「それはとても困りますよハドラー様。それではティファさんが命を掛けて救った甲斐がないというもの。こんな世界の片隅で吠える小物達の言葉に真剣にお答えいただいては困りますな~。」
ハドラーの真剣な思いにカール騎士団までも情に絆され結束が固まりかけた部屋に、とんでもない暴論が吹き荒れた。
誰が言ったのか、カール騎士団どころか親衛隊達もハドラーを取り囲みながら辺りを警戒する。
先程の暴論は、主を擁護しているようでいて窮地に追い込んでいるではないか!
何処の世界に自分達を小物と言った人物が庇っている者を同じように守ろうと思う者か!!
この声にとっても覚えがある者達は青かった顔が更に青くなり、最早紙のように真っ白になる。いっそこのまま魂も燃え尽きって真っ白に慣れればどれ程楽か!!
ダイ達、正確に言えばダイとポップとマァムとバランにとってなじみのある声の主は、まだ大広間の外にいて扉をこつこつと礼儀正しくノックをする。
そのノックに一番に応えたのは、声が聞こえた瞬間に扉近くまで来たポップであった。
頼むから-あいつ-じゃありませんように!あれもある意味ティファ同様場を乱すことに関しては天才的な面がある。逃げ延びた先で何が悲しくて味方になれそうな奴等とごたごたせねばならんのだと、天才二代目大魔導士寸前のポップをしくしく心中で泣かしている人物は、ポップが女王の許可なく開けると同時にポップの横をすり抜け颯爽と部屋に入り挨拶をする。
「こんばんわ皆様。お初にお目にかかります、私はぐれ魔族でダイ君、ポップさん、マァムさん、チウ君とティファさんと懇意にさせていただいていますザムザと申します。
過日ロモス王国にて武闘大会にてわなを仕掛けて急襲いたしましたが、勇者ダイ君に負けた上に命を救ってくだされたので二度とは致しません。
なのでどうぞよしなに。」
芝居がかったように右手を大きく振り上げながら胸元の持っていき一礼しながらも、言っている事は人を食ったような暴虐武人な挨拶もも呼べない言葉を歌い上げた人物は、元魔王軍の化学部門に勤めていた、妖魔司教ザボエラの息子・ザムザであった。
「私が来たからには皆様にご不自由はさせませんぞダイ君。」
右目をバチンとウィンクしながら手を振って言ってくるこいつは本当にあの親孝行で生真面目そうな青年と同一人物なのかと、あの闘技場で思ったダイ達と、元を知っているハドラーとバランは呆然とする。
こいつはこんなに軽薄そうな奴だったか⁉
その軽薄したザムザに一番に驚いたのはハドラーであった。なんと成れば自分がこの超魔生物完成形態の肉体になれたのは紛れもなく命を張ってデータを収集してくれたザムザのおかげなのだから。
このザムザの働きに報いる為に、死の大地で勝手に部隊を動かし、ティファを討って手柄にせんとしたザボエラを一度だけ許したのだが。
「ザムザ・・・生きていたのか・・」
「お久しぶりで御座いますハドラー様。見ての通り、また先ほどお話した通り私は・・」
バン!!!
其のしんみりとした感動の再会を、机を力の限り叩いたフローラが壊す。
「・・・・先程あなたはロモス王国の武闘大会を急襲したと、そう言ったのですが。」
「はい、確かに申しましたよ人間の・・・失礼、カール王国女王フローラ陛下。目的があって急襲したのですが、死掛けた私を先ほど言ったようにダイ君達に救われましてね~。」
超魔生物の試験役を父にさせられたとはいえ、自分も科学者の端くれとしてこの未完成な体で何処までできるか試してみたいのが本音であり、心の欲求のままにわなを仕掛けダイ達と地上の実力者たちを呼び寄せ戦ったが結果は承知の通り。
それでも任務の為のデータを父に送り、さぁ灰になるかと目を閉じた後に奇跡の万能なる万能薬を口に無理やり突っ込まれ、吐き捨てようとしたのをダイとポップがこれまた口を押さえて来て無理やり嚥下させられた!
ごくりと飲んでしまった後は、ティファ達の前で目覚める迄よく覚えて・・・・嘘吐いた、よく覚えている。
生命力が急激に底上げさせられたのを感じながら、朦朧とした意識でダイ達を罵倒していた。
死ぬ自分の命を気紛れに救って何が楽しい。死掛ける敵を助ける麗しい正義の味方ごっこがしたいのならば他で遊べと。
だが、完全に目を閉じる前に自分が見たダイ達の顔は困った顔をしていた。その答えに対して答えを持ち合わせていないのが丸分かりで、すなわち自分を助けたのは深い考えも無く、正義ごっこの為ではなく、助けたかったから助けただけなのだと瞬時に府に落ちる程間の抜けた顔をしていた。
思惑と打算だらけの魔王軍では触れる事の無い奇妙でそして暖かい思いにザムザは心の底から負けを認めながら眠りについてモンスターの筒に入れられ、送られた先のティファとバランによってザムザの心はダイ達とティファ達を助ける事で固まった。
「なのでご安心ください女王陛下。私はティファさんより万能薬の作り方を伝授されています。
其れにバラン様は人間用の万能薬ではこれから出てくるであろう微熱や体調不良には効きません。幸いにも以前バラン様の熱を下げる事に成功しているのでサポートの方はご安心を。人間の皆様用にも大量に作るので、最終決戦まで殺し合いの如き特訓をされても必ずや-直します-ので恐れずに鍛錬なされませ。」
・・・・・女王陛下自らの尋問にも態度を変えず、爽やかに物騒な事を言っているこいつは本当にザムザでいいのだろうか?
「その証は立てられますか?」
次から次へと降ってわいてくるティファ周辺問題の襲来を受けているフローラは、健気にも匙を投げる事無く、マトリフ達迄をも唖然とさせている、軽薄そうでいて自分を見ている眼が少しも笑っていない魔族の青年を問いただす。
この青年の物言いはいろいろと問題はあるが、どうやら言葉に嘘はないと思うのだが、これ以上元魔王軍関係者を入れたくないという葛藤が働く!!
一体全体どうしてこうなった!勇者一行の頼れる大人たちの大半が、マトリフ以外は一人は魔族で他は元魔王軍というこの異常事態はさしものフローラにもは想定外過ぎた。
せいぜいヒュンケルかクロコダインを受け入れるのは訳ないと思っていただけに、蓋を開けてみれば埒外の事ばかり。
アバン・・・神は私に何か試練を与えているのでしょうか?この事態に泣いてもいい気がしてきたが、そこは踏みとどまる。
「ふむ証ですか・・・・-私ーではなく-彼-にお願いしましょう。お願いします、式神殿。」
式
その言葉に、マトリフとラーハルトは瞬時に反応して立ち上がる。-しき-という言葉に、自分達は苦い思いがある。
愛してやまないティファを、精巧に作られた偽物と判別できなかった問い思い出したくないものが。
あの時と同じ、ティファに似せられたものが現れるのだ廊下と身構えたがはいってきたのは
「あ!!あんたあん時ドラゴンキラー貸してくれたあんちゃん!!」
「ホントだ!!・・・・あの・・・・ザムザさんどうなってるの?」
式という言葉自体をそもそも初めて聞くダイ達にとって、あの時ベンガーナで助けてくれた人がどうして自分達を助けるというザムザ証になるのか疑問でしかない。さまさまどうしてここにいるのだ⁉︎
「今からご説明させていただきます。あの折は主様に・・・分かりやすく言えばティファ様に頼まれて-武器探し-をしていたところあの場面に遭遇しティファ様にご指示を仰いだところあのような流れに。」
式はすらすらと息を吸うように嘘を言う。もしも自分がダイ達の前に出ることがあり説明を求められた時のバックグランドのプログラムは予めされているからだ。
「そしたら・・・あの時点でティファは・・」
「はい、巨大な敵が来た時の為の万能薬作りから手が離せずに、代理で私がお助けさせていただきました。」
あの時の辻褄合わせの話もばっちりと搭載されている。
式はスタスタとフローラの下に歩き、にっこりと笑いながら自身の腕を無造作にねじ切る。
その異常な行動に広間全員とは言わずとも大勢が叫ぶと思われたが、重い沈黙が降り積もる。
式のねじれた腕からはいくら待っても血は一滴も出ず、あるべき骨の露出さえも無い!!
「改めて名乗りましょう。私はティファ様によって作られ長年共にいるうちに個体名を与えられた式神と申します。
式神とはこの場合、ティファ様の魔力から生み出された者達を差します。
それは多岐にわたり、アイテムや私の様に疑似生命を生み出したものです。
アイテムの方は本物同様に機能しますが、疑似生命体は何処までいっても作り物で、血も出なければ骨も神経も当然ありません。
ダメージが過ぎれば元になった素材に戻るだけです。
ラーハルト様達は既に会っている筈です。ティファ様の手紙を依り代とした式の一人に。」
「・・・あれと同じ類の奴かよ・・・」
あの時、ティファではないと完全に分かった時の絶望と嘆きがマトリフ達の胸を焦がすが、感情の機微に疎い式神フラメルは、気にも留めずに話を続ける。
「ちなみに私は長年自律して思考し、主様の命を完璧にこなせるために精霊性の高い物質を作って生み出されているフラメルと申します。
私はティファ様のご兄妹であらせられるダイ様がどこにいても分かるように作られています。
此度はこちらのザムザ様を、ダイ様達の下に届ける様に命じられました。」
ねじ切った腕をフラメルは無造作にくっつけ、フローラに素っ気なかったのが嘘のようにダイの前で額づく。
「主様の兄君であらせられるダイ様。私フラメルが貴方様の命を果たしましょう。何なりとご命令を。」
「私もフラメル殿同様、勇者一行と御味方のサポートに全身全霊を捧げましょう。」
今宵ここまで