全ては君の物だ。不正解の時は君が僕の物になるんだよ。」

「それって!!」

 

キルの言葉にティファもダイ達も聞いた瞬間に黙ってしまった。

 

あり得ない!軍の大幹部、それも魔界の神の死神がたった一人の少女に対する思い一つで反逆を起こすなど!!

ずるをするつもりか?何を言っても不正解だと!

 

だが空間を防ぐ手立てはなく攫おうと思えばティファをいつでも攫えてしまえるキルバーンが、そんな面倒な事をするメリットがない!ならば本当に賭けの内容を履行するつもりだというのか?ティファが正解とやらを出せば、キルバーンが何もかもを捨てて魔界の神に反逆する事が!

 

その驚愕の隙を縫うように、キルはそのまま地面に空間を開いてティファを引きずり込む。

 

空間に入れられたティファは戸惑うが戦意は湧かない。キルが言った事をすぐに不履行するような不義理ものだとは思えず、意図が読めない。

 

キルの方は最後になるかもしれない二人きりの時間を楽しみたいが、戻るのが遅くなればデビルを庇う事が難しくなるので手短に済ませる事にした。

 

自分の頭巾は左に星飾りが、右には三日月のアクセサリーがある。その右の月は、死神の自分を表す大鎌に似ているのでこちらにしよう。

 

右の月を取り外し、ティファの金のマジックリングの中に押し付けイルイルと言えば、中に収納された。

 

「これは・・・」

「僕との約束の証、僕の事を一生懸命考えて答えを持ってくるんだよ。」

 

こういう時口付けを交わして約束させたいのだが、如何せん自分の体は機械仕掛けの人形で、ティファに偽りの唇を押し当てて不快な思いをさせるのは嫌だ。

 

だから代わりに右手の親指で、事態についてこれず呆けて薄く開いたティファの唇を優しくなぞり上げてみれば、ティファは感じてくれたようだ。

 

「っぁ・・・」

 

幽かな声が自分の聴覚をうち、うるんだティファの瞳が物語る。

 

今の行為は口付けと認識された事が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの野郎!!」

「キルバーン!!叩き壊し・・・」

「それは困るね。僕がいないとデビル君返せないでしょう。」

 

ティファが消えた空間にすぐさまダイ達が駆け付け閉じる寸前手をねじ込もうとして弾かれ、怒りに駆られて叫ぶ前にその当人がティファを抱き上げ洞穴の入り口前に出現し呼び掛けて来た。

 

「賭けは成立、お嬢ちゃんとの約束は全部果たすから安心していいよお兄さん方。」

 

何処までも飄々としした態度は、チウとメルル以外の神経を逆なでる。生来占い師として生きてきたメルルも、チウと同じくキルから邪悪さが伝わってこないのでいまいち敵視しづらく、それよりもティファの心配が先立ち返してもらえないかと声をどうかければティファを返してもらえるか思案に暮れている。

 

「お嬢ちゃん返すから安心していいよ占い師さん。」

「!・・・そう・・ですか・・」

「てんめえ!ティファ離してさっさと失せろ!そして二度度メルルに口きくんじゃねえ!!」

「了見の狭い男は嫌われるよ魔法使い君。」

 

メルルの前にティファをそっと下ろす前に一行全員にも通達していく。

 

「もしも賭けをさせない為にお嬢ちゃんを戦場から遠ざけたらその時は僕も問答無用でお嬢ちゃんとチウ君とパプニカのお爺ちゃん達を攫いに行くから覚悟しておいてね。お嬢ちゃん、待ってるから必ず来るんだよ、必ず。」

 

最後までティファの瞳を見つつ、キルはデビルの気配を探って迎えに行きミストの元に戻る。

ティファとした約束を全て叶えるために

 

 

「ティファ!ティファ!!返事してティファ!!!」

「・・・・にぃ・・・どうしよう・・」

「ティファ?」

「答え・・・わかんないよにぃ・・・」

 

一体何がどうなれば-キルバーン-がこっちに来るなどという宣言をしてくるのかティファからすれば天地がひっくり返るほどあり得ないことでもう訳が分からない!

ヴェルザーに仕え、バーンにも使えている大幹部が、何故と考えても分からず途方に暮れ兄に縋りつく。

 

「ティファ・・・分かんなくていい。あいつは俺達が倒すから、ティファは何も心配しないで。」

「にぃ・・・」

「ああ、ダイの言う通りだ。あんなふざけた事もう忘れて休もうぜ。」

 

兄二人は妹を左右から抱きしめ安心するように宥め、ティファは考えるのに疲れ果てそのまま眠りの中に落ちていく。

 

「師匠とティファがベッドで寝てくれ。俺達は交代で見張りすっから。」

 

キルの言葉を信用する気のないポップ達はマトリフとティファだけをきちんと休ませ寝ずの番をする。あいつが来たら、叩き壊すために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりなのさ。」

 

ティファとの約束を全て果たし、無事(?)にデビルを独房粋だけで済ませたキルに-ピロロ-が話し掛ける。

 

「おや、誰もいないところで君が僕に話しかけるだなんて随分久しぶりだね。」

「ふざけていないできちんと答えなよ、人形。」

「随分不機嫌だね~、何が聞きたいのさ。」

「惚けないでよ。どうしてバーンの命令に逆らうのさ。」

「バーン様だよ。僕はバーン様の命令に逆らっていないよ。ただ少しだけお願いしただけさ。」

「・・・・主の意向に唯々諾々と従い、懐に深く飛び込めとのヴェルザー様のご命令を無視してか・・」

「いやだなぁ~。バーン様はそんな物こそ嫌うお方だ。不変を何よりも疎み、近頃の僕はさらに面白いとお気に入り度合いが高くなっているんだよ。ヴェルザー()の命令にも反していないでしょう。」

「・・・・・そう、分かったよ。でもね、余り勝手な事しないでね。所詮君は人形で、今自律している気でいても所詮は・・・・」

「僕に与えられた自律思考するための疑似人格で動いているだけの人形でしょう僕は。」

「・・・分かっているならそれでいい、勝手しないでね人形。」

 

言いたい事を言ったピロロ事、ヴェルザーからキルバーンと名付けられた一つ目はキルの部屋を出てどこかへと行った。

 

どうせヴェルザーに僕の事を報告しに行くんだろうな。煩わしい、いつか隙を見つけてあいつも消すか。

 

自分がこうして独自の考えを持つのはヴェルザーが気紛れで与えてくれた疑似人格のおかげ。

自分では何一つ動けない人形など詰まらぬと余興で作られた物が、心と呼べるほどまで育つとは予想していなかっただろう。

 

おかげで自分は素晴らしい事に出会えた。

 

愛している

 

自分がティファに抱いた感情の名は愛だ。その答えをあの子が出すには正解が一割、残り九割は不正解の割合を考えている。

他者の事には聡く、反面自分の事になるとまるで駄目なティファは、きっと正解は出せないと踏んであの賭けを成立させたが・・・・もしも正解したら

 

当然、僕の全てはあの子の物だ




今までのフラグ立ての為の集大成で、フラグ立てたところで死神は一回休みです。


以降キルは当分表舞台には立ちません。
そしてヴェルザーとはっきり決別させました。

ここでキルがオートドールである事も明かし、後に回収する予定です。
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