勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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死神の怒りは何よりも深く、罪悪感もまた同じく


死神と影

この人は皆が言う程酷い人じゃない。チウ君もメルルさんもそう思っている。

 

だってこの人が変な事言うのは私だけ。他の人にはきちんと礼儀正しい、字も流暢で身のこなしも軽やかで優雅で、そして優しい。

 

ロモスの迷いの森で出会った時からそれは感じていた。ロカさん宅から出てきた私の事は間違いなく勇者一行の者かその関係者だと知っても、見逃してくれた優しい人。

 

初めて知らない大人の男の人に綺麗だとか可愛いと言われて嬉しくなった。例え敵で、この後どちらが倒される事になるのかもしれないと知っていても。

 

でもね、その人は困った事にずっと私の心を揺らし続ける。嬉しい事柄から困った事柄まで様々に。

 

今は・・・・どっちに揺れているんだろう?

 

黒い封筒を受け取ってもう五日は経つ。感謝状とお見舞い状は封を開けずにおじさんに正直に渡して、黒い封筒は私しか知らない。

 

もしも君が軍に甚大な被害を出しその事が僕の怒りに触れたなら、その時は僕自らの手で君を殺す

 

 

これは避けて通れない。どうしたって彼の親友は消さなければならないから。

正確には()()()()()()()()()()()()()()()()()を消す、だが彼にとってはそれは同義語。

ミストも諸共に消滅するんだから、キルの怒りには正当性があるんだよ

 

 

自分の細い首を絞めている金属の手、其れなのに熱を感じるのはなんでだろう?

それは彼の怒りの度合いをあらわしているのだろうか。

 

 

ティファの首を左手で絞め地面に押し倒しているキルの瞳は真っ赤に燃え上がっている。

 

決して許さない

 

先程の自分と同じだ、ハドラーの魂と尊厳を傷つけた大魔王の走狗をしたミストに覚えた怒りと、彼を消した私に対するキルの思いはきっと一緒。変に執着している私よりも、親友を取る彼は、

本当に優しい人だと讃辞したくなる。

あぁ、本当にこの人はなんと優しい人良い人なんだろうか。

 

己を殺さんとしているキルの、それでもその心情を理解しているティファはこんな状況下でも笑みを浮かべんとする。

 

ただそれは、表情筋も動かせない程のダメージによる疲労で果たせないのが残念に思う・・・

 

 

 

メッラゾーマ!!!!

 

 

ゴオウ!!!!!

 

ティファに覆いかぶさり、まさにレイピアを打ち下ろさんとしたキルの顔面目掛け、ポップは間違いなく今日一番の最大火力でメラゾーマを遺憾なく放つ!

 

「マァム!ティファとこっちに!!!」

 

ポップのメラゾーマと並走する様に走り出したマァムは、地面に倒されたティファを素早く抱き上げすぐさまポップの下に走り抜け、ダイ達の後方で蹲る。

腕の中に居るティファを、迷子になってようやく見つけた我が子を二度と手放すまいとする親の様に。

 

渡さない・・・二度とティファをあいつになんか渡すものか!!

自分は、キルバーンがティファに馴れ馴れしく触るたびに嫌だった!

ティファに触らないで!穢れた事を平然と口にする者の手でティファに触れないでと何度叫びたかった事か!!

 

マァムの思いが伝わったのか、抱きこまれているティファはそっとマァムを優しく抱き返す。

 

追撃してくるキルにはヒュンケルとダイが立ち塞がり、キルは仕方なく一度後方に飛んで距離を取り、その場に停止する。

 

だが、ティファを逃がすつもりは決してない!!

 

 

 

キルが憎々し気にティファに憎悪の目を向ける様に、この中で一番キルを嫌悪しているポップが口火を切った。

 

「てんめぇキルバーン!バランに斬り殺されたんじゃあねぇのかよ!!なんで生きていやがる!!!」

 

暫く待ったが誰も助けに来る者はいなかったとバランは確かに言ったはずだ!なら何で野郎は今ぴんぴんしてやがる!!

 

ダイ達一行が思った事を代表してポップが烈火のごとく追及する。

 

ティファを助けられたのは本当に偶然だった。ティファは何処だと何気なく左前側を見れば、キルバーンに押し倒されレイピアを突き立てられる寸前のティファを発見できた。

ほんの数瞬でも見つけるのが遅ければと思うとゾッとする!

マァムに抱きしめられ守られているティファは苦しそうに咳き込んでいるが、生きている・・・それだけで済んだが、こいつが生きている限り安心もへったくれもねぇ!

 

ポップの、ひいてはダイ達の疑問にキルはひょいと肩をすくめながらどこか全員を小馬鹿にするようにレイピアを仕舞い大鎌を取り出し方に担ぎ、目の前には敵か叛逆者予備軍しかおらずとも悠然と応える。

 

 

「おかしなことを言うね魔法使い君。僕は昨日お嬢ちゃんから僕宛に手紙を貰っているんだよ。

その時点で僕が生きている・・・というか無事だった可能性の示唆は受けている筈だよ?」

 

昨日のあのとんでもないメッセージ、あれを読んでいた時僕は確かに幸せな時間を過ごしていたのに・・・それを壊したのはバーン様であっても!親友を殺されたら矢張り許せない!!

 

キルバーンが無事であった可能性を・・・・ティファが知っていた?予期していた⁉

 

 

「・・・・・別に貴方が確実に無事であったことを知っていた訳ではありませんよ。降りますねマァムさん。」

 

キルの言葉にもティファは詰まらなさそうに頭を掻きながら心配で話したくないと抱きしめるマァムに大丈夫だと宥めてから降り、答えながらハドラーの下に歩いていく。

 

「貴方はオートドール、つまり生命は生命でも機械生命体。」

 

ズルリとハドラーの右腕に差した雪白を引き抜きリングに戻し、壁に凭れかけさせながら座らせる。

 

「ようはキラーマシーンが命を持っているようなものです。つまり-壊れても修復可能-な生き物である可能性は非常に高い。」

 

ハドラーの斬り飛ばした左腕に細胞活性化を促す万能薬をふりかけ、座り込むハドラーの左腕にそっと押し付ている。斬った細胞は潰さずに綺麗に斬った自負はある。

細胞が無事ならば、超魔生物の自動修復に万能薬の効果が上乗せされれば元通りになるはずだが・・・・細胞の活性化で激痛走るだろうなと予想し、案の定であるようで、ハドラーの額から玉のような汗が浮き出るが、それでも激痛に呻き声を漏らさないハドラーを労りながら。

 

「以上の事により推察しましたが、あの時点では私もどちらか判断付かなかったので、成分表の最後のトラップ仕掛けたのですが、不発で終わっていましたか。」

 

キルは読むな!触るな!!あっち行け!!!!

 

そう書けば、キルが生きているなら自分との約定無視して抗議に位すっ飛んでくると踏んだのだが。

 

「・・・・・・ハドラー君とミストに止められたんだよ・・・」

 

知らずうかうか行っていれば、自分はダイ達が知らなかった死神生存情報をくれてやっていた訳か・・・・クックッ

 

 

「ああ~、本当に君はなんて怖い子なんだろう。魔王軍の死神と呼ばれる僕も改めてそう思うよ。

成分表の振りしたトラップを平然とハドラー君に渡した君の智謀には頭が下がる。」

「・・・・・不発に終わったトラップなど無価値だ・・」

 

ティファはキルの言葉に詰まらなさそうな表情を崩さない。当たっていた推測で仕掛けたトラップを外されたのだからそうなるだろうが、ポップ達の心情は荒れに荒れていた。

 

冗談じゃねぇ!ティファを置いていく作戦のそもそもの大前提からして崩れていたなんて洒落にもなんねぇ!!

 

何故しくじったか分からないが、ティファを砦に置いていく作戦を立てたのは空間使いのキルバーンがいない事が条件で組まれた。

ティファが戦場に居なくとも、ハドラー、ミストバーンだけならティファ一人を狙いに行く事は無いと読んで。

それが根底から覆され慄然とする!

もしも作戦が上手く機能して、その結果眠っているティファをキルバーンが攫っていると思っただけで心臓を掴まれた気になる・・・・幸いティファはここにいる。一行の中で守り切れる位置に・・・・・現金な話だが、ティファが来てくれた事に感謝したくなる。

 

別にキルバーンが生きているかもしれないという推測を話さなかった事は怒っていない。

不確かな話をして自分達に余計な事で煩わせたくないというティファの気遣いだからだ。

知らされたとしたら、それは確実に分かった時だけ。だとすればあの時点ではティファも半信半疑以上にキルバーンは倒されたと思っていたのだろうから、隠し事をされた気にはならず、よってダイ達に怒る気はない。仮に知らされていてもキルの空間出現は誰にも分からず、打つ手がなかったのも事実だからだ。

 

ティファを隠すように布陣を整えようとした矢先、矢張りティファがキルに話しかけた。

ティファにとってはこれが一番聞きたい事。

 

「キルバーン貴方は知っていましたか?ハドラーの体内に黒の核晶が埋められていた事を?」

「ッウ!!」

「知らなかった・・・・のですね・・」

 

ティファからの質問に憎悪の塗れていたキルの瞳が痛みをこらえる様にぐしゃぐしゃに歪み、それが全て物語っている。

 

先程突如として知らされ、謀略の片棒を担がされ、その事に対しては罪悪感を抱いている事を。

 

「・・・・知っていても知らなくともそんな事は関係ない。僕は・・・・君達の神聖な決闘を穢した事に違いはないんだよ・・・」

 

殺気だった気配は消え果て、俯き呻くようなキルにポツンと言葉が降り注ぐ

 

「だったらお前こっちに来ちまえよ」

 

その言葉に、ダイ達はぎょっとした顔で発言したものをあり得ない者を見た顔で凝視する。それを言ったのはティファではなく、この中で誰よりもキルを嫌っているポップであった。

 

「お前ハドラーとティファの邪魔は嫌だったんだろう?お前ってさ、物凄く変態だけど策略も謀略も嫌いなんじゃねぇのか?」

 

ポップは思い返してみれば、ベンガーナで竜を使ってダイを襲わせ、人間離れしたダイを人に見せつけ怯えさせようとした策略が失敗した時何処か嬉しそうに言っていた言葉がある。

 

ピロロの目論見は失敗か、ちょっといい気味かも

 

あの言葉は、自らの手を汚さず高みの見物の策を弄したものを小馬鹿にしていたのであろうか?なら、それなら!!

 

「お前はそっちにいる限りずっとそんな汚れ役させられるんだぞ!!いやならこっちに来ちまえよ!!!」

「ちょっとポップ何てこというのよ!!あいつは・・・」

「こっちに来ればだれもおまえによごれやくなんてさせねえ!ティファとも一緒に居られんだぞ!あの変態言動慎めばお前は・・・」

「親友殺されて僕だけのうのうと幸せになれって言うのかい魔法使い君。」

 

仲間の制止も聞かず紡がれるポップの言葉に、敵戦力の削減や甘言を弄してはいまいとはキルには分かる。そういう汚い者達を散々見て来たのだから。

ただ彼は無垢で純粋な気持ちで自分を憐れんでいるのだろうが、冗談ではない!!

綺麗であるが故にその光は何処までも相手に差し込む。その事で相手の矜持が、思いが、尊厳がどれほど傷つこうがお構いなく!!

 

自分は確かに汚れ仕事は嫌いだ!嫌いだがそれをする事で大好きな親友の仕事と苦労は確実に減り、それがとても嬉しかったのを知らない坊やが!土足で踏み込むんじゃない!!!

 

 

ポップの優しさが仇になり、キルの心の怒りの炎に薪をくべた結果になった。

 

「・・・・・そうかよ、なら交渉決裂だ!!今度こそ地獄に戻りやがれ死神!!!」

 

自分の言葉が届いて、あるいはクロコダインの様に、ヒュンケルの様になってはくれまいかと思ったのは甘い判断か・・・

 

ティファの事以外は本当に真っ当なこいつを評価した思いに偽りはなく後悔していないがな!

 

ポップの言葉に、剣を抜き打ちかかる構えをとるダイ達と、トラップの発動を仕掛けたキルの動きが止まったのはほぼ同時であり、ティファは広間上空に顔を向ける。

 

 

何かの気配が凝り固まろうとしている。それは気配を強め暗黒闘気だと分かるころには徐々に形を整え、次第に人の様な、シャドーの様な形へと変貌していき、顔が出来-瞳-がカっと開いたと同時に言葉が飛び出す。

 

 

     「このバケモノが!!貴様は・・・・貴様は一体何をしたのだティファ!!」

 

 

 

 

それは紛れもなく()()()()()であった。




今宵ここまで

殺されかけても笑おうとする主人公ですが、本気の讃辞であり疲れて自棄になっているわけではありません。
執着している相手よりも、親友のミストをとる事を選んだ彼の心情が嬉しいのです。
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