勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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奇妙な日常

馬鹿馬鹿しいほど穏やかで緩やかで間が抜けたような再会だったと言えようか。

 

戦場において自身と父親とその仲間をズタズタにして殺し掛け、現時点で地上消滅を目論みもうすぐそれを実行しようとしている自分に掛けて来た再会の言葉が

 

 

「おはようございます大魔王。-時間-が来るまでお世話になりますのでよろしくお願いします。」

 

声音はまだ弱いが、キルに抱きかかえられたまま穏やかな挨拶からくると言うのはどうなのだ?

 

 

キルの噓ルールを信じ込みバーンと呼び捨てにしては来ずとも、これまでの経緯をもってしても憎しみの念も何も持たない・・・・そのような者が存在するとは・・・

 

 

ティファは自力では全く動けない。別にバーン達が体に細工をして訳ではなく、肉体の九割が死んだのをザボエラの素早い治療のおかげで、三割回復したとしてもまだまだ完治には至っていない。

蘇生装置は特定の種族達を-死-から蘇らせられるが、肉体のダメージそのものを完全回復するとなるとそれなりの日数を要する。

クロコダインが短期間で抜け出た後もボロボロの体をおして動き、ダイ達を救わんとヒュンケルに肉体を貫かれてもその後完全回復に至れたのは、ティファが刺されて穴の開いた腹部に万能薬を流し込み、自身の生来の凄まじい回復力を補佐する様な爆発的な回復力に繋がったのだ。

 

だが生憎ここには-今のティファ-の肉体に合う回復薬は無く、無能と誹られても今回ばかりは仕方がないと腹を括った保身一択で生きて来たザボエラが素直に白状した。

 

既存の薬や蘇生装置ではティファの体をこれ以上は修復は不可能である事を。それこそアルキード王国の消滅と共に消え去ってしまった世界樹の葉か雫でもない限り無理だと。

 

長年富ではなく名声や喝采を欲し、自身の注目集めに一心不乱であり、誰を何をどんなことでも、其れこそ身内であろうが己に対する評判さへ犠牲にしてきた研究者の初の敗北がティファであったのは皮肉というほかない。

 

ティファ自身がこの男を死ぬほど嫌い抜いているのでそんな事態になっていると知ればざま見ろと拍手喝采している。例え己の肉体が完治する道が遠のこうともだ。

 

何と厄介な小娘だと歯噛みする一方で、これ程のダメージでも死ななかったティファの肉体を研究すれば、更なる力を自分も手に入れられるのではないかと実験しようと手始めに採血しようとしたところにキルがやってきてティファを治療班から引っぺがした。

 

治せないんならもうここには用はないよね~。

 

強者特有の弱い者を自然と蔑むような視線と小馬鹿にしたような声音にで放たれた言葉に血が凍りかけたが、言われた内容も事実なので癪であるがその通りですと言う言葉と愛想笑い一つ浮かべたザボエラの見送りを受けたキルは、ティファを用意しておいた部屋に連れて行き、ほどなくしてティファは目覚めた。

 

キルの嘘ルールを完全に信じたティファに呆れたミストはそのまま部屋を出た。主と、業腹だが主の命令でティファにも同じ朝食を出す支度をする為に。

 

残されたティファは当然自分で着替えられないのでキルに着せ替えて貰わなければならない。普通ならば、顔を真っ赤にして拒否するお年頃なのだろうがあいにくティファは普通とは無縁に近い感性をしている。ツルペタな自分にそんな気を起こす者はいないだろうの思考のもと、よろしくお願いしますと自分から頭を下げて頼みだす始末である。

 

キルはルンルンでクローゼットを開け、-どれ-を着たいかティファの前に差し出した。

 

服の数はざっと見ても数十着はある。主にドレス系が多いが、ちらほろとキュロット系もあった。

全部自分の手作りだとキルは嬉々として言っているが・・・・

 

 

「あのキル・・・その、私自分のリングに-着替え-持って来てありますよ?水色のリングの中にあったのは見ませんでしたか?」

 

今回の戦いでは捕虜になるのが予定であったティファの持ち物の中にはばっちりと着替えも入っている。

服がボロボロになってもいいように、長期で拘束されてもいいように下着はそれなりの数を入れてきている。

 

それを見つけた時のミストは、暗黒闘気の集合体でなければ胃痛で死んでいたかもしれないレベルで呆れ果てたのは言うまでも無く、報告を受けたバーンは本当に頭痛を起こし、その傍らでお嬢ちゃんらしいと大爆笑していたキルにも匙を投げたくなり、頼りになる影に胃痛を訴えようかと思った程であったが、其れは兎も角。

 

「あれでしょう?普段着とあまり変わらないようなスカートとベスト、シルクの長袖ブラウスとシルクの長ズボン。

駄目だよ、これから君は魔界の神様と朝食を摂るんだからそれなりの支度をして前に出ないと失礼だよ?」

 

これはキルの嘘でも何でもない。貴人の前に出るのにあの服は簡素である以前にみすぼらしい事この上ない。

あれが布装備の中で最高装備のみかしわの服やカールで作られる破邪の効果がある布地や、人間界では高評価のパプニカの布地で作られた上等なローブであったなら考慮の余地もあろうが、ティファの持ってきたのは旅人の服と同じ効果しかない何の変哲もない服であり、貴人の前に出るには格が足りないのもいいところだ。

ちなみにティファが戦闘時に来ていたのも同じ布地であり、よくもまぁこんな代物を着てハドラーと激突をし、魔界の神の裏を掛けたものだと心底呆れたものだがそれは置いておいて、相手が敵の最高司令官であっても、理由があるとはいえ好待遇で扱われるのだからその辺のマナーは守られて然るべきだと言うのがキルの持論であり、ティファもなるほどと頷けるものが確かにあるので御着替えは完全にキルにお任せした。

 

戦いに必要な知識はあれど、貴人との食事の為のドレス選びなんて知らないのだから丸投げは仕方がない。

 

お任せされたキルが選んだ見た目簡素でも艶のある七分袖の空色のドレスに着替えさせられてティファは、そのままキルに抱えられて空間を通り、その先にいたバーンに早速挨拶をしてバーンに苦笑されたのであった。

 

 

食事は穏やかに始まった。ティファはティファで、戦場でされた事、これから起こる事の全ての決着は最終決戦で晴らすべきだという持論のもと、戦場外で諍いを起こそうという気が無い。

-下-の大騒動も無論知っている。ピラァが落とされているが、-全ての生き物-が逃げおおせている事も知っているので通常運転で行ける。

六芒星は、-自分達-の未来の為にも必要である。

これが成功すれば、もしかしたら今後魔界からの侵攻に怯えずに済むかもしれない。少なくとも見えないところからの攻撃はなくなり、訳の分からない内の蹂躙はされ無い保証はできる。

その為にも土地と生活を捨てさせているが、-詫びる方法-も考えている。

酷い話だが、滅びを目の前にした死に物狂いの敵と戦う未来よりは幸先はいいはずだと。

 

対してバーンの方も大体の思考はティファと一緒であり、使いどころの決まったティファの命を脅かす気も無ければ騒ぎ立てる事も更にない。

情報収集をしようとも、生憎ティファの体が弱りすぎて術が掛けられない上に拷問してもティファが吐く者では無いのは承知なので無益な事をする積りもない。

 

似ているのだこの二人は

 

思考も立場も何もかもが。

 

同じような持論を持ち、同じように世界を背負って戦っている自覚がある者同士。

 

違いがあるとすれば、ティファは背負っているものがあるものの、目的の為であっても非情にも冷徹になる事もできず、それどころか敵の事にまで心を配ってしまう底抜けのお人好しで賢い愚か者。

対してバーンは目的のためなればいかなる手段も問わず、兵士を駒にし己の心情が痛もうとも非情な手段をとる事を厭わない。

 

これは時間が約束されている地上育ちと、時間が尽き掛けている魔界育ちの差なのだろうかとミストは見ている。

 

つまるところティファも所詮は楽園育ちの甘い者・・・・と、片付けられない。

ティファの魂は、どれ程の目に遭おうとも穢せないのだと-昨夜-で思い知らされている。

 

主が眠りしティファにどれ程の暗黒闘気を注ぎ込み、その都度ティファの魂に取り付こうと試みて潜ったがティファの魂は白きままであり、輝きが損なわれる事無く取り付こうとした自分を跳ね返す事も消滅させようとする事なくその場に留まる事すら許す気配を発していた。

 

無限の優しさなどお伽噺でしかなかった筈が・・・・

 

その報告を主にした直後に、ティファを堕とし眷属にする事は断念された。

 

 

そのティファは今キルの膝の上でパン粥を食べさせられている。

 

腕が動いても手は曲がらないので仕方がないが、これでは赤子だとティファは真っ赤になって半泣きしているが、あれは赤子と同じだとミストは結論に至った。

 

赤子とは次に何をするか分からない理解も予想も不可能な生き物だと。

 

 

 

その様を見ながらバーンは愉しげに朝餉を平らげていく。

 

クルミのパンにブドウパンを半欽づず・・・・鮭のムニエルにポーチドエッグサラダ、肉料理はローストビーフ系かな?一塊を少しずつ切りながらも平らげてる・・・この人本当にご老人?

 

バーンの健啖振りに、ティファは見ていて唖然としている。

その視線に気が付いたのかバーンは顔を上げた。

 

「ミストの料理はいかがであった?」

 

自分とは違い、パン粥だけのティファに感想を問うた。敵から手ずから食べさせられているのにも拘らず、毒の心配もしていないのかあっという間に平らげていたが。

 

「美味しかったです。」

 

簡素であるが故に、其れが世辞でないと分かる一言を言った後、ティファはバーンの傍らで給仕するミストに顔を向け、御馳走さまでしたと頭を下げた後、うとうととし始めそのまま眠りの底へと落ちていく。

 

お前にそんな言葉を言われる覚えはない、全ては主の采配だと毒づこうとした言葉をミストに飲み込ませたまま。

 

「・・・キルは兎も角そちは苦労しよう。」

 

礼を言われて困惑しているミストに、バーンは苦笑しながらも不吉な予言をする。

 

果たしてそれは当たってしまうのがミストの不幸であった。

 

眠ったティファは部屋には戻されず、バーンの膝に留まることが多いのが原因であった。

 

今後の作戦も見据え、パレスのゲートを通って続々とくる魔界のバーンの配下達が謁見をするたびに、ギョッとして主の膝の上にいる者をまじまじと見て口をぱくつかせる者を、あるいは冷や汗を流してしどろもどろになる者達を見る度、痛みを感じない自分の体は便利だと、主の傍らで不心得者がいないかを睨みをきかせながらも思考は現実逃避させるミストであった。

 

そんな感じでティファを捕らえて二日が過ぎた。

主と朝食ら始まり、アフタヌーンティー、に昼食、夕食も共にするティファはその度に着せ替えられてはパン粥一杯の生活をしている。

余り回復されない為にも、その位で丁度いい。時折デザートを主が挙げている程度だが、それを素直に食べて喜び、少しずつ起きている時間も伸び始めた中で、とんでもない提案ティファになされた。

 

食事前に何かを歌えと

 

聞いたティファは面食らったのは当然であったが、その後の対応もとんでもなかった。

敗者の歌姫にさせられるという屈辱も感じていないのか、捕虜の身でここまで食べさせてもらっているのだから、礼になるかと受けたティファもティファである。

 

パレスには幾ばくかの楽器があるが、ティファの金のマジックリングにも入っており、そちらが使われた。

 

主に二胡かシターンの様な弦楽器で心地のいい歌を一つ、昼食の時にはそれを聞く者たちが主の私室の周りに群がる始末。

 

ティファの歌声は甘く、特にその性のせいか魔族達の耳には一際心地よく響き渡っている。

 

その待遇といい、ティファの穏やかな雰囲気とバーンとキルの接し方の態度も相まってたったの二日でティファは、誰が言い出したのか知れないが、ティファは魔界の高貴な家の出か、それとも-魔界の神の御落胤-ではないかという者が出る始末。

 

ティファの丸い耳が、黒い髪で隠されている為に見えない為に発生したとんでもない誤解。

 

その誤解をミストが速攻で解こうとするのを、バーン自身が笑って止めた。

そのまま誤解させ魔界の者達に大切にされればされる程に、ティファの-人間の中での居場所-が奪われて行くのだからと、冷酷な言葉を優しい笑みで告げる主に背中が震えてしまった。

ティファを愛しみながら、ティファとその仲間達を地獄の苦しみに落とす策も着々と進めている主。

 

主の腕の中で微睡め、そうすれば残酷な目に遭わずに済むだろうと主の腕の中で眠るティファに心の中でミストは願う。

主が気に入ったものに酷い事をしなくて済む様に。

 

 

そんな様々な思惑と策謀が周りに漂う中、目が覚める時間が増えたティファは少しずつ魔界の者達と顔見知りになった。

 

戦闘タイプのものからザボエラの様に後方支援が得意そうな者まで。

 

中には魔界の料理長をしていると言う双子の姉妹にも会って・・・・可愛い子がいるときゃいきゃい言われ、珍しく一人でベッドにいた時に突撃掛けられて撫でまわされキスの嵐が降って・・・・逃げる逃げられない所をキルに助けられて大泣きしてしがみついてしまったのは黒歴史・・・・

 

 

そんな中、ハドラーと同じ肌の色と黒い文様が顔にある魔族の男と、その配下達と出会った。




今宵ここまで

強者の慢心だけで主人公に接しているわけでは無い魔界の神様です。
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