勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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夢現の中にて-後編-

「今この者は本能のみで動いておる。」

 

知識や常識などと言った-余計なもの-は一切無く、ティファは己の本性のままに動いている。

 

-大魔王-の気配に魅かれ、自分が差し出している右手に自らの頬を押し付け、今にも喉を鳴らさんばかりの甘えぶりである。

この様を勇者達に見せられないのが残念な程だ。

 

自分達の光であり希望だと散々言っていたティファが、こうして無邪気に甘えている様を見てあの者達は平気でいられるだろうか?答えは決まっている、否だ。

 

自分にメダパニを掛けられ錯乱しているか、洗脳されたと思考の逃避をし、ひたすら-元凶-たる自分を討たんと死に物狂いで攻めてくるのが容易に目に浮かぶ。

 

その時-真実-を知れば今度こそ一行を崩壊させられるだろうが、最早厄介なのは勇者達だけではない。

表舞台から隠れていた-者達-が次々と裏から手はずを整え出て来ようとしている気配が満ち満ちている。

 

自分達の襲撃から無傷で逃げおおせカールの女王が、何もせずに今日まで来たからには何かを企みそろそろ手筈を整え登場する頃合いだろうか?

ロモス王国の北西の町にピラァを落とした時は、その場所から天界に連なる者達が発する特有の気配が、超高高度を飛行しているこのバーンパレスの自分にも感じられる程に満ちていた。

 

ピラァを落とす前に、悪魔の目玉で町を探らせれば、住民はおろかモンスターも精霊すらもおらず文字通りもぬけの殻であった。

 

ここに来て次々と自分達の作戦の障害となる事柄が浮上してくる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に少々苛立っているだけに、ティファのこの無邪気さが慰めの様になり不思議と乱された思考を落ち着かせていく。

 

障害となるは矢張り-天界-か。ヴェルザーの時の様に予め何かを察し、自分達の行動を逐一見張り勘づきでもしたか。

 

魔界の寿命と自分の言動を見ていればおのずと察し、地上消滅の手段は向こうとて承知であったな。

魔の六芒星が必要な事も・・・・だが、ただそれだけの事だ。

 

天界は数万年という長き月日にあって、地上が滅亡する寸前であっても-間接的-な支援しかしてこなかった。

 

間接的な支援なれば、ピラァの仕掛けで事足りる。

つまるところ現状の支障となるほどの事はなく、脅威足りえない。

 

慢心による無警戒など論外ではあるが、反対に警戒しすぎて動きを限定させられる事もまた然り。

警戒は常にしつつも、計画に手を加えればそれで済む・・・・

 

落ち着いて考えればどう動けばいいか修正案さえ出るものだ。

 

自分を落ち着かせ良策さえ浮かばせた者に目を向ければ、動かない自分の手を動かしてほしいとばかりに頬を擦りつけているではないか。

 

薄っすらとした笑みが、自然と自分の顔に浮かぶのが分かる。

 

「完全に目覚めた時の其方は、今と同じ様に余に従い慰めをくれるか?」

 

ティファの頬を優しく撫でながら、応えの無い問いをする。

 

今のティファは、バーンの声を-音-として聞いている。

力に満ちた深き調べが自分の中に甘く響いて心地よく、蕩けるような甘い表情で益々頬を、一糸纏わない細い肢体をバーンに擦り付け甘える。

 

その様がなんとも愛おしい

 

「このままの其方でいよ。」

 

知識も力も全て自分が持っている。-幼子-は、ただ愛らしく自分に甘えてればいいのだと、甘えるティファの貝のような小さな耳に口を近づけ、バーンは言い含める様に言葉を発する。

ティファの心に刻まれるように小さな肢体を服の袖で囲い込み、一言も聞き洩らさせないようにゆっくりと。

 

不意に顔にひたりと少し熱を帯びた物が当たった。

見れば自分の顔に、ティファが手を伸ばしていた。そして更に伸ばそうとした矢先、ティファの手が落ち体からも力が抜ける。

 

まだティファの体の半分以上が治っていはいまい。

 

「ザボエラよ、その腕は直ぐに再生するのであろう。」

 

腕一つ如きでいつまでも苦痛に満ちた声を出し蹲る無様な姿。身が破壊されようとも戦ったもの達と比べれば情けない姿。

しかしこれにはまだ役割がある。

 

「さっさと治してティファの治療班を至急編成せよ。それと並行して-例のもの-の完成を急げ。あれの完成期限は今日より五日だ。それに伴う部隊の編成も急がせよ。今まで時間はたっぷりと与えた筈だ、同時に完成する事であろうとは思うが、どちらか一つでもそれを過ぎれば其方は余にとって-不要なもの-だ。この意味が分かるな?」

「は!はい!!全て身命を賭して!!バーン様の望まれること全てを成し遂げます!!!」

 

バーンはティファを腕に抱いたまま立ち上がり、負傷しているザボエラに冷えた視線で見遣りながら次々と命を発する。

 

魔王ハドラーを拾った時期を同じくして、ザボエラには任務を与えている。超魔生物ハドラーを完成させられたのは、その任務の為にふんだんに与えた研究費と材料と資源のおかげ。

ハドラーはザボエラが単独で独自に研究していたと思っていたようだが、その糸を引いていたのは自分だ。

まさか、その完成品が生き残り、自分の手を嚙みに来ようとは因果応報だろうか。

 

そちらは予期していなかったが、地上消滅と天界に攻め入る駒は多いに越した事は無く、ハドラーと同時に拾った者を再利用する。

 

-アレ-が目覚めた時、征服しようと誓った地上に与したハドラーの事を許すだろうか?

ぶつけた時の事を考えれば、驚愕に満ちたハドラーが目に浮かび今から笑いたくなる。

-戦友-と戦うのだから。

 

その酷薄の笑みも、バーンの威圧に屈し、苦痛とは全く違う意味で蹲るザボエラからは見えていないが、気配から怖ろしい事を考えているであろう主の気配に恐れ戦く。

 

一方ではティファに慈しみの笑みを向け、自分のものとなるように優しく言い含める。

一方ではザボエラに酷薄な笑みを向け、対天界も視野に入れた作戦の本腰を入れる様に命じる。

 

失敗すれば、ザボエラの命は無い事を示唆しつつ。

 

クシュン!!

 

怖ろしい思考は中断された。ティファが身を震わせくしゃみをした事で。

くしゃみをしたティファは目こそ覚まさないが、寒いとばかりに自分の服を握りしめている。

 

「おお寒いか。ザボエラ、下がって疾く命を果たせ。これの治療の用意が整い次第ミストに声を掛けよ。」

 

それだけを言って、後は用はないとばかりにティファを包んで温めるべく玉座に戻る。

 

その短い道すがら甘い声が聞こえる。

 

「寒い思いをさせたなすまぬ。」

 

その言葉にミストは、主が親友同様ティファに捕まってしまった事を悟り、諦めと共に、ティファを手にしながら主が勝つ算段をすべきだと思考を切り替える。

・・・・・伊達にこの数か月、ティファに囚われ振り回されている親友と付き合ってはいない。まさかそれが役に立つ日が来ようとは・・・・嘆けばいいのか喜ぶべきか超微妙ではあるが、主の望みはすべて叶いたい。

この御方は、長い、本当に悠久の時を魔界の為に心血を注いできたのを間近で見ていた。

其の御方の心を慰めるものは余りにも少なく、ほぼ無いと言っても過言ではない。

魔界の悲願達成まで脇目を振らずに歩くべきだといった者は、自分が滅する。

主のこれまでの孤独を知らないものがほざくなと。

 

であれば、自分もティファを主の許可なく殺す事は出来なくなったか。ティファが死ぬ時は、最後まで主に仕える事を拒んだ時。

命の使い道は決まっており、死しても親友が幽体を捕らえるので死んでも問題はない。

甘いティファの事だ。百年かそこらか、もっと短い時間で幽体であっても傍らに置こうとする主の思いに絆されるに決まっている。

そしていつしか微笑みを主に向ければいい。

 

 

 

忠実な影は、ひたすらに主の幸福を念頭に置いて動かんとするが、保身が何よりも大事な翁は死にたくない一心で命を果たし、ティファの治療は再開される。

 

一時ティファを手放し、考えうる限りの策を施した後無聊をかこつ事になったバーンの下にキルが戻ってきた。

 

「ただいま戻りましたバーン様!お待たせミスト!!-ヴェルザー-の配下から暗黒闘気と剣の達人を見繕ってきたよ!!確かあれの親衛隊長で眷属だけどいいかな?」

 

キルは超ご機嫌で大好きな主と親友の下に帰ってきて、しれっととんでもない成果を報告してきた。

 

愛するティファの傍らをどうしても離れなければいけなかった理由は、親友のミストの新たな入れ物となる獲物探し。

 

「ねぇミスト、僕は君がどんな姿でいても気にはならないけど、暗黒闘気の集合体でいると色々と不便じゃないかな?」

 

ティファを捕らえ、蘇生装置の前で様子を見に来た親友に新しい体はいらないかを尋ねた。

そのままでは戦いは出来てもバーンの身の回りの世話などはとてもできないだろうと。

 

確かに!これでは食材も持てずに料理を御作り出来ない!!着替えの支度も朝目覚めた時の湯を運ぶのもこの姿ではやりたくはない!主より賜ったあの服をもう一度身に付けお仕え出来るのであれば・・・

 

早速ミストは主に、新たな肉体をキルに見繕って貰ってもよいかのお伺いを立て、ミストが可愛いバーンはすぐさま許可を出した。

ついでに封印されている間抜けな竜の軍勢の力削ぎも同時にしてくるようにも命じて。

 

今冥竜王はバランと天界のせいで封印されている。

それでも魔界を浮上させて直ぐにでも自分を蹴落とそうとするのが手に取るように分かる。

それをされては面倒なので、向こう百年は立ち直れないような逸材をミストの新たな肉体にするように指定をして、よもや竜魔人化したバランといい勝負をした親衛隊長を持ってくるとは恐れ入る。

 

「いやぁ~お陰で攻撃と捕縛罠のストック空っぽになりましたが、これならいいでしょう♪」

 

ウィンクしながら軽薄そうに言ってはいるが、途轍もない-男-だこれも。

 

バーンにとって、キルもミスト同様人格を認め一つの生命体として扱っている。

例え自分が生み出した生命体であっても、これ程のものには自前で育ったキルに感心しながら。

 

魔界を浮上させた横にミストとキルがいて太陽を存分に浴びる。

 

これほど幸せな夢が、あともう少しで現実となる。

 

十日後が楽しみだ




今宵ここまで
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