勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

271 / 536
大仕掛けの呪文を用いる意味

アバン先生の卒業の証の輝聖石

 

アバンの弟子達にとっての輝聖石の認識は、マトリフの下で魔道具に造詣が深まりつつあるポップであっても大切な証が精々であった。

 

だが、これは本当に今の世界を救う希望の象徴のアイテムへと変貌を遂げた。

 

「つまりこいつらの魂だかが、古文書に記されている大破邪呪文・ミナカトールの五芒星の一角を占める程のものだったら発動できる・・・・まるで夢物語のような呪文だな。」

 

ミナカトールの説明をざっくりとフローラからされた後、当代随一の大魔導士マトリフも呆れたくなるような仕掛け・・・大仕掛けもいいところだ。

 

まず第一に必要なのは五つの輝聖石・・・これ自体がとんでもない代物だ。

ただの-輝聖石-ではない。アバンが精製したのは、呪文の効果を増幅させる輝石と、魔法力を蓄積する聖石を併せ、聖なる力を高めて邪を退け、効用は高くはないが敵からのダメージを減らし、持ち主の力を高める効果があるとか・・・・最早伝説級の代物じゃねぇかよと、マトリフは頭痛がしてきた。

 

ダイ達は単純に、死しても先生が守ってくれていた、激戦を首の皮一枚守って来てくれたおかげで切り抜けられたのかと単純に喜んでいるが、そもそも五つも用意できる奴がいつの時代にいるとも限らない。

 

それともう一つ

 

「フローラよ、この呪文は輝聖石があればいいというものでは無かったな。」

 

そこも難点だ。

 

アバンに認められ輝聖石を授けられた四人の内ヒュンケルと、フローラの眼鏡に適っているレオナが先程輝聖石を譲り受ける形で授けられ時、どんな思いで戦うかを頭に描いてみなさいとフローラに言われたレオナは、敵の力を打ち砕き、背に庇う大勢の命を守り抜くと誓った時、先程ヒュンケルが光らせたように、輝聖石は白い光を放ちレオナを認めた。

 

これで二つの光が揃ったことになるのだが、残りの三つが問題であった。

それぞれの石には五種の異なる力が秘められていると書かれそれぞれの力も書き記されているのだが、古文書の文字が肝心の最後の部分がかすれて読めない。

 

今光ったのは古文書に記載されている『正義・白』『闘志・紫』

 

よしんば古文書の全てが読めたとしても、意思が光る保証は無いと、ハドラーはあえて厳しい現実をこの場で突きつける。

石が揃っているからとは言え、そう何もかもが都合よく揃うものでは無いだろうと。

 

其れと一番の懸念は

 

「どうやって空を、其れも超高高度を飛行している物体に呪法を施すつもりなのだ。」

 

バーンの空飛ぶ居城は今も雲よりも高い位置を飛行しているようで、ようとして影すらも見えない。

そんなところにどうやってミナカトールを施せるのだと鼻を鳴らしながら半ば呆れて聞いてくるハドラーに、フローラはある確信があって用意してきた中でも難易度の高い作戦を決行することにしたのだ。

 

それはダイ達が最も聞きたくない事

 

「敵がティファさんを囮にして勇者一行とその仲間達を一か所に集める時を狙います。」

 

言い切ったフローラの顔には、優しさの欠片どころか表情一つ浮かんでいなかった。

 

 

 

ダイ達の持ち帰った情報で、敵の狙いは征服ではなく地上消滅が目的なのは分かっている。

どうやら魔界にも何かしらの事情があり、急いで事を運ぼうとしているのが敵の大幹部キルバーンの言葉の端々からにじみ出ていたとはポップの言葉であった。

 

地上消滅が魔界の悲願であると言わんばかりであったと。

 

ならば、悲願達成のためには直前で邪魔をされる要素があるのを見逃すはずはないとフローラは踏んだ。

 

ただの邪魔ではない。幾度となく魔王軍の進行を防ぎ、撃破してきた各国の猛者と勇者一行に加え、地上消滅を真っ向から反対した魔王ハドラーとその親衛騎団達が丸ごと無事な状態でティファの手によって逃がされたのだ。

 

万全な状態で地上消滅阻止の為、地上組の士気が高まっているのは相手も知る所だろう。そこに氷の勇者・大魔導士マトリフと武力・知力も加わり大魔王達を阻止せんと立ち向かってきたならば厄介どころではなく、打ち破るのも夢ではない。

 

そのような脅威が地下に潜り、力を蓄えようとするのを看過せず、近いうちに全員を一所に集め一網打尽を狙う、少なくとも自分ならば。

 

その地上組全員に共通しているのが、大魔王達にとって厄介すぎる展開にしたティファ本人。

 

彼女の為ならば命を投げ打っても構わないという者達がリンガイアを始め、ベンガーナにもパプニカにも多数居り、各国の王達も支援は惜しまないという約定の手紙が届いている。

地上消滅阻止だけではなく、手紙のどこかに必ず料理人ティファを助けられるのであれば救って欲しいと言う様な言葉が書かれて。

支援理由の中身が明白になる文章であった。

 

明日にでも勇者一行は健在であると地下トンネルを使って砦の遠くに出て貰い、その場から各国の王に姿を見せる様に話すつもりだが、その前からこの騒ぎ。

 

ティファはこの地上の重要人物全てにとって囮になりえ、かつ全員が罠だと承知であっても救い出そうとする者ならば、近々大魔王サイドから何かしらのアクションがある筈。

 

それが

 

「私ならば公開処刑の名目で各国に鏡文字通信を送ります。」

 

自分達がまだ魔王軍に見つかっていなければ、支援しているであろう王室に対して通信を送り付け、ダイ達に知らせるように仕向け炙り出す。

 

 

「そんなところだな。」

 

 

フローラの冷徹な思考に周囲が押し黙る中、ハドラーが賛同の言葉を口にする。

囮と罠は、昔自分もアバン達に散々仕掛けた手だけにその有効性も知っている・・・それが結果に結びつかず最後にはアバンに敗れたのだから意味があったのかどうかは別だが。

 

公開処刑

 

その言葉に誰もが暗い表情になるが、マトリフ達大人は反対に希望が持てる。

 

「公開処刑があるとするなら、その間嬢ちゃんの命の保証が高まりそうだな。」

 

マトリフの言葉に、ダイ達はどういう意味だと俯いていた顔を上げる。

 

「考えても見ろ。嬢ちゃんが殺されてるんならとっくに殺されて、そこのフラメルも消滅しちまっているだろう。」

 

だが、逃げ延びてから二日経った今もフラメルは消えていない。

 

「フローラの考えがすべて正しいとは思わんが、あいつ等にとっても嬢ちゃんはお前達に対する切り札の位置に置いているんだろうよ。それまでは殺しても意味が無いからな。」

 

ひっそりと知らずにティファを殺したところで-価値-が無い。

 

先の決戦時の様に、ダイ達の前で無残に散らせる事にこそティファを殺す意味がある。

 

ここまでくれば、ティファの命はどちらの陣営にも重みが増される。

 

味方にとっては生きている事に希望を見出し救おうと力を磨き士気を高める反面、前述したとおりの事が起きれば士気等一気に吹き飛ぶ。

例えその後に地上消滅がなされると分かっていてもだ。人間は理屈や理想だけでは動けない。感情が時にそれらを阻害するからだ。

ティファを深く愛するが故の諸刃の剣。

 

 

敵にとっては生かしておくのも憎らしいだろうが、むざと殺せばそれだけで地上勢力は地上死守と共に、愛する者を殺された仇討の念で力を跳ね上げる手伝いをしてしまう反面、無残に散らせる事で地上の希望を粉々に砕ける。

だがこちらも取り返されれば敵に塩を送る事になる。

 

どちらにも意味があり、諸刃の剣となったティファの命こそが、フローラにミナカトールの作戦を実行させる鍵となったのであった




今宵ここまで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。