勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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191話とタイトルを交換しました


氷の勇者

「バウスン将軍・・・・ご子息は・・」

 

戦車隊長アキームはやきもきしながら出城でダイ達の帰りを待っている時、バウスン将軍の子息も戦いの場に出た事を思いだし共にその身を案じる。

 

「初めまして、リンガイアで騎士職をしているノヴァです。」

「これは・・・私はベンガーナの戦車隊長のアキームです!まさか有名馳せる氷の勇者殿にお会いできるとは。」

「いえ、僕は勇者ダイのように世界の助けになれていないので勇者なんて・・・精々端っこを全力で守らせていただきます。一緒にお願いします、アキーム隊長。」

 

爽やかに笑っていた彼が、急報を聞いてティファと一緒に出て随分経つが大丈夫だろうか?

 

「ご心配なくアキーム隊長、息子は柔ではありません。」

「確かに氷の勇者の名がある方ですが・・」

「それに今回はあの子と一緒です。」

「あの子?」

「はい、きっと二人揃って元気に帰って来ますよ」

 

アキームの心配をバウスンは笑って宥める。きっと大丈夫

今でも思い出される。たった数か月前のあの大戦を。

 

 

 

-いいですか!バラバラに戦っては危険です!必ず集団先鋒を持続させて戦います!!-

-いざとなったら僕の氷の壁で敵を分断します!!主力のいない今の内に敵を叩きましょう!!-

-行きましょう皆さん!!王国と王と民達の為に!!!-

 

大戦初日、敵は主力を欠いていたとはいえ五千以上のモンスター達が山間から侵入し首都に迫ろうとした。

 

それを止めに行ったのは騎士団長とは言えたった十五のノヴァであった。

王国から騎士団長兼突撃隊隊長の命を受けた時、息子は恐れる事無く名誉であると笑って受け、見事その任を全うせしめた。

 

ハドラー大戦の恐ろしさを知る古参兵は悪夢が蘇り、中堅達・新兵は恐ろしさに動けなくなったのをノヴァが檄を飛ばし、剣を握りしめ城門が開くと同時に一番に敵に向かって行った。

その勇敢さに、兵達は恐れながらも前に進み敵を切り伏せ無我夢中で戦った。負傷兵はノヴァが日頃から訓練していた-衛生兵-という集団が戦場から連れ出し、即座に傷に合った万能薬を使用し、一日目の味方の使者は三千の兵のうち僅か十名に満たない奇跡的な数であった。

 

墓を作る傍らノヴァは夜の見張りも買って出て、夜行性のモンスターに備え城壁に近づく敵を容赦なく氷漬けにして侵入を許さなかった。

 

二日目の日はノヴァが単独で城門を出て、精霊達に呼びかけていた。

 

「ちょっと大きな氷の壁を数本作りたい。」

「いいぜ!ノヴァの為だ!」

「長さどのくらい?」

「そうだね~。」

 

昨日と同じくらいの敵の数が来てもノヴァは慌てず、三つの氷の壁を自分を起点とした扇の様に広げ敵を分断する。その氷の長さは何と一つずつが一キロにも及び

 

「今です!全軍敵を打ち取りなさい!!!」

 

うおおおおおおお!!!!

 

ノヴァが扇状に広げた氷の壁の終着点から、呼び声に応じる様に砦の兵達が超竜軍団を背後からめった刺し、あるいは爆裂呪文・火炎呪文で燃やし尽くし、真空呪文で斬り裂いた。

 

壁のせいで密集したモンスター達は振り返ることは許されず、後続から段々と近づく味方の悲鳴に怯え、密集してるが故に氷の壁は高くなくとも上に行く事ができず、中には氷を割ろうと足掻く者が出たが一切の傷をつける事もかなわずに絶命した。

 

夕刻には壁に閉じ込められた敵は全て骸と化し、ノヴァは松明をあるだけ焚かせ兵達に命じた。

 

「これより敵モンスター一頭残らず狩りつくす。」

 

そこには檄を飛ばした頼もしい勇者ではなく、敵の殲滅を宣告する底冷えをした瞳を湛えた騎士団長がいた。

 

精霊達の忠告で周囲の地上モンスター達は全て避難済みだと分かっているからこそ慣行し洞窟奥まで追い込みをかけ、最後の一頭が十日後に見つかり終了宣言を出した時には魔王軍からその執拗な追撃戦が口の端に上り、以降魔王軍に恐れをもって覚えられたのが、殲滅の騎士団長ノヴァであった。

 

時にダイ達がロモスでクロコダインを撃破し、パプニカに向かう船の中で楽しく話をしていた時の話だった。

 

 

アバンを倒しにデルムリン島に行き、その後様々な事があって最後までは自分で診ることが出来なかったが、悪魔の目玉からの多角的な報告とその結末迄聞いたハドラーは背筋が凍る思いをした。

 

人間は、そこまで非情になれるものなのか

 

戦場で命乞いを無視した事、街一つ全滅させたことはあれど、逃げる敵に追いすがり、まして洞窟奥までなめる様に探し出し屠ったと聞いた時はゾッとした。

 

その執拗さに苛烈さに、そして最後まで全うしたその精神性に!!

心が真っ当である者ならば、脅威にならなくなった敵は追い散らし来させなければよいものを、徹底追撃して全て殺し尽くしてのけた殲滅の騎士団長が・・まだ顔にあどけなさが残り、ダイよりは上でもヒュンケルよりの年下な男が!!

 

報告にあった人物像とかけ離れ過ぎている事にハドラーの戦慄はさらに増す。その幼さを残した顔とは違い、瞳によぎるあの冷たい光はなんだ!!相手の心臓すら凍らさんとする、あの冷気は尋常ではない!!

奴は本当に人間なのだろうか・・

 

 

「・・・・ノヴァ・・・殲滅って・・・何したの?」

 

ハドラーの言葉に、優しいノヴァしか知らないティファは何事かと少し顔を青褪め尋ねるが、ノヴァは小さい子に笑って宥める様に頭を撫でて落ち着かせる。

 

「ティファは気にしなくていい事だよ。ちょっと僕に、話させてね!!」

 

バキバキバキ!!!

 

「ノヴァ!!!」

「あいつ!!」

「ポップ!あれ不味いよ!!」

 

 

話していたティファを後ろに行かせハドラーに向き直ったノヴァは、小声でマヒャドを唱え、瞬時に自分とハドラー達を囲むようにう氷の壁をドーム状に覆いつくす。

それはマトリフであっても出来ない芸当だが、氷の精霊王の加護を受けしノヴァだからこそ出来ること。

氷の壁を作った時同様に、予め敵と自分達を誰に邪魔されることなく対峙できる様に頼んでおいた。

 

 

「貴様・・・何のつもりだ・・」

「それはこちらのいう事だ、無能な魔軍司令官ハドラー。」

 

強さに慢心したかと問いかけるハドラーに、常の敬語を取り外したノヴァは見た物を全て凍てつかせる程の冷たい瞳でハドラーに答える。

 

「あんな良い子達の前で物騒な事を言わないで貰いたい。」

「ふん!己の評判が大事でこんな無謀な真似をしたと?」

「評判?全く違う、殲滅した事は今でも正解だったと考えている。そんな事よりもダイ君やティファに血生臭い事を言わないで貰いたいものだ。無謀?この精霊の数の前で負けるのはそちらだ。」

「なん・・だと・・・」

「ハドラー様!!精霊達が・・」

 

 

傲岸不遜ともいえるノヴァの言葉に答えるかの如く、突如ドーム状の内部に数多の精霊達が姿を現した!

 

ハドラー達はダイ達と違い最初から精霊は見えていたが、これ程の数は寸前までおらず今や精霊達の包囲網に閉じ込めらてしまった。

 

「彼等は僕達とは異なる異界に棲んでいる。あの世とこの世を境を淡くし、精霊世界を異にせず。」

 

ノヴァはハドラー達の驚愕の顔から何に驚いているのかを的確に推察し答えた直後、精霊達に更に働きかける。

 

この言葉を知るのは精霊王の加護を持つ者だけであり、発せられた直後精霊達が加護を受けた物を全面的に助けてくれる合言葉。

 

「人の子何を望む?」

「あれは敵か?」

「凍らせるか?」

「凍らせて砕くか?」

 

数多の精霊達がクスクスと笑ってハドラー達を取り囲み-殲滅-のお伺いをノヴァに立てる。

 

「彼らの出方次第で。魔軍司令官ハドラー、僕はティファと違ってお前を評価しない。-塔-での騒ぎは確かにあの子に非があろうが、あの事態になる事を数百年も生きていて気付かなかった無能など評価するに値しない。」

 

ノヴァは吐き捨てる様にハドラーを詰る。

塔でアポロが暴走した一端がティファであっても、あの子はまだ世間知らずだ。

人間の弱さを、弱さゆえの醜さを、身勝手さを、残酷さを知らない可愛い子。

そして本当の憎悪を知らない子。

ティファは自分の大切な者達をー目の前ーで失った事はなかろう。

無力故に親・兄弟・などの家族を、友人・知人などの大切な人達を守ることも出来ずに殺されて奪われる事を・・一度でもあれば、アポロの傷に触り、激怒されることもなかっただろうに。

強者として奪われず、故にこそ守られているティファの優しさは時に自身も周りにも害ある猛毒なのだと知らない女の子。

 

だがハドラーは?彼こそあらゆる負の面を知っていて当然である筈の者が、ティファと同じに敵と暢気に話していたのだというからそれこそお話にもならない。

 

「そして今日のこの確約破り紛い。本来なら親衛隊達だけであればあの子が止めても殲滅したのだが、ティファと話さず疾く死の大地に帰れ。」

 

ティファ達のいる場所とは反対方向の氷を精霊達に音もなく崩し指し示す。

 

これは警告

 

まだティファと話す気なら、精霊達と共に刺し違えてでもハドラー諸共殲滅すると。

 

圧倒的な冷気が地面に蹲るブロック達をじわじわと凍らせていく。

 

数秒思考したハドラーがとった行動は

 

 

「ノヴァ!!開けてよノヴァ!!!」

「ティファ!手が!!」

「離してダイ兄!無茶だよ!!!開けてよノヴァ!!」

 

氷のドームを叩くティファの手が凍傷となりかかりダイが後ろから全力で抱え込んで止めている。

 

ノヴァが強いのは知っている!精霊王の加護があれば大抵の敵は・・・それでも超魔生物のハドラーには無茶だ!

 

ダイを振り切りろうとしたその矢先、ドームの反対側からルーラの光が見えた。

 

光の中に幽かに見えたのは、ティファの目にはハドラーの横顔がちらりとこちらを見た気がした。

 

真偽のほどは分からないが・・これで!!

 

ガラガラガラ

 

「ティファ~、手が酷い事になっているじゃないか。駄目だよほら出して。」

 

ハドラー達が去ってすぐ、ドームは崩れ中からいつもののんびりとした優しさをたたえたノヴァが出て来て、早々にティファの凍傷を治療する。

 

「駄目ってノヴァの事でしょう!心配したんだからね!!」

「大丈夫だよ。ただ単にお話しただけだからさ。」

「・・・・何の・・」

「うん?確約破り紛いはティファに免じて許すけど、まだぐずぐずいるつもりなら戦端開くって通告しただけ。」

「・・・ハドラー達帰るつもりだったと思うよ・・」

「ティファ、僕はここの警護責任があるから有耶無耶は困るんだよ。ダイ君も・・・怒ってるね・・・」

「当たり前だよノヴァ!!ティファも俺も・・・馬鹿!!!」

「はは、ごめんごめん。皆さんもご心配をおかけして・・・その今の事は出来れば父には・・」

「バウスン小父様にちくる・・・」

「ティファ⁉・・・焼き菓子上げるから・・・ね?」

「言う!!」

「困ったね・・・まぁいいか。早く戻って皆さんにも手伝っていただきたいことがあるのですが・・」

「承知した。」

「うむ、行こう。」

「手伝うけど無茶しないでね。」

「あはは・・」

「笑ってごまかさないでよノヴァ!!!」




今宵ここまで
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