勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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黒炎とその配下達

バーンパレスには外見では分からない建物がいくつもある。

真ん中はバーンの居城内区でバーン専用の調理場があり、その周りは軍用の台所や食堂がある。

少し離れた所には憩いの場が幾つか点在している。

 

その一つに、緑の肌をした魔族の男が配下を連れて訪れた。

 

入り口にはそこそこの結界が張られていたが男はものともせず無造作に破り、中へと押し入る。

 

その中には地上の南国植物が所狭しと生えている庭園であった。

 

少しでも主の慰めとなるべく、枯れても落葉しない南国の植物を提案したのはミストであり、以来個々の一切を取り仕切っているのも彼だった。

この場所は、パレスが死の大地に埋まっている時でも採光が取れる様に崖に見せかけた穴を大地に大きく開け、入ってきた光を余すことなく植物にいきわたる様に最近までは庭園は内側に向けた鏡張りで出来ていたが、このほど地上に出るので鏡は不要とすぐさまガラスに取り換えてあり、直ぐに改修された庭園を主はさらにこの場所をお気に入りにしたようで、ティファとのアフタヌーンティーは専らここである。

 

つまりここは魔界の神のお気に入りであり、無断で押し入れば死が待ち受けているのを男も付き従っている者達も気にした様子は一切なく、奥へと歩を進めている。

途中のバナナの生地を物珍し気に見、行きかう鳥を見ているが歩みは止めずに奥へと進めば、少し小高い丘風に作られた場所で寝ている子供の姿を見つけ、先頭の男の顔に笑みが広がる。

 

眠っている子供は長い黒髪で顔の半分が隠れている。だが間違いない、見たいと思っていた勇者一行の捕虜だ。

 

 

 

 

 

昨日からティファは一人で寝かせられる事が増えた。もともとそれが当たり前だろうと言われればそこまでだが、起きる時間が増えたティファの耳に機密が入るのは好ましくない。切れ切れの断片的な言葉であっても、どのような方法か分からないが-正解-に辿り着かれでもしたら目も当てられない。

一種出鱈目な所があるティファの対応には苦慮させられる。しかし牢に入れて放って置く気も無いバーンだが、かといって下手な所においてまたあの双子の料理長に狙われたら今度こそティファが暴走する可能性もある。

 

双子はいわゆる-百合-であり、其れも可愛い女の子を好む。唯一の例外は全ての物ごとに対してストイックで軽薄さが一切ないミストの命令だけは一応聞く。

大魔王であろうが時に料理の事では一歩も引かない変人ぶりをバーンが愛でているので罰するのも難しい。

ミストを巡ってキルとは天敵であり、更にその上ティファが襲われた事でキルの機嫌の悪さも一気にマックス化している。

・・・・最終決戦前に身内で大爆発させるわけにもいかず、折衷案としてティファも好きで大魔王とその最側近以外が立ち入れない庭園の最奥でティファは丸まってねむっている。

 

体を丸めて眠っているティファが、何かを感じたのか身じろぎをした次の瞬間、薄っすらと目が開きだした。

 

ぼんやりとしか見えないが気配で目の前にいる人数が分かる。

 

人数は七人、その内の六人とは比較にならない強さを秘めた者が一人いる。

 

「・・・・だれ?」

 

 

薄っすらと目を開けたティファが目にしたのは、ハドラーと同じ肌の色とかおに似たような黒い文様があり、赤い髪を逆立てた偉丈夫な魔族の男であった。

 

「お前がティファか?」

 

ハドラーとは違うかすれた声だが、ティファとしては嫌な気配を感じないので億劫だが頑張って頭を上げて返事をする事にした。

 

「そうです・・・こんな格好でごめんなさい。まだ体を起こせないので・・・」

 

話すのすら辛いが、返事をするに値する者だと感じたティファは懸命に言葉を押し出す。

 

「お前が捕虜で体の事情も全て知っている。それでもお前を一目見たくてこうしてきたのだ。」

「・・・なぜ?」

 

こんなズタボロの自分をわざわざ見に来るとは物好きな人だ。

 

「私に用が?」

「違う、-ハドラー殿-が執心されたものがどの様なものか気になったのでな。」

「・・・・ハドラーの・・・知り合いですか?」

「ふっふっふ、知り合い・・・知り合いか。それは少し違う。ハドラー殿を光とするのならば私は影だ。光と影は同時には存在できず、出会えばどちらかの消滅を意味する・・・・・私はずっと影の中で動く積りであったが・・・・光りは何をとち狂ったのだか・・」

 

奇妙な物言いに訝しんでいたティファは、それでも後半の部分は何となく分かった。

この炎の様な魔族は、ハドラーが魔王軍を離反した事によって急遽表に出された者だと。

 

「影・・・・あなたがハドラーの・・」

「ふむ、私達の存在は裏切り者たちも知っている筈だが聞いていないのか?」

 

裏切り者、ヒュンケル達の事かな?

 

「聞かない・・・・ヒュンケル達は、魔王軍にいた頃の事を話したくないと思うから。」

「ふん!甘い事この上ない。なぜ自分達の有利になれるように事を運ばん。裏切り者であれば心象をよくしようと敵対する事になった軍の事等洗いざらい喋るだろうに。」

「・・・ヒュンケル達はそんな事しない・・・・父さんもクロコダインも・・・裏切っても大魔王達を倒そうとしてもだよ・・」

「それが甘いと言うのだ!よいか小娘、何事も勝たなければ意味がないのだ。負けていい戦いなどこの世に一つとしてないのだからな!!」

 

其れは一つの真理。勝たなければ、勝てなければ、負けてしまっては大切な者達を守れなくなる事を意味する。

目の前の男のいう事は正しいのは分かるが・・

 

「それでも、無理に言わせる気はないよ・・・・・」

 

自分もダイ達も、クロコダイン達は掛け替えの無い大切な仲間であり、共に背中を預け互いを守り合う存在だ。

 

「甘い事を言うお嬢さんだ。」

 

 

不意に、二人の会話に割り込んだものがいた。

紫色のローブを纏った神官風の男がティファと男の前に立ち、片膝を付いてティファの顔を覗き込む。

 

白いどくろの仮面のような男の目は空虚で、ティファがいくらのぞき込んでも底が見えない。

 

「こんな甘い魂など何の役にもたたぬ。私が魂を抜いてやろうか?」

 

見えないが、その瞳が冷たく光ったのを肌で感じたティファは直感が働いた

 

このまま何もしないのは不味い!!

 

「ジ=アザーズ!!!!」

 

パッキン

 

何をされたのかは分からないが、相手が何かしらを仕掛けてきたのを結界が弾いた音がした。

 

「ほう、私の脱魂魔術をこのように防ぐとは・・・見た目と中身は一致しないと言うのを地で行く者とは興味深い。持ち帰って研究してみても・・・」

「止さぬか。」

 

術を破られても愉快気にし、嬉々として関わり合いたくなくなるような事を滔々として話す神官風の男の言葉は遮られた。

 

「ティファとやら、私はお前を憎む。」

 

その言葉に偽りはなく、男の目には明確な殺意を宿してティファを見据える。

 

「・・・・初対面・・・ですよね・・」

 

如何に今までの所業を思い起こしても、目の前の者達に覚えはなく、軍と魔界の邪魔をしているから憎むと言うには気配が生々しすぎる。

この気配は、自分を知り尽くした上で憎んでいる。

 

「確かに直接的な相対はお前と私は初だ。だが貴様は・・・・貴様はハドラー殿を狂わせた!!」

「え?」

「貴様がいなければハドラー殿はバーン様の偉業達成の礎になる事に否やはなかった筈だ!!それを貴様がハドラー殿を誑かし、思考を狂わせた!!!・・・その罪は重いと知れ小娘。」

「・・・・・・」

 

激昂しミシミシと感じる圧力のすさまじさが、この男は自分とハドラーの関係をそんな目で本気で見ているのだと窺い知れる。

 

これははっきりと言えば・・・

 

「ハドラーは・・・大魔王に・・」

「分かっている。」

 

ティファはハドラーは大魔王の駒にされ敵対勢力諸共に殺されかけたのだと言おうとしたが信じられない言葉で遮られた。

 

「分かって・・・」

「そうだ、バーン様がハドラー殿を使ってお前達諸共にしようとした事等先刻承知だ。だがそれがどうした?我らが主の戦いには、魔界全土の悲願が掛かっている!その為に犠牲になれと言われれば我等は喜んでこの身を差し出す!!私とて勝つためなれば配下も、自分の命を使い切るのみだ!!!」

「あ・・・・」

 

己が命も、配下の命すらも投げ打つ・・・・その放たれた言葉に嘘の音は無く、目の前にいる骸骨のような男を見れば小さく首を縦に振られた。

見れば男の後ろに付き従う者達の目も力強く光っており、覚悟のほどが見て取れる。

 

この男の言葉に偽りがないのを示さんとばかりに。

 

パンパンパン

 

 

その言葉の重みに思考も弱っているティファが引きずられかけたその時、気の無い拍手がその場を破った。

 

「ご高説大変結構。」

 

拍手をしながら空間を開いて出てきたのは

 

「これはこれはキルバーン様。我ら影の前に現れるなどいつ以来か。」

「見せ掛けのへりくだりはいらないよ。君達が従うのはバーン様だけだ。僕に興味もまして敬意も無いんだから挨拶はいいからここから出ていきなよ。」

「つれない事を・・」

「だらだらと居てバーン様の不興買いたいなら居ればいい。今のご高説でそれなりに気をよくしてこの庭園への無許可の立ち入りは許していいって言われて来たけど、長居するなら話は別だ。」

 

男達を牽制しながら、青褪めているティファを抱き上げしっかりと守る様に胸に抱え込み、厳罰を下される通告を出す。

 

「ふふ、その娘の死は決定事項であるのに随分と・・」

「それも-お前達-には関係ない事だ。影らしく日陰に戻りなよ。」

「冷たい事を。そこまでいわれては引きましょう。行くぞお前達。」

 

 

どうやらキルも相手も互いを好きではないようで、一触即発の空気が漂いかけたが、一笑して配下に声を掛けながら踵返し庭園を去っていった。

 

 

まるであの人は炎のようだ、其れも自身が汚れても構わないと言い切る情念は黒い炎の様であった。

 

ハドラーの印象は風

時には小さな木枯らしで人々を困らせ、時に人を癒す優しい風を吹かせ、時に何もかもを壊して吹き飛ばす竜巻のように自由気ままな風のような人

 

対してあの男は身内を温めるが、時にその身うちすら薪にして主を守らんと豪炎となりて、敵対者達を燃やし尽くさんとする炎の様な苛烈な気配を感じた。

 

光と闇、互いに交わる事は無いと言っていたが、風と炎は相性がいい筈だ。

あの男は、裏切ってもなおハドラーに殿と、敬称をつけていた。

 

どうやら自分はハドラーを大切に思うか、少なくとも尊敬している相手からの恨みを買ったようだ。

 

 

「ごめんねお嬢ちゃん、もう僕が絶対に君から離れなくていいようにバーン様に進言するからね。」

 

ティファの思考の為の沈黙を、怖い目に遭って沈黙したと思い違いをしたキルは、ティファに詫びながら慰める。

赤い瞳がどこか泣きそうで、その様がティファにはおかしく映って少し笑ってしまった。

 

双子の料理長、アンリとセシルに迫られたのも、こうして所用で出ているキルの不在を狙われて来ているのだからキルの心配も分かるが、処刑確定の捕虜に対して少し過保護が過ぎないだろうか?

 

「大丈夫ですよキル。」

「・・・・そうかい?」

「はい、そうです。大丈夫ですよ。」

 

キルの心配を他所に、ティファは大丈夫だとにこやかに告げる。

 

何せ自分は戦い慣れているうえに殺されかける事も、殺したいと憎まれているのにも慣れているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティファが内心で物騒な事を考えている時、庭園に押し入った男はティファの力の一端を知り冷や汗を流している。

 

ティファの魂を抜こうとした脱魂魔術は、この秘術が編み出されて数千年間発動前に破れた事は一度としてない。

破れるとすれば魂を取り返されるか、術の途中で術者が殺されるかのどちらかしかなかった。

其れとは違う方法で、あれは破れたというよりは弾かれていた。

 

 

他にどんな能力を有している。

 

 

ティファに宣した通り、大魔王を勝たせる為ならばどのような方法であっても敵の情報方を掴み取る。

不意に何かを仕掛ければ、防ぐ為に能力を発動するのは常套手段であり、ハドラーの事を持ち出せば怒りに気配を感じた。

他にティファのパーソナルデータもいくつか穫れ、実のある接触だったと自然と笑みが零れる。

 

男達がティファに接触をしたのはその為。ハドラーの事を繰り言を言いに行ったわけでは決してない。

全て自分達が勝つ為に。




今宵ここまで
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