勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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あのお人が来た理由


幕間-拳聖師弟-

弟子の一人が心配だった

 

 

自分がこの隠し砦に来た理由は其れに尽きる。

 

一番弟子の方ではない。

 

あの子は武闘家として大成する事は無いけど、あの子は純粋で真っ直ぐで強い子だ。

出会った時は人の畑の野菜を盗り、見張っていた農夫たちに反撃して遂に僕に退治依頼が来た。

 

話を聞く限り余り悪い子でななさそうだ。畑から盗る量も大したことは無く、精々大根一本か人参数本、キャベツ一玉とかそんな感じで、反撃と言ってもひっかいて相手が怯んだ隙に逃げる撤退を最優先している。ようは飢えを凌ぐ為に行き当たりばったりやっている感がある。

それが人同士であったならば話し合いで解決するか、盗られた被害が少ないしまぁいいかで済むだろう話は、相手がモンスターというだけでその数倍は憎まれ排除されるしかなくなるのが残念だ。

 

先の大戦でモンスター達は自身ではどうしようもない理由で恨みを買っていまだに根強く残っている。

 

余り無益な殺生はしたくないし、手刀一発でおとすかと出掛けてみれば、その手刀一発では気絶せず、最後にはみぞおちに当身を喰らわせて漸く撃沈したタフな子だった。

 

依頼を済ませたとその村の村長に話している間に、引っかかれた男が鋤をもって仕返しに来た時は、これは不味いと慌てて洞窟に連れて帰った。

 

他の村人達からも受けた暴行を、マトリフに貰った傷薬を飲ませて治して、数日は何にも口にしなかった子が、ある時いきなり声を掛けて来た。

 

「・・・たべないの?」

 

 

可笑しなことを言う子だ、何も食べていないのはそちらだろうに。

その子はどう言えばいいのかを懸命に考えながらたどたどしく、僕が食べていない理由を聞いているようだった。

 

そんな事は決まっている。

 

「だって君だって何も食べていないじゃないか。」

 

食べやすいスープを出しても威嚇するだけで口もつけずそっぽを向いて。

 

「一人で食べても美味しくないんだよ、一緒に食べよう。」

 

あの時の、あの子の驚いた顔と、ボロボロと泣きながら美味しそうに僕の作ったスープを掻き込む様は、きっと僕にとっての一生の宝物。

 

あの子は一人で生きていても、人に迫害されても純粋なままだった。

 

村人を恨むでない、ただ生きていたかっただけだとそれのみで生きて来た子・・・其れはモンスターとしての性としては自然な事なのかもしれない。

 

ただ生まれ、生きて、死んで逝く

 

そこに理由も何もなく、力足りなければ死んでいく自然な命。

 

あの子を見ていると、人間等の知性を持ちすぎた者達こそが不自然だと突きつけられている気になる。

 

命は命、たった一つしかない何時かは死を迎える生命がそのまま育ったような子を、僕は初めて弟子にしたいと思った。

 

この子が穢れなくて済むように強くしてあげたいと。

 

ハドラー大戦で知った事、モンスターは魔王の邪悪な気配に否が応でも染められ凶暴化してしまう。

 

僕が生きている間の二度目があるかどうか分からないけど、この子が生きている時のもしも・・・・幸い他にも分かった事があった。

 

精神力の強いモンスターは、邪気に侵されずに跳ね返せるのだと。

 

だったら僕が鍛えて上げればいい。幸いにもあの子も僕に懐いてくれた。

 

驚いた事にあの子は人里の側にすんでいたせいか、人語を解してたどたどしくではあるが自力で話せるようになっている。頭も良い子なのだろう。

 

あの子が言うには、僕は正義の味方であるらしい。

村の子供達がしていた正義の味方ゴッコを見てその言葉を覚え、正義の味方役の子が困っている子をさっそうと助ける所がカッコよくて何度も遠くで見ていたとか。

 

「僕にとっては老師が正義の味方なんです。」

 

辛い修行の後に、修行で出来た傷を手当てするたびニコニコしながら言ってくれる言葉。

 

一人だった自分を拾ってくれて、その上強くしてくれる凄い人だと。

 

不思議な子だ

 

僕はこの子を退治する様に依頼されたのをその時は知らないだろうけど、共に暮らしてもう一年近くの今なら分かるだろうに。

 

強さだけでは生きていくのには不便だろうから、僕が生きている間に教えられることは全て教える事にした。

 

人間の言葉を教え、読み書きも教えた。

 

話せれば、それだけで便利だ。物珍しさでこの子と話せば、この子の良いところを知ってくれるきっかけになってくれる。

その良さを分かってくれて、村の隅にでもひっそりと暮らせる場所でも作ってくれる奇特な村が、この拾い世界のどこかに一つはある筈だと信じて。

 

読み書きもかけなくていい。

 

ただそこが立ち入り禁止で、近づいたらいけない所だと分かってくれれば、厄介ごとの巻き込まれる可能性がぐんと減る。

 

僕が生きている間は僕が守れても、僕ももうじきお迎えが来てしまう。せめておいていく事になるこの子の行く道を、歩きやすくしてあげたい。

 

そんな生活が続いたある日、かつての仲間の子のマァムちゃんが訪ねて来た。

 

ロカに何かあったのかを聞けばそうではないらしい。

今ロカは、マァムちゃんが仲間に入った勇者一行の仲間に診て貰って新しい治療を試して具合がよくなってきているらしい。

 

眠れる薬を処方され、どうやらロカの体に合っているようで何よりだ。

 

「私は、その仲間の足手纏いになりたくないんです!!」

 

生まれた時から知っている子の、泣きそうな顔程見ていて辛いものは無い。

 

来た経緯を全部聞いて、最後にそう叫んだマァムちゃんは泣いていた。

 

その様子にオロオロとしたあの子は急いでお湯を沸かして砂糖を入れたお湯をマァムちゃんに持たせた。

 

「飲むと落ち着くよ・・・」

 

僕以外と話すのは久しぶりな子だが、泣いているマァムちゃんにとても優しく接していた。

 

「・・・・ありがとう・・」

 

渡された時にきょとんとしたせいか、マァムちゃんの涙は止まって砂糖湯を受け取ってゆっくりと飲む頃には、来た時の様な焦燥感が薄れた。

 

「私・・・村で生きていただけで外の世界の広さを知らなかった・・・自分よりも強い人がいるのを本当の意味で知らなかった。辛い事も悲しい事も嬉しい事も全部知らなさ過ぎて・・・・・先生から貰った魔弾銃が無ければ僧侶としても半端なんだって思い知って・・」

 

ハドラーに放った渾身のロッドの一撃を苦もなく受け止められたのが余程ショックだったか。

そして、当代の勇者の側には一国の姫君とは言え賢者がいる。その中において、確かにマァムちゃんがいる必要性を感じられないのは無理もない。

 

先の大戦以上の規模の今大戦において、半端者が勇者一行という最も過酷な最前線のパーティーに居れば、下手をしたら一行全滅の引き金になりかねない。

 

誰に言われたわけでもないようで、その事に自分で気が付いただけでもマァムちゃんは大した子だと思う。

そしてこの子には確かに武闘家としてのセンスの方が上だと思う。

 

僧侶で実は盗賊の職を持つレイラと、国一番の怪力無双と言われたロカを両親に持つマァムは、素早さを母レイラから、力を父ロカから受け継いだマァムちゃんにとっては武闘家はうってつけの職なのかもしれない。

 

其れにマァムちゃんなれば、僕が編み出した武神流・閃華裂光拳を教えてあげられる。

 

あの技はホイミ系の魔力を拳に乗せて打ち出し、相手を強制的に過剰回復を起こさせ生体組織を破壊する技。

マァムちゃんはベほいもの使えるから下地はばっちりだ。

 

そしてアバンから力の正しい使い方も教え込まれ、身についた力を悪用する子ではない。

あの技は威力がある分悪用されれば大惨事になると、誰にも教えようとは思わなかったがマァムちゃんならば安心して教えられる。期せずして僕が考えてその後受け継がれずに消えていくだけの技だと思っていたら、受け継げる子が自ら弟子入りしてくれて嬉しい事この上ない。

 

弟子入りの許可を出したらマァムちゃんとっても喜んで、チウも新しい同居人が出来たと喜んでいたけど・・・・心配なのはそのマァムちゃんの方。

 

マァムちゃんの修行はあっという間に終わった。たった半月にも満たずに。

両親から受け継いだ才もさる事ながら、死に物狂いでやっていたのだから当たり前だと言われればそれまでの様な気もするけど・・・・・尋常ではなかった。

 

まるで自分の限界を無視したような無茶ぶりに、何度兄弟子としてあの子が止めても止まらなくて、訳を聞けば泣きそうな顔をして口を閉ざして・・・一度だけ話してくれた。

 

「どうしても、-守りたい人-がいるんです。」

 

その子は仲間の一人で、誰よりも強く、そして誰よりも優しくて戦いにはまるっきり向いていない人だとか。

 

その人を戦いに出さなくていい程強くなりたいのだと、辛い修行を己に課して歯を食いしばって険しき道を歩き切ったマァムちゃんが強くならないはずが無い。

 

マァムちゃんの免許皆伝の後に息抜きもかねて二人をロモス王国の武術大会に送り出して、自分も-こっそりとばれない格好-をして出場すれば、なんとお仲間と合流出来てた。

 

あの子は妹弟子がとられると、慣れない焼きもちを焼いて微笑ましかったがそうも言ってられない事態が直ぐに起きた。

 

あの子が予選敗退した事ではない。困った事に、あの子は自分の持ち味を生かせる技を持っていない。

 

大ネズミ故に、手足が短いのは仕方がないが、かつての様にひっかくだの噛みつくのはマァムちゃんの前でやりたくないとカッコつけたのが即敗退の原因だから仕方がない。

 

その直後に僕もマァムちゃんも魔王軍の罠に陥ってしまったのだから反省しなくては。

 

・・・・・まぁお陰で弟子達の成長は見られたからいいけど。

 

マァムちゃんは檻が生きていると示唆してあげれば、的確な判断を下して閃華裂光拳を繰り出してくれた。

 

あの子も頑張って考案した体当たりの技、窮鼠包包拳を繰り出し、外からの援護攻撃で檻の胃液を吐かせるほど弱らせてくれて、思いがけない連係プレーが見れた。

 

もう僕が二人の教える事は無いも無いようだというのが、騒動の顛末まで見届けた僕の感想。

 

今度こそ本当に引退するかなと帰ろうとした矢先、マァムちゃんから途轍もなく悲しんでいる気配がした。

 

振り返れば仲間と何か深刻な話をしているのか、遠くて切れ切れではあるが話も聞こえた。

 

「そし・・・・ティファ・・・傷ついて・・・」

「詳しい話は宿屋でする。そっちのお前も来るんだろう?」

「当然だ!僕はマァムさんの兄弟子なんだから、マァムさんを守る!ブロキーナ老師なら分かってくれる。」

 

その言葉を最後に行ってしまった。

 

切れ切れとした話ではあったが、どうやらマァムちゃんが守りたいと思い定めた人が何か酷い目に遭ったようで、不確かな話でもとても動揺していた。

 

 

心配だ。あの子、チウよりもマァムちゃんの方が精神的に弱い。いくら強いとはいえあの子はまだ女の子と言っていい歳の子だ。

 

もう少しだけ、マァムちゃんを見守ってあげた方がいいかもしれない。




今宵ここまで・・・・・

どうしても!どうしてもマァムの弟子入り時の妄想が止められなくて本編放って書いた捏造サイドストーリ!!
(書いて悔いはない!!)

あの短期間で武闘家になれたのも、父ロカさんの力だけではなく、最新情報も取り入れて母レイラさんの盗賊職の素早さを受け継いだ事にしました。

最新版ではレイラさんは、僧侶兼盗賊だったようで、その素早さと能力で魔の森のモンスター達を人知れず倒していたそうな・・・・・原作ではおっとりとしたいいお母さんにしか見えなかったのに凄い過去だった・・・

勇者サイドは戦力過多気味に着々となっていますが、どうしてもお師匠様を出してあげたくて理由を作った回でもあります。

ちなみに原作では、チウ君が話せる様になったのは老師のお陰の様ですが、こちらでは自力で片言を話せる設定にさせていただきました。
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