その狂気はダイ達を飲み込みポップを後悔の底に突き落とす。
俺はどうして・・・・なんだってあんな奴を引き入れようとしちまったんだ!!!
変態なんかではない!あれは・・・あいつは壊れている!!感情が狂っている!
可愛いという相手が無残な姿になっても気にしないなどという者がまともな訳がない!!!
ティファは・・・・あいつはあのキルバーンを知っているのか?知っていてそれでも優しいなどと言っていたのか⁉
マァムは震えながらそれでもティファを直ぐに抱え込み蹲る。あの狂気から守らんとして。
「娘に穢らわしい事を言うな!!!!!!」
キルの狂気を纏った言葉に我に返ったバランは、当然その発言を許す筈もなく真魔剛竜剣を抜くと同時に紋章を全開まで発動させ打ちかかる。
今理解した!!
何故味方全員がキルバーンが倒された事であれほど喜んでいたのか!喜ばれて当然の者であったのだキルバーンは!!
「ライデイン!!!」
ガシャ―ン!!!
ミストと二人でバランを迎え撃とうとしたキルの横を、ミストと分断させるように雷が落ちる。
父を援護しつつ落ちて来た雷を剣に纏わせたダイは、そのままアバンストラッシュの構えを取り、父同様上空に飛びライデインストラッシュの構えをミストに向ける。
キルバーンは父さんが戦っている!俺はミストバーンを確実に倒す!!
分断した時素早くバランは、キルとミストコンビを合流させまいと乱撃に持ち込んでいる。
「おんやバラン君、どうしてその剣は無事なんだい?僕のマグマの血をたっぷりと含ませた筈なのにね~。」
「貴様に答えてやる義理はないわ!!!」
「当てて上げようか?健気で君達の事をいつも一番に考えている可愛い可愛い娘さんが、僕の性質を考えて罠看破して進言してくれたんでしょう。本当になんてお利口でいい子なんだろう!益々欲しくなるじゃないか!!!」
「黙れ!!!貴様は・・・貴様だけは何があろうとも私が滅する!!!」
それこそ刺し違えてもだ!!
「消えろ!!!!」
ミストに迫りダイが放った其の一撃は、今までで一番の威力を有していた。右手の紋章を使いこなし、剣とのシンクロも完全で、何より気力が今までとは段違い。
妹を守りたい!
其の一点のみで放たれた技は、あるいはミストでなくバーンが相手であったなら大ダメージを被らせられたやも知れない。
だが今の相手は暗黒闘気の集合体であり、ミストは技の臨界点を見極め、炸裂する寸前で己の体を文字通りミスト状にし、離れた位置で直ぐに濃度を濃くし実体化させた。
己は決して強くはなれない、この、体とも呼べない半端な身故に。しかし、だからこそできる戦い方はある。
光の闘気や破邪系にさえ警戒すれば、後はこうして霧状の体の密度を自在に変えれるのみ。
「ダイ!!俺の技と合わせてアバンストラッシュを撃て!!」
虎の子のライデインストラッシュを難なく避けられたダイに、ヒュンケルが駆け寄り合わせる様に指示を出す。
光の闘気に目覚め早三ヶ月が経ち、今のヒュンケルであればアバンストラッシュは可能である。
アバンストラッシュを撃つ為の発動条件、心・技・体の内、心だけが習得できなかったのは最早過去の事!
だが自分が撃つのはアバンストラッシュではない。ブラッディスクライドに光の闘気を纏わせる。
暗黒闘気の集合体であるならば、アバンストラッシュよりも攻撃範囲を広くした光の闘気の渦にわずかでも捕まればダメージになり、そこをアバンストラッシュで貫けば・・・・・
カツ―ン
ひとつ、たった一つの足音が、攻撃の糸口を掴み活路を見出したと構えたダイとヒュンケルの視線をミストから逸らさせ、そちらに目と剣を向けさせられた!
打ち合っていたバランも突如として感じた気配に慄然とし、キルを弾いて距離を取り直ぐにティファ達の下へと降り立つ。
その気配は途轍もなく重く、そして体を凍らせることが出来るのではないかと思う程に冷たい。
「・・・・ヒム、ハドラーを海底の入り口の方に移動させましょう。あちらに陣取った方がいいかと。」
一瞬で沈黙した広間に、ティファの静かな声がよく通る。
この感じだとまだ距離はあるか。歩き方がゆっくりでハドラーを動かせる時間がある。
本当は回復途上のハドラーを動かしたくはないが、ここで鉢合わせさせる訳にはいかない。
「行かせないよ!」
「ブラッディスクライド!!!」
ティファの考えを読んだキルが、ハドラーの移動を邪魔しようと仕掛けるもヒュンケルの必殺技に阻まれる。
「今の内に急げお前達!!」
ヒュンケルに急かされるが、それがなくともヒム達もこの入り口がどこに繋がっているのかは知っている。そしてそこから出てくる途轍もない巨大な気配を出すのはたった一人しかいない事も。
「ハドラー様!痛くても勘弁してください!!」
「ブロック!ハドラー様をお早くあちらに!!シグマとヒムはキルバーンとミストバーンの警戒を!!」
「あ、フェンブレン・・・・悪いけど-筒-に入ってて下さい。イルイル。リングイン・・・・ハドラー持っていてください。」
「・・・・」
手足がないフェンブレンを人質にされるなり壊されるなりされてしまってはハドラーが苦しむ。
ポーチには常に筒とリングの予備が二つずつ入っている。備えあれば憂いなしとはよく言ったものだ。
ハドラーとしては、複雑な思いでそれを無言で受け取る。味方に殺されかけ、敵で倒したいはずのティファに様々に助けられているのだから無理からぬ事だが。
「ブロック早く!」
「ブ・・・・ブロ~ム!!!」
アルビナスの叱責に、ブロックは腕の中で回復を図っているハドラーのダメージにならないようにと、巨体を揺らさないように繊細かつ可能な限り早く動こうとして苦戦する。
たかだか大広間とは言え広大な土地を移動するわけでもない。それでもミストとキルの攻撃をダイ達も加勢して防ぎ、ノロノロと移動する。
ミストも本体になったとはいえ闘魔の技は健在であり、攻撃してくるのを防いでの移動は容易ではなかったが、それでも正反対の位置で距離を取れる場所まで辿り着き、ブロックはそっとハドラーを床に降ろし壁に凭れかけさせ安堵する。
ハドラー達を護衛する形で移動速度を合わせたダイ達もキルとミストの動きに警戒しながらも詰めていた息を吐きだす。
「・・・・・あいつ等・・・反則だろう・・」
ポップが思わずぼそりと呟く。自分達はこうして気配や威圧に苦しめられているのに、片や機械・片や霧状の生命体もどき。どちらも疲労やスタミナ切れの辛さを味わう事はあるまいと。
戦いにおいてその二つは勝敗を分ける事が多々ある重要な事だが、あの二人には無縁であろうと、引きつった笑いで無理やり言葉にして出した。
無理にでも軽口を言わねば飲まれてしまう、そんな気配がもう間もなく奥から出てこんとしている。
あの者は本当に一体何をした?
ミストがガン=フレアで黒の核晶と自分の若き肉体諸共消滅させられた時、バーンは今まで感じた事の無い喪失感に襲われ呆然となってしまった。
それは黒の核晶が、己の肉体が消えたからではない。
自分にとってその二つはミストほど重要では無かった
黒の核晶は強敵を一網打尽で確実に葬り去る為の道具でしかなく、若き肉体は・・・はっきりと言えば扱いに困り果てていたほどだ。己の肉体であったにもかかわらず。
自分の若い肉体ピーク時程、自分自身で戦うことを禁じていた。戦えば敵勢力は一瞬のうちに葬り去れる強さを有していたが、それは魔界の地形も一瞬で変えてしまう凄まじきものであった。
地にはクレーターが穿たれ、山は消失し刺激されたマグマが、辛うじて住むことが出来ていた地域を飲み込んでしまうことが実際何度も起こり、遂には若いバーンは己自身で戦う事をせずに宮殿奥に引きこもった。
不毛な大地を、それでも己の故郷をこれ以上荒らしたくないと。
だが魔界制覇は己の悲願、憎き天界とこの魔界の蓋になっている大地を消滅させるには、少なくとも魔界の半分以上を治め、敵勢力に邪魔をされない環境を作らねばならず、力あれど寿命はおそらく他の魔族と変わらず、時間が足りなすぎる。
だが自分が戦えば魔界は荒れ、自分の配下もまだ冥竜王やそれに匹敵する敵勢力と渡り合うには心許なく、どうすべきかと悩んでいた時に凍れる秘法を探し当てたが、それも頭を痛める事になった。
理由は簡単、自分の肉体を力と若さ・魔力と叡智で分ける方法も見つけたが、分離させた肉体をどう保存し守り抜けばいい。
あの冥竜王であれば急に年老いた自分を見て何をしたか知った瞬間から肉体を付け狙い、破壊するよりも乗っ取り自分にぶつける事は容易に想像がつく。
では自分の姿を出さなければいいかと言えば、ようやく築いた国の主が姿を見せなくとも纏まる程円熟している訳でもなく、内部崩壊されるのが分かり本当に苦慮させられた。
様々な理由から、自分の若い肉体は何と厄介なものかと思い知る。とはいえ自分で消滅させてしまえば普通に歳をとり、狙っていた不死紛いにはなれない。
仮に魔界を征服できたとしても肉体に戻ることはしない。
その力で天界に乗り込んだ時、おそらく力を振るえば余波は、浮上した魔界にも及ぶ。
その時の魔界は更に滅びの道すがらで疲弊し、余波で滅ぶ懸念がある。
では先に天界を滅ぼしてから地上にとも考えたが、様々な理由で矢張り地上が先。そうなると・・・思考が堂々巡りになり、最後にはこの肉体の厄介さが浮き彫りになるばかり。
そんな折に出会ったのがミストであった。
玉座でどうすべきかと思案しそのまま寝入っていると、突如自分の魂に侵入してきた者があり、それが後のミストであった
出会いは己の体を乗っ取らんとした不逞の輩だが、乗っ取れず魂の中でおろついていた様に笑ってしまった。
それを馬鹿にされたのだと食って掛かるミストに、お前はなんだと問いただし、正体を知り使えると閃き、お前が必要だと本気で言ってみれば呆然とし、次いでそれは本当かと何度も尋ね返され、幾度も必要だと言った果てに生まれたのが忠誠心の塊・ミストであった。
ミストも若い肉体の力の制御に腐心していた。出さねば敵勢力は消せず、加減を間違えれば・・・・・まさに力のありすぎる厄介な肉体であったと、自分の肉体ながら辟易とする。
ミストは本当にどこまでも自分に付き従い、忠実な腹心として使えて来てくれたいわば苦楽を共にした従者・・・・・・・其の従者が消された時の喪失感は計り知れず、動かない自分の代わりにキルがティファを殺しに行った。
空間を幾度も開けようと必死になっていたキル。
開くと同時にティファの心臓目掛けてレイピアを刺し貫かんとしたが果たせず、そのまま空間を通り直接対決に言ったのを見届けて自分も立ち上がり広間へと歩を進める。
どの様にしてティファを殺すか算段を付けながら、冷静になろうとゆっくりと歩く最中にキルよりの念話でミストの無事を知り、不覚にも涙が零れかけた。
ミストが無事であったか
はいバーン様!ミストが無事でしたからお嬢ちゃんは半死半生で許してあげてください!!僕がきちんと面倒見るので!いいですよね。
構わん、聞きたい事を聞いた後はそちの好きにせよ。
聞きたい事は、ティファが自分達の計画を知っているかどうか其の一点のみ!
ハドラー達諸共ダイ達を葬った後に起こす大地消滅の作戦迄知っているはずが無い!
だがその知らないはずの事を、ティファは悉く邪魔をしてきた。
遠くは魔王軍を知らず半壊させ、今はハドラーの黒の核晶と自分の若い肉体を。
そしてこの後の事は?
知っているのならばティファは当初の考え通り天界より遣わされた者に他ならず、自分達の事を作戦をどこまで知り対処方法をどうするのかをすべて把握しなければならない。
全ては数千年の自分の、万年の魔界の悲願成就の為に。
そして知らなくとも必ず邪魔になる者だティファは。
本音としては消したいところだが、あの厄介な肉体を-安全-に消滅させてくれた褒美に、二度と逆らえない体にした上で生かして飼っておく。
幸い今の肉体も老いているとはいえ、数百年分の寿命が残っている。地上を消し去り天界も滅ぼし、新たな魔界を統治し後継者に託すための時間は十二分ある。
その間の戯れに、-仔猫-を捉えて絶望の淵に突き落とす。
自分の肉体を消滅させてしまったと気に病むであろうミストに、それは重要な事ではないと示す為に。
忠臣の為、ただそれだけの為に最大の障害となり得る者を情報を余さず把握した後も生かして捕え様とするバーンは、それを実現可能に出来る怖ろしい敵。
現時点では、間違いなくダイ達よりも実力も実戦経験値も全てを凌駕している大魔王の名に相応しき者である。
その大魔王の姿を、ダイ達は見る事になった。言い知れぬ怖れを抱きながら
今宵ここまで・・・・・・
ミスト・バーン消した後の主人公が生き残る為の説得理由を書いた回になりましたが、漸く勇者一行と大魔王のご対面が叶いました!
・・・・・説得力には甚だ欠けるとは思いますが、巨大な力に振り回され、分離させた後も悪用される事を怖れた若き肉体として、長年の先送りにしていた懸案事項を消された感じにさせていただきました。
黒の核晶が敵を殲滅できるナパーム弾なら、バーンの若い肉体は核兵器だと思っていただければと思います。
(使い所が本当にほぼない兵器です)
この作品のバーンにとって大切な事は魔界〉ミスト〉キル〉の順で、ハドラーは残念ながらその下になり、だからこそ当初の通り駒にされたのです。