明日の決戦で俺と戦うのはお前だティファ
「待っているぞ、死の大地にて。」
漸く己の願いを聞き届けたティファに満足したハドラーは、自身の言葉に呆気にとられ、呆然とするダイ達を尻目にそのまま出口から普通に出て行った。
ティファからの応えも聞かずに
待って・・・待って待って待って!!ハドラー今何て・・・明日の決戦はって!!
「ハドラー!!!」
バン!
漸くハドラーの言葉が届いたティファは、広場中央でまだ反応できていない兄達を押しのけ、閉ざされた扉を開きハドラーの後を追った。
森に続く道にハドラーの姿はなく、其れでも分かる!
きっとこの先に!!
走って、走り抜いて、森を抜けた先に・・・
「待ってハドラー!!!」
自分が来ることを予想していたように、砦の方を向いて佇むハドラーがいた。
矢張り追ってきたか。
「どうした?俺がお前の相手では役者不足か?」
この肉体になっても、大魔王バーン様どころかミストバーンに精々半分追いついたくらいだとは感じている。
自分が強くなればなるほど、あれの底知れなさを感じるとは皮肉なものだ。
弱かった時は強いとも思えなかったのだから気楽なものだと自分に苦笑する。
もしかしたらティファなら、ミストバーンすらも相手が出来るかもしれんが・・・
「違う!それは貴方の方だ!!
竜の騎士がいるんだよ⁉勇者がいるのにどうして⁉
約束だったら気にしなくていい!貴方が本当に戦いたい相手と戦うべきだ!!」
勇者支援を目標にしている私が言っている事はあらゆる意味で大問題だ。
明日の決戦の最大目標は大魔王バーン出会って魔王ハドラーではない。
なら兄や父達は温存するべきだ。
それでも、この人の人生の最後はこの者に敗れても悔いはないと思える人が相手するべき事だ!
今のハドラーは義理堅い。きっと、地底魔城の私の約束を果たそうと・・・
「・・・戯けが・・」
・・・戯け?
言葉と共に、ハドラーの手が頭の上に置かれる。
考え事をすると俯く癖で下を向いていて、ハドラーが近づくのが分からなかった。
上を見上げれば、さっきとは違う温かい光を宿したダークルビーの双眸と目が合った。
何を己を否定しているのだこの戯けは。言ってやらねば分からんのだろうか?
「俺が戦いたいのは、俺が命を燃やし尽くしても惜しくない相手は、竜の騎士ではなく、勇者ではなく、まして料理人ではない、三界一とんでもない娘ティファ、お前なのだ。」
「・・・・私?」
「そうだ、お前になら、お前ならば俺は敗れても文句はない。」
「っ!そんなの・・・・そんな事・・」
「明日は必ず俺の下に来てくれティファ。」
「ハドラー⁉」
ハドラーは兜を脱いで跪き、それでも自分より低いティファの顔の頬を両手で優しく包み込み自分を見上げさせる。
「お前でなければ駄目なのだ・・・」
焦燥感に駆られた切なげな声で、魔王ハドラーが懇願する。
自分の寿命は自身が一番わかる。
昨夜ミストから差し入れられた料理を食べた後、眠りについたが吐血した。それも今まで感じた事の無い胸に激痛を伴って。
持って数日・・・俺の命の灯火が消えるのに未練はない。
バーン様から頂いた肉体を捨ててでも、対等な力でぶつかりたいと願ったティファと戦えるえばそれ以外何を望もう。
この人は・・・自分の死期が近い事を知っている・・・知ってしまっている。
それでもまだ主の裏切りに気が付いていないこの人を・・・・
「いきます・・・・かならず・・・」
「そうか・・・・来てくれるか。」
「・・・はい・・・行きます。」
この人を憐れむのは間違っている。この人は主を敬愛したままの戦士として倒すべき人だ。
一つの思いが蘇る。この高潔な精神を有した魔王ハドラーだからこそ自分の手で倒したいと願った事を。
炎の灯火が僅かながらも胸に灯ったティファの瞳は、悲しみではなく生命力に溢れ、光を双眸に宿させる。
漆黒で満天の星空を宿した、死神すらも魅了したその瞳は魔王とても例外ではない。
今まで自分が見てきたティファの瞳の色は、敵愾心に煌めくか悲しみや戸惑い、疲れた様子で、穏やかに煌めき、年相応に可憐な少女に映った。
抱き上げれば軽く、顔も自分の片手で覆えるほど小さいこのティファと、戦いたいと望む自分はきっと壊れた者だ。
だがそれとても今更で止まる気はない。
「必ず来てくれよな。」
互いの吐息が触れ合い、唇が触れる寸前のギリギリまでハドラーはティファの顔に近づき約束を再び交わす。
今度こそティファの中に沁み込む様に。
ティファが押し黙ってしまい、返事を待とうとしたその時砦の方から焦る声や大勢の足音が聞こえた。
「・・・ファ!!」
「どこに!!!」
・・・・・・迎えが来たか・・・無理もないか。俺だとて配下の者が一人で訳も分からず飛び出されては血眼になって探しに行く。
ダイ達の声が近づく前に、ハドラーはキメラの翼で死の大地へと帰還する。
明日の決戦に備える為に。
・・・・ハドラー
一人残されたティファは五月蠅く鼓動する心臓を持て余し、顔に血が上るのすらが恥ずかしい。
・・口付け落とされるかと思った・・・
顔近づいた時のあのハドラーの表情は今まで一度も見た事がなかった。
あれが-大人の男-の顔なのだろうか・・・・・あの人と私が明日・・・・
「ティファ!!」
ビクリ!
「あ・・・」
気が付けばダイ達全員がそれって後ろにいた。それも凄まじい形相で。
何考えてる!!
ダイ達としては、今すぐ妹を怒鳴りつけて閉じ込める気でいる。この場には父もその配下もいる!ティファを閉じ込めるのに不足は・・・・
「クロコダイン、嬢ちゃんを砦の食堂まで運んでやってくれ。ナタリーばぁさん怒ってんだろうから一緒に謝ってやってくれや。チウは茶器もって一緒に行け。ほらぐずぐずすんな。いつまで外で屯ってんだよ。」
ダイの声が響き渡る前に、大魔導士マトリフの飄々とした声がその場を仕切り出しす。
「・・・分かった。ティファ来い。」
マトリフの言葉にクロコダインは直ぐに動きティファを抱き上げる。
今のダイ達の剣幕に後ずさりそうになったティファは、クロコダインの首筋に縋りつき目をつむる。
兄達の心配はもっともで、でも叱られるのが、更に言えば異端な考えだと否定されるのが怖くて、
クロコダインとマトリフの優しさに縋りつく。
「ティファさん、茶器持っていった後お手伝いしますね。食器並べるの手伝うくらいはできます。」
その後を追うチウも、いつもの通りにティファに優しく言葉を掛ける。
きっとティファさんなら勝てると信じて、あの約束を否定せずに。
全員が砦に戻りティファ達を地下の食堂に行かせた後、マトリフは直ぐに防音結界を張り、ダイ達に告げた。
「今からどんな物音立てても嬢ちゃん達には聞こえない。遠慮しなくていいぞ。」
この中にいる誰もが、ハドラーとティファの一騎打ちなど望むまい。果たして
バキン!!!
一番に動いたのはダイ達ではなく、父バランでもなく竜騎衆の長ラーハルトが、マトリフの言葉を聞くと同時に動き、ヒュンケルの頬を思いっきり殴りつけ吹っ飛んだヒュンケルの胸倉を容赦なくつかみ上げる。
ヒュンケルを見つめるラーハルトの双眸は狂気が宿ったように赤黒い炎が燻ぶっていた。
今宵ここまで
マトリフ導師の結界はダイ大の世界にあるかどうか分かりませんが、使わせていただきました。
次回でいよいよ休日編は終わり、前後編で決戦前に挑むそれぞれの心境を書いて
いよいよ決戦に行きます。
この場をお借りして
感想にてキングマキシマムの新情報を頂きました。
筆者は長年マキシマム=バーンの産んだ禁呪生命体だと思っていましたが、
最新情報では生きている駒・リビングピースという金属生命体のモンスターだそうです。
詳しくはドラゴンクエスト大辞典作ろぜ!!第三版Wikでマキシマムを検索したら出ました。
お知らせくださった度巣花弁様ありがとうございました。
今後も更新される新情報を調べながら、物語に組み込んでいきたいと思います。