夜が明ける。決戦に行く者、見送る者、戦いを知らない者達に平等に朝は訪れる。
これから地上界の全てが決すると言っても過言ではない日においても、太陽は何食わぬ顔でいつも通りに昇り地上全てを照らしていく。
「本当に・・・ティファさんを置いて行くんですね・・」
「チウ・・・分かってくれ。あいつの為にはそうした方がいいんだよ。」
「チウよ、俺とてあの願いをかなえてやりたい気持ちに偽りはない・・・されど皆の意見にも一理あると得心してしまった・・・・後でみんなで謝ろう・・」
死の大地に赴く一行の顔は何処か浮かない。
敗けるかもしれないとは誰も考えていない。どのような事になっても這いずってでも戦い抜き勝つ積りでいる
浮かない理由はこの戦いの最初から一行にいて、常に中心にいた料理人のティファを強制的にこの砦に置いていく事への後ろめたさから。
言葉で説得したのではない、眠っている間に大魔導士マトリフがラリホーマを掛けての事。ティファとハドラーを戦わせない為と、チウとクロコダインはその事を今朝突然聞かされた。
「あいつは置いていく。ラリホーマを掛けて。」
ポップが辛そうに二人に告げた時、案の定二人は大反対をした。
「ティファの心情を無視するのか!あれ程の葛藤の果てに俺達に明かしてくれた思いを潰すというのか!!」
「ティファさんなら勝てます!本当に危ない時はダイ君とバランさんがいるじゃありませんか!!」
ティファの心情を第一に考え望みを言わせたのはクロコダイン。あの時のティファは自分達の思いを汲み取り偽りを口にしようとしたのを、止めた果てに告げられた思いを踏みにじらせたくなどないと激高し、チウもティファならばと信じてティファを止めようとはしなかった。
マトリフは二人の考えを分かっていたからこそ、昨夜この策謀相談の時わざと席を外させた。その思惑はどうやら当たり、案の定二人は猛反対する。
だがティファの心も大事だが命こそが、生きている事こそが第一ではないか。
仮にティファが勝ったその時は、大魔王から一番に狙われる可能性がぐんと高まり死亡率の桁が跳ね上がるのは必定。
戦場から逃がそうとしても、ハドラーがデルムリン島で言っていた魔界の神とまで呼ばれている大魔王バーンが逃がしてくれるはずもない。
「分かってくれ、嬢ちゃんの為なんだ・・」
これまでずっとティファの事を、それこそ心身全てを守らんとしてきたマトリフの辛そうな顔が全てを物語っていた。
ティファ自身に恨まれ憎まれ拒絶され絶縁されようとも、もしかしたら心が壊れるかもしれなくとも、生きていればなんとでも持ち直される。その時例え恨まれたままでもいい。
あの子がこの世界のどこかで生きていてくれればそれで自分にとっては十分なのだと。
「・・・・・どうしても駄目なのだな・・」
「うん・・・俺もティファにを戦わせたくない・・・・嫌われてもいいから!もうこれ以上危険な目に遭わせたくないんだ!!・・・・・ごめんよティファ・・」
「ダイお前も・・・・そうか、分かった。」
「クロコダインさん⁉」
「チウよ・・・・致し方ない・・・・ティファを置いてゆく。」
「そんな!そんな事って・・・・あんまりです!ティファさんが可哀そうです!!」
クロコダインは全て飲み込みティファを置いていく決意をしたが、チウは納得できずに泣いてその案を拒絶する。
強く頼りになり、それゆえに今まで周りから頼りにされていながら自身の望みを何一つとして言わなかったティファのたった一つの思いを潰されることが許せずに。
「おっさんありがとう。チウ、俺達絶対に勝って全員戻ってくる。その時ティファに謝ろう・・・許してくれなくても、拒絶されても俺もあいつを戦わせたくねぇ。」
ポップも次第に涙ぐむ。チウの言っている事は正しい。ティファの思いを踏みにじっているのは百も承知で、それでも願うのがいかに自分勝手かも分かっているだけに辛いのは一行も味方も全員同じで。
ポップの言葉にチウは俯いていた顔を上げ仲間と砦入り口で見送る者達の顔を始めてしっかりと見た。
ダイ達も、ここに残って万が一目覚めたティファを押し止める役を任された竜騎衆とノヴァもうっすらと涙が滲んでいる。
それ程までに昨日ティファが葛藤の果てに望んだ事を踏みにじる事への罪悪感の重みがある事か・・
誰も心からこんな事を望んでいないいんだ・・・
チウも馬鹿ではない、皆同じなのだ。あの大人の様なそれでいて脆いティファを守りたいと望み、間違った方法であると承知してもそれでもこの方法を採ったのだと。
それは日が昇る前の話し合いであり、チウも説得し眠るティファにラリホーマを掛け、一番気配を消すことに長けたラーハルトが中でティファを見張っており、他の者達はダイ達を見送った後、万が一魔王軍がティファ相手に刺客を差し向けても対処できるように配置される。
決戦時である時に敵がそんな事を仕掛けるとは-普通-は思わないだろうが、ティファの事に関してはそれは適応外。
ティファの周りで起こった事象は、全て普通では考えられない事ばかりであったのだから無理もない。
砦の外をガルダンディーとルードが哨戒し、入口をノヴァとボラホーンが見張り、中から入口に通じる広間にマトリフが座って陣取る。
ティファが目を覚ましラーハルトを突破した時の保険として。
他の出入り口には精霊が見張り、どこから出ようとしても止めてその間にノヴァに知らせる手筈も整えている。
「行ってくる!!」
「娘を頼みます。」
ダイとバランの声を合図に砦入り口の前の者達は小声で、他に配置している者達は無言で剣を抜剣し大きく振る。
歓声でティファの目が覚めないように。
ダイとバランが海底の魔宮の門を破壊し、ポップ、マァム、ヒュンケル、クロコダインが地上の様同部隊。
ヒュンケルは早々に剣の魔装を鎧化し身に纏っている。
向こうで待ち伏せされてもすぐさま対応できるように。
ポップも師・マトリフから渡された万能薬をそれぞれに渡し、全員がポーチの中に入れて準備万端にする。
効能一種類につき一瓶ずつ渡され、回復魔法を使うマァムと、魔法使いポップは魔力回復薬を、闘気系を主に使うダイ・バラン・ヒュンケル・クロコダインは闘気力回復薬を二瓶ずつ追加される。
戦いながらも薬を飲む特訓は嫌という程してきて最早自然と出来る程になっている。
この薬はティファとマトリフが昨日の内に用意しておいた物。
マトリフとしてはそれだけで足りるかまだ不安があるが言っても詮無く、自分のこの老体では付いていくことも出来ないのだから、後はダイ達を信じて無事を祈るのみ。
一方は海底に、もう一方は死の大地に二手に分かれたルーラの光が見えなくなり、手筈通りそれぞれの配置につく。
ここで一つの謎が、戦場に行った者達と残った者達全員に残っている。時間となり仕方なくその詮索を諦め決戦へと向かったがその事に不安を覚える。
昨日の深夜には砦の尖塔にとまってティファを脅かす輩が来ないか見張り、いつティファに呼ばれてもいいように待機し、常にティファの側近くにいた神獣ガルーダの姿が、クロコダイン達同様説得しようとして
ティファは確かに砦の寝室で眠っているというのに。
今宵ここまで