勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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約定は、それぞれの胸に新たな決意を決めさせる


決戦行かずに突然の休日⑭

バラン様も含めて、俺達全員はあの方によって救われたのだ。

 

 

 

 

テラン戦の最中ティファの説得に応じず戦端を開き、一撃のもとにガルダンディーとボラホーンは敗れ去った。

 

死の間際でも、二人はティファに優しく笑って逝った・・・・心の中で済まないと謝りつつ。

 

二人を倒したティファは泣いていた。涙は流さず表情は冷たくとも心が泣いていた。

 

それでも止まるわけにはいかなかった。我ら迄もバラン様の成そうとした事、その根幹の思いを否定してしまっては、あのお方は本当に一人になってしまう。それだけはどうしても。

 

我等は命を持ってあの方に尽くすと決め進んできた。その思いをどうかバラン様に伝えて欲しい。

例え俺が死ぬことになっても。

 

身勝手で何処までも自分達本位でどうしよううもない思いを-小娘-に託して戦おうとした矢先にその男が現れた。

 

銀の髪に紫の瞳、手には俺と同じ魔装を持った元・軍団長ヒュンケルが。

 

 

小娘の様子のおかしさから俺達の戦闘の異常さを感じ取ったヒュンケルが、無言のまま俺の前に立ちふさがり鎧化をして小娘に代わる様に促す。

 

これ以上戦わないようにと。

 

 

これが氷の剣士ヒュンケルか・・・・この者も-小娘-に救われでもしたか・・・俺達と同じ様な痛みを抱え、なおかつ救われたものであるならば・・・あるいは。

 

 

「選べ小娘!お前は俺とまだ戦うか⁉それともバラン様の下に行くか!!」

「それは・・・それは・・」

「俺はその二人の様にはいかんぞ。ぐずぐずするのであれば、ディーノ様とお前が我らの下に来ることになる。バラン様はさぞ喜ぶであろう。」

 

 

笑って告げたが内心ではそれを止めて欲しいと願う。

そんな未来はきっと誰もが最後は傷つこう。

 

「・・・・私は・・・あの人を止めたい!!!」

「ふん、ならばさっさと行け。行ったところで結果は変わるまいが。」

 

最後の最後まで憎まれ口しか利けんのかと我ながら苦笑したものだ。

 

だがあの方は走る前に言ってくれたのだ。

 

「ありがとう、ラーハルトさん。」

 

泣き笑いの顔をして

 

 

 

 

「お前は・・・ティファを知っているのか。」

 

俺達の遣り取りで察するところを見ると、ただの武だけの者ではなさそうだ。ならば試させてもらおう。

 

あの方の仲間でいるに足る者かどうか・・・・我ながら小姑な気分だ。

 

結果は強く、そして優しかった

 

戦いながら俺は話した。-小娘-と俺達がどう出会い、どのような数奇な運命を辿ったか。

 

知ったあいつは小娘のように俺を止めようと試みてきた。

 

バランとお前だけでもティファと共に歩くべきだ、何故戦わなければならない!

 

だが言葉だけで俺が止まるはずもなかった

 

ではお前はどうなのだ!お前は言葉だけで止まることが出来たのか!!

 

果たしてその言葉にヒュンケルは苦しそうに顔を歪める。

 

きっとボロボロになるまで戦い抜いた筈だと分かっていた。あいつも俺達と同じく大罪を犯したのだから、言葉だけで止まるはずもないと。

 

だからあいつも最後は加減せず、俺の必殺の技をカウンターで返してきた。

 

敗けた、もう指も動かない俺をあいつは悲しそうな顔で近づいてきた。

 

「俺に、何かできる事はないか?」

 

まるで自分の方が負けたような情けない面で・・・あぁ、本当に世の中は広く酷い者ばかりではなかった。

 

俺達は何を見て生きてきた積りでいたのか、おかしくなる。

 

あの方はたった七つの頃にその事を知っていたというのに・・・

 

心配だ、俺たちの死がきっとあの方の心の傷になる。

 

「頼まれて・・・くれるか・・・」

 

俺の言葉に、ヒュンケルは沈痛な面持ちで頷いてくれた。

 

「バラン様とご子息のディーノ・・・お前達にとってはダイ様であったな。あのお二人はきっとティファ様が助けて下さる。」

 

優しい、敵になったと知っても俺達を最後まで見捨てようとしなかったあの方の心は今は・・・

 

「お前にはティファ様を守ってやって欲しい。」

 

あらゆる敵から、悲しみから、身も心も守ってほしい

 

「受け取ってくれ・・・・」

 

ヒュンケルの剣の魔装は俺のせいでボロボロだ。俺の代わりに槍の魔装と共にどうかティファ様を・・・・・・そう託したはずなのに!!!

 

 

 

 

 

「ヒュンケル貴様!!ティファ様とハドラーの件を知っていて何故御止めせなんだ!!優しいあの方が戦いに向かぬのはお前もよく知っているではないか!!!」

 

地底魔城の時は確かに敵の軍団長であっても、今はかけがえのない仲間ではないか!!

ティファ様の無謀な所は自分もよく知っている!その考えを改めさせる時間がヒュンケルにはあったはずだ。

 

「なのになぜ貴様は何もしなかった!!どころか何故ディーノ様達にティファ様の無謀な考えをお伝えさえしていないとはどういう積りだ!!」

 

優しく賢いあの方なれば、仲間の思いをくみ取り止められた筈なのに!この男はそれすらもしていなかった!!

 

「やめてラーハルト!!」

「やめろよ!!ヒュンケルが悪い訳じゃねえだろう!!」

 

 

ハドラーと約定したのはティファ自身、ならば責められるのはティファ自身であってヒュンケルではないはずだとダイとポップがラーハルトを止めようとするが止まらない。

 

「手を放せポップ!!ディーノ様、こればかりは許すことはできませぬ!」

 

激昂しヒュンケルの頬を加減なく殴り飛ばし、胸倉を掴み引き立てて迫るラーハルトをダイ達は必死に止めるが、仲間と主の子息の制止も振り切り、怒りの炎が冷めやらぬ瞳でヒュンケルに問いただす。

 

「なんの為に俺がお前に槍の魔装を託したと思っているのだ!!」

 

あの方を敵からだけではない、あらゆる事態から守ってほしいと命を賭して願ってあの約束をしたといのに・・・・選りにもよってハドラーとの決闘約束を許すとは!!

 

 

ヒュンケルだとてラーハルトの気持ちは痛いほど分かり、だからこそ拳を避けず今もされるがままになる。

ラーハルトは自分達と同じくティファを愛しみ守りたいと願ってやまないのだから。

 

分かっているからこそ何の弁解もせず、そんなヒュンケルにラーハルトは愛想が尽きたとばかりに手を放す。

 

 

「もういい、貴様を頼りにした俺の目が曇っていたというだけの話か。約束は忘れてもらって構わん。」

 

放り捨てる様にヒュンケルを離し、一顧だにせずに歩きだすが、道を塞ぐ者がいた。

 

「どこに行くんだよ。」

 

食堂への階段前に、マトリフが立っていた。

 

「知れた事、ティファ様の所だ。」

 

今からでも遅くはない!あの方を説得する!!

 

「今それをされると困るんだよ。」

「・・・・なんだと?貴様何を・・」

「ダイ達も聞け!今ティファを止めるな!!」

 

マトリフに続き、ヒュンケルまでもがティファを止めるなと言い出す始末。

 

 

「貴様達どう言う積りだ!!」

 

むざとティファ様を死地に立たせるというのか⁉邪魔をするというのなら斬り捨てでも!!

 

 

 

「ティファを本気で止めたければ明日の早朝だ!!」

 

その言葉に、殺気立ったラーハルトは訝し気にヒュンケルを振り返る。

マァムやエイミに手を貸してもらいながら立ち上がったヒュンケルの瞳は真剣そのものだった。

 

「何故明日なのだ?お前も止める積りならば今直ぐ俺と共に来い!!」

「それ言った瞬間嬢ちゃんに砦から逃げられたら困るんだよ。」

 

ラーハルトの熱い思いに、マトリフは冷水をかける。

 

ティファが真剣にハドラーとの決闘を受けた。最早言葉では止まるまい。

テラン戦でのラーハルト達がそうであったように。

 

外にはルーラよりも早い神獣ガルーダが待機している。ティファが望めばどこにでもいくガルーダに乗られてしまっては追いつける手立てがこちらにはない。

 

ティファは死の大地に何度か行っている。そしてハドラーからの情報で地下への入り口も先程知った。

逃げたティファをそこで張っていても、察知したティファが死の大地にてハドラーに決闘に来たと呼ばわれば、先程の様子からハドラーならば別の入り口からティファを中に入れる様が目に浮かぶ。

 

 

「マトリフ導師、明日ティファが眠っている間にラリホーマを掛けて欲しい。」

「・・・・・やっぱそれっきゃてがねぇか・・」

 

ヒュンケルのとんでもない頼みをマトリフは断らず、それしか手段がないかとぼやきながらも承諾する。

 

「ちょっと待てよ!!」

「なんという無体な事を!」

 

そのとんでもない話をガルダンディーとボラホーンが顔色を変えて止めに入った。

 

ティファがクロコダイン達と共に下に降りる辺りで見回りから戻り、アポロとエイミから大体の事情を聞いた二人はぶっ飛んだが、そこはあのティファ様の事だから有り得てしまうと頭を痛めている所にとんでもない提案が耳に入り待ったをかける。

 

「なんでガキ・・・・ティファ様と直接話し合わずにいきなりラリホーマで止めるなんて話になんだよ!それに逃げるって・・」

「バラン様、仮にティファ様がどうあっても戦うと言ってこの砦を出ようとしても、我等全員でお止めすれば・・・」

 

  

  「それが出来りゃぁ俺とヒュンケルだってここまで悩んでねえんだよ!!!!」

 

ガルダンディーとボラホーンの言い分に、マトリフは苛立ちと共に一喝する。そんな単純にいくような相手ではないのだティファは!!

 

「・・・・・ティファの持っている能力が分からない限り無理だ・・・」

 

一体どれほどの力を秘めているのか、他にどのような能力を持っているのか謎なのだティファは。

 

マトリフの一喝で静寂した場に、ぽつりとしたヒュンケルの言葉がやけに重くのしかかる。

仲間の能力が分からないというおかしな言葉であるはずなのに。

 

「謎って・・分からないって・・・それはガ・・・ティファ様が教えてくんねぇならディーノ様に聞けば済む話だろう。」

 

他が知らずとも、兄に聞けばいいというガルダンディーの言葉に、ダイは泣きたくなった。

 

「俺も・・・・知らないんだ・・・・分かんないんだよティファの事が!!」

 

堪え切れずにダイは叫び涙を流し始める。

 

兄なのに、妹の事が分からない!

 

鋼の剣の事は知っていたが、-雪白-という伝説級の武器の事をテラン戦のあの時まで全く知らなかった!武器一つとってもこれだ!それこそティファの高い知識力、実力、そして世に言う奇跡の薬、万能薬開発者の一員だと知ったのはここ最近で、全て大戦が始まってからだ。それも少しずつ知っていき、幾度-妹-を見失いそうになって不安になった事か分からない・・・島にいる時のティファは穏やかで優しい女の子だったのに。

ハドラーの時もそうだ!穏やかに話している時はまだよかった。ティファは敵味方を問わずに優しい子だから・・・・なのに戦いたいと自ら望むティファを自分は知らない!!

 

「ディーノよ・・・」

 

泣きながら胸の内を明かす息子を、バランはそっと抱き上げ背中を優しく叩き宥める。

自分もティファの何を知っていよう?何も知らぬ・・・・あの子の考え一つとても・・・

 

「ティファは・・・俺達の事なんでも知ってくれてるのに・・・・俺達は・・・ティファの事が分かんない・・・分かんないんだよ・・・」

「ダイ、それはここにいる全員がそうなのだ。お前だけのせいではない。」

「でもヒュンケル!俺はティファの兄なんだ・・・お兄ちゃんなんだよ!!」

 

ヒュンケルの言葉とても、ダイには何の慰めにはなりはしない。十二年間共にいた妹を分からない情けない兄なのだと。

これで妹を守る積りでいたのかと・・・

 

「ダイ、分からなくとも確実に止める手段を俺はずっと考えていた。ハドラーと戦わせるつもりは毛頭なかった。きっとティファは激怒するだろうがな。」

 

尊敬する敵のハドラーとの約定を破らされることは心に傷を負うかもしれない。

それでも・・・

 

「-今-ならばティファを戦場に出さなくとも安全の筈だ。」

 

明日の決戦時はティファをこの砦に留め置く。どんな事をしてでも。

 

 

「・・・・そっか!()()()がいなくなれば!!!」

 

ポップはヒュンケルの言わんとしている事が分かり得心がいった。

 

「そうだポップ、キルバーンがいないのならば戦場外であってもティファの安全は確保される。」

 

決戦時なれば、ハドラーと大魔王バーンは勇者一行全員を確実に葬り去る為に本拠地に居ようし、その時ミストバーンが大魔王バーンの側を離れる可能性はほぼゼロであろう。バーンの腹心故に。

 

読めなかったのはキルバーンの行動だけだった。神出鬼没でいつ空間から現れるか分からず、ノヴァに加護を授けているという精霊王も、リンガイアの地を離れる事は出来ず空間からの敵を察知する方法は皆無であったが、バランが倒してくれたと言われた時、神の加護を授かった気持ちに陥ったほどだ。

 

「そしたらヒュンケル!ティファを・・・・あの子をもう戦場に行かせなくても・・・」

「そうだマァム、一行の真ん中にいなくとも決戦時ならば今あげた理由で大丈夫だ。」

「・・・良かった・・・」

 

優しいティファをもう戦場に出さなくとも良いと、頼れる長兄が行ってくれたことに安堵したマァムはエイミと共に手を取り合いポロポロ泣き崩れる。

 

エイミもティファのした約定に胸が潰れる思いであり、反故になるがティファが戦わなくて済む事の方が大事であった。

 

「・・・ディーノよ、これ程ティファを案じていたのなら、なぜもっと早くに戦場からあの子を遠ざけなかった?」

 

しかもここでもキルバーンが一番に警戒されており、何故ミストバーンや大魔王バーンの名まで上がるのか・・・・まるでティファが全ての敵から狙い定めらている様に。

 

「・・・・長い話になるけどな・・・」

 

 

これを話さねばティファの取り巻く状況が分かるまいと、ポップが全て話した。

キルバーンはもういないので馬鹿げた賭けやそれまでの事は省いて。

 

-五年前-の出会いで起きた魔王軍の大混乱からその顛末までを。

 

 

「そんな・・・・俺達が起こした騒動のせいでティファ様が・・」

「それって俺達のせいじゃねえかよ!!」

「・・・なんということに・・・」

 

ティファの危機的状況の元凶たるは自分達ではないかと竜騎衆三人は呻く。

 

ティファとニーナ、そしてリュート村の子供達を知ってしまってからは人間を憎めなくなり、どころか人間の子供達を殺したと自慢気に言い放つ輩に腹が立ち誰かれ構わず殴り飛ばしたのに後悔はない。

 

ガルダンディーとニーナの出会いは最悪であったが、最後別れる時ニーナはルードの事を大切にして長生きしてほしいと願ってくれた。

別れた後も蘇ってからもニーナの事は片時も忘れず、今も身が案じられる。

 

ボラホーンとラーハルトも、リュート村の子供達を思わない日はなかったが!それがティファを危険に晒すことになるだなんて・・・

 

「それも明日で終わる。」

 

嘆く三人にヒュンケルの声が響く。

 

「明日俺達が勝てばいい、そうすればティファもテランの村の子達も・・・この世界全てが救われる。」

 

 

その通りだ・・

 

 

「そうだよ・・・俺達が勝てばいいんだよ!!」

「勝って、そしたらティファに謝魔ればいいんだよ!!」

「そうね、そうよね!勝ちましょう!!」

 

ヒュンケルの呼びかけに、ダイはバランから降りて力強く応え、ポップ達もそれに続く。

 

明日の決戦は勝たねばならない!!是が非であろうとも、この世界とティファを守り抜く為に!!




今宵ここまで

主人公が思う以上に、主人公は愛され守られようとしています。
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