勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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箱の底には・・

何故だ・・・・何故ここはこれ程に迄美しい・・・我等は苦しんでいるというのに!!何故この地は清いのだ!

あの暖かいものはなんだ⁉

-空-が何故黒くない・・・・あの白い物青い物は一体・・・

知ってどうする・・・・俺達が帰る所にあれは無い・・・

殺されない、其れだけで・・・

何故!俺は帰りたくない・・・・・ここを見て、再びあの暗い地に戻るなど・・・

我等が戻るのを待つ者もいる、帰ろう。彼らの為に・・・・・・大魔王様が勝てば、この地は我等のものぞ

そうだ、楽園を享受していた者達等!全て滅べばいい!!

 

 

篩の塔の最後尾、ティファは兵達と共に魔界のモンスター達がつつがなく帰るのを、瓦礫の上で膝を抱えて見ていた。

当然兵士たちにはモンスター達言っている事は分からずとも、ティファには分かる・・・・分かってしまう・・

 

私は・・・・この子達を地獄に送り返す・・・

 

太陽を知らず、温もりを知らず、白い雲も青い空とても知らないこの子達を・・・

この子達が大魔王の勝利を願うのは当然だ・・・・・暗い地にて希望の無い日々を、ただ漫然と無為に生きる辛さを自分も知っている・・・・生まれた時からまともに生きる事すら許されず、いつ死んでもおかしくない体に生まれ、偶々助かる薬でそこそこの時を、死の足音に怯えながら生きて来た前の自分とこの子達に何の違いがある?

 

あぁ・・・私は・・・・・この子達を殺してない・・・でも・・・この子達の仲間を!私はたくさん手に!!

 

そして-あの日-マトリフの洞窟の前で、一切の悩みをティファはバーンに打ち明けたのだ。

疲れきっている中で自分に優しくしてくれて、自分の中の-何か-が、自分の慕うおじさん以上に、バーンに縋りつけと後押して・・・・

 

「わ・・たしは・・・魔界の人達と・・・・戦いたくない!」

「・・・・なに?」

「魔界の仔達は泣いていた!命が助かっても日も差さない暗き地に戻りたくないって!!地上に残りたいって泣きながら魔界に戻っていた!!!」

「そなた・・・」

「死の大地も寒かった、心の中まで寒くて悲しくなって、瘴気がある所は全部死の台地みたいなら・・・・魔界は地獄だ・・・・」

 

地獄のような場所で生きていくにはずっと強者であらねばなるまい、誰かを慈しみ優しさをはぐぐむ土壌があるとはとても思えず、過去に幾度も魔族達が地上を狙ったのが温かさを得る為ならば心情が理解できてしまう!

 

自分は悲しい事があればこうやって日の光に暖めて貰え、優しい隣人たちの体温と心の温もりで癒して貰えるが、魔界にはその温かさがあるのだろうか、

 

「わずかにでもあるのならば・・・あの仔達は泣いて帰るはず無い・・・・寒いところで終生を過ごす・・・・・わたしなら・・そんな事は耐えられない・・」

 

ティファはいつしかバーンの白い衣を握りしめ、瞳を歪めボロボロと大粒の涙を流し切々と嘆きを吐き出していく光景がダイ達の目の前で写されて行くと共にティファの中に、リャナンシーによって封ぜられた記憶と懊悩が蘇り、ティファの心を瞬時にずたずたに切り裂く!

 

 

「あぁぁぁぁっ!!いやぁ!!違う!!殺したくなんて・・・・あぁ・・・ああ・・・」

 

バーンに掴まれたままティファは咽び泣く。

 

 

記憶が還り共に痛みも戻される。

あの日自分は、バーンと出会い、そして終生胸の奥に仕舞っておくはずだった心の底の悩みを、苦しみをこの人に話した事が思い出す。

 

自分は-話し-だけで魔界の苦境を知っていた・・・知っていた積りになっていた!だが実際の彼らの怨嗟は深く、故郷だというのに帰りたくないと嘆いている!そんな地獄に生きてきた者達が・・・・地上を欲するのは当たり前ではないか!!

 

 

ハイ・エント・リャナンシーの記憶は元の持ち主に還る時、その記憶の映像をさながら大型スクリーンに写しながら還っていく。

ティファの心の底の苦悩の全てが、ダイ達にも共有された瞬間だった。

ポップとマァムにはモンスター達の言葉が分からずとも、ダイとバラン、そして近頃はベほと話しているせいか、其れとも過去にモンスター達と共に育ったせいか、ある程度言葉を解するようになったヒュンケルとも分かってしまった。

 

ティファは、篩の塔で思い知ったのだ。太陽がない世界の辛さを苦しみを。それ故に魔界の者達が持つ地上に対する憎悪と怨嗟の声を。

そして今自分達も・・・・

 

 

「クックックックク!ハァッハハハッハハッハ!!!!!」

 

ティファの嘆きを共有し、共に沈むダイ達の頭の上をけたたましい笑い声が響き渡る。

 

 

「・・・・てんめぇ!ティファの嘆く姿の何がおかしい!!!!」

 

心折れかけても、疫病神に対して未だに闘争心消えやらぬポップが笑い声の元、キルを怒鳴り上げる。

妹の優しさからくる嘆きの何がおかしい!!

 

「笑えるさ!勇者一行の料理人のお嬢ちゃんはずっと-僕達-の戦っている本当の理由を知っていたんだから!!

今までね!それこそそこにいるハドラー君もバラン君もヒュンケル君も長い事バーン様に仕えて来たくせに知らないのに!!戦って数か月しか経っていないその子が知っているのは滑稽じゃないか!」

「お前達の・・・・ほんとうの・・・」

「おやおや、魔法使い君は存外頭が悪いんだね。ここ迄答えが出揃っているっていうのに。

お嬢ちゃんの映像のモンスター達の言葉が分からなかったんだね。いいよ、特別にこの僕が解説してあげるよ。」

 

大鎌を右手で肩に担ぎながらも、ティファを質にしているせいかどこか余裕の笑みを浮かべるキルは、ポップとマァムに映像のモンスター達の怨嗟と嘆きの内容を全て教える。

 

魔界の過酷さを、地上に住んでいる子供達が知る由もなく、魔界の現状に青褪める。

そんな地獄にモンスター達を送り返したことに罪悪感すら浮かぶ程に。

 

「そうさ、僕等はね魔法使い君。あの太陽を欲して戦っていたんだよ!!なん千年も何万年も!暗い地に押し込められていた者達のこれは復讐戦であり生存をかけた戦いなんだよ!!」

「そんな・・・復讐って!」

「驚くのはそこなのかい?君はもしかしなくとも、この戦いは君達が善で、攻めてきた者達が悪の勧善懲悪の物語が紡がれているとでも思っていたのかな?

現実はそんなに単純で生易しいもんじゃぁないんだよ!!!」

 

キルの言葉はいつしか激し、生の怨嗟の感情がポップ達を討ち据える。

自分にとって周りの事等石ころだと嘯いていたが、本当は心の奥底でずっと燻ぶらせていた。

魔界と地上の差異を知れば知る程に!何故魔界は打ち捨てられ顧みられることなく!!今は滅びへの道を辿っている!!!

 

その理不尽さににずっと怒りを燻ぶらせていた

 

「こっちにおいでよお嬢ちゃん!!君の考えている通り、魔界は救いのない光の欠片すらも届かない悲しい場所なんだよ!!僕等はね!ずっと欲しかったんだよ光が!!救いが!君の様な温もりを与えてくれる太陽のような希望が!!!」

 

ティファを知ってから思い知った。

自分達がいかに寒い地にて打ち震え、それを当然だとしてきたのが。

だが、ひとたび温もりを知ってしまった今!あの寒さに耐えられる気がとてもしない!!

あの笑顔を、温かい言葉を、優しさをどうか僕達に降り注いでおくれ!!!

 

怨嗟の声がいつしか懇願になり、キルもバーンとティファの側に近寄る。

 

「魔界の太陽になっておくれよお嬢ちゃん・・・・・」

 

泣き濡れるティファの顔を、そっと両手で包み込みながら請い願い、ハドラーの方にも顔を向ける。

 

「君も魔界の現状は知っている筈だよハドラー君。ならどうしてバーン様が君を駒にしてまで完全勝利を目論んだか分かるでしょう?」

 

魔界の神と呼ばれるその名に相応しく、全ては魔界全土の為に

 

「怒るのも分かるよ。けどね、戻っておいでよ僕達の所に。一緒に地上を消して、魔界に太陽を届けて欲しい。」

 

静かなキルの言葉に、さしものハドラーも動揺する。

 

自分を駒にした事に対する怒りは最早ない。ティファがその仇をとってくれた時から。

怒りがあるとすれば、天晴な敵であるティファを嬲り者にした事にこそ怒りで動かぬ自分の体を呪ったが、今まで自分は魔界の苦境があれ程酷く、自分も上げていた怨嗟の声と抱いていた憎しみの心を忘れはて、己の事ばかり考えていた自分の不甲斐無さに氷水を掛けられた思いがした。

 

この戦いに・・・・善も悪もない・・・・・正しい事を無理にでも上げろと言われれば・・・・それは大魔王の方にこそ・・・・

 

 

「・・・・ない・・・」

 

ティファの苦悩と嘆きに引きずられ、ハドラーの中の天秤をも傾けようとされていたまさにその時、声が聞こえた。

 

 

「望まない・・・・ティファは!!地上を消すことを望まない!!!」

 

 

ガン!!!

 

 

再びヒュンケルの剣を手に取り杖代わりにして立ち上がり吠え上げる。

 

 

「映像を-最後まで-見ていなかったのかい勇者様。お嬢ちゃんだって戦いたくはないってバーン様の腕の中で・・・」

「言っていた!だけど!!この映像には続きがあるんじゃないのかバーン!!!!」

 

映像は途切れ、最後に見えたのはティファがバーンの腕の中で知ってしまった魔界の者達の心情と凄惨な状況に苦悩し、自分ならばそんな地獄では生きていけないと

、わがことのように嘆き苦しんでいるティファの姿で終わっている。

 

それが全てだとキルは言い切るが、ダイには確信がある。

妹は確かに優しすぎ心の弱さがある!だが、地上を消し去る事を良しとする子じゃない!!!その考えを肯定する子では無い!

 

「・・・かえせ・・・・・俺の妹と妹の記憶の全て返せ!!バーン!!!!」

 

ダイが、再びバーンに討ちかかる。

 

ティファをバーンに託し、ダイを迎え撃つために振りむこうとしたキルの足元と手が

 

「ヒャダルコ!!!」

 

凍結させられた!

 

 

勇者が再び動き出した時、魔法使いもまた動いた。

いや、ダイの目に再び闘志が灯った時から動いていた。

 

ここにきてロン・ベルクの特訓が助けてくれた!

ダイ達と共に体術で体の使い方と、闘気の扱いを学んだ。

 

魔法使いだからと言って闘気が使えない訳ではない。十全に使えずとも、例えば足の筋力にだけでも流し込めればいいのだと。

 

魔法の特訓の傍ら闘気の流れを感じ、遂に両足の筋力を闘気で強化し普段の数倍の速さで動いたポップはバーンではなくキルを標的にし、次いで次弾を素早く装填する!

 

勇者を支えるは一行の全ての者達の役割!だが!!勇者ダイの相棒はこの俺だ!!!

ダイが折れないのに俺が先に折れてたまるかよ!!!

 

素早く超小型のメドローアを生成する。

 

狙うはバーンとキルの足元!

 

コスパがとても低く、それ故に放たれるまで感知されづらいメラとヒャドの超小型メドローアを、放つ寸前にポップにも暗黒闘気の触手が伸びる。

ミストとて警戒を怠ってはいなかった。どうしても勇者とティファに目が行きがちになる主と親友の代わりに全体を見張っていた。

 

その技を放つ前に!!

 

空烈斬!!

 

其の触手はポップに届く事無く霧散する。

 

見遣ればヒュンケルが折れたダイの剣を握りしめていた。

大技でなくともいい!弟弟子達の道を開ければそれで!!!

 

「メドローア!!」

「大地斬!!!!!」

 

それは狙いすませたように技の連撃が決まった。

 

ポップの放ったメドローアは、バーンではなくその足元を潜り込むように抉られたため直ぐに張ったマホカンタは意味をなさず、衝撃でバーンが吹き飛び、空間にティファ諸共消えようとしたキルは再びヒュンケルとマァムの蹴りで阻まれ格闘戦に持ち込まれた。

 

マァムもダイとポップが動いた瞬間、己の顔を両手で叩いて心をしゃんとさせていた。

どんな状況になっても、最高の動きが出来る様に!!

 

 

「ティファを!ティファの記憶を返せバーン!!!」

 

全ての、体の奥底にまだある闘気を振り絞り、ダイは己の命すらも無意識に闘気に変換し爆発的に高められた闘気が、飛ばされながらもティファを離さないバーンの右手を切り取り、そしてバーンの左手でまだ淡く光っている球体にまで切り込みを入れた!!

 

バーンにとって手の再生など一瞬の事だが、今のダイにとっては十分な時間。

手が放され放られた妹をその両手に抱きすぐさま距離を取りつつ声を張りあげる。

 

 

「ティファが!俺の妹が最後に言った言葉を聞けぇ!!!!」

 

 

 

 

パッリン

 

 

 

 

光球体が割れ、震えるように空間に広げられた映像に映り発せられた言葉は

 

 

 

 

それでも私は剣を捨てられない・・・

守りたい・・・守らなくちゃいけない・・・

 

それにどんなにあの子達が哀れであっても・・・・

 

 

             この地を明け渡してあげられない

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを知りながらも、それでも地上を守り抜くというティファの言葉。

 

ティファの本当に嘆きは、魔界の全てを知ったとしても、守る為に戦う事にこそあったのだ。

 

どうすればいいのか分からないではない。己の出した答えの非道さに嘆いていたのだ。

 

 

「ティファの心は決まっている!そして俺の心も!!!俺はこの地上を守り抜く!敵がどれほど可哀そうでも!!俺にだって守りたい者がいるんだ!!!!」

 

脳裏に愛しい少女を思い浮かべ、帰りを待っていてくれる家族を、仲間を思いダイが再び吠え上げる。

その声に応える様に、ポップ達の目に再び火が灯る。

 

世界を守り見捨てず助ける勇者ダイ一行の決意の炎を再び胸に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

封印された箱、パンドラの箱には決まった物がいつも入っている

 

それは苦悩であり絶望であり争いの種であり破滅をもたらし死をまき散らすものが

 

 

しかし箱の底の底にある物に気が付いた者だけが見つけることが出来るものも必ず入っている

 

 

 

パンドラの箱の奥底には、迷いながらも道を進もうとしている者達の足元を照らさんとする希望の光が、いつでも見つけられる事を待っている

 

絶望に負ける事無く希望の道を歩く者の足元を照らす事を望んで

 

そして箱の底から、暗き道を歩く光を見出したのはダイ達だけではなかった。

 

ー全てーを思い出した料理人も、また光を取り戻し再び立ち上がって歩きだす




今宵ここまで
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