若い魔族の青年
それが-ミストバーン-の素顔。
今までミストバーンは大魔王バーン・キルバーン同様軍の中では謎に包まれた者であった。
前者二人はそもそも人前に出る事無く当然の話で、ミストは参謀として現場に幾度も出て来ても寡黙で怜悧冷徹な態度に、誰も好んで話さず外見の姿が分かっているだけで、衣の中を見た物が誰もいなかったからだ。それこそ同僚のハドラー・バラン、元とは言え弟子であったヒュンケルとても。
その顔は冷たさを感じるが見る者に静謐を与える美しさがそこにはあった。
衣の封印を解く時のあの圧倒的な威圧感が嘘の様に。
ミストは衣を脱ぐのに宝石付きの前止めを取り外すのではなく、真っ二つに割った。
その時に発せれられた威圧感だけでダイ達は圧倒されかける程であったが、衣が取れると同時にその気配は凪いでいた。
丸で元からそのような力はなかったと言わんばかりに。
だが真の強者とはそのようなものかもしれない。内に秘め込み、必要な時に必要な力を取り出し、無駄な力を一切排する事が出来ている者こそが一流の強者とは言えないだろうか。
もっともミストの場合は、主の若き頃の強靭な肉体を-凍れる時の秘法-でピークを保つために、そして主がそれ以上歳をとらず、不死紛いになる為に封印をしている肉体に入って番人をしているにすぎないのだが。
それでもバーンほどでなくともミストは今までこの肉体を主と親友以外に晒した時、その二人以外はすべて消し去ってきた自負があり、魔力を練り上げティファの持つ黒の核晶に注ぎ込む。
白い閃光が迸り、黒の核晶の起爆が作動し始める。
一瞬の静寂後、何もかもを揺るがす大鳴動が一切の物を襲う。それは破滅への序曲なのだろうか?
「申し上げます!死の大地もこのサババ同様鳴動しています!!まるで活火山が今にも噴火するかのように!!」
黒の核晶の起爆から数瞬後、ノヴァたちがいるサババの、それも奥にある砦までも揺るがし、何事かが死の大地に起きたと直感が働いたノヴァがトベルーラで偵察すれば・・・
「あ・・・あ・・なんてことに・・・」
死の大地は大鳴動し、近隣の海のモンスター達も必死に逃げているではないか!幸いにもこの辺りに航海している船はなく安堵したが、まるで地獄の蓋が開かんとする光景に、さしものノヴァも顔を青褪めさせ、父バウスンとレオナ姫達に報告にすぐに戻った。
これは・・・・
広間でも多々事ではない気配にレオナを中心とし、バウスンとアキームがノヴァを筆頭として救援対策を講じるべきか話している。
ボラホーンもバランとダイの身を案じ今直ぐにでも飛び出したいが、ティファを残していけないと必死に留まっている。
「マトリフ様、死の大地の異変はダイ君達が・・」
「分からねぇ・・・・だがいい予感は確かにしねぇな。さっきからとんでもない気配が・・・」
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
レオナが頼ったマトリフも、こんな大鳴動は初めてだと表情が厳しくなった矢先、メルルが悲鳴を上げながら蹲り、何事かとエイミが駆け寄り支える。
「メルルさん!!」
「あ・・・、消えてしまう・・・・・怖ろしい邪悪な力が皆さんを消してしまおうとしてます!!!!」
黒く禍々しい物が光と共に弾けた時!ダイ達が消えてしまうヴィジョンをメルルは見てしまった!
だがその直後
メルルさん落ち着いて
「・・・・ティファさん?」
春風の様に暖かく優しいティファの声がした。
いつもの様に・・・・困りごとがあればいつでもティファさんが解決してくれた・・・・
ティファの声に導かれるようにメルルの震えは止まり、顔を上げる。
確かに今ティファさんの声が・・・
「マトリフ様!!」
メルルは揺れをものともせずにマトリフに駆けよった。
「ティファさんは本当にこの砦で眠っているのですか⁉」
血相を変えながらとんでもない質問をするメルルの後に、ノヴァも同じことをマトリフに聞いてきた!
「実は僕も疑問なのです。先程ティファの心が斬り裂かれるような悲しみを受けたのを感じたのです!眠っているだけならば感じる事の無い痛みを・・・あそこに眠っているのは本当にティファなのですか!?」
大地の鳴動と、迫り始める危機的な気配よりも二人はティファの所在の方が大事であった。
「お前達・・・俺は確かに嬢ちゃんにラリホーマを掛けたぞ!アレは確かに・・・」
「そのお話は移動しながらでもよろしいでしょうか皆様。」
二人に詰め寄られ珍しくたじろぐマトリフの後ろから女性の声がした。その声は凛としており、命じる事に慣れた王の声であった。
「・・・・貴女は・・」
「フローラじゃねえかよ!!」
広間に入ってきたのは長い髪を後ろで縛り、軍服に身を包んだカール女王フローラであった。
レオナはフローラと幾度か手紙の遣り取りをしていたが、生死すら知らなかったマトリフは驚きを隠せなかった。
あの竜の軍団の中よくぞ生きていてくれたと。
今起きている決戦とこの砦の事、は随分前から連絡を取り合っているパプニカ王達から聞かされており、異変が起こる前から決戦で何があってもいいようにとフローラとそれに付き従うカール騎士団が移動してきていた。
それは何かの采配の様に、導かれるように
「お久しぶりですマトリフ様。ハドラー大戦終結直後以来ですが、今は一刻も早くこの場をお立ち退きを!私どもの隠れ砦の用意がありますのでそちらに・・・」
「それは困りますよ女王陛下。」
その声を更に遮った者がいた。広間から寝室の二階へと続く階段から降りてきたのは、白い寝間着を着た-ティファ-であった!!
「-主-からの命令を果たさせて頂く為にも、全員何があろうとこの砦からお出に・・・いえ失礼しました。全員ではなく、レオナ姫様、バウスン将軍、フローラ女王陛下と-ノヴァ様-と-マトリフ様-にはいてくだされなければ困ります。
後は皆様女王陛下の配下の方にカール南西の森にある隠し砦に行っていただいても構いま・・・・」
ズバン!!
「貴様・・・何者だ!!ティファ様をどうした!!!」
二階から槍をふるい降り立ったラーハルトは-ティファの様なもの-に殺気を叩きつけ問いただす!
大地の鳴動と共に-起きたこれ-に反応しきれず固まってしまったが、容赦はせん!!
「・・・・・もう起きる時間ですか・・」
何の気配の前触れもなく突如として起きた-ティファ-に、ラーハルトは恥じ入りながらも謝罪から始めようとしたのを-右手-を上げて止められた。
「ティファ様は誰も恨んでいません。-ラーハルト様-もお気になされず。」
声も容姿も確かにティファなのに!自分が知っている-小娘-とまるで違う者が外に出るのを許してしまった!!
「落ち着いてくださいラーハルト様。私は生き物ではありません、式神と申します。詳しくは-私-に書かれておりますれば。この鳴動は直ぐに主が収めましょう。皆様はさらにこの後の異変に対処してください。では」 ポン
自身を生き物ではないと言い、-しきがみ-と言う聞いた事など無い名称を名乗った者が、突如として紙の束になった!!
誰よりも早くマトリフがその紙の束をつかみ取った。こんなくそ忙しい時に罠の確認なんかしてらんねぇ!罠なら躱すか壊す!!
ティファとおんなじ声でマトリフ様と言われたのが余程癇に障ったのか、それとも嫌な予感に駆られたのか・・・
そこに書かれていたのは・・・・
「まさかミストバーン!!貴様が・・・貴様こそが真の・・・」
「・・・・無駄なお喋りは不要だバラン。地獄に行く貴様達が知ってなんになる。」
黒の核晶を起動させられるのはバーンのみ!それをミストバーンがしたという事は、ミストはバーンという事に他ならないとバランは真実に辿りついたが、ミストの言う通り、黒の核晶を起動が始まってしまった今!その事に何の意味があろう!!
「ティファ!!!それを早く私に渡しなさい!!!」
黒の核晶とてすぐに大爆発する訳ではない。超破壊兵器故に溜を必要としいくばくかの時間た確かにある!今ならば自分が竜魔人となり、ドルオーラで相殺させる!!
自分の命と引き換えになる事に何の躊躇いも無く、バランはティファから黒の核晶を取り上げようとしたが、ティファの右手で打ち据えられた!
「貴方の言う通りだミストバーン。地獄へ行く貴方のお喋りなど何の意味もない。」
それまで俯き黙っていたティファが突如として喋り出した。砦に残してきた式神に念話で指示し終えたティファは、キングマキシマムに向けたあの冷たい瞳をミストに向ける。
「貴方を尊敬に値する敵だと思ったのですが見立て違いでしたか。残念です。
しかし-逃がさない-のは貴方ではなく私の方なのですよ
冷たい瞳に渦巻く怒りがティファの全身を支配しつくす。それはハドラーとの戦いを邪魔されたからではない、ハドラーを駒と使った主の命に唯々諾々と従い、先程の嘆きをハドラーから言わせたミストが許せない!許すものか!!
その怒りは冷気を伴いこんな異変の最中であってもダイ達を縛り付け口を差し挟むことを許さない。
ミストはそんな気配よりも、キルが一向に動かない事に訝しむ。予定ではもうとっくにティファだけを主の前に引き入れ、黒の核晶だけを残し自分も帰還する筈だ。
キルは・・・やはり主の命を受けない事にしたのだろうか?・・・・それを困りごとではなくどこかホッとする自分がいる・・・・キルには策略を嫌ったままでいて欲しい。
こんな汚れ仕事は自分がしてきた事ではないか。
ハドラー、恨むならば起動させた私を恨め。
キルの代わりにティファを攫う為に、バランを目印としティファの側にリリルーラの座標を合わせたが
?・・・何故だ・・・
移動できず、もう一度試みるも発動しない。ならば主と親友の下に一度向かおうとしたが、何か目に見えない壁に阻まれた!!
それはキルも同じであった。ピロロに自我を乗っ取られ為す術もなく策略をさせられているキルは、それでもしぶとく育てた自我を守り抜き、開かない空間に苛立ち次第に焦り始める。
このままでは・・・
キルは突如として広間へと続く通路への扉に向かって走りだし、開けようとしたびくともしなかった!溶岩系の罠で溶かそうとしたが、其れすらも発動しない!!
「そんな!バーン様!!開きません、空間はおろか扉さえも!!!これではミストが死んでしまいます!!黒の核晶を止めて下さい!」
親友の危機に自我を乗っ取り返したキルは、バーンの下に走りながら懇願をする!
ハドラーだけではなく、このままではミストをも喪ってしまってもいいのかと。
「・・・・今、余も試したが止められぬ!何かが・・・見えない壁に阻まれておる。」
「そんな!!」
逃げてミスト!お嬢ちゃんもハドラー君も大事だが!親友の君を喪うなんて僕には耐えられない!!
キルの嘆き、バーンの焦りを受けたが如くミストもまた焦り絶叫する。
「一体何をしたのだ小娘!!!」
仕組みは分からない!だが、この不可思議な現象の元凶は間違いなくティファだと確信を持って。
無いところから正答を出したミストにも、矢張りティファの瞳は冷たいままで、だがそれとは裏腹に燃え盛る炎のような苛烈な答えが返された。
「言ったはずだ!!この決闘を邪魔する者は、横槍を入れるものあらば塵も残さず消滅させると!
その道を選んだのはお前だ!!私は許さない!!ハドラーの高潔な魂を傷つけ嘆かせたお前を決して許すものか!!!」
常の敬語も相手に対する呼び方すらも変え果てたティファの口調からその怒りの度合いがいかに凄まじく深いか分かる。
「私は一行の者達に伝えた!勝たねばならない戦において、罠や策略は致し方がないと!だがこれは違う!!慕う相手の思いを利用し尊厳を踏みにじり、駒とし魂を穢したお前達は謀略者だ!!
私はな!そんなものが嫌いだ!!虫唾が奔り消してしまいたい程に!!!綺麗事だと笑うか?
世の大変さを、生きる事の難しさを知らぬ子どもの戯言と言いたいか⁉それでも構わん!
私は私の思う通り!偽りを言わず宣告した事は果たさせてもらう!!」
策略以下の謀略・・・・私は・・違う!!全ては主の、ひいては滅びの道を辿らんとしている魔界の為に!!
だが、本当にハドラーを駒とする意味があったのだろうか・・・自分がハドラーを戻しながら前線に出て、キルと二人でティファ達と戦う事を主に強く進言していれば道は違ったのだろうか?
ティファの魂の叫びともいえる慟哭は、ミストの心の奥にまで届いた・・・届いてしまったが故にミストを罪悪感という鎖に縛り付ける
その隙をティファは見逃さはず無く、黒の核晶をミストに投げる。ガン=フレアの
ガン=フレア 黒の核晶すら暴発させる事無く一瞬のうちに塵にしてしまう怖ろしい技。
この技は発動の前準備として-空間-を封鎖する。それは自分やキルや、リリルーラで使用される亜空間から、扉・窓・穴など-外-に通じる現実空間の物全ても対象になる。
得物を逃がさない為に、ガン=フレアの前段階発動ともいえよう。相手を確実に閉じ込めた後黒の核晶同様本領発揮するには少しばかりの時間が必要だが、黒の核晶よりも僅かにガン=フレアの方が早く発動条件が整った。
「報いを受けて消えるがいい!!
黒の核晶の白き閃光すらも飲み込む炎が一瞬見えたかに思えたが、何の音もせずに消え果た。
鳴動も鳴りやみミストも黒の核晶も消え果てた、炎に飲み込まれたが如くに
本来ならガン=フレアが消せる対象は一種類だけと定められている。
だがティファは、ミストが来た時対処せずに黒の核晶を起爆させるに任せた。それを止める手立てはあったが、黒の核晶諸共ミストを消す為に。
黒の核晶にミスト、というよりはミストが操作しているバーンの若い肉体が放つ魔力を黒の核晶に纏わせる事で、あたかも
優れていると言え知恵のあるわけでもない技が誤認するには十分な魔法量を纏った黒の核晶を、ティファの言葉に心を抉られたミストは、懐に黒の核晶を受ける事で、ガン=フレアは核晶とミストを混同し、そのまま諸共に消滅させたのだ。
この結末はミストが来なければ起きなかった事・・・・彼自身が選んだ滅びの道だ
今宵ここまで