「体が崩れるような感じは?」
「・・・無い。」
「どこかに痛みや痒みなどの些細な違和感は?」
「それも無い。」
「では今掌にメラを出していただきます。」
「・・・・」ゴォウ
「いつもと何か違う感じは?」
「無い。」
「最後に闘気の放出を微量ですがお願いします。」
フォン
「・・・特に変化は見られず。ハドラー様は、黒の核晶の無くなった影響は欠片も無いように見えます。
しかし長期的な事もあるので煩わしいとは思いますが、一日朝と夜に私が診察させていただきます。
ですが今すぐどうこうという事は無くなりましたので、親衛騎団の皆様もご安心ください。」
砦の者達と式神と親衛隊全員でダイ達を寝室に送っている間、ハドラーはザムザから渡されたローブとマントを身に付け兜を被り、ザムザの診断をフローラの立会いの下で行っている。
結果はザムザの満足のいくものであった。
ティファと自分が考えたハドラーを救う方法は今のところ不具合なく、ハドラーの体を正常に機能させている。
このまま数日何事も無ければ診察は一日の終わりに一度でよさそうだ。
だからと言って
「貴方様には迷惑な話だったようですね。」
「・・・・・まったくだ。」
ザムザの憂いを含んだ質問に、ハドラーは素っ気なく答える。
ハドラーの命が助かるという言葉に親衛騎団が喜びこそすれ、ハドラー本人は憂い顔のまま。
死に時と決めた時に死ねなかった事が余程堪えている様だ。
「察してくださいとは申しません。これは私とティファさんの我が儘に貴方を巻き込んだだけの話なのですから。」
命を救ったという恩を着せるつもりは毛頭なく、さりとて命を大切にしてほしいともザムザは言わない。
全てはティファが望み、自分はそのティファの考えに賛同しただけで積極的にハドラーを救いたかった訳ではなく、結局のところ救われた当人を含めてもハドラーを助けたいと心の底から願ったのはティファ一人しかいないという何とも皮肉な話であった。
「それで、この後俺にどうしろと?」
「それを決めるのは貴方様です。」
「ふん、-あれ-は何も言っていなかったのか?」
「はい、ハドラー様にお会いしても、診察以外の事は何も頼まれていません。」
ダイ達を、ひいては世界を助ける為の力を貸してもらうように説得して欲しいとのお願いもされていない。
つまり、ティファは純粋にハドラーを助ける事だけを望んでいた事の表れである。
見返りを期待せず、ハドラー達を戦力に組み込む意思の欠片も無い、何とも奇妙な話だ。
「・・・・ティファさんは、本当に何故貴方を救ったのでしょう?」
ティファの行動原理が世界を救いたいと言うのであれば、ハドラー達の様な不確定要素を見返りも求めず救う意味が分からない。
命を助けた恩を着せれば、現在のハドラーならばしぶしぶであっても受けそうなものだとフローラは見ているのだが、ティファにその意思がないとザムザが断言してしまっている。
「・・・あれは・・・・フローラ、お前は幼い頃何かの命を助けた事はあるか?」
「命・・・ですか・・」
「そうだ、小さきスライムでも鳥でも獣でも何かないか?」
「さて・・・」
ハドラーにした質問の答えは返ってこず、反対に埒もないような質問をされたが、生来生真面目なフローラはハドラーの質問に対して真剣に考えこむ。
そう言えば・・・
「まだ私が幼い時、小さなスライムが傷を負っていたので手当てをした事が・・・」
レオナ同様城を抜け出て入った森で出会ったまだ幼体のスライムが怪我をしていたのを助けたことがある。
侍女達に見つからないように傷薬を持ち出した時はハラハラしたものだが、助けたいと ・・・夢中で・・・
「まさか・・・」
「そうだフローラ。あれは、-助けたかったから助けた-。それ以上でもそれ以下でもない。幼子が傷ついた者を見た時自然と思う事をしたにすぎん。」
「そんな!!これ程迄の用意周到さを持ってした事が!そんな子供じみた考えだけで実行されたと!!そんな馬鹿な話が・・・・」
自らが辿り着いた答えをもってしてティファへの質問の回答とされたフローラは、馬鹿げていると思わず叫び出す。
黒の核晶の怖ろしさは、ハドラーの診察前にザムザから聞かされ脅威を覚えて身震いした程であった。
其の核晶の影響からハドラーを救い、敵の何かしらの切り札と共に消し去ったティファの偉業が、たかだか助けたかったからだと愛い子供のような思い一つで成されたと聞けば誰だって納得する筈も無い。
それこそ切り札を消された敵も、不本意な思い出救われた本人とても・・・ただの子供の思いで成されたと言われて。
「・・・・事実だ。フローラ、一つあれの事で忠告をしておく。あれが何をしようと悪意は欠片も無い。俺を救いダイ達と共に逃がしたのも他に手がなかったからだろう。お前に迷惑をかけるという考えが浮かばなかっただけの話だ。」
ティファに悪意はない
ただその言葉だけで・・・
「私達に納得しろと?」
虫のいい話だ。
魔王に被った過去の痛みを、今大戦で味わった屈辱をそれで許せと・・そして!最愛の者を奪った憎い魔王を!!たかだかそんな子供の戯言で!我儘でなされたなど、許せるはずとてないものを!!!
キリキリと唇をかむフローラに、ハドラーはフローラの考えをあらかた察して溜め息を吐く。
「その考えもあれには無い。あるのは駒にされ捨てられかけている俺を助けたいと願っただけだ。」
そこには周りに対する忖度も無く、子供じみた勝手な思いしかない。周囲がそれを許すかどうかなどの事もきっと考えてはいなかったのだろう。
其れに振り回される周りの思いもきっと・・・
ーあれーは本当にここが奇妙なところだ。
他者の悲しみに共感し、共に憂えることができる癖にこうした憎しみの機微が理解できていない。
おそらくだが、この地上がかかった戦いの為ならば、戦力になり得る俺を、カールもー渋々ーながらも受け入れると見積もったのだろうとは逃す寸前の確認問答で窺い知れる。
おそらくあの時迷い、地上が消えて迷いと答えていたならば置いて行かれていた可能さもあるだろうが、今自分はここにいて、カール騎士達の憎しみを浴びている・・人族も魔族も変わりなく、憎いと思った相手をそう簡単に受け入れる事などありはしない。呉越同舟と言われても、実際にはその言葉とても夢幻なのを、きっとティファには理解出来まい。
それはダイ達も同様で・・あれは本当に地上勢にとって傍迷惑な事をしてくれた。
「会った時文句を言うのもいい。罵倒する権利もあろうし顔を叩く位はしても良いだろうが、悪意があったとは思ってはやらないでくれまいか。」
今ティファがしている事は、確かに地上を助けんとする力になる事には間違えではないのだから。それすらも否定されては周囲を引っ搔き回しているとはいえ、命を懸けたティファが哀れだ。
「貴方は・・・・随分と変わったようですね・・・」
己の意に添わぬことをされても、した張本人を庇うハドラーにフローラも溜め息を吐く。
これでハドラーが昔のまま残虐非道な男であったのであれば、ティファが救おうとは思わずもっと単純な話で終われただろうに。
其れこそティファとは違う、現実にそくした考えでフローラに溜息をつかせる。
「あれに会えば・・・多かれ少なかれ影響を受けるからな。」
自分を変えたきっかけは紛れもなくティファだと言い切るフローラは、何やらのろけを聞いているようで馬鹿馬鹿しくなってきた。
勇者アバンと激突しても変わる事の無かった男が、たかだか・・・・・いや、ティファは中身と年齢が全く一致しない。
している事が、最早十二歳の少女であると言われて納得する者などいる訳がない。
「明日、ダイ達が起きた時この場所で話し合いをしましょう。」
先程とは違い、今度子をこの砦と各国の者達が一致団結して地上を救うためにも。
「否やはありませんねハドラー。」
「無論だ。俺とてこの地上消滅は阻止したい。」
其の一点において、ハドラーは敬愛する主と袂を別ち、かつての敵達と手を組む理由。
纏まる為ならば、道化にも処刑の身にもなろう。
「私も同席しても?」
ハドラーとフローラの話し合いを黙ってみていたザムザが参加を口にした。
「勿論です。この砦全員のサポートをしてくれるのでしょう?期待しています。」
「はは、貴女は根っからの為政者の様ですね。割り切りが早くて助かります。不肖の者ですが、精一杯女王陛下とティファさんのご期待に応えましょう。」
ハドラー同様、ダイとポップ、ティファに勝手に救われたザムザが一礼をする。
それをにこやかに受けたフローラを、ハドラーはじっと見る。
何となくではあり、全てがそうだとは思わないが、フローラもどこかしらティファに似ているのではないか?
無論、フローラはティファには欠けている常識・良識・周囲への配慮などを山ほど持ち合わせているが、呉越同舟のこのような時に、感情よりも公を優先するという思考に切り替わる速さ、受け入れると決めれば丸ごと飲み込む気概などがそっくりだ。
二人が会った時、どうなるのかとハドラーは不謹慎ながらも考えて内心で笑ってしまった。
何故なら、フローラに説教をされたティファが、フローラの毅然とした態度のカッコイイですとべた褒めをして、怒れるフローラを最終的には顔を赤らめさせ、もういいからそれ以上は言わないで下さいと涙目で怒鳴るフローラが想像できてしまったからだ。
あれは今どうしている?
捕えられたであろうティファがどうなったかを考えると、せめて手荒に扱われていない事祈るしか出来ないない事に胸が痛みだす。
ヒュンケルの時の様に、捕まっても手当てされた後は牢で放置されていて欲しいと、それ以上の事が起きない事を祈るしか出来ない自分は何と無力なのであろうか。
今宵ここまで