勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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先代達の思いを受け継ごうと自ら誓っても、重圧を感じる時もある


-母-

魘されレオナ達に起こされたマァムの様子が気になり、ラーハルトはフローラに進言をした。

 

「今ここで無理に進むよりも、マァムの心に澱んでいる思いを一度吐き出させた方がいいと思うのだが。」

 

この先で待っているのは上位級のゴーレム以上のシルバーデビルにギガンテスと言った強敵の群れを相手にする事になる。

自分がいても際限なく出てくるであろう敵を捌き切るには予想以上の精神力が必要になってくる。

どれ程敵が来ても迷うことなく、どこまでも戦い抜き仲間を守り切るのだという意志の強さが。

そんな時に少しでも迷いのある物は何かな拍子に死んでしまう事があるのを、魔王軍としてではあるが戦いに身を置いてきた自分はよく見てきた光景で、今のマァムにはその危うさが見て取れる。

 

「分かりました。少し離れた角ならば他の者には声は聞こえませんのでそちらで話を聞きましょう。幸い時間はまだあります。」

 

ここまでは普通であった。

 

迷いがある者が戦場では一番に死んでしまう。それもマァムが死ねば、仮にレオナがミナカトールの呪法と契約出来たとしても、ミナカトールそのものが出来なくなってしまう。

このメンバーの行動や成功如何によって、文字通り世界の命運が掛かっている。

少しでも不安要素は取り除くべきだと。しかしだ

 

「ラーハルト、貴方がマァムの話を聞きなさい。」

 

・・・・・・ちょっと待て、どうしてそうなる?

 

 

 

 

 

「あの・・・・・ラーハルト・・・其のごめんなさい・・・」

「・・・いい、お前が俺を指名したわけでは無いから別に気にするな・・・」

 

ラーハルトしては、不安要素を取り除く進言をしたのであって、聞き手は親友のレオナ姫かメルル嬢になるか、それか三人でということになり、存分に話さるように自分が周りに気配を配る中での話し合いををするかしか考えていなかったが、蓋を開けてみれば何故俺なんだ・・・・。

俺にうら若い女性の悩みを聞いてどうしろというのだあの女王は。

 

言ってはなんだが自分はヒュンケルや主以上に女性の扱いは知らない。何故なら自分が知る女性と言えば母かティファ様しか知らない。

二人は俺に悩みなど言った事は無く、後は人自体を遠ざけていたので、ひょっとしたら同性の悩み相談も怪しいが兎に角!女性の悩みなど言われても助言できる自信がないと断言できる!しかしだ、周りと自分に迷惑をかけているとしょんぼりと俯いて座っているマァムに罪はない。

 

「助言は出来ないが聞き役くらいは出来るぞ。」

 

フローラ達と自分を同時に守れる絶妙な位置の通路の壁に立ったまま寄りかかり、槍を手放さずに話を聞くぞというラーハルトの武骨な優しさに、マァムは面食らったが少しおかしくなり笑ってしまった。

それは声を立てて笑った訳ではなく、自然と口角が上がった程度であったが、輝聖石が光らなかった以来の笑いは、微かではあるがマァムの心の蓋を開けさせ、するりと言葉を吐き出させた。

 

 

 

「私ね、昔から失敗した事が無いの。」

 

 

 

 

 

「お母さん、薬草採ってきたよ。」

「ありがとうマァム。お父さんの薬早速作りましょう。」

「私も手伝う。他に何がいる?」

「そうね、そしたら水を汲んできて。滑車は重いから誰かに頼むのよ。」

「平気!だって私はお父さんに似て力持ちだもん!!」

「そう?無理しないでね。」

 

幼い頃から病の床についている父の面倒をなにくれとなく見て忙しそうにしている母を手伝っていたのが最初だった。

父の病気は言えずとも、痛みを和らげる薬草は幸いにもロモスの迷いの森に自生していて、いつしか自分が採りに行くのが役目になった。

初めは心配していた母も、遠くまで採りに行けるのが当たり前のようになっていった。

 

その頃にはアバン先生の弟子となり、一週間のハードスペシャルコースを無事卒業し、魔弾銃も授けられ、母の手伝い以上に村の人達からの頼まれ事も増えていった。

父の薬草を採る傍らで、毒消しや熱さましの薬草採りをしに更に森の奥に入る事もいつしか慣れていき、体が大きくなるにつれて力も増して柵の修理や井戸の改修など男の人達の手伝いをするのも当たり前になっていった。

村には自分と同い年の子はおらず、村にいる男の人も多くはなく、働き盛りのおかみさん達も日常の事で忙しく、必然その担い手は自分になったのだ。

 

「いつもありがとうねマァムちゃん。」

「本当に助かるよ。」

 

近所の皆は手伝いをすると喜んでお礼を言ってくれて、お菓子や時にはご飯を振舞ってくれる。

その時に見せてくれる笑顔が嬉しい反面、聞いても嬉しくない言葉のお礼もちらほらとあった。

 

 

「流石はロカさんとレイラさんの子だ。」

「世界を救ってくれた勇者様のお仲間の子だ。頼りにしているよ。」

「マァムちゃんは何でもできて凄いわね。」

「馬鹿ね、ロカさんとレイラさんの子なんだから。」

 

自分は、あの二人の子だから手伝いをしているわけではない・・・其れでもそういう目で自分を見る人がいるのも確かにいて・・・・この大戦が始まる少し前の頃には、母も自分の強さを信じてくれているのか、自分がどこに行っても心配する素振りが無くなっていて、それが少しだけ寂しかった。

 

「違うわね、悲しくなったのかな?」

 

頼りにされて嬉しかった筈なのに、失敗せずにやれるのが当たり前に思われている気がしていつしかそれが重たく感じ始めた最中。

 

「そんな時にティファとダイとポップに出会ったの。」

 

ミーナの母が高熱を出した時、運悪くミーナの家にも村にも熱さましの薬草が切れていて、母を案じたミーナが誰にも相談せずに薬草探しに行ってしまい、当然村は大騒ぎになった。

 

大戦が起きた事はネイル村にも伝わっていた。何故かモンスター達が凶暴化されなかったが、攻めてきたモンスター達とその長がいる事、世界各地が同時に攻撃された事をロモス王が直ぐに各町や村々に使者をたてて注意喚起の振れが回されたからだ。不用意に外に出ないようにと。

当然森にはモンスターが居り、いつ凶暴化するか分からない中で、矢張り探しに行く役目を自分が負った。

 

誰に言われたわけではなく、それが自分の-使命-だと村長に笑って申し出て探しに行った時の出来事であった。

 

最初に出会った時、ダイとポップは兎も角、ティファは変わった子供に見えた。二人は年相応の男の子なのに、ティファの雰囲気はもの柔らかく、言葉遣いも丁寧で何処かアバン先生に似ていて。

 

「村でもティファは色々としてくれてね、本当にアバン先生を見ているみたいだったの。」

 

ミーナを助けてくれた、同門の三人にお礼をするべく家に連れて行けば、病の父を診察してくれた上に、症状を和らげなんと熟睡できる薬迄処方してくれた。それも何も難しいことをした訳ではないと言わんばかりにあっさりと。

自分が物心ついてから知っている父の、初めて見る熟睡する姿に涙が零れた時、ティファはにっこりと笑って言ってくれた。

 

眠れるようになれば、体の回復力が上がりますよ

 

薄皮をはぐように、それでも少しずつ良くなるという言葉に、自分も母も救われた思いをしたのをティファは知っているのだろうか?

長い間、息を殺す様にして生きてきた父が回復する道が開けた事に感謝した事を。

 

次の日にダイの魔法特訓を村長に頼むべく、アバン先生の死を話した時盗み聞いた自分の悲しみを癒してくれたのもまたティファで・・・ティファの優しさに包まれるのがいつしか当たり前になっていったあれが最初であった。

ティファの小さな体に縋りついた時、体の小ささよりも果てしない大きな優しさに包まれ安心したあの時が。

 

ポップの体術特訓を頼まれた時には少しがっかりとしたが。ティファもまた自分を頼りにする方なのだろうかと。

少しだけ抱いた子供っぽい不満。世界を助けんとするダイとポップを強くするのは当然だと知っているのに、ティファに頼まれたのが少しばかりショックであったのだ。

優しく自分を包んでくれる人も矢張りと。

だがそんなちっぽけな不満は直ぐに無くなった。

 

マァムさん、ご飯の前に手を洗ってきてくださいね。もう支度は出来ていますよ。

お代わり要りませんか?ダイ兄達もですがマァムさんもお腹すいたでしょう。

あぁ手に切り傷が。食事のあとこれを塗りますね。

少し休憩にしましょう。マァムさんははちみつミルクでしたね。

 

母以上に自分の面倒をなにくれとなく見てくれて、たくさんの気遣いの言葉を言ってくれて、最後には必ず

 

無理はしないでくださいねマァムさん。

 

 

近頃は聞かれなくなった言葉を必ず言ってくれるのが一番嬉しかった。

一度だけ言われた言葉も

 

マァムさんは女の子なんですから、無茶して将来結婚した時に赤ちゃんが出来辛くなってしまったら申し訳が立ちません。

 

真剣に自分の事を思ってくれる言葉が忘れられない。

 

「父さんや母さんや周りの皆も私の事を愛してくれているのは分かっているの。私もみんなが大好きなのよ。」

 

けれども本当に時世が悪いとしか言いようが無かったのも事実で、働けて頼れるものが少ない山奥の村では前大戦の爪後から立ち上がるには時期少々で、必然的に自分が役目を負うのも仕方がないと受け入れていた最中に突然入ってきたあの優しさに、自分は抗うことが出来なかった。

 

「私ったらね、レイラ母さんがいるのにね、ティファの優しさの中にも-お母さん-を感じていたのよ。」

 

酷い事を言う自分の顔をラーハルト見られたくなくて、俯きながら小声で話す。

こんな酷い思いを、レオナとメルルには絶対に知られたくなくて。

 

「私は、ダイやポップ達と誓ったの。」

 

如何なる敵が立ち塞がろうとも、人々を見捨てずに助けて守る勇者ダイ一行、と。

 

 

だが今の自分が戦う理由は、-母-を傷つけた敵を倒したい思いだけだ。

 

どんな時も微笑みを絶やさず、無理をしてでも自分達に笑いかけてくれていたティファに、自分はいつしか依存してしまっていたのだ。

自分が戦う理由は、なんと身勝手で自分本位な事か。

 

「酷い女でしょう私は。」

 

こんな自分に輝聖石が光らないのは当然なのだと、涙に濡れた顔を上げてラーハルトに向ける。




今宵ここまで

今作のマァムの心の内にある悩みや葛藤が書ききれていれば幸いです。

今作でロカさんが生存した反面、そちらの方にレイラさんは注視し、少しばかり頼れるマァムに頼りきってしまった形となりました。
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