行ってはいけないと言われた。
あの人に二度と近づくのは危険だと、捕まりそうになったら壊せとも言われた。
それでも僕は行きたい。行って、自分で確かめたい!
だって僕だって・・・
日が沈んだパプニカ王城の大広間の一室は異様な静寂が垂れ込めている。
大勢の者達が円を描く様に一人の使者を取り巻き、気配で威嚇しているがその使者は意にも介さず泰然自若な様子でただ立っている。
空間を通ってきた時に、一度挨拶をしてきてからは一度として口を開かず、時折懐中時計を空間から取り出して見ては、自分達を眺めまわしてそれっきり。
そんな時間がもう十分近く経過している。
少し遡ったパプニカ大広間
日が沈む前にダイ達はパプニカ王城に到着し、直ぐに大広間に通された。
そこには玉座に座り国の重鎮の大臣達と話をしているレオン王の姿があった。
一昨日会った時よりも顔色はむしろ良い事にダイ達はホッとする。自分達が敗けた事、世界で起きている参事、ソシエティファの事で心労をマシ体調が悪化しているのを危惧していただけに、以前よりも針のある声が聞こえて安堵した。
レオン王もダイ達に気が付いて立ち上がり、自ら側に寄ってきた。
ダイ達の顔を見て相好を崩し、マトリフにも挨拶をしたレオン王は、意を決したように、ダイ達の後ろから付いてきたハドラーの方に向き直る。
「・・・・・来たかハドラー。」
「あぁ久しいなレオン王、最後に会ったのはパプニカの防衛線であったか。」
「・・・・遠目の私をよく見えたものだな。」
挨拶もそこそこにレオン王は呆れて溜め息を吐く。
ハドラーの言う通り、大戦が終わりを迎える半月前に、ハドラーはこの国を落とさんと大攻勢で攻めてきたが、兵士たちが数多死んだ防衛戦で辛うじて跳ね返し、その半月後にハドラーはアバンに討たれた。
「貴国が持ち応え、魔王軍の数を減らしてくれたおかげで地底魔城へと入れたのです。」
国と世界を救ってくれたお礼を言いたくて呼んでみれば反対に感謝される形で終わったのがつい昨日のよう。
その時の防衛線で前線とはいえ、陣の奥で指揮をとっていたのをハドラーから見えていたとは・・・・ひょっとして、もう少し陣の奥深くにハドラーが来てまかり間違っていればあの時私は死んでいたのだろうかと今更ながらに冷や汗が背に流れる。
その時の兵達の犠牲は忘れないが
「今は、-あの子-の為に。」
「ふん、お前もティファに捕まった口か・・・・・この城にいる者共全員か。呆れたぞ、俺を見た兵達が憎しみを宿らせる者もいたがそれは少数で、後は来てくれたのですかなどというおかしな老人達に手を握られて・・・」
「インス・ワイズ・フォスか。その老人達全員が白いフワフワの毛があったら彼等だ。
その・・・少々変わり者であるが、この後は部屋から出ないように厳命してある。
今からくる使者とも浅からぬ縁がある故な。
ダイと御父君も、同じ子を持つ父として心中察するが・・・」
「王様こんばんわ。分かっています、その為に俺達はノヴァ以外は闘気も魔力も空にしてきました。」
また思い切った事をしてきたものだとレオン王は思ったが、城を戦場にされるよりは良かろうと口を開きかけたその瞬間、-笛の音-が突如大広間に響き渡った。
誰もが周りを見回したが、こんな場面で笛を吹く者など居る筈もなく、何かを察したマトリフがノヴァにレオン王をの護衛につくように指示を出しながら玉座の方へと追いやり、全員に大広間の中央から離れる様にとも指示を出す。
程なくして中央を取り囲む様にした大きな円が描かれた次の瞬間、空間が開き黒い円から死者が出て来た。
「グットイヴニング皆様。」
出てきたのはダイ達の読み通り、大魔王バーンの側近・大幹部死神キルバーンであった。
空間から出て来たキルは大鎌もレイピアすらも持っておらず、空間を閉ざすと同時にレオン王の方を向き、右手を胸に当て夜の挨拶をしながら一礼をする。
「今宵この場を使う事をお許しいただき感謝の言葉を。我が主も大変満足しております。」
其れはこの城の主に最大の敬意を払い、貴族の優雅さを伴った完璧な礼に則った挨拶であった。
その優雅さに、そして自身が勇者達に包囲されている中で言ってのける胆力に、キルが初見のブロキーナの背がゾワゾワとする。
何この敵は!!これが敵の大幹部・・・・・こんなの、先の大戦のハドラーが子ウサギに見えちゃうよ!!!
力の底が感じ取れないのは、彼がキラーマシーンと同じ類の機械人形だからと予めマトリフとキラーマシーンに最も詳しいハドラーと、オートドールに詳しいバランからレクチャーを受けていたが、そんな事では目の前の-人物-を推し量ることはできやしない。
そう!機械人形の類だと言われても目の前にいるのは人物だ。自分達と同じく思考し自らの考えで動く者。
その思考する者は、敵陣にあってあそこまで堂々と挨拶をし、その後は押し黙ったまま。
「てんめぇ!!ティファ一体どうしやがった!!!!」
「あの子は無事なのだろうなキルバーン!!」
「ティファの無事を教えなさいよ!!」
「大魔王ともあろうものが小さきものを人質にとるなど卑劣にもほどがあろう!!!」
ありとあらゆる罵倒も、口を開かす為の煽り言葉も意にも介さず、ただ数度懐中時計を開いては周りを一度見回したきり何もしない使者。
その見回す時、赤い瞳の瞳孔が細まり、獲物を観察する爬虫類を思い起こさせるのが余計に不気味なのかもしれない。
こんな場にチウを連れてこなくて良かった。あの子にはこんな恐ろしい・・・・怖ろしい場に・・・・・・・何故・・・
足音が聞こえる。その走り方、足音にとても覚えがあるブロキーナは、シーツの中の顔を青褪めさせる。
何故この場に来てしまったのだ!!
あぁ、こんなに大広間が遠く感じるだなんて・・・・でも行かないと!!僕が行きたいんだ!!
初めて仲間達と老師の言葉を破った。城には行かず、砦で留守番をしているように言われて、他の皆と待っているように言われたのに・・・
「本当は君も行きたいんだろう大ネズミ君。」
「パックさん・・・・こんばんわ・・・」
「うん、こんばんわだね。君もおチビちゃんと同じで礼儀正しい子だ。そんな良い子を僕は応援したいんだよ。」
「応援・・・ですか?」
「そうさ、君もパプニカ王城に行きたいんだろう?」
「つぅ!でも!!僕が言っても足手纏いで・・・・」
「近々大戦が始まる。その中に行こうとしている君がそれを言うのはおかしいじゃないか。
弱いからここにいるの?弱いからじっとしてる?何もかもを他の人に任せるのかい?」
「そんな!!僕は任せたりなんて・・・」
「そしたら、おチビちゃんの事を自分の耳で聞いて確かめなくていいのかい?」
砦の隅で、膝を抱えていたチウの下に精霊のパックが突如姿を現し、しきりにパプニカ王城へ行かなくてもいいのかと聞いてくる。
パックは精霊とは思えない程歪んでいる。歪んだ彼は、今夜来る使者と、この大ネズミとの関係も知っている。
どうして仲間達がこの大ネズミを遠ざけようとしているのかも無論知っている。
知った上で問うている。この大ネズミが、パプニカ王城に行けば面白い者が見れるだろうと見込んで。
世界が滅ぼうがどうだろうが興味はなく、面白いかどうかでしか動かないパックは、全力でチウを堕としにかかり、純粋なチウはパックの言葉に抑えていた気持ちが溢れてしまった。
「僕だって!僕だってティファさんの事を直接聞きたい!!でも、メルルさんだって我慢してる。ガルダンディーさんもボラホーンさんも、ザムザさんだってて・・・・僕一人が・・・」
良い子のチウは、気持ちが溢れても平然と勝手なことが出来る子ではない。今挙げた者達もまた、自分と同じ気持ちでいるのを我慢しているのだと。
「そう、そしたら君が見て聞いた事を-鏡に映る-ようにすればいいのか。」
「へ?」
「君、鏡通信はこの間見て知ってるよね。あれを使えるのは何も魔族だけじゃない。-高位の精霊-にも使える。そして僕にも使える。」
「パックさん・・・・実は凄い精霊様ですか?」
「あっは!違う違う、偶々いいところの血筋に生まれただけの者だよ。そんなのに縋って生きている様な化石連中と僕を一緒にしないでくれ給えよ。
其れよりも、君が行く事で彼らの目となり耳となれる。直接ではないかもしれないけれどまた聞きにもならない。
人っていう奴は、自分で診て聞いた者に自分の思いや曲解を入れて真に正しく相手にそのまま伝える事なんてできやしない。
まして相手の使者は君と占い師の子以外は毛嫌いしているんだろう?そんなものが言った言葉を一字一句違えず君達に伝えてくれると思うかい?」
「それは・・・・・・」
無理だと思うというのがパックの言葉を聞いたチウの感想であった。
あの冷静沈着なマトリフ老師も、ティファさんのように優しい皆の心を苛立たせてしまうキルバーンさんの言葉を、正しく伝えてくれるとはとても思えない。
其れは悪意からではなく、彼に対する敵意から、何を言われても計略か作為だと思ってしまうからだ。
きっと敵に対しての言動の受け取り方はあっちが正しく、額面通りに受け取ってしまう自分とメルルと、この場にはいないティファの方が異端であるかもしれない。
それでも自分は・・・
「連れて行ってくださいパックさん。」
「オッケー大ネズミ・・・」
「パックさん、僕にはチウという名前があります。僕を武闘家として育ててくれた大切な人がつけてくれた名前が。」
「分かった、チウ君。行こう、パプニカ王城に。」
ルーラの類の移動ではなかった。
そもそもチウは前科があるだけに万が一抜け出る事を考えられて、キメラの翼は全て取り上げられ、今夜は飛行モンスターの配下とも会えずのお達しが下されている。
パックが異界の通り道を通してくれた。
そこは何もない暗闇で、先導してくれるパックを見失えば永遠に出られない常世の空間。
見失わずに光り輝く出口をにけ出た先は、パプニカ王城の門前前。
「これはチウさん!!貴方が後から・・・皆様はもうお通りです。さ!早く。」
鬼岩城戦において、人もモンスターも被害を最小限にとどめて逃がしたチウの功績も知らされている門番は、直ぐにチウだと分かり挨拶をしようとしたチウを急がせる。
その事に感謝するようにチウは無言で一礼し、脱兎のごとく教えて貰った大広間へと駆けていく。
途中で自分に気が付いて声を掛けて来た人にも後で詫びないとと思いつつ、その足を止める事はしなかった。
そろそろ時間か・・・・
挨拶をきちんとして、あれから十分が経つ。
もういいか・・・・・・おやおや?
足音が聞こえる
とても急いでばたばたと走っている、足音から体は小さく体重も軽いものだと知れる。
そして失礼だが・・・・足がとても短い子だ
使者の雰囲気が和らいだ
足音が聞こえたあたりから、得体の知れない者の瞳が柔らかくなってまるで笑みを浮かべているような気配となり、足音が近づく扉を注視している。
なぜ?この扉から出てくるのはおそらく!!
バン!!!
「こんばんわキルバーンさん!!!!ティファさんはお元気ですか!!!!!」
扉をノックする事は忘れたが、敵の使者に対しチウは挨拶をする。
両足に力を入れて床を踏みしめ、両の拳にも力を込めて力強く堂々と
「こんばんわチウ君。」
そんなチウの挨拶を、キルは中央に留まったまま、先程レオン王にした最上位の礼と共に挨拶を返す。
優しい声音と笑みをもって
今宵ここまで
色々な葛藤と思いを背負って駆け抜けたチウ君のおかげで次回は-色々な事-が分かる回になります