勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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お守り

-ヒュンケルは今罪を償う道を歩いている途上なのです-

-何卒その道を歩く事をお許しください-

 

一行の中で誰よりも王達にヒュンケルとクロコダインの恩情を願っていたティファが、今ヒュンケルの事を大逆を侵した者と言い放つ。

目にいつものあの暖かさはなく、まるで罪人を弾劾する判事の様に。

 

「ティファ・・・さん・・・」

「あの者は貴女の国を攻め滅ぼそうとしたのですよ?一歩間違えばこの城は陥落し、レオール王の病気は間違いなく悪化しもしかしたら死んでいたでしょう。国が滅べば姫様も命を落としていたやも知れない元凶に、何故貴女はそこまで気に掛けるのです。」

「それは!・・・それは・・・」

 

 

一体、ティファは何が言いたいのかエイミは途方に暮れる。魔界のモンスター達にまで心配るティファが、ヒュンケルの事をまるで断罪しているようではないか!

 

「確か鎧を着て攻め込み、一般兵には顔は知られていないとか。」

「その・・・通りです。」

 

マトリフの海岸で自分達で名乗るまで、ヒュンケルが攻め込んできた者とは全く分からなかった!其れはあの優しい雰囲気だったからだろうか?

初めて見た時からヒュンケルは優しい瞳をしていた。そしてどこか頼りなげで心細い少年の瞳がよぎったように見えた時がありどきりとした。

それは、断罪を望みながらも怖れていたからだと後から分かった。

 

「いつかどこかでヒュンケルがあの時の隊長格だと漏れ知られるかもしれません。その時あの者に石を投げ罵り罵倒する者は必ず出てくるでしょう。-生半可-な気持ちで側に居れば、とんだ巻き添いをくいますよ?中途半端な気持ちなら離れた方がエイミさんの為です。」

 

言いたいを事を言いきったティファは、自分で淹れた紅茶を飲み始め、言葉に詰まったエイミを放っておく。

 

私は・・・ティファさんの言う通り生半可な気持ちなのだろうか?

 

言いたい放題されても反論できずにいるエイミはティファの言葉を肯定しかける。好き・・・淡い恋心?子供の様に強いあの人に対する憧れ?それは何と中途半端で・・

 

思い悩むエイミを、ティファは紅茶を飲むふりをして見続ける。

そして次第に俯くエイミに心の中で嘆息した。

 

・・・・駄目かな?エイミさんがヒュンケルに抱いている思いは私に言われたら崩れるくらい脆いものだったのか。

仕方がない、中途半端されるくらいなら二人の為にも・・

 

「違う・・・」

 

会話を変えようと言い過ぎましたとティファが言葉を発する前に、エイミのポツリとした、それでいて力の篭った声にティファは開いた口を閉ざし、カップを置いてエイミの言葉の続きを黙って待つ。

果たしてエイミは、少し前の弱々しさはなく、毅然と顔を上げ己の心の中にある思いを叫び上げた。

 

「私は・・・私は!!あの人を放っておきたくない!!!」

 

いつか誰かにヒュンケルの罪が知られる日が来てしまう・・ならば尚の事・・・

 

「私は!あの人と共にあれるのであれば地獄の底まで付いて行きます!!」

 

償う道の先に待っているのが例え地獄の底であっても!あの優しく気高く、それでも頼りない少年の心を宿したあの人とならばどこに行こうとも後悔する事は決してない!そうだ!自分は・・

 

「私はヒュンケルを愛しています!!!」

 

 

私は・・・ヒュンケルを愛している

 

 

優しさに魅かれ、気高い心に憧れ、そしてヒュンケルの全てを自分は愛している

 

ヒュンケルに対する漠然とした恋心が、明確な愛だと知った

 

 

立ち上がり激しくティファに言いきったエイミは、挑むようにティファを見据える。ティファが何故ヒュンケルを断罪するかのごとく言い放ったのか意図は分からないが、自分の思いは決して中途半端なものではない!

石を投げられたら共に受けよう、罵倒されたのなら共に罵られよう。

苦難を分かち合いたい、分かち合わせてほしい・・・それを例え尊敬し、ヒュンケルが慕っているティファに反対されようともだ。

 

 

本気の目だ

この人だ、ヒュンケルが幸せを見つけられたきっかけの人は!!!

 

ガシッ!

 

「試した事!誠に申し訳ありませんでした!!」

「試すためとはいえ心無い言葉で貴女を傷つけたお詫びは幾重にもさせていただきますが、今言った事の全てをヒュンケル本人に是非にお願いします!!」

 

うって変わった様なティファの怒涛のお詫びとがっちりと握られた両手にエイミは何が何だか分からずに本気で戸惑う。ティファの目がそれ程真剣で本気で詫びているのが伝わり試されたことを不快に思い怒るという選択肢が浮かばない程に。

 

「あのティファさん・・・一体急にどうされたのですか?」

 

なぜ自分にヒュンケルの思いを明確化させ、あまつそれを反対するでなくお願いをされているのか全く分からずについていけない。

 

「実は昨日ヒュンケルがですね・・」

 

ティファはエイミに昨夜ヒュンケルの事を全て話した。

 

幸せを見つけられたかもしれないと告白をした後酔い潰れて眠り、騒ぎが起こる前にヒュンケル自身が知らない事を

 

「眠ったヒュンケルはエイミさんの名前を呼んでいたのです。」

 

-エイミさ・・ん・・・はな・・を・・-

 

後はよく聞き取れなかったが、確かにエイミの名を呼び寝顔に笑みが浮かんでいたのだ。

 

私が、あの人の夢の中に・・・

 

「エイミさん、ヒュンケルが言った事に覚えは?」

「あります・・・あれを・・・喜んで・・」

 

何気ない花だった。そこらに売られている花に、それでも自分の精一杯の気持ちを込めて渡した時、あの人は一瞬きょとんとした顔をしていた。

自分から花を貰ったのが意外だったのか、驚いてそして確かにはにかむように笑っくれた・・・

 

「エイミさんはもうご存知でしょうが、近々大規模な作戦・・いいえ決戦間近です。私はエイミさん、貴女にヒュンケルのお守りになってほしいのです。」

「お守り?」

「はい、ヒュンケルは罪を償う以上に一行が本当に大好きで守るために無茶な戦いをするときがあります。無論戦なのだからと言ってしまえばそうなのでしょうが、それでもヒュンケルに愛する者がいるのならばその人の下に帰りたいと願う心があれば最後の最後でも足掻いて、帰ろうとすると私は見ています。ヒュンケルは愛する者を悲しませるのをとても厭う者です。

そして私が見たところ、その誰かはきっと貴女なのではないかと。」

 

私が・・・戦に何の役にもたっていないこんな私が、あの素晴らしいヒュンケルのお守りに?

 

「おこがましいお願いなのは承知しています。それでも、ヒュンケルのお守りになっては下さいませんか?」

「私で・・・いいのでしょうか?」

「それを本当に決めるのはヒュンケル自身ですが、エイミさん自身はどうしたいですか?」

 

愛している気持ちだけを胸に秘めているだけかそれとも・・・

 

ヒュンケルの帰る場所に・・・・何があろうとも揺らがずに・・・

 

「告白します!!!」

 

伝えたい!胸に秘めて眺めているだけなのは嫌!甘い言葉だけを掛けるのも御免よ!!振られてもいい!拒絶されても構わない!!それでも幾度でも言う!私が!ヒュンケルを愛して死んでしまったら悲しむのだと、どのような辛い目に遭っても最後には生きていてくれればそれでいいのだと!!ヒュンケルとならば・・・本当に地獄の底に落ちても構わないと・・・

 

 

エイミさん・・

 

「よろしくお願いします。あの者は言葉にしないとそう言った事は自分から言い出さない・・・・言い出すと思いつかない朴念仁な所があるのでエイミさんから言ってくださるのが一番かと。」

「そういった所も含めて愛してますので大丈夫です。」

 

泣きながら、それでも愛を抱けたことで心が充実したエイミは晴れやかに笑いティファに宣言する。

 

ヒュンケルの母親的存在なティファが味方に付いてくれたのだ。世間の者が謗ろうとも怖ろしくはない。

 

 

落ち着きを取り戻したエイミを、それまで黙ってみていたレオナが労わるように椅子に座らせる。

何か意図があったのは察していたから静観したが、まさかヒュンケルとエイミの恋心を此処迄昇華させるとは思ってもみなかった。

愛しい人が帰りを待っていると思えば、人はどのような事にも耐えて帰ろうとするかもしれない。自分も・・・ダイのお守りになれるだろうか

 

 

落ち着いたエイミは早速ヒュンケルにアプローチを強めるべくティファに先程の事をもう一度聞きなおす。

 

「ヒュンケルは甘いものは好きですが?」

「・・・・・・・エイミさんはヒュンケルがアメを好きなのがご存知ですか?」

「アメ、はい・・・・・確かに好きですよね・・・」

 

アメの事でとっても変わったヒュンケルの一面が見れたほど、ヒュンケルはアメが好き・・・・あれは好き以上な気がしたのをよく覚えている。

 

「あああ~、実はヒュンケルはアメに思入れが有るのですよ。」

 

アメと師アバンとの思い出も教えてくれたティファの顔が超微妙だった。

 

「心情は理解できるのですが、物凄い勢いで消費してしまうので一日三粒迄と禁止したんです。」

 

糖分の摂り過ぎは体に毒なので、マトリフの洞穴でダイ達だけで十日間お世話になって五日目の日の注文書にアメが書かれていたので驚いてきちんと取り決めたのだ・・・・どう見積もっても常人なら十日は持つ量を送ったのに二日でなくなったのだから仕方がない。

 

「確かに・・摂りすぎですね。」

「そうです!なのでエイミさん!!これからはヒュンケルのアメ管理もエイミさんにお願いします!作り方のレシピも後程お渡ししますね。」

「え!アレはティファさんの手作りだったのですか?」

「はい、買っていたらきりないので自分で作ってストックしていつでも送れるようにしていたのですが・・・・底尽き掛けました・・」

 

少々遠い目を擦るティファに、エイミとレオナは吹き出してしまった。

 

「笑っていますがエイミさん、これからは貴女が管理するのですからね。」

「はい。」

「もしも喧嘩したらアメ質取っちゃってください。」

「はい⁉」

 

何か今へんてこな事をティファが言ったような?

 

「アメ質です。絶対に良く効きますよ。」

 

そんなこと言うのならもうアメは上げません!!

 

そう言われてしょげるヒュンケルが三人の脳裏に浮かび、すぐさま大笑いになった。レオナもエイミほどではないが、ヒュンケルの幼い少年のような心があるのを感じていただけに、ティファの今のアメ質が本当に効きそうで直ぐに思い浮かべられてしまい、ヒュンケルに悪いと思いつつ笑い転げてしまう。

 

「は・・は~、そうしますティファさん。レシピの方よろしくお願いします。」

「はい~、は~、色々とよろしくお願いします。」

「合同結婚式・・・エイミもやる?」

「姫様⁉・・・・気が早すぎます。」

 

自分はダイ・レオナ、ポップ・メルルの様に両思いではないのだ。

 

「予約はありよ!頑張ってねエイミ。」

「姫様・・・はい!」

 

レオナの励ましに笑顔でエイミが答えた時、扉がノックされたのでエイミは慌てて扉を開けてみれば、マトリフとロムスの姿があった。

 

「ずいぶんと賑やかに笑ってたな。なんか楽しい話でもしていたのか?」

 

少し離れた廊下にまで、女の子達の楽しい笑い声が響きロムスと何事だと顔を見合わせながら来たのだが

 

「おじさんにも内緒だよ。女の子達だけの秘密だもん。」

 

ティファがいたずらっ子の様な顔でマトリフに内緒宣言をする。

それは先程までお守りを話していたティファとはまるで別人のように。

 

「こんな枯れちまった爺さん達にならいいだろう?教えてくれよな。」

「だ~め、秘密だよ。」

 

それはマトリフも同じで、まるで仲のいい孫と祖父にしか見えない。

 

「ったくつれねえな~。まぁいいか、嬢ちゃんが世話になったな。レオール王に体にいいもん渡したから帰るわ。」

「マトリフ様、私の時と言い父の時と言い本当にありがたく。」

「いいさ、そいつはお互い様だ。エイミ達なら洞穴に来てもいいぞ。」

「それは助かります。エイミ、良かったわね。」

「姫様!・・・はい・・・よろしくお願いしますマトリフ様。」

 

どうやらティファお近づき厳禁は限定解除されたようだ。

 

「ほれ、帰るぞ嬢ちゃん」

「は~い、おじさんルーラで私ガルーダね。」

「へいへい、見送りはいいぞ。」

「私は城門まで送ります。エイミはここの片づけを。」

「かしこまりました。マトリフ様、ティファさんまた。」

「はい、お待ちしています。」

「あんな・・・あそこは嬢ちゃんの家か?」

「・・・駄目?」

「いや・・・もういい・・」

 

ぱたりと扉が閉まり、レオナとロムスが見送りに出た部屋は途端に静かになった。

 

思いがけない話に、エイミは驚いているが心は決まっている。ティファの言う通り、自分がヒュンケルの帰る場所・お守りになれるのならばこれほど嬉しい事は他にあるだろうか?共に人生を歩きたいと心の底から願う。

 

 

 

しかしエイミはふと思った

 

ティファさんは皆の幸せを願い口にしている、

 

だが一度としてティファ自身の幸せの話を聞いたことがあっただろうか?ダイやポップ、メルルの様に好いた相手もいないようで、マァムやチウ、クロコダイン達の面倒をなにくれとなく見て望みを叶えて喜ばせているが、ティファ自身はどうだったかと辿れば・・・ぞっとした!

 

いくら考えてもないのだ!誰かの幸せを望む以外、ティファ自身の事で何かを望んだ姿を見た事が。

 

ティファが言っていたお守りは、ティファ自身にあるのだろうか?あってほしいとエイミは心の底から祈りを捧げるように願う。

ティファ自身にも帰りたいと強く思えるものがある事を。




死の大地決戦前のお話の先取りとなりましたが、一行の幸せの身とを確たるものにしたいと願う主人公がなにくれとなく頑張っていますが、そろそろマトリフ達以外にも自然と主人公を案じ始める人達が増えていきます。

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