勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

246 / 536
誰であっても、どんな時でもいつも通りに動いてしまう・・・


拒絶

これが魔界の神なのかと、初めてバーンの容姿を見た物は誰もが思う。

確かに威厳と畏怖を自然と感させられる。しかしあの細い首等、まるで力を少し入れれば折れそうな老人の姿に、付いている異名との差異に戸惑う・・・・・外見だけを見れば。

 

だが、広間に入る前から感じていた途轍もなく重苦しい殺気にダイ達は潰されかける。

それは何処までも冷たく、何らかの重力魔法か呪縛の呪法でも使っていると思う程に、竦められかけたダイ・ポップ・マァム達と、戦場で初めて殺気を浴びせられた親衛隊達の呪縛を解いた者がいた!

 

 

ガン!!!

 

 

剣に闘気を纏わせ地面に思いきり突き刺したヒュンケルであった。その音に目を覚ましたように、無意識の落ちていた腕と武器をダイ達は構え直す。如何に恐ろしくとも、ここで負ける訳にはいかない!!

 

 

先の特訓の折ティファから殺気の洗礼を受け耐性を付けて貰えたヒュンケルは、すぐさま音と気配を立て大魔王の無言の圧力の呪縛を解いてみせ、元・師のミストとなんとキルを感嘆せしめた。

 

「へぇ~やるもんだねヒュンケル君。君ってミストに大分過保護にされた温室育ちだから、てっきりバーン様の殺気に抵抗できないと思ったんだけどね。」

「・・・・・・其の力をこちらで振るっていればいいものを・・・・」

 

バーンが来たのだから当然ミストとキルはバーンの横に降り立ちながら、キルはヒュンケルを絶賛し、ミストは未練としながらも魔王軍にいない事を惜しむ・・・憎々しげにだが。

魔界で修行させていても実戦に出したのは数えるほどで、殺気を浴びせられた事は無かったろうにとキルの叩く軽口を、ヒュンケルは無言を貫き直ぐに剣を構え直す。

 

殺気を叩き返せたとは言え、背中を流れる汗と震えが止まらない。大魔王がここまで底知れない者であったとは・・・

 

 

そのバーンの目は、じっとハドラーとティファに注がれている。周りが自分を怖れるか警戒の目を向ける中で、ハドラーは自分を見るのが苦しいと視線を外し、ティファは無表情で無言で自分を見返している。

 

あの浜辺で出会った時の様な表情豊かなティファが想像できない程、心を閉ざしているのだろうか?

 

 

「そなたは・・」

 

 

沈黙を破ったのはバーンの方。誰もが戦いの火蓋を切るのを怖れてか無言でいる。埒が明かないので開ける事にした。

 

「ハドラーの黒の核晶の事を-いつ-知った?」

 

それはハドラーとティファにとって、最も触れられたくない言葉であった!

 

その言葉にハドラーは平然と口にした主の心情を知ってしまった。やむを得ず自分を駒にしたのではない!

()()()()()()()に駒にしたのに過ぎないのだと!!

自分が命を救ってもらったと恩を感じたあの時から既に決まっていたのだ。相打ち用の武器として・・・

 

ハドラーは嘆き、ティファの心はかっとなり思わず怒鳴り上げようとした。ハドラーの心情を無視した言葉に、味方を何だと思っているのだと。そう言おうとした矢先足元の地面は消え、少しの落下後に直ぐに-地面-に降り立っていた。

 

自分の目の前に、大魔王バーンが手を伸ばせば触れられる距離にいる。

 

 

 

「ティファ!!!」

 

 

ジャキン!

 

「そんなティファ!」

「行ってはいかんディーノ!!!」

「なんで!!!」

 

 

 

やられた!!・・・・・チックショウ!!!

 

 

 

ティファを人質に取られ、ダイはすぐさま飛んでいこうとしたのをバランが抑え込み、駆けようとするマァムをポップが理力の杖を伸ばし制止させる。

その杖はカタカタと震えていた。幾度も妹をキルにとられ続け、今度こそは取られまいとしたのに!!

ヒュンケルとクロコダインも同じ思いであっただけに、武器を握る手から血が伝っていく。

 

ポップ達も無警戒あった訳では決してない。今までキルが空間を使う時は自らの手を空間に入れてティファを引きずり込んでいた為に、動きに警戒し動いた時にキルの両腕をギラで打ち抜き落とすか、先程の様に必殺技で退けるかの算段を付けていた。

しかし予想は外され、腰に両手を当てた無警戒を装ったふざけた体勢から空間を開けられた。。

キルは構えなくとも自然と空間を開けられる空間使いの上位者であり、一行の警戒などあって無いも同然であった。

 

ティファの足元をキルが空間を開け亜空間に落とし、バーンの前に降り立つように繋げ降りてティファの態勢が整う前に、キルは無言でティファの細い首に、大鎌の刃を掛ける。

 

もしティファが少しでも動くなり、仲間が助けに来ようと動こうとした時、ティファの首を掻き切り堕とす為に。

 

「動いちゃ駄目だよお嬢ちゃん。勇者君達も当然親衛隊の君達もだよ。あぁそれと魔法使い君、魔力溜めただけでもお嬢ちゃんの首堕ちるから注意してね~♪」

 

その言葉に言われた全員が歯噛みし、暴れ出そうとする体を両手を握りしめて耐えようとした時、キルはさらに言葉を紡ぐ。

 

「それとね、物騒な剣もアックスも全部地面に放り投げてね~。手の届かない遠くに、ほら早くしないとお嬢ちゃんの首が・・・ね?」

 

ツゥ~

 

要求しながらキルは大鎌の先端でほんの少しだけティファの首を引っ搔けば、それだけでティファの首筋から血が流れる!

キルとしては、ティファが生きていても死んでしまってもどちらでもいいので躊躇いがない。

なんならバーンやミストに殺させる位ならいっそ自分で殺してしまおうと思っているくらいだ。

 

 

「止せ!!捨てる!!!」

「やめて!ティファ!!お願いだから動かないで!!!」

「捨てたぞ!!キルバーン!」

 

 

こんな戦場で仲間の為とはいえ、たった一人の為に武器を捨て去るとは正気だろうかとかつてのハドラー、歴戦の戦士バランは断っただろうが、質にとられたのがティファなのだ!やむおえずバランも真魔剛竜剣を遠くに放る。屈辱と悔しさに打ち震えながらも、せめてもの抵抗の意思としてバーン達からも離れた位置に。

 

どの様な技かは知らないが、黒の核晶を暴発させずに消し去った技の反動のせいか、先程からまともな身動きが出来ていない!状況を打開する為にも、相手の要求を呑んで時間を稼ぐしか方法が今は無い。どうやらバーンはティファに何かを聞きたいらしく、今すぐ殺す気はないようだ・・・・・ほんの少しの隙でいい。

 

ディーノよ、少しの隙あらば私が直ぐにでも紋章閃でキルバーンの大鎌を・・

 

分かった、俺もバーンに紋章閃で牽制しながらトベルーラでティファを・・

 

二人の竜の騎士が、念話で打ち合わせする中ティファは戸惑っていた。

 

 

どうして・・・・・この人からひどく懐かしい気配がするの?

 

自分は()()()()()()()()()()()()()()()()()()、其れなのに心の何処かで途轍もない懐かしさを感じている事に。

 

その感覚はマトリフに五年ぶりに会ったあの時と同じ。二度しか会っていない、それでも心が深くつながっている者と再会した時のあの懐かしさと同じで、そしてその気配が不愉快に感じられない!!

ハドラーにあんな酷いことをした人なのに!ハドラーを傷つけた人なのに・・・

 

 

ティファの無表情の仮面にひびが入る。ハドラーを助けてしまった事で、彼の矜持と誇りと尊厳を踏みにじった事が痛くて、其れでも大魔王の策略の果てで死んでほしくは無くて!!

其れならば自分の手で助けて人生全うしてもらい、天命で死を迎えて貰った方が何万倍もましだ!

時が・・・いつか彼の心の傷を癒してくれることを願いつつ・・・・それでも今ハドラーや周りから黒の核晶の事を聞いて欲しくなくて、壁を作っていたのを崩されて行く。

 

戸惑い・・・・幽かに()()()()()()()()から湧き上がらってくる、バーンの殺気の底から感じられる気配に、自分は・・・・・

 

 

ほぅ、近くに寄せればあの時と同じになるか。

 

無表情が崩れ戸惑いの表情の他に、ティファの瞳の中に自分に魅かれている色が幽かに浮かんでいる。

聡い娘ならば、この状況であれば名乗らずとも自分がこの大戦の最大の敵だと分かるだろうに。

だが、自分も同じ。海岸であった時と同じく自分もティファの気配に()()()()を感じている。

それは本当に幽かだが・・・これはまるで・・・・・

 

ティファの戸惑いがバーンに移った様子に、ミストは不振の思うが、キルは当然の事と見ている。

 

バーン様も戸惑うか・・・お嬢ちゃん自身も自分の-本当の素性-を知っていないもんね。

どうして今のお嬢ちゃんが-人-と全く差異がないのかまでは知らないけれど、本当のお嬢ちゃんは、()()()()()()()()()()()()()子なんだ。

 

 

主もティファの事を深く知れば、当然その事に気が付くはずだ。精霊とモンスターに好かれるどころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ティファの正体を。

 

テラン戦の折竜騎衆ルードが見せたような、主人であるガルダンディーでは無くティファの言う事を聞くのは本来はまずない。

あるとすればガルダンディーの主バランか、モンスター達を従えさせることが出来る上位の者。

ただ戦う力が強いだけの-人間-では決してなく、竜の騎士の血を色濃く継いでいるダイにもない力をティファは持っている。

それは魔界のモンスターの騒動の時で証明されている。あの時のデーモンは、ティファにだけ懐き、ダイの側によってもすり寄る気配もなかったのがその証。

真にモンスターを懐かせ従えさせられるのはティファのみであったと。

 

ティファを本当に誰よりも深く深く見続けていた自分だけが知った事を、主も知ろうとしているのに少し妬けるけどまぁいいか。

その事でお嬢ちゃんがバーン様に気に入られて、さほど酷い目に遭わずこのまま穏やかに捕まえられればそれに越した事は無いからね~。

 

キルは大鎌を固定したままうっとりと夢想する。バーンに捕らえられこちらに来たティファの姿を。

 

バーンも、そんなティファの頬にそっと右手を差し伸べる。

伸ばせばあの時の様に表情を崩し、何もかもを話してくれるだろうか・・・

 

 

そんな甘い夢は、すぐさま-痛み-と共に覚まさせられ手を引っ込めさせられた!

 

 

             

            「触るな!!!!!」

 

 

 

何とティファは大鎌で刃を突き立てられ、ミストとキルがいつでも己を殺せる状況下であるにも関わらず、伸ばされ頬に触れんとしたバーンの右手の中指を噛み千切り拒絶した。

噛み千切った為にバーンの青い血が口の端に付き鉄錆びた味が口内を満たしても拭いもせず、大きな黒い瞳をぐしゃぐしゃに歪め、目を真っ赤にし大粒の涙をハラハラと流し拒絶の言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「ハドラーに酷い事した人が私に触るなっ!!!!!!」




今宵ここまで

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。