ロン・ベルクから出来たての鎧の魔剣を受け取ったヒュンケルは、受け取ったままの姿で固まりもう五分近くたっている。
「ティファ・・・アメで釣る?」
「さっきから声かけてもこのままだしそうしようか・・・」
「・・・一日二粒許可出しますって言えば動くかも・・」
ダイ・ティファ・ポップが端っこの方でひそひそと作戦練り、ティファは恐る恐るアメの袋を取り出しヒュンケルの目の前に差し出し作戦決行!
「ヒュンケル、アメ一日二つ食べますか?」
大人達も固まったヒュンケルに呆れているが、ティファ達も何を馬鹿な作戦やっていると溜息つきかけたその瞬間・・
「食べていいのかティファ!!」
かっと目を見開きヒュンケルが覚醒した。
「・・・・魔剣戻ってきて嬉しいの分かりますが、そろそろ帰りましょう。」
「あ・・う・・・ロン・ベルク、その・・ありがとう。」
ティファに指摘され、ようやく現状に気が付いたヒュンケルはバツが悪くともきちんと礼をする。
槍も慣れて来ていたが、矢張り自分は剣士でいたい。父バルトスの様な剣士として、師から教わった剣術を忘れたくなかった。
「そこまで喜ばれたら鍛冶屋冥利に尽きるってもんだ。」
苦笑しながらも、これ程まで喜んでもらって悪い気がしないロン・ベルクは魔剣の説明をする。
「まぁ早さ重視したせいで前回の魔剣と機能は変わらん。だが素材をオリハルコンで作ったから厚みは可能な限り薄くし、前の三分の一は軽量化できた。魔槍の時と同じスピードで動けるところが利点だな。」
前のはあらゆる魔法無効化の為にそれなりの厚みを持たせたが、オリハルコンであれば材質自体が魔法を弾くので軽量化に成功した。
「有難い。敵の中には幾人か素早いのがいる。これなら捉えられよう。」
魔剣を受け取ったヒュンケルはラーハルトに向き直る。
「これでお前に魔槍が返せるな。」
「ああ、だが俺との約束まで返そうとはしまい?」
「あれを返すものか、安心しろ。」
長年の友の様に二人は笑う。
あの時、魔槍と共にラーハルトから受け取ったのは、ティファを守る約束。
バランとダイはティファが守ってくれる、そのティファを守ってほしいと託された大事な思いは、味方全員に宿っているのだから。
「なになに?ヒュンケルとラーハルト何か約束したの?」
「ディーノ様・・・いつかお話しましょう。」
「そうだな、今は内緒だ。」
「ええ~、今知りたいけどしょうがないな。」
「ダイ、男同士の約束ってやつだぜきっと。」
「そっか、いつか教えてね。」
「畏まりましたディーノ様。」
まさか当人目の前にいるのに教えられず、ラーハルトとヒュンケルは淡く笑いながら知りたがりのダイの頭をポンポン叩く。
穏やかな時間もそろそろ夕暮れを迎えて終わりに差し掛かる。
ガルーダとルーラで帰るダイ達を、ロン・ベルクはしばらく見つめて無事を祈る。
勝って全員帰って来い
穏やかの一日の終わりが差し掛かるが、ティファの周りはいつもあり得ないことが待っている
遅くなった。夕食くらいは作りたいけど、ナタリーさんが作って・・・・・え?
この気配!!!!まさか!
遅いな・・・まさか決戦休んでる時に出かけるとは。
サババ作戦砦の前で待ってもう一時間が経つ。
ティファを待っている人物は砦の者達、特にノヴァからの冷ややかな警告を受けても微動だにせず待っている。
精霊達も初手から姿を現し、この場の氷系呪文を唱えるもの全員に加護を与える気満々で、ノヴァの攻撃が始まらないか待っている。
ヒューン
バサリ
待っている人物の聴覚に幽かなルーラ音とガルーダの羽ばたく音を捉える。
ようやくのご帰還か・・・
間違いない!
「ガルーダ速度落として!父さん、ダイ兄、ポップ兄!ルーラからトベルーラに切り替えて!!ラーハルト!トベルーラ出来るなら今発動して!!ポップ兄ヒュンケル抱えて上げて!」
「な!・・・ツ!」
「いきなりどうしたティファ!!」
「なにか・・」
「・・・・・・・あり得ない人が来てる・・」
砦目前にしてティファは減速し、トベルーラに切り替えさせる。ホバーリングもできるガルーダと共に全員ゆっくりと進めさせれば案の定
「なんで今いるのさ!!」
「野郎!!ふざけてんのかよ!!」
兄二人が怒声を上げるのは無理ない・・・だって今いるのは・・・・・って!!
ズルリ
「ティファ!」
「あんの馬鹿!!」
「小娘!」
「ティファ!!」
下にいる人物をまじまじと見過ぎたティファは、動揺のあまりガルーダの背から滑り落ちた。
「-ティファ!!-」
ガルーダを含めた全員と、下にいたノヴァが、落ちるティファを受け止めようとしたその時
ダイ達よりも先にふわりとティファを包み込んだものがいた
下からティファの帰還を見ていた人物は、誰よりも先にティファの重心がガルーダからずれたのを見て取り即座に動いて受け止める事に成功し、ティファを抱えたまま地面に降り立ち、鬼の形相でうっかりものを怒鳴り上げる。
こ奴と戦う前に、何かあられてはとても困る!!自分に倒される前に死にそうな目に遭うな!!
「この戯け!!!死にたいのかお前は!うかつにもほどがあろう!!!」
言っている事は至極真っ当だが、お前にだけは言われたくないの大炎上が起こる前に、ティファ当人がぶちぎれた!
ゴン!!!
「こんの大馬鹿魔王!!!!」
抱き留めた人物の兜を取り外し地面に放り捨て、思いっきり頭突きをかまして怒鳴り返す。
「敵の司令官がのこのこアジトにくんな!!馬鹿なの阿呆なの斬って捨てられたいの⁉自殺願望あるなら今すぐそっ首斬り飛ばして差し上げますよ!!!」
「俺が好きでのこのこ来たと思っているのか!」
「好きだろうが嫌いだろうが非常識にもほどがある!!馬鹿でしょ貴方!!!」
「・・・・おっまえは!少しは年頃の娘らしい口がきけんのか⁉」
「毎度罵られる自分を反省して魔界の奥底に埋まって来なさい!!そのまま逝ってら非常識魔王ここに眠ると墓標位立てて差し上げますよ!!」
なんとそのまま口喧嘩始めてしまった。
戦うでも、キルの時の様に使者相手の礼儀正しくでもなく口喧嘩をしだしたティファに、生真面目で規律を重んじるノヴァとてもポカンとし、ハドラーが来ていて頭に血が上った兄二人どころか味方全員が唖然とする。
「決戦体調如何によっては休みして良いと言ったのはそちらでしょ!なんですか、言った後に撤回して夜襲掛けに単騎で来ましたか!!」
「誰がそんなせこくてみみっちい事なぞするか戯けが!!!お前達こそ休みの理由が本当かどうか確かめに来て良いと言っておきながら今更なんだ!!!」
はい⁉
ハドラーが放った最後の一言に、砦全体がフリーズ起こした。
待って待って!!
「ノヴァ!ダイ兄達も!!私無実だからね!!手紙には毒化の事と、遅行で後からなるかもしれないから休むとしか書いてないからね!!!」
ハドラーが言った事が、あたかも自分の書いた手紙の中に書かれているようにダイ達に疑われた視線を向けられたティファは、即座に否定する!!
これ全力否定しないと私の明日がない!!
「ハドラー!!一体どこからそんな・・・・そんな・・-パック・スクイ―ル-出ろ!!!」
バン!!
「アッテッテ・・・・おチビちゃん、なんで俺の真名知ってるのさ~。」
真名とは精霊が持つ-本当の名前-であり、家族の中でもごく一部の者しか知らない特別なもの。
知られれば今の様に強制的に呼び出されたり、下手をしたら死を命じられても拒否できず死んでしまう程、魂に直結している。
自分の真名は、マトリフにすら教えていないのに。
「どうでもいいでしょう、白状なさいパック・スクイ―ル。ハドラーに妙な事を吹き込んだのは貴方か。」
ティファの瞳も気配も冷たいものになるが、パックは畏れ入りもせずに肩をひょいとすくめ悪びれずに答える。
「そうだよ、その方が面白いからね~。おチビちゃんだってこの魔族を気に掛けているじゃないか~。感謝されこそすれ怒られる謂れはないよ。」
昨夜ハドラーの名前を切なげに呟いたティファを見ていたパックとしては、良い事した積りである。
パックからすれば恋心抱いた乙女の呟きにしか聞こえず、会えるように手配して上げたのに怒られては間尺に合わない。
「じゃ~ね~。」
手を振って、真名呼ばれて影響の出ない異界に逃げ込む。
「あ!!・・逃げられた・・・」
「・・・あの精霊に担がれたか・・」
元凶分かったが、それにしてもだ。
「だからと言って、のこのこ来る貴方も貴方です。」
「分かっている・・・・だが、どうしても直接詫びがしたくて来た。」
確かにあの精霊が言ったからといって、敵の軍司令官がして良い行為ではないのは百も承知だが、その言葉に縋らせてもらったのだ。
お外でそのまま詫び内容聞こうとしたら揃っておじさんに怒られた。
「ハドラー手前!いつまでティファを抱き上げてやがる!!消滅させるぞ!嬢ちゃんもいつまでそのままでいる積りだ!!!」
老いたりとは言え、当代随一の魔法使い・大魔導士マトリフの怒声が大気を震わせ、周囲もようやく我に返る。
無論ティファとハドラーも例外ではない。漸く周りには自分達以外がいるのを思い出し、ティファはハドラーから降り立ち兜を拾って投げ渡す。
「本当になんで貴方来ちゃったんですか。」
人間同士の戦では、決戦前に敵軍の使者が来る事は儘ある
「敵の軍司令官が来たのだ。それなりに持て成させて頂こう。」
騎士団の国として名を馳せるリンガイアの大将軍・バウスンの鶴の一言で、あり得ない事にハドラーは砦内部に招き入れられた。
脅され威嚇攻撃を受けても激せず、ティファ達が帰るまで静かに待っていたハドラーの為人を判断したバウスンは、さっさと聞いて用事を済ませた方がいいと判断したので、兵士達を引かせるために敢えて内部に誘い込んだ。
今ここに集う戦力であれば、いざとなればハドラーを討つのも視野に入れて。
まじまじと無言で周囲、特にバランの視線が一番強く感じたハドラーは鬱陶しくなり問いただす。
「何か言いたい事があるのならば口で言ったらどうだバラン!」
「・・・ハドラー、お前こそ私に言いたいことは無いのか?」
「は?特にないぞ。」
「お前の言った事全て無視した挙句に・・」
「ああその事か。」
ハドラーは今一階大広間の真ん中で椅子に腰かけ、その目の前に大きい横長の机があり、向い側にはバランとマトリフが陣取っている。
その周囲をダイ達が囲み、ガルダンディー、ボラホーンは外を、ラーハルトは室内の二階から見張っている。
そんな状況でもハドラーは何事もなくバランの疑問に答える。
「お前が昔会ったというとんでもない娘がティファだと分かった時点で俺はお前の事を諦めた。」
「戦う前から!!」
「ああ、言ったであろう。バーン様の許可が下りる前にお前の娘はとんでもない娘に育っていると。
その時点で七・八割諦めて、残りは何の奇跡が起きてダイ達の引き込みに成功するかと賭けたのだが案の定だ。想定通りになっただけの話だ・・・あれに関わったのだから諦めがつく。」
「つかないでくださいよそこは!!」
茶器を食堂から用意し終えて大広間に入ってきたティファが抗議の声を上げる。
「さっきから聞いていれば人の事をとんでもない娘呼ばわりして失礼にもほどがありますよ!!」
「ふん、そう評する以外あるまい。」
「もっと言い方というものがあるでしょう!途轍もない者とか、意思強き者とか。」
抗議のをしながらもお茶の用意をする手つきは優しく、程なく淹れ終わりマトリフとバラン、そしてハドラーにもきちんと出す。
敵だろうが何だろうが、持て成すからにはきちんとするのが料理人の流儀だ。
「さて、本当に貴方何しに来たんですかハドラー。」
今宵ここまで
今回の元凶は主人公ではなく精霊パックでした。
決戦時のフラグ立ての為に、ハドラーにお越しいただきました(;^_^A