ダイの体術による猛攻は途切れる事無く、徐々にバーンを圧していく。
老人姿の時の強みは底知れぬ魔力をもとにした光魔の杖の波状攻撃と魔法を組み合わせた連撃で敵を屠ってきた分、接近戦をされれば不利になる。
そこをミストとキルが補い戦ってきたが今は両名ともこちらに来れる状況ではない。
何故だ、何故誰も心折れず戦い続けることが出来る。
頼みの一人竜の騎士バランが右腕をなくし、ダイも剣が折れ自分を倒せる決定打がないこの状況で、勇者もその仲間達も誰一人として諦める気配が微塵もないのは何故だ⁉
バーンからすれば、今のダイ達は理解不能であった。自分を倒しきれる保証のない戦いに対しても果敢に自分達に向かってきているのが。
押されているとはいえダイも自分との差が埋まっている訳ではなく、スタミナが切れれば逆転されると分かっているだろうに・・・・・其れなのに・・・・
「ウォォォォ!!!」
拳の力が衰える事無く次々に・・・・・
「鬱陶しい!!!」
ダイの拳を柄で払いのけた瞬間、それはバーンの目に留まった。
「ハドラー父さんお願い!!マァムさん一緒にクロコダインを!!」
「ちょ・・・ティファ!!」
ボロボロになりながらも戦場の端を、仲間と共に傷ついクロコダインを助けに走るティファの姿が。
「ティファ急いで!!」
「・・・は・・・い・・・・」
マァムは自慢の腕力に物を言わせクロコダインをバラン達の下へと素早く引きずっていき、ティファが腹部に刺さったままのレイピアを抜きすぐさま斬撃用の万能薬を振りかけベほとマァムでベホイミをかけていく。
「ポップ兄!ヒュンケルと一瞬代われる?」
「・・・・どうした?」
「そろそろヒュンケルもダメージ積もっている・・」
「分かった・・・・イオラ!!!」
「ヒュンケルこちらに!!!」
急なイオラの嵐にさしものキルも翻弄され後手に回り回避行動に手一杯になった隙に、ヒュンケルも急いでティファの下へと駆け付ける。
「・・・助かったティファ・・」
「これ飲んでください、あと一歩です。キルバーン倒したら・・」
「あぁ、この剣をダイに渡せばいいのだな。」
「はい!」
今兄の手元に剣がなく決定打がない。だが、ヒュンケルがキルを倒せればテラン戦の時の様に剣をダイ兄に渡せばいい。
あの時と違って今のヒュンケルの剣もオリハルコン製で、魔力もかなり削られた今の大魔王相手なら勝てる見込みがぐんと上がる!!
本当は父さんの剣が、無事ならそっちの方がいいけれど、バーンが投げた小型の黒の核晶の爆発余波でヒビが入った。
本来ならありえない傷だけど、持ち手の竜の騎士の闘気が通っていなかったのが原因かはわからない・・どんな理由であれヒビの入ってしまった神剣よりも、武器としての格が下でも、ここはロン・ベルクさんが作ってくれた剣を信じよう。
「ヒュンケル、お願いします。」
「ティファ・・・・任せてくれ。」
ティファの発案を聞いたヒュンケルは力強く笑って引き受ける。
暗い中をいつでも光で照らし道を指し示してくれているティファの思いに応えたい。
ティファが出来ると信じているのであれば、自分達が迷う必要などどこにもない!
ただその道をひた走るのみ。
回復し道を指し示されたヒュンケルは、大鎌から逃げている弟弟子を背に庇う。
「さっさと地獄の戻ったらどうだ疫病神!!」
「君迄間違うだなんて本当に失礼だねヒュンケル君!!君達こそこの状況にさっさと絶望すしたらどうだい⁉バーン様を倒せる決定打の無いこの状況でダラダラ戦ってもじり貧になるのは君達だろうに!!」
「ふ、ティファが、一行の料理人が勝てると信じている戦場で俺達が絶望する訳がなかろうが!!」
キルの言葉を鼻で笑い飛ばし、ヒュンケルが吠え上げた事でバーンは-次の一手-に何を打つべきかを悟った。
ヒュンケルとしては、自分と仲間たちを鼓舞するつもりで叫んだ言葉であったが、同時にそれは-一行の弱点-を晒してしまった。
余の魔力はまだ半分ある、ハイ・エントの方であれば六割も・・・ならば。
バーンはダイが下肢に力を入れ右手の拳と紋章に力を注ぎ込み振り抜く直前のタイミングに合わせ、足元をヒャドで凍らせ足止めをする。
今までの自分の戦い方を鑑みれば、なんと自分らしくない戦い方であろうかとちらりと浮かぶが、勝つことが全てだ!
足を凍らされダイは、そのまま光魔の杖の鞭状の攻撃で壁に激突し、そのまま光球体に打ち据えられる。
背中の激突の痛みに無防備になった所へのこの攻撃は、頭に血が上りアドレナリンが全開となり痛みを無視していた体も正気に戻ってしまい痛みにのたうちたくなった。
「あぐぅぅぅ・・ああ!!!」
それでも俺は!!!
痛みに耐え、叫び上げるダイを見て確信に至った。
叫ぶ寸前ダイが見た者。
その者こそがこの一行の心を支えている。ならば先にそれを取り除く!
「ラド=エイワーズ」
戦場の中での声とは思えない程の静かな声がバーンから発せられた時、ダイ達の絶望への道が開かれた瞬間。
詠唱と同時にマァムに守られていたティファが、バーンの左手で胸倉を掴まれ宙に浮かされていた!!
何故⁈
マァムは、寸前まで抱きしめていたティファが、突如として大魔王の手に掴まれている事に愕然とした。
クロコダインを治療して、ヒュンケルに指示を出したティファを、再び自分の腕の中で守っていたのに!それなのに!!
マァムは心の底ら狼狽、ティファもまた状自身におきた状況に追いつかずにいた。
キルが、空間開けられてないのに・・・・・さっきも-一瞬-で黒の核晶の超小型版を・・・・
なぜ自分が捕まるような状況になっているのか分からないティファは呆けた顔を晒し、その顔にバーンはくつくつと笑ってしまう。
「ティファ!!!」
「そんな・・・・ティファ!!」
「ティファ!!!!」
「ティファ!!」
ダイが、寸前まで抱きしめて守っていたマァムが、タッグを組んで共にキルを倒さんとしていたポップとヒュンケルが、それぞれ駆け付けようとしている。
必死に、其れこそ自分達の全てをかけて取り戻そうとせんとして。
ダイ達が必死であればある程に、バーンはティファの全てを滅茶苦茶にしズタズタに引き裂きたい衝動がこみ上げる。
かほどにこの子供が大切か。余の邪魔をするのであれば、罰せねばなるまいよ。
左手でティファを掴み浮かせているバーンは、右手の光魔の杖の触手をそのまま接続させながら剣の部分を持続させ地面に突き立て、ティファの胸の中央にひたりと掌をあてる。
力は一切込めずにそっと優しくあてがう様に。
その感触に、カイザーフェニックスか何かで焼き殺されると警戒していたティファが戸惑ったその瞬間、今まで味わった事のない冷たい何かが自分の体を突き抜ける。
駆け付けようとは知るダイ達の足元を、陣でヒム達を捕縛しているミストが陣を維持したまま地面に傀儡掌の闘気の糸を蜘蛛の巣のように張り巡らせ瞬間の足止めにし、主が行った結果をまざまざとダイ達に見せつける。
「キャァァァァッ!!!!!」
冷たい感触ににティファ本人は何も感じられない程感覚がマヒしたが、体は確かに感じた。
真っ黒い暗黒闘気がティファの体を通り抜けた瞬間、目は見開かれ体はのけぞり、自覚の無い痛みがティファに悲鳴を上げさせた!
「あぁ・・・あ・・・かはぁ・・・・」
悲鳴にのけぞり体内の内臓まで傷ついたダメージで咳込みと同時に、ティファの小さな口から血が溢れ出る。
小さな体が痛みに震え、吐血しながらえづく感触が左手から伝わり、ティファの赤い血はまだ温かさを保ちながら顔を濡らした時、ティファの赤い血に濡れたバーンの顔は嗤っていた。
ティファの苦痛を愉しむ様に。
今宵ここまで