歌、ティファさんが現状料理をさせて貰えるとはとても思えない。
戦だの政だの分からない自分でも、捕虜に料理を作らせるところなんて・・・・ティファさんなら一緒にどうですかと言いそうだけど、魔王軍であればまかり間違ってもない筈!
泣いていないのもお腹が空かない事も捕虜虐めも無いのも分かった上で、ティファさんの心身の健康に繋がる事は。
「笑って歌をね~。そんな質問でいいのかい占い師さん?」
「そうです!ただ歌うだけではありません。ティファさんは-笑って-歌っていますか?」
「ふむ・・・」
チウ達の質問の時と違い、キル右手の指を顎に当て、メルルの質問の意図を吟味する。
歌と、あの少女は言った。元気に走り回ってますかや、体関係は全く聞くそぶりも無く歌だと。
「どんな楽器を弾いているかとか興味ない?」
「・・・・」
ふむ、矢張り-体-に関する事は聞こうとはしない。
手足を拘束されているのを考えているのかそれとも、直接聞いてみるか。
「君はお嬢ちゃんの手足が無くなっているのも想定した上でその質問をしているのかな?」
キルの何気ないような言葉の意味に、問うたキルは当然の事で、質問をしたメルルにも驚愕の目が向けられた。
其れは特に、ダイ達が全く考えていなかった事であったからだ。
陣に飛ばされる直前までティファの体が五体満足であったのを見ていたから。それは先の大戦や、戦や市の場面に幾度も立ち会った大人達にも少なからずその考えはあった。
ティファならばきっと今頃は無傷でいるであろうと、冷静に考えていれば有り得たかも知れない可能性を全く考慮していなかっただけに、メルルがその意図で持って先程の質問をしたのかと問うように見つめる。
そのメルルの唇は戦慄き、それでも先程と同じ質問をする。
「ティファさんは!笑って歌っていますか?!」
今にも崩れ落ちそうな、泣き出しそうな顔で。
メルルだとてこんな恐ろしい事を問いたくなんてない!けれど、もしも今の時点でティファさんが笑っているのであれば、少なくとも心は平穏であり、であるならば最終決戦当日に、手足いずれかか全てが無いティファであっても全員で助け出した後に抱きしめてお帰りなさいを泣きながらでも笑って言うのだと、心を強く持つためにキルに問うたのだ。
「成る程・・・」
言動や仕草よりも存外強い心を持つメルルの姿に、キルは何かを得心して空間を開け一足飛びでメルルの前に出現をし、メルルの目を覗き込む。
「てんめぇ!!離れろ!!!!」
その暴挙を当然ポップもダイ達も許す筈も無く、ノヴァも動いて臨戦態勢を取ろうとしたをメルルが押し止めた。
「平気です!!」
震えながらも力の籠った声は、動き出そうとした者達を押し止めるには十分であった。
敵が手を伸ばせば触れられる距離にいるというのに、味方を押し止めた。
ティファさんは、使者である時のこの人の事を信頼していた。
戦場で会えば叩き潰すと言っていても。それならば自分も信じてみる。
其れで命を獲られるのであれば、きっとこの場にいる全員がキルを討ってくれると信じて。
ティファへの信頼が八割、残り二割は自分の考えでメルルはキルの目の前に毅然と立つ。
キルの赤い瞳からも気配からも敵意や害意は感じられず、何かを探っている。こんな弱い自分の何かを。
不意に、大きな掌で頭をポンポンと叩かれ面食らう。
メルルをとっくりと観察したキルは、心の中でメルルを称賛する。
自分を怖れずに見つめる瞳の奥には、知性溢れ、そして様々なものを見て来た者特有の瞳をしている。
確かこの子は占いで祖母と二人で旅をしているとか。勇者君達よりも尚過酷なものを見て来たか・・・
この世界は戦が無くとも死が満ち溢れている。旅を多くした者ほど其の場面に触れる機会が多くなるものだ。
一体、この子はどんな地獄をこの瞳に写して来たのかとても気になって俄然興味が湧いた。
「君は今まで散々醜い者達を勇者君達以上に見て来たんだね。安心していいよ、さっきも言った通りお嬢ちゃんは今の所-五体満足-で元気に笑って歌っている。
バーン様の前であっても、一人の時でものびのびとね。」
「あ・・・・・」
キルの言葉に、其れ迄張りつめていたものが砕けるのがメルル自身にも分かった。
涙が、後から後から溢れて止まらない。
ティファさんが無事、其れが知れた事のなんと喜ばしい事か・・・・
その様に、キルは表に出さないようにしながら内心で苦笑する。
やれやれ、あの子の周りはどうしてこうも良い子達が揃っているのか。
情に流されはしないが感心はする。地上消滅の時、この子達全員お持ち帰りを決定だ。
「さて、僕も使者としての役割を果たさないとバーン様に叱られてミストに怒鳴られてしまうね~。」
様々な意味で重苦しくなった空気を厭うように、キルはわざとおどけてみせる。湿っぽい事は大嫌いなんだよね僕って。
ティファの公開処刑日は四日後、場所はカールの涸れ谷のロロイの谷。
刻限は正午より始まるが、来たければ朝から張り付いていてもいい。
処刑内容は当日に見て知ってもらう。
必ず来ないといけない指定は特には言われていない。どのみち此処にいる戦える人達全員来るつもりなんだろうから言うだけ野暮というものだ。
目当てのハドラー君の体調も良好の様で、黒の核晶が無くなった影響は零と。
勇者君達の中の誰も心が折れて戦えなくったものも無しと。
大広間の中央に戻って使者の役目を果たしつつ、キルはつぶさに周りを観察し終える。
「伝える事はこれで全部。質問は無しだ。」
先程の質問を全部答えるのすらが破格なのだから、これ以上は情報を上げるつもりはない。
「これから僕はここから帰るけど、変な気は・・・・」
・・・たえ・・
・い・・です・・・・
空間を少しだけ開け、後を追うなり背を見せた自分を襲う成りをした時の警告を発していたキルが、突如として押し黙って動きを止める、不意に振り返って周りを、特にハドラーをじっと見始め口を開いた。
その気配と声音は、先程までおどけていた者とは思えない程の真剣そのもので。
「これから-何-が聞こえても声を立てないように。少しでも破れば二度とは聞かせない。」
今宵ここまで