ふ~ん、ノヴァからの手紙は近況報告とこれか~。
マァムとメルルが用意してくれた朝食を早々にすませたティファは、ご馳走様をして少し離れたところでノヴァからの手紙を読んでいる。
「おじさ~ん、ノヴァの家のナタリーさんって覚えてる?」
「あ?・・・俺が可愛い子にお茶しねえかって誘う度に怒ってたあのばあ様か・・」
「・・・・それ絶対におじさんがいけない奴だよね。女の人をばあ様も酷いよ。ナタリーさんに初孫生まれたんだって。」
「なんでぇ、そしたら正真正銘のばぁ様じゃねえかよ。」
「確かに・・・」
ノヴァの家の乳母兼料理頭のナタリーさんは、少々・・・魔女宅のおソノさんの様に恰幅の良い性格もさっぱりとした優しい人だった。
お泊りはあの一度だったけれど、その前にちょくちょくノヴァの家の近くで遊んだり研究をお外でしていた時はお昼ご飯を届けてくれた優しい人。もう本当におばあちゃんになる年だったんだな~。
「何かお祝い贈りたいね。」
「お祝いね~・・・・マァムの時は確かおもちゃをロカ達にやったぞ。」
「あ!そうよ、マトリフおじさんが木のガラガラくれたって母さん言ってたわ。懐かしいな~、大切に遊んで無くさないように今でも箱にしまってあるわよ。」
「なんでぇマァム、あんな安物取って置いてんのかよ。」
「もう!安いかどうかじゃなくて!!マトリフおじさんが暮れた大切な物でしょう。」
「あ、マァムさんの考え分かります。私もおじさんやノヴァからもらった手紙全部取ってある。」
「・・・・嬢ちゃんもかよ・・。」
「うん、だって大切だもん。」
何を可愛い顔して笑って可愛い事を言っているんだこの子は!
もうジジ馬鹿呼ばわりされても愛で倒したいマトリフは内心で悶えまくる。
「お嬢さんにとってあのノヴァってのはマトリフ位に大切な奴なのか?」
食べ終わったロン・ベルクがティファにズバット聞く。
「ノヴァは・・・そうです、大切な人です。」
「ほぅ、そいつはあの坊やが好きって事か?」
「は⁉」
ロン・ベルクはダイ達並に、初対面であのノヴァを好もしく思った。
話し方は礼儀正しく、だが口説過ぎず相手に不快な印象を与えない好少年。余計な事は全く言わず、端的に聞ける見識の高さ。そしてダイ達が気づいたかどうかまでは知らないが恐らく途轍もない強さを秘めている。
ティファは今もって実力が読めないが、ノヴァの瞳からは力を感じ、物腰からも戦いになれている動きを感じた。
強く優しい男がお嬢さんにふさわしい
ロン・ベルクは昨日キルがティファに提示した賭けの答えのおおよそは見当がついている。それは薄々マトリフも知っているはずだ。
考えたくないが、あのオートドールはティファの事を男女の仲の意味で愛しているのだと。
数百年を魔界で生きていれば、動いているオートドールにごくまれだが出会うことがある。大概は迷宮の番人で、プログラムされた通り宝を守り敵を排除するしかしない人形ばかりの中、あれ程自律し、遂には感情を獲得したオートドールがいるとは・・・・それも真っ当な感情ではなく、幼女を愛している対象にする超変態思考をだ!!
だが答えをダイ達、ましてティファ本人に教えるつもりは毛頭ない。教えて変に意識され、百万が一ティファがその気になってしまった日には・・・・それよりは答えを出さずに怒って向かってこさせ、バラバラにぶっ壊す方がいいに決まっている。
そんな奴なんぞよりも、あの坊やとくっついた方がお嬢さんは幸せになると、ロン・ベルクは本気でそう考えている。
私が・・・ノヴァを好き?お嫁さんになりたい好きの事?
この大戦が終わった後、自分とノヴァが付き合って、ゆくゆくはお嫁さんになっていつかノヴァの子を産む?
ティファはほんの少しだけ想像してみた。今のノヴァの背格好は原作で見ておおよそ分かっている。もちろんあっちよりも険がなく柔らかい優しい顔をしているだろうが。
性格も穏やかでゆっくりとした話し方をする物柔らかさもきっとそのままだろう。
自分達が結婚をすれば、小父様もおじさんも喜んでくれて、子供が生まれたらきっと精霊達がこぞって面倒見てくれようとしてくれて・・・・互いに穏やかで楽しい年の取り方をしてお爺ちゃんおばあちゃんになっていく・・・・それは何と楽しい事だろう。
ティファはいまだに愛は知っても恋を知らない
兄の様にレオナ姫を激しく愛する思いを抱いたことは無く、ポップの様に初々しい初恋もいまだにしていない。
脇目もふらず、只々ひたすらに世界を救う事だけを優先し、優しい心だけは育ち他を顧みない結果そうなった。
そもそも自分はそこまでこの世界には・・・
想像を楽しみ笑いながらも目をつむって頭を数度振り、穏やかに笑ってロン・ベルクに答える。
「私はそういう事を考えた事は一度もないですよ。」
透明なその笑顔に、ロン・ベルクは何故か気に障った。
「だったら今から考えてみたらどうだ?ダイやポップはとっくに相手がいるだろう。」
「い!」
「う!・・・ロン・ベルク!!こっちにまで火の粉飛ばすなよ!!」
「本当の事だろうがよ!!!」
「うっせえぞ!ったく・・・ティファにゃまだ早いんだよ・・」
「兄馬鹿してて妹行き遅れ手もいいのかよ!」
「ティファなら引く手数多になるから・・・・ダイ・・・その邪魔迄したら俺怒るぞ?」
「う!・・・だってポップ!!」
「手前に恋人いてティファ駄目だって言ったら兄の座から蹴り飛ばすぞ!」
「・・・分かった!だったら俺に勝ったら・・・」
「そしたら姫さんはティファに勝たないといけなくなんぞ?」
「・・・ポップ~!!」
「泣いても駄目だ!!」
ノヴァとティファの事なのにいつの間にやらダイとポップが騒がしくなり、掛け合い漫才の様で見ているマァム達は少し笑って完全高みの見物モードになり、ティファは少し呆れながら手紙の続きを読み進めていくうちに食べ終えたマトリフの袖をクイクイと引っ張り、-毒物に対する万能薬-の話を切り出す。
「あれって・・・おじさん目途立った?」
「まぁ八割・・嬢ちゃんは?」
「私もそんな感じ、どうしても毒消しと傷の薬草のお互いの効能消えないように混ぜるのが難しい。」
「うん?何の話してんだ?」
漫才に一区切りつけたポップとダイも食べ終わり、マトリフ達の話を聞きつけ寄ってきた。
「ん?ノヴァがね、ハドラーの篩の時の敵の能力分からないから、斬撃と骨折と火傷と凍傷用に、解毒の万能薬も開発急いだ方がいい気がするって。」
その予測は当たってる。敵のクイーンアルビナスのニードルには確か痺れる作用があったし、魔改造並みに強くなったハドラーから生まれているんだからもっと超強力な毒性が出来ている可能性が・・・・・・そうなってたら八割私のせいなのかな?いや!何でもかんでも自分のせいにしてはいけないってバダックさんも言っている!!ハドラーは自前で今の超一流魔王様に育ったんだうん!
若干現実逃避しているが、原作を少しでも知っている者がこの場にいれば魔改造ハドラーは間違いなくティファのせいだと拳骨では済まなかろうが、いなくて何とやらだ。
「ティファ、ポーンヒムって奴は強いのか?」
「オリハルコン製で格闘タイプに見えたよ。動きもすごいきびきびしていて強いね。」
「そうか・・・ハドラーの親衛隊名乗ったんなら他にもいるんだよな~。」
ポップとしては、戦闘前に少しでも情報が欲しいところだと頭を掻いてぼやく。仲間を危険から守るためには力押しで行くのはしたくない。
少しでも情報があれば、出会った時に少なくとも驚いて動けないことにはならないだろうと一行の頭脳として色々と考えている。
そんなポップをマトリフはひよっこがもう立派な魔法使いになったのを喜びながらも一抹の寂しさを感じる。もう少し自分の手を煩わせてほしいと、巣立つ若鳥を見守る親鳥の気分だ。
「そうだね・・・・情報はあるかもしれない。」
「ほんとかティファ!!」
ティファのぽつりとした一言にポップは食いつく。
「うん、ヒムはポーンを名乗ってた。だったらチェス駒に当て嵌めてるのかもしれない。ポーンがいたらナイト・ビショップ・ルーク・クイーンがあるでしょう。」
「確かに・・」
「それでね、私ヒムと別れる時にあなたのキングによろしくお伝えくださいって言った時笑って確かにハドラー様に伝えるって言ってた。キングがハドラーなら残りの駒でいけばポーン・ナイト・ビショップ・ルーク・クイーンだ。ハドラーはここ最近単身で動くこと多いから、昔おじさんが言っていた大勢で動く事を今はしないと思うから、親衛隊は全駒一種につき一人で・・」
「全部で五人を考えてると・・」
「うん。」
「そうか・・・今のハドラーなら少数精鋭でくっかもな。」
ティファの予想と、島と今回の塔で見たハドラーの性格を鑑みてポップもティファの意見に辿りつく。
オリハルコン製の少数精鋭はきっと手強い。
「それで何で毒を考えてんだ?今のハドラーは卑劣な手は嫌ってんだろう。」
ザボエラの奸計止めに来てたし・・・結果師匠の体内ボロボロにしやがったが。
「ポップ兄、皆にも言っておく。私はね、戦場で勝つ為なら毒も暗器も其れこそ事前に張った罠もありだと考えているんだよ。戦は勝ってこそ意味があるからね。」
人質だの弱い者を嬲りものにするだの謀略だのは論外だけど、戦場で戦う者同士が命の遣り取りをするとあっては今言った事は全部ありだと思っている。
大切な仲間の為に、守るべき後ろの者達の為にも勝たなければ意味がない。
きっと今のハドラーなら卑劣奸計は使わなくとも、戦場で使える戦いの手を出し惜しみはしないだろう。全ては勝利の為に。
・・・大魔王がやった様な黒の核晶を大切な部下に本人に秘密で埋め込んで爆弾にするのは許さんけどね!
同意もなく自爆要員にするとか嫌いだけどね!!
「まぁだからと言ってこちらも同じ手を使わないといけないわけじゃないからしなくてもいいけど、少なくとも毒の心配もしておこうって話だよダイ兄。」
ティファの話に納得がいかないと憮然とするダイの頭を優しく撫でる。
価値観は人それぞれであり、勇者一行は正攻法で行きたいと望むならばそれを自分が適えるだけだ。
「うん!俺達はそれでいきたい。」
にかりと言ってついでとばかりにティファをギュッと抱きしめる。ここ最近ティファは敬語を使う事無く話してくれるのが何よりも嬉しい。妹が早く大人になったようで実は落ち着かなかったのだ。
「もう!ダイ兄はすぐに・・・」
ドン!
洞穴で話し込んでいたらいきなりルーラの着地音が入り口に響き、ダイは直ぐに振り向き脱力をする。
姿で分かり、他の者達も一瞬で緊張した体をぐったりとさせる。
「・・・どうした爺さん・・」
一番仲のいいクロコダインが、訪問者バダックに声を掛けた。
「いや・・・コホン・コホン・・・・そのな~。」
どうにも歯切れが悪い。いつも明るくさっぱりとしているバダックらしくない。
「おはようございますバダックさん。何かありましたか?」
「うんむ、実はマトリフ様と・・・ええい!勇者一行-全員-に来て欲しいとレオン王よりマトリフ様に伝えて欲しいと言われたのじゃ!!」
腹を括ったバダックの言葉に、ロン・ベルクとティファ以外の全員が氷りつき、そろりとマトリフを見て後悔した・・・・・無表情が却って怖い!!
クイクイ
「あのねおじさん・・・私行っていいならお城行きたい・・」
「嬢ちゃん?」
「メルルさんが、フォルケン様まだパプニカ城にいるって教えてくれたの。だからね・・」
「・・・嬢ちゃん。」
見舞いと今回巻き込んだ謝罪をしたいのだと目で訴えてくる。どうしたもんか
嬢ちゃんも含めて呼んだという事は、間違ってもあの兄ちゃんを嬢ちゃんと鉢合わせる事はしないか。下手打ったら俺が本気でパプニカの敵になる事はレオン王なら分かってるだろうしな。
「分かった、少ししたら行くって王に伝えておいてくれや。ロン・ベルク、お前さんはどうする?」
「俺が行きたいっていうと思ってんのかよ。少し休んで午後ダイ達を扱くよ。」
意外なほどあっさりと承諾され、バダックは拍子抜けした。昔のマトリフを知っている者ならば誰もが目を疑うだろう。柔らかい笑みを浮かべ、一人の少女を慈しむ大魔導士を見れば。
城に着いた時、バダックと同じ思いを抱き中には目をこすって二度三度見直す者もいた。
大魔導士の衣装を着たマトリフの左手をティファが添えて歩いている。
「おい嬢ちゃん・・・」
「だっておじさん超高齢だし・・・」
「あのな~。」
腰が多少曲がっていてもまだ介助は必要ないと言いたいが、心配するティファの心情を無下にできず、城門くぐってからずっとこれで歩いている。おかげで周りの視線が痛い。
「マトリフ様、ダイ君達もその・・・」
出迎えに来たレオナも、考えていた挨拶と詫びの口上が吹っ飛んでしまいしどろもどろになる。それくらいこの光景は破壊力抜群だ。
ティファの着ている服はいつもの料理人の時に着ている服だが、アバンの眼鏡をかけておらず年相応か少し下に見える。
威厳のあるはずの大魔導士を世話する孫娘に見えて仕方がない。
「レオナ姫様、一昨日は申し訳ありません。」
レオナがしどろもどろする反面ティファの方から詫びを入れる。様々な意味で騒がせたのは、矢張り誰が何と言っても悪いのだから。
「その件は反省し二度としないと言っていましたね。その言葉確かにきちんと受け取っています。だからもういいのよティファ。」
ティファの言葉で落ち着いたレオナは、いつものレオナに戻る。前半は責務ある王族として、後半はダイ達の仲間として上手に使い分けられるレオナに。
「レオナ姫・・・はい、はい。」
その言葉はティファの胸の中に沁み込む。レオナの優しさが嬉しくはにかんで笑うティファをレオナは優しく包み込む。
「無理言ってきてもらってごめんなさい。どうしてもお父様が皆にお礼がしたいって。」
今回の件の発案は病床にいるレオン王だった。
ハドラー達との決戦の前に、愛娘を守ってくれたヒュンケルとクロコダインにも直接お礼が言いたい。また間接的であれ、レオナの命が尽き掛けたのを救った万能薬の礼をティファにもしたいと。
そしてもう一つある。
「今から数日後に皆に集まってほしいの。完全装備で決戦に行く覚悟を持って。」
レオナはエイミとマリンだけを連れてマトリフを出迎えに行き、今も三人だけでダイ達をある部屋に案内しながら説明をする。
「彼からも詳しく話を聞いてほしいの。」
ノックもせずに開けた扉の先にいたのは。
「先程ぶりですねマトリフ様、ダイ君達も。」
ほんのりと笑ったノヴァ一人がいた。
「三日後に作戦行動?」
「そうよ、ティファの情報で死の台地が敵の本拠地だって突き止めたんだから、今度はこっちから打って出る事で案が纏まったの。」
「その打ち合わせの為に僕が名代できたんです。」
「・・・姫さん、ノヴァって騎士職以外になんかあんのか?」
「あらポップ君、さっきノヴァ君と会った時聞いていないの?ノヴァ君は・・」
「姫様。」
レオナがノヴァの全てを紹介しようとした時、ノヴァ自身にやんわりと止められた。
「僕が自分で言いますね。僕の父はアーデルハイド王よりリンガイアの大将軍の地位をお預かりし今度の作戦の全容も打ち合わせ済みで、一昨日纏まった案よりも良い条件で兵や兵站が出せそうなのでそのお知らせに僕が来たんです。
僕一人ならトベルーラで国境付近まで来て、帰りはルーラで帰れますので。」
「成る程、お前凄いんだな。騎士でルーラやトベルーラ使えるったらかなりだぞ?」
「僕なんてまだまだですよ。」
「そんな事ねえと思うぞ。それよりもさ、本国そんなに兵出して大丈夫なのか?」
敵からの攻撃がやんでいるとはいえ、油断はできないご時世だ。
「はい、実は・・・勇者ダイ一行の中にティファがいることが分かって、皆張り切ってくれて引退した人たちがこぞって志願してくれたんだす。」
国境は自分達が守る、若い奴らは最前線で役に立ってこい
もう歳だろう、大人しく守られていろと止めようとした王を叱り飛ばしもしてきた。
「こんな年寄り連中の命惜しむな!未来ある若いもん達の助けになる盾にしてやる位言ってみろってんだ洟垂れ王!!」
騎士王と名高いアーデルハイドも、年上の古参兵には勝てずに苦笑しながら志願を受け取り支援兵が大幅の増加できたのだ。
「マトリフ様やティファのおかげで生まれた万能薬の恩恵をリンガイアが一番に受けています。その恩返しをしたいと僕も彼等も願っていたので渡りに船だったんです。」
「そうか、そうだよな。けどな、敵には空間使って神出鬼没の奴がいるからな~。」
「そちらも大丈夫です。」
「なんでだ?」
「あ~・・・・実は僕の事を守護してくれている精霊様が、空間も凍結できる秘術をお持ちで伝えれば空間索敵もしてくれるかと・・・・」
そんなすごい事できる奴の加護持ちって何こいつ⁉
流石のマトリフも開いた口が塞がらない。
精霊の王様から加護受け取ってほしいと言われたのですがどうしましょう?
とは手紙で相談され受けておけ言っておいたがそこまでのハイクラスだとは思ってもみなかった。
「・・・・名前はキルバーン、これが人相書きです。」
今までマトリフの側に居て一言も話さなかったティファがようやく口を開き、ポーチから人相書きを出してノヴァに渡す。
「衣装は赤と黒で直ぐに分かります。何か言う前に倒した方がいいでしょう。そしてもう一人の人相書きも渡しておきます。名前はザボエラ、奸計を使い人を惑わすもので、この者も見た瞬間斬る事をお勧めします。」
眼鏡は掛けていなくとも、それは確かに料理人ティファの声色であった
今宵ここまで。
ノヴァ君に会いたいと怒鳴った主人公が、城で会えば他人行儀です。