夜の帳は優しく誰をも包み込む
昼の事もありぐっすりと眠るマトリフの腕から抜け出したティファは、洞穴の椅子とテーブルを全てどかし、寝袋にくるまっているダイ達を優しい笑顔で見守る。
「寝なくていいのかよお嬢さん。」
「寝るのが勿体なくて、ロン・ベルクさんは?」
「お嬢さんが外に出やしないかひやひやして起きちまったよ。」
にやりとニヒルに笑うロン・ベルクさんってちょい悪親父っていうのかな?
「昼間お騒がせしました。」
「それはヒュンケルに言った時聞いてる。悪いが洞穴での説教と言い分も聞いてるよ・・・お前さんが正しかった。」
「ふふ、驚きです。」
「・・・・何がだよ。」
「貴方がそんなに早く怒りを解いてくれたことが。」
「俺だって正しい事は認めるぞ。」
憮然として椅子を取り出し座るロン・ベルクをティファはじっと見つめる。
「それ以上に大魔王の話を自らした方が驚きましたがね。」
昼のあの後、説教を全て終えたマトリフは打ち据えて赤くなったティファの頬と握りしめて傷ついた両掌にホイミを掛け、二人でダイ達の下へと向かった。
着いてみれば、ポップはロン・ベルク相手に魔法と体術を駆使した戦いを挑んでおり、コスパの低い初級呪文に翻弄されている珍しいロン・ベルクが見られた。
他にもマァムとクロコダインが格闘で仕合、ヒュンケルは先程の事などなかったが如く鋭い動きでダイと打ち合いをしている。
チウも大岩を砕くのを目標に窮鼠包包拳で何度もアタックしている。
今日会ったリンガイアのノヴァが、体に闘気を纏わせ強化する方法を教えてくれたのを身に付けるべく。
全員がティファの強さを目の当たりにし奮起した。あの強さに追いつき追い抜き全員でティファを囲って守れるように。誰も脱落する事なく大戦を勝って生き残る為に。
「嬢ちゃん、お前さんがしてきた事は無駄じゃなかった。」
「・・・うん・・」
「あいつ等は芽吹いて力強く成長してんぞ。」
「うん!!」
嬉しくて、さっきと違う涙が止まんないよ・・・
ダイ達の力強い顔に、ティファは報われた思いがする
最初はひ弱く、世間も知らず戦いの本当の恐ろしさを知らなかった子供達が、大きくなり羽ばたこうとしている。
夕日が沈むまで修練は続き、ダイ達が洞穴に戻るとティファが料理を全てこさえてくれていた。
「手を洗ってきてからですよ。」
無理をしている声ではなく、本当に柔らかく温かい声で一行を迎えたティファは、ダイ達に手洗いうがいを促しその間に夕食の支度を全て一人で整え上げる。
食器一式を出し、人数分のゴブレットと酒とジュースを用意しシチューを手早くよそいながら王城から戻る道すがら買い求めたパンを簡易竈で面倒を見つつ昨日の残りのピクルスをパンと同じ時に買った野菜を千切りにして手早くサラダを作る。
ダイ達が戻ってきた時には、宴とは違う日常の夕食が出迎えてくれた。
「う~!ティファの夕食!!いただきます!!!」
兄が真っ先に食いつき、行儀が悪いと言いつつポップも食器に手を伸ばそうとし、本当に行儀が悪いとマァムに二人は止められ全員が席に着いて挨拶をしてから夕食になった。
ティファの本格的な料理を口にしたマトリフは美味いと言ったきり黙々と食べる。
こんな美味いもん毎日食いてぇ・・・・もっと長生きして食うか。
ティファなら毎日届けてくれそうだ、なんなら坊やと本当に結婚して新居この辺に作ってこねぇかなと頭の片隅でちらりと思う程ティファの料理が美味しすぎた。
「話がある、大事な話だ。」
全員が夕飯を食べ終わるのを待ってロン・ベルクが口を開く。
「お前さん達に黙っていたが、俺はバーンとミストバーンと直接会ったことがある。」
その際スカウトされて断って顔のこの傷を作ったのはミストだと、いきなりロン・ベルクが自分から話しだした。
片づけも終えたティファは、まさかロン・ベルク自ら大魔王との事を言うとは思ってもみなかった。
そして話す意図が分からず困惑する。
昨日浜辺での話はダイ達には内緒だと約束を取り交わしたばかりなのに。
「情報はあって困りませんが、知るタイミングとも大切かと。」
ティファ自身で辿り着いた第一回決戦で負けるだろうと弾き出した情報は伏せて欲しいとロン・ベルクと聞いていたマトリフとクロコダインに頼んでおいた。
ヒュンケルはともかく、ダイ・ポップ・マァム・メルル・チウは本当に素直ないい子で隠し事にとんと向いていない。
僅かでも逃げる算段がある気配を出した日には間違いなく躊躇なく大魔王は大技で自分達を消しにかかってこよう。
有無言わさずに殺されたら困る。
「分かったよ・・・お前さんなんだってそこまで考えが及ぶんだか・・・確かにダイ達には毒になる情報だ。知らせずにおくが、クロコダインも今の話忘れとけよ。」
「承知した。」
そう約束してくれたのに・・
だがロン・ベルクが語ったのはバーンの強さではなく自分が作り渡した武器の方だった。
「光魔の杖・・・ですか・・」
「そうだ、原理は理力の杖と同じだが、決定的に違うことがある。理力の杖は誰が使っても武器自体の強さは変わらないのは知っているか?」
「ああ、弱い奴が使っても強い奴が使っても威力は一緒だ。」
ロン・ベルクの問いにポップが答える。あれはМPを攻撃力に変換する都合上誰が使っても変わらない。
「俺はその上限を取っ払った方法を思いついて大魔王に作っちまった。」
杖が触手の様な飾りで使用者に巻き付き、直接魔力を吸って魔法力を光の刃に変える。
その威力に上限はなく・・
「使用者のМPが高ければ高いほど強いと・・・」
ティファの結びにダイ達は青褪める。
鬼岩城の様な途轍もないものを生み出し動かせる大魔王自体もМPが高いとポップは踏んでおり、ダイ達に伝えてしまっているだけにその恐ろしさがきちんとイメージ出来てしまった。
「つまりМPが切れるかそれが無理でも削ればいい訳ですね。」
こともなげにティファはさらりと言う。
確か・・・原作ハドラーがそれで押し勝てそうだったのをあのダニ野郎が・・・・如何、思考脱線したが要は使用者の魔法力枯渇狙いの持久戦か大技バンバンは・・・カラミティ―ウォールは危険だから私とダイ兄が打ち込んでヒュンケルを中距離援護に回してマァムさんとクロコダインのトリオにしてキルとミスト相手にしてもらうかね?
ここまでくると原作通りになる保証零だ。父さんの動きは今分からないし、当てにした行動は危険だ、いない方のプラン練らないと。
などと考えながら、ダイ達と対策を練り全員が寝床に潜り込み暫くしてティファがベットを抜け出し、その気配にロン・ベルクが目を覚まし今に至る。
「俺も話す気はなかったんだがな・・・」
聞かれてもいないのにペラペラと、実に自分らしくない
「兄達の為にありがとうございます。」
きっと話してくれたのは兄達を生かそうと決めてくれたからだ。
そんな事を考えていたら、ロン・ベルクさんに頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「いいって事よ。」
にやりと笑ったロン・ベルクはそのまま表に出る。柄にもないことをした後に矢張り柄にもなく星空を眺めに。
良い人達がみんなを助けてくれている
もう大丈夫だ、この一行は-料理人のティファ-が守らなくとも、
一行の休暇がここまでです
次回からいよいよハドラーの篩に入ります。
ようやく物語の折り返し地点に来れたかと思います