カールのフローラ女王の隠し砦は今まさに暴発しそうな程の熱気を孕んでいる。
少しの言葉を誤れば、主にカール騎士団が暴動を起こしそうな程に。
世界の為にどう動くべきかを、見張りと哨戒兵以外の者達全員参加できる大広間にて話し合われる場とは思えない程に殺気立っている。
勇者ダイ一行とフローラ女王と率いるカール騎士団と各国の有志連合達だけであればここまでの事態にはなっていなかった。
原因は唯一つ、魔王ハドラーとその親衛騎団四人が問題なのだ。
ダイ達も目覚めてから大分経ち、ロン・ベルクの朗報とティファの手紙を読んで希望を取り戻して幾分落ち着き、周りが思いがけないほど不味い状況になっている事に気が付き蒼褪め、ハドラーの背後で護衛の様に立っている親衛騎団達も心中心穏やかでは無い。
ロン・ベルクやマトリフ、バランなど歴戦の戦士や戦いに身を置いてきた身としては、敵から立場を変えた時点でここまで殺気を露にするのはどうなのだと呆れたいところだ。
アバンを殺したと言っても、互いに命の遣り取りをしたのは、紛れもなく本人達の意思。
百歩譲って大戦を仕掛けて来た大罪人の、其れも張本人だと言い張られればそうなのだが、言ってはなんだが人間同士の戦争でも、国家間の利が合えば和解し昨日迄殺し合っていたとは思えない程蜜月を築いてきた王家や各家に枚挙に暇がなかろうに。
矢張りハドラーが魔族でしかも魔王というところが足を引くかとマトリフ達は見ている。
ハドラーは悪い意味ではないが美形ではなく、おどろおどろしい魔族の恐ろしさを体現している容姿をしている。
鋭い目から発せられる眼光が、意思の強さを表す厳つい顔が、対峙する相手を知らずに竦ませてしまう。
どう考えてもとっつきやすい相手ではない。
そして癪に障るほど落ち着いた雰囲気が、相手によっては歯牙にもかけられていないのかと挑発されている気分に陥らせてしまう。
その証拠に、ダイ達やハドラーも含めて円卓に椅子を用意され席に座り、友好気分を少しでも出そうとフローラの采配で配られたお茶をダイ達が啜ればお茶菓子でもと持ってくるが、ハドラーが啜ればそれだけで咎める目が行っているのだからどうしようもない。
この状況に、一番頭を痛めているのは砦と指揮を纏めているフローラ女王だ。
彼女は為政者の覚悟としてハドラーを受け入れはしたが、気が立ちすぎている騎士団達に、ハドラーの事で命令を出せばどんな反応が返ってくるのかが予測できずに叱責に留めている。
普段であれば果敢な決断をする女王とても、機微に疎くてはやっては行かれないのが王族。
頭ごなしだけの命令では王家と国は立ちゆかない。心より忠誠を誓われ仕えて貰ってこその王家なのだから。
そのフローラも今や岐路に立たされる寸前である。
このままいけば、ハドラーの処断か、それとも勇者達はハドラーと共に、カールは独自で動くかを迫られかねない。
それ程に、カールはハドラーを憎んでいるのだが。
「はぁ~。」
その憎まれている当人が、溜め息を吐きながら頭をガリガリと掻いてうんざりとした顔で天を仰ぎ見る。
その様子に、場の空気を察して欲しいとダイ達は本当に青褪め、フローラのこめかみがひくりと動いた。
この場の雰囲気にうんざりとしているのだろうか?お願いだから余計な事を言わないで欲しいとフローラは内心で神に祈ってしまった。
そもそもの原因はハドラーではなく、いなくとも場を搔き乱した料理人のティファのせいなのだとフローラは恨みたくなる。
ダイ達の決戦の事と居所や他にも事細かな情報提供には感謝するが、だからと言ってここまで面倒を掛けれては割に合わないと嘆きたくなるのは罪なのだろうか?
ハドラー達の事は同情もしようが、逃がすのがダイ達だけであったれば今すぐにでも砦と世界を一つに纏め上げ、各国に使者を走らせている頃合いだったのを、予定の全部が覆された苦い思いをティファに抱く。
そんなフローラの危惧を知ってか知らずか、ハドラーは自身からとんでもない事を提案してきた。
周囲を見回し、睥睨しながら告げられた言葉は
「俺が居るのが許せんのは分かる。だがこの地上が消されるかどうかの瀬戸際なのを、お前達は本当に理解しているのか?」
挑発的な言葉で始まり、瞬時に会議の場は沸騰した。
「貴様如きがそれを言うのか!地上支配を目論んだ魔王の分際で!!」
「陛下!矢張りこの者は今すぐに処断を!!」
「勇者殿たちも何を考えておられる!敵の最高司令官を助けるなど正気の沙汰では無かろうに!!」
それは至極当然の罵倒で、彼等には魔王を罵る権利がきちんとあり、ダイ達のハドラー擁護ともとれる行動も批判されるべき点があり、ダイ達としても、ティファが助けたからが八割、残りは敵味方に分かれていたとはいえ戦場を共にし、いつしか共通のものを持った者という不思議な情が出来たのが残りの理由で、そんな曖昧なものでハドラーを擁護するのは間違っていると面と向かって言われてしまえば言い返すのすら躊躇われる。
これがヒュンケル、クロコダイン、バランと竜騎衆達の事まで言われれば、彼等は償う道を歩いていると正面切って反論できるが、ハドラーはまだ、この後地上消滅の手伝いはしないまでもどうするのかを明確にしていない。
次の言葉が飛び出すまでは。
「大魔王との決着がついたら俺のこの首好きにせよ。」
殺されようが嬲り者になろうが文句はない。だから今この時だけは我慢しろ。
平然と頭を下げ、己の首を差し出すと言いのけるハドラーに気負いはなく、明日の天気はどうだと日常会話をしているのと変わらない声音で、己の命を差し出す約定を口にした。
地上消滅を阻止する為に、この場の全員を一致団結をさせる為が六・七割り。残りは純粋に自分が死にたいからだ。
呆れてみせたのも挑発したのも自身に全てのヘイトを集める為の茶番に過ぎない。
ハドラーからすれば、この半月はティファとの戦いで自分は死ぬものだと思い定めて来た。
今生きているのは、命を懸けて自分達も救ってくれたティファには悪いが単なるおまけであり、あの時の死こそが自分の望みであり、それは幸福の内の死であった。自身が討たれても、ティファを討った後に寿命で果てるか怒りに燃えたダイ達に殺されるかは知らないが、あの三界一のとんでもない娘と存分に戦えればどちらでもいいという、最高司令官としては最低で、あらゆる意味で大魔王に砂をかける真似を仕出かすことになるが後悔はない。
あの度量の広い主ならば、自分の戦士としての思いを分かってくれると信じて・・・・その主に初手から駒にされていた訳だが、感じたのは深い悲しみで不思議と怒りは感じない。
もしも主が、魔界の為に死んでくれと言ってくれれば、小物魔王の時は無理であっても、今の自分ならば喜んでやり遂げた。
無論ティファとの決着はつけられないが、あの世でやればよいと開き直って。
だが現実はどうか?
主は自分を頼むに足るものでは無いと評価したままでいられた事が悲しかった。
助けられた時より恩を感じ、遂にはここ迄の戦士に育つ道を用意してくれたバーン様に命を捧げても構わない程に敬愛していただけに悲しみが先だった。
駒にされ消されかけてもバーン様に恨みの念が欠片も湧かない。それでも、かつての配下とその子孫たちが生きているこの地上を消させるわけにはいかないのだ。
バーン様、貴方を倒した後、俺も直ぐに逝きましょう。
葛藤の果てに袂を別つ事になってしまったが、死ねばその因果から互いに解放されてもいい筈だ。
あの世で裏切り者と、共に倒されるであろうミストやキル達にも詰られようが、それでもいい。
最早現世で仕えられずとも、あの世とやらがあればまたお供の端に・・・
折角助かったヒム達には済まないと思う。自分が死ねば、それはすなわちヒム達も諸共に逝くことを意味している。だがこの俺の我が儘をどうか許してほしい。
今宵ここまで・・・・
ハドラーが武人というよりはとっても乙女思考になっている気がする筆者です。
どれ程大魔王が好きで敬愛し、駒にされたとしても地上消滅が無ければそのまま仕えていたかが出ていれば幸いです(;^_^A
そして遂に指導者の中からも主人公のした事を許せない方向の方が出てきました。
(今までが賛美されすぎという話もある)