勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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主人公のアイデンティティが一つ見つかります。
よろしくお願いします。



それが私の生きる道

「・・この歌って・・」しまった!!これってしょっちゅう母さんが歌ってくれてた歌だった・・当然父さん歌の出所知ってる・・アルキードの子守歌だって・・。

でも・・「この歌ってベンガーナやテランで結構子守の人やお母さんたちが歌ってるよ?」

おそらくアルキードの女性が他国に嫁いで自然とその土地に運ばれて根付いたものの一つ。そう考えると、アルキードは本当の意味で滅んだわけでないのかもしれない。

風習や考え方、嫁いで生き残った人々の中にまだ残っているのかな~。

・・とにかく「自然に覚えたんだよ。」これでいこう。

「・・そうか・・自然に・・」そうです・・ん・・あれ?

「「「バラン様・・・」」」父さんが笑ってる・・お日様みたいに・・温かい笑顔だ。

(嘘だろ⁉)(バラン様が・・)(それもたかだか・・)

 

          子供とは言え人間相手に・・

 

・・私もびっくりだけど・・三人も驚いてる・・無理ないか。

大戦始まったら人間全滅目論んでる父さんが―人間の子供―相手に微笑んだらそりゃ驚く。

・・雪か槍降んないといいけど・・。

「私そろそろ帰るね。」名残惜しいけど・・。

「娘よ。」・・行こうとしたら父さんに止められた。

「まだ何かある?」こっちはもう無いのに。

「さきほどそなたはあの鳥の男に何を言おうとした。」ああ、あれか。

「お礼の方法はお金や物じゃなくても、感謝の心を相手に伝えれば良いんだよって言おうとしたの。

普通大切な人を助けてもらったら相手がどんな人でもありがとうってお礼を言うでしょ?

その心が無かったから怒ったけど・・私も口が悪すぎてご免なさい、鳥のお兄さん。」

 

素直な娘だ。悪いと思えば怒った相手にもきちんと謝罪をする。

・・これはガルダンディーの完敗だな。心の度量はこの娘が上・・いっそ清々しい程に。

「クククッ・・」これ程笑ったのは久し振りだ。この娘は何とも面白い。

まるでビックリ箱のように次から次へと予想もしないものを見せてくれて、

何故か・・とても気になる子だ。

さて・・ガルダンディーはどうするかも見ものか・・怒るか・・別の事をするか・・。

ティファの言った事に対してガルダンディーは本気で悩み始める。

(・・人間のガキが・・でも・・ルード助けてくれたのは事実だ!どうしろってんだ!!お礼なんて・・言った事ねえ・・)

大嫌いな人間相手だが!高々ガキ相手に説教されっぱなしなのは・・もっと癪に障る!!

 

「おいガキ‼!」・・なんかガルダンディーの形相が鬼化してる・・

「あのよ・・」「・・はい・・」

「あのな!」「はい・・」なんなのよ!言いたい事はすっぱと言って!!

「・・・・あり・・がとな・・」うっわ・・すんごい小さい声・・。

でも顔真っ赤だし、ガルダンディーの中ではすんごい頑張って言ってくれた。

―殺したいほど嫌いな人間の子供―相手に・・ルード君の為に・・なら・・。

「はい!どういたしまして!!」このお礼の言葉で十分だ!

(なんて顔して笑ってんだこのガキ。さっきは俺の事ボコろうって顔してやがったのに。一体何なんだよこいつは。にんげんてのはもっと・・もっと・・)

あ、ガルダンディー今度は落ち込んでる。でもいいやもう帰ろう。

 

ティファは胸元から獣王の笛を取り出してガルーダを呼び寄せて帰ろうとしたが・・。

「娘よ!!」またもやバランに引き留められた。

(娘娘って・・今連呼されても嬉しくない!何なのよ父さんは!!)

「おひげのおじさん今度は何?私帰りたいってさっきから言ってるよ!」

何度も呼び止められてさしものティファも鬱陶しくなり少し邪険にする。

「・・おひげの・・」(この私をおひげのおじさん呼ばわりとは・・私を知らねば無理もない・・む!ガルダンディーとボラホーンは笑いをこらえて・・ラーハルトは・・)

ない・・む!ガルダンディーとボラホーンは笑いをこらえて・・ラーハルトは・・)

「小娘!!たかが人間風情がこの方に向かってなんと無礼な!!」

「だって誰だか知らないもん!!」

ラーハルトは子供と本気で口喧嘩をしそうになり、バランは子供相手にと少々ラーハルトに呆れるが、子供に聞かねばならない事がある。

「娘よ、その笛をどこで手に入れた。」あれは自分の同僚獣王クロコダインの物だ。

(・・しまった・・またやっちゃった・・)

ティファとしては歌と同じで笛もいつも使っているのでバランが笛の事を知っているかもしれないという用心を全くしておらず・・・つまるところ油断をしていたのだ。

(そうだ・・父さんとクロコダインて同僚だった・・獣王の笛知っててもおかしくない)

「・・私あちこち旅回りしてて、ロモスの迷いの森で薬草採りしてる時に見つけたの。」

嘘言ってもバレそうなのでティファは少しだけ本当のことを白状する。

「試しに吹いたら大きな鳥さんが来て、以来乗せてくれるけどこの笛おじさんの?」

(知らない振りするのって疲れる・・。)

「私のではないが、その笛を知り合いがずっと探している。」

「・・そっか・・それじゃあ返さないといけないね。おじさんが返してくれる?」

「ああ、必ず返そう」

バランは竜から降りて、手ずから笛を受けとり約束をする。

(本当に良き子だ)一瞬でも、人への憎しみを忘れさせる子の顔を見ようと。

だがこの顔は何処か暗い顔をしている。「どうした娘。」何を落ち込んで・・。

「あのね・・乗せてくれる鳥さんと約束したの。

その笛を吹かないと乗せてくれないってもう鳥さんに乗れないって思うと、・・残念だ」

「そなたその鳥の言っていることが分かるのか?」「うん、だから約束したんだよ。」

ガルダンディーのルードの事といい・・その鳥はおそらく大型モンスターだろうが・・

何故モンスターの言葉が分かるのか不思議な子だ・・しかし悪い子ではない。

現にがっかりとしても笛をきちんと渡してくれている。

人間の悪しき心に染まっていない・・人間には勿体ない子だ。

 

          -ギャーッ―バサリ

 

あ~父さんと話し込んでたらガルーダ来てくれた。「こっちこっちい!」

手をぶんぶん振り回して居場所を教える。・・今日で最後か。

「来てくれてありがとうガルーダ。実はね・・」

笛の持ち主の事を全部話して、今日だけ乗せてもらうことを頼んでみた。

駄目なら空飛ぶ靴で帰ればいいかなと考えてたら「-構わんー」乗せてくれるって・・

「-この先もずっと我に乗ってろ。笛が無くてももはや構わん―」しかもずっとて!!!

「やったー!ありがとうガルーダ!!大好き!!!」もうすりすりしちゃう。

「-・・ふん・・-」赤くなって照れてる・・一生よろしくだ。

誠意伝わって、本当のお友達になれてとても嬉しい。

「おいガキ!!」「ふあ・・・」喜んでたら・・ガルダンディーが水差してきた。

「何鳥のお兄さん。」

「手前その鳥何だか知ってて乗ってんのかよあ⁉」「・・ガルーダ・・だよね」

「ああそうだ!だがな・・そんじょそこらのとは訳がちげえ・・背中に紅い羽根・・。

そいつは神獣だぞ!!分かってんのか!」

そうか、鳥人のガルダンディーにとっては鳥のモンスターとはいえ、神獣クラスになると敬う対象なのか。

 

「んと・・来てくれて・・二時間近く背中にしがみついて頼んだら乗ってもいいって言ってくれたの。」

「はー⁉ばかいってんじゃねえ!!」

(このガキ本当に何なんだ⁉神獣クラスガルーダにとっちゃ人間なんて餌かそれ以下のはずが・・何でのれるんだよ!!おかしいだろ!!)

ティファの答えにガルダンディーは納得がいかずに心の中で突っ込む。

滅茶苦茶なティファを見ていると、モンスターと話せることなぞ些事に思えるほどだ。

普通の人間の子供が二時間も大型鳥獣モンスターの背にしがみつくってない!!!

「おい小娘。」

普段仲間以外に話をしないラーハルトも気になってティファに話しかける。

「お前実は半魔か?」人の子らしくないティファに問いただす。

半魔は魔族の容姿に赤い人間の血が流れているが・・この娘は・・もしかしたら魔法かアイテムで容姿を誤魔化しているのかもしれないと・・魔族ならば容姿が変わっても気配で分かるがこの娘からは人の気配しかしないので半魔かと・・自分と同じかと・・。

アイテムで容姿を誤魔化しているのかもしれないと・・魔族ならば容姿が変わっても気配で分かるがこの娘からは人の気配しかしないので半魔かと・・自分と同じかと・・。

(お・・やっぱそう思うよな・・このガキぜってえ人間じゃねえだろ。)

ティファ以外はラーハルトの言う事に納得したが・・ティファは心の中でショックを受けた。

・・まさかそんな目で見られるとは思わずに・・しかし返答は・・。

「分かんない。私の両親誰だか知らないから。気が付いた時にはもう二人共いなかった」

自分は何者だか知らないときちんと返す。「そうか・・。」

今の時代では珍しくも無いと受け取ったラーハルトに対しティファはさらに答えた。

 

      「でも、私が何者でも別にいいから気にしたことない。」

 

「・・何だと・・」・・ラーハルトは今の答えに納得してないか・・。

「えっと・・私が何者であるかよりも、何をするかの方が大事なんだと思うよ。」

つまるところ血より育ちって・・分かってくれるかな・・。

「下らんな・・綺麗ごとだ。」・・駄目か・・ラーハルトの顔が冷たくなってる。

「そうかな?」「ああそうだ!!そんな戯言が人間に通じるものか!!」

(やはり小娘は小娘か・・そんな綺麗ごとが通るはずがない!世間を知れば嫌でも分かるこの世界がどれほど醜い人間で溢れかえっているのかを!!)

「・・優しい人もいるよ。それに私はしたいようにする。

この世界がどんな世界であっても私は私だよ。他の人じゃないもの。」

「・・綺麗ごとなぞ潰されるぞ・・」「そうならない様に色々強くなるよ。」

「・・迫害をされても言えるのか?」「いい人もたくさんいるはずだよ。」

(何なのだこの娘は!!なぜこうも世界を信じられる!!なぜ俺の言葉を聞いても平然としていられる・・まるで・・あの人のように・・)

 

自分の言葉を聞いても揺らがぬティファを見て、ラーハルトは亡き母を思い出した。

魔族と結ばれた事で、同族の人から迫害をされても、死の間際にも優しい人間はいると自分に言い残して逝ってしまった優しい母の面影をティファに見て動揺をする。

(ラーハルトが揺れている・・止めねば・・)

いかに人間よりも強くとも、心はまだ未熟。

バランはこれ以上ラーハルトが動揺しないよう、帰宅を促した。「娘よ、帰るがいい。」

散々引き留めたのはこちらで勝手は承知だが、二人を引き離す。

「うん、分かった。さようなら~。」バサリ

・・行ってしまった・・様々な思いを自分達に残して・・。

 

・・私は私・・か・・そうなれるように・・努力しよう。

飛び去ったティファ自身も、選んだ生きる道の一つを考えつつ帰路に着くのだった。

 




次回また三人組が出ます。
ありがとうございました。

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