「それの何が悪いのだ?」
「・・・・へ?」
「ティファ様の中に母を見た。そしてその母を傷つけ奪った相手が許せない。道理にかなった事ではないのか?」
自分の言った事が、まさか肯定されるとは思わなかったマァムはポカンと口を開けてラーハルトを見てしまったが、ラーハルトとしては正義や守りたいだけで戦うフローラ達よりも、マァムの考えの方が分かりやすい。
人は誰しも大切な者を目の前で奪われて冷静であれるものなどいやしない。その方向性が、大切な者を取り戻しつつも周りを思う広い視野を持てるか、その敵のみの事を考えてしまうかは程度の差でしかない。
「・・・・其れって私の視野が狭いって言いたいの?」
「違うな・・・お前はディーノ様やポップよりもティファ様に対する依存心が強かったようだが、俺もお前と同じであの方の中に母を感じている。」
自分などは五年前に出会った時、当時たったの七つのティファの中に、亡き母の優しさを重ね合わせて今も重ねている。
人間だった母は、はぐれ魔族であった父との間に出来た半魔の自分を、父亡き後も捨てる事なく育ててくれた。
同族の人間達からは異端の扱いを受け迫害の中で体を壊し、死の床に就いても優しかった母。
ラーハルト、世界には酷い人もたくさんいるの。けれど優しい人達もきっといる。
酷い世界を信じ続けて亡くなった母。
その後は口にするのさえ嫌になる様な、坂を転がる様な目に遭い、いつしか母との楽しく綺麗な思い出すら忘れ果て憎悪に塗れ世を呪う中でバランと出会い、共に人間を根絶やしにする道を歩んでいた矢先にティファと出会った。
「破天荒で天真爛漫で、我等を全く怖れなかった変わった子であったよ。」
「・・・・ティファは昔からああだったのね・・」
「そうだな。種族ではなくその人を見ると、あのお方は言っていた・・・・俺は今もその言葉の意味が分からない。」
「・・・・普通分からないと思うわ・・」
種族どころか同族の人間とだって分かり敢え無い事の方が多いのに、モンスターや保管種族ともするりと付き合えるティファの凄さがまざまざと分かる。
「そうかもしれんがな・・・・俺もいつかはあのお方が見ている景色を見てみたい。」
「景色?」
「そうだ。あの方に見えている景色はきっと素晴らしいのだろう。」
人間も魔族も・・・・半魔もモンスターも精霊達すらもが平等で、誰もが仲良くなれる相手として光輝いて見えている事だろう。
自分は今も人間全般は無理でも、少なくともサババ砦にいた者達と生死を掛けた戦いを共に挑む事を苦には思はない。寧ろ苦楽を共にしこれからも背中を併せて戦える仲間意識を持つに至っている。
-人間-相手にこの自分がだ。
-底-で世を呪っていた自分達を、優しさで引き揚げてくれたティファ。
そのティファを慕って当然ではないかと、ラーハルトは柔らかい笑みをマァムに向ける。
その為に戦いたいと思ってもいいではないかと。
「でも!それで私の輝聖石が・・・」
「ふむ、矢張りそこか・・・マァム一つ聞いてもいいか?」
「何かしら?」
「お前の-戦おうと思った理由-はなんだ?」
「私の戦おうと思った?・・・・戦う理由では無くて?」
ラーハルトの問答の様な問いに、マァムは首を傾げる。戦う理由は分かっている。だが、戦おうと思った・・・
「幼かった頃からお前は先代勇者に師事していたのだろう?何故幼かったお前は力を持とうとしたのだ。親か周りに勧められでもしたのか?」
先代勇者の仲間の子なのだから、力を持っておくべきだとか。
「ううん、寧ろ父さんと母さんは・・・・・そうだ、反対していたんだ。」
少し伸ばした膝に頭をつけ、幼い頃アバンに弟子入りをした時のことを改めて辿ってみれば、父と母は反対をしていた。
お前は女の子なんだぞマァム!もう戦いの世は終わったんだ!!
そうよマァム!お願いだから危ない事はしないで!!
そうだ・・・・父さんも母さんも私を心配して反対して、でも自分がやると言ったんだ。
山間で訪れる人も少なくて、森のモンスター達も時折畑を荒らしたり異常個体で暴れるモンスター達もいるから、父さんと母さんの代わりに皆を・・・・・
「泣いて・・・いるのか?」
静かに涙を流し始めたマァムに驚きつつも、ラーハルトは優しく問いかける。
おそらくだが今、マァムは大切な事を思いだそうとしている気がする。それがなんであるのか、ここまで来たら自分も引き出してやりたい。
接していて分かる。マァムもまたティファ様同様、力はあれども本来は敵を倒して戦う戦場には向いていないのだと。
そのマァムが何を願って力を欲したのかを知りたくもなった。
「・・・たいの・・・」
「ん?」
「守りたかったの・・・・村のおじさんやおばさん・・・村長さんや父さんと母さん達を私が守りたいって・・・・」
「守るか・・・・・幼い子が持つには大それた望みだ。来る敵を一人でなぎ倒す気だったのか?」
英雄を志す子の願い
「違うの・・・どう守れるかなんて分からなかった。でもね、皆が笑っているネイル村を、私は守りたかった。」
涙を流しながらも座ったままではあるが背を伸ばし、マァムは力を望んだ過去を思い起こしていく。
あの当時はまだ今以上に戦火の爪後を残し、暗い表情になる人が多くて・・・・手伝いをすればその表情が明るくなって笑ってくれたのが嬉しくて・・・そしてアバン先生が村に来ればその笑いがもっと沢山見られた時に自分で決めたのだ。
「私が強くなって皆を守って、大人の人達も泣かなくて済むようにしたいって。」
戦で親兄弟を亡くした事で泣くおじさんが、夫が行方知れずになっていると嘆いているとおばさんが、時折モンスター達に襲われた事を思いだして辛そうにしている人たちがこれ以上辛い目に遭わなくていいように・・・
「泣かせたくない、泣いて欲しくない、私は・・・・もう誰も泣かないで欲しくなかった、苦労を掛けるって時折泣きそうな父さんにも!父さんを案じて泣く母さんにも!!」
誰にも・・・・・そしてティファにも・・・・
こんな大切な事をどうして忘れていたんだろう。
自分が望んで、頼られるのが嬉しくて自分からどんどんとお手伝いをしていたのに。頼られるのが嬉しくて、もっと手伝うと言ったのは自分の方からだったのを。
気遣いの言葉が無くなったと不貞腐れていたのが、本当に馬鹿みたいで!
「・・・ティファ様も、本当はよく泣くお方だ。」
ぽつりと言われたラーハルトの言葉に、マァムは乱暴に涙を拭いながら答える。
「分かってる。本当はティファは優しすぎる泣き虫な女の子だって。」
大人顔負けの知識があるのは間違いではないが、それは単なるティファの一部分でしかないのを自分だとて知っている・・・知っていてもそんなティファに自分は縋っていたのだからみっともないが、それでも・・・
「あの時!大魔王にティファを獲られるまで抱きしめていたのは私なのよ!!」
母として慕い、そして優しく泣き虫な女の子のティファも全て守り抜こうと抱きしめていたティファが!自分の手の中から消えたあの時の絶望が忘れられない・・・
手がちぎれても何をしてでも、守れていればもしかしたらティファは今頃自分と一緒にこの場にいたかも知れないのに!!
その絶望が自分を苛み、敵を憎む心を消せないでいる。
「そうか、ならば敵全てを俺が一緒にバラバラにしてやろうか?」
「え?」
「憎いのだろう敵全てが。ならば丁度いい。ディーノ様達や他の一行の者達はいざ知らず、俺もティファ様に非道をなした敵の勢力など皆殺しにしてやりたかった所だ。一緒にやるかマァム?無様に命乞いをしてきても許してやる気はないから安心しろ。全部殺しにしてやる。」
「何を・・・・」
先程までの優しさが消えた瞳は薄っすらと笑みを浮かべて怖ろしい事を言うラーハルトが手を差し伸べて来た。
「俺と共に、ティファ様にされた事を敵に返したやろう。」
差し出された手と提案。これまで自分は敵は倒しても追い払えればそれでいいと思って戦ってきた。
必要以上に奪わず殺さず、来た敵を倒すだけで。
しかしラーハルトは、自分達から命を奪いに行こうと言っている。それは憎い敵なのだからと。ティファと世界に非道をしている敵なのだと。
マァムはその手をじっと見て、おもむろに右腕を上げラーハルトの手にゆっくりと近づける。
この手を取れば、ラーハルトはきっと約束を果たしてくれる。あの憎いキルバーンも共に・・・・
殺したくなんてない!!!
ラーハルトと手が触れるその直前、ティファの悲痛な叫びが響いた。
殺したくなんてなかった・・・それでも、この地を明け渡してあげられない・・・
あぁそうだ、ティファも・・・・・私も・・・戦いたくて力を欲したんじゃない・・・
思い出すのは、アバン先生の卒業の時に渡された魔弾銃。
その威力を知り恐れをなしていらないといった自分に、先生は自分を優しいと言ってくれが、守るのには力もいると諭され、だからこそ自分は力を持ったのだ。
敵を殺すためではなく。
「守りたいの・・」
「うん?」
「守ってあげたいの、今度こそ、私はティファを守ってあげたいの・・・・」
ダイ達と共にティファを救い出し、取り戻して今度こそ守り抜いて・・・
「あの子が・・・泣かなくていい世界を見せた上げたい。」
「そうか・・・」
近頃は日に一度は何かしらの事で心を痛め泣いていたティファを
自分達では思いもつかないようなどんな途轍もない理由で泣いても全部受け止められる強さが欲しい。例え敵の境遇に共感し泣いていても驚かずに抱きしめてあげたい。
ティファ・・・・
今自分の中で殺したくないと泣いて蹲るティファを、そっと抱き上げ抱きしめたその瞬間、淡い桃色の光が洞窟を照らす。
守りたい。守り抜いて、ティファが、父が、母が、ネイル村の皆が、自分が守りたいと思った全ての人達が泣かなくて済む様に世界を守りたいのだ自分は。
「・・・・答えを・・」
「私は・・・・・敵を倒す。世界を守る為に勝たないといけないから。」
「そうか。」
マァムの答えを聞きながら伸ばされたマァムの手を握り立ち上がらせたラーハルトの顔は、先程と同じ柔らかい笑みが浮かんでいた。
「ではそのように力を貸そう。」
敵を殺すのではなく、世界を守る為に勝つ戦いの力を貸すと、ラーハルトはマァムの頭を柔らかく撫でながら約束をするのであった。
今宵ここまで
原点を思い出した時、人はどんなに苦しくとも前を歩く力を得るのだと筆者は思うのです。