(そうしないとラストと今までの話の整合性が・・・)
キルが空間を開けたのはパレスの中央部分の入り口前。ここから塔に上って玉座に行くか、都市部に入るかに分かれる。
耳もよく気配を読むのに長けたティファの近くに開けるとは・・・
一度目は何気なく帰ろうとして、主達の待つ食事の間の扉前に空間を開いた時に偶然、主とティファの話し声が聞こえた。
「美味なる夕餉であった。ティファよ、最後に飾る歌を一つ歌え。」
「分かりました大魔王。今日もご飯御馳走様でしたミスト。お支払いとして歌わせていただきますね。どのような歌でもいいですか?」
「構わん、其方の歌いたきものを歌えば良い。」
どうやら今日も食事の間の扉が開けられている様だ。ティファが歌うようになってから、その歌を聞こうと扉付近にいるどころか耳を当てて聞こうという輩が続出している。
ならばいっその事こと最初から開けておけとあいなった。
大魔王は当然そこより奥深くの鉄壁の結界を張った居室があるが、ティファとの食事の為にわざわざ食事用の間を拵え、其れをして魔界から来た配下達はますますティファは魔界の高貴な出の息女か、はたまた御落胤だという噂を増長させている。
キルとしては其れはどうでもいいが・・・扉の前でうっとりとしているはどう見てもアークデーモンにしか見えない。
こいつの配下の様なベビーサタンやミニデーモンの子達は自分の姿を見た途端脱兎のごとく遁走したというのに、こいつだけ頬を赤らめてなにうっとりとした顔で熱い視線をお嬢ちゃんに送っちゃっているのかな?このまま幸福を胸に抱いたままあの世送りにして良いのかな?
戦えば怪力を有した上でイオナズンを持って敵を文字通り爆裂四散させられるアークデーモンが、夢見る乙女ポーズをしているのが気色悪い。
すなわち両手を頬に当て、うっとりとしている姿はお嬢ちゃん以外が似合う筈も無し!
「あ、お帰りなさいキル。」
強くて戦力として申し分ないが、如何せんティファの歌にやられてだらしくなったのは何も取り残されたアークデーモンだけではない。
キルが来るまで扉の前はそのような醜態を晒した配下達が山のようにいたのだ。
ティファの言葉に気をよくして挨拶を返して室内に入りながら、置物化したデーモンを片手で扉から引っぺがして投げつけ、室内を見回せば主とティファの夕餉のお相伴に預かる栄誉を賜れた魔界とパレスを繋ぐゲートを守っているガァグランスと、同じようにパレスには無くてはならない魔力炉を預かっているゴロアが、ティファの歌声に-酔って-正体をなくしている有様。
「ただいま戻りましたバーン様。帰ったよミスと、お嬢ちゃん。」
主には最高の礼を、二人は同格の好きなので同じように柔らかく微笑んであいさつをする。
「使者の役目果たしてきたか?」
「無論です。僕出来る子ですから。」
重々しいバーンからの言葉も何のその、おどけて肩をひょいとすくめて答える。
その図太さに、堂々とした態度に、ティファはついつい引き込まれて笑っている。
ティファは食事前や食事後の歌の時は、いつも大魔王の足元に座らせれる。
其れは歌声をよりよく聞く為か、ティファへの所有欲を満たす為かは分からないが座らせられている当人は気にした様子もなく、今も二胡を柔らかく指でつま弾いて戯れの音を出しながらキルの言動を楽しんで見ている。
この子にとって-敵・味方-の定義はあるのかと、ついつい考えさせられてしまう程の異端ぶり。
自分がどこから帰ってきたかは、ティファも朝食の場でバーンの口から直接聞かされている。
「今宵キルが其方の仲間達の下に使者として赴く。」
「おや・・・・・・最終決戦告知でも出すのですか?」
「・・・そのようなものだ。」
「分かりました。行ってらっしゃいキル。」
其れは実にあっけらかんとした反応であった。
置いてきた仲間達の心配も、迷惑や心配をかけているという気づかいも一切見られない。
「お嬢ちゃん、チウ君達心配じゃないの?」
キルがダイ達の事を言う時はチウが筆頭になる。後はどうでもいい存在だからだ。
「死の大地で勝てるとは思っていませんでしたので、複数のパターンを考慮してきました。
一つは何の奇跡が起きて勝てるかもしれない。
一つはハドラー倒して骸が灰となって黒の核晶だけ残った所を強奪してその場を私込みで一行全員でキメラの翼を出鱈目に使い続けて行方を眩ませる方法。
一つは今の現状になる三つのパターン。
最初のは無論論外です。世の中そんな奇跡などという戯言がまかり通る筈も無い。
二つ目は果たしたかったですが私の武運拙く果たせなかった。
それが故に私はこの場にいる。
そして三つ目になった時のための策も様々に施してきた。あそこまでやっても立ち直れない勇者一行ではないと、私は自信をもって言えます。」
手紙も残し、頼れる味方達に頼んで、ともに勝利の道を歩くカールの女王に根回しもし、自分の生存の証である式神フラメルも置いてきたのだから大丈夫だろう。
その自信に満ちた笑顔に、バーン達は苦笑したのであった。
きっとその言葉通りになっているだろうという苦い思いを強めにした笑みを。
ティファの予想通りになっていたのを報告するキルは、ティファのニコニコ顔が今は小憎らしく感じる。
何もかもが自分の思い通りになっていると無邪気に喜んでいるあの顔は可愛くない。
ハドラー君だったら、にやにやするなとか一言・・・・・ハドラー君・・・
「キル、報告は以上か?」
「え・・・あ!いえ・・・・その・・・」
「・・・・キル?」
報告途中で突然俯き、黙したキルにバーンが声を掛ければ、今まで見た事もないようなあたふたとしたキルの態度に、ミストは驚いた声を上げる。
「御免ミスト、心配かけちゃった?」
先程の様におどけようとしているが、長年付き合っている二人と、数か月の付き合いしか無いティファから見ても十分察せられる。
キルの心が何かに囚われているのが。
「・・・・ミスト、ティファを寝室へと連れ行け。」
「は⁉」
「はい!!」
バーンの突如とした言葉に、ミストとティファ、果たしてどちらがより驚いた事か。
主の命令は絶対を数千年間貫いてきたミストは、間抜けにも主の命令を耳にした瞬間素っ頓狂な声を上げてしまったが構っていられない!!
「ちょっと待ってください大魔王!!キルの報告が終わるまで私待ちます!!私が聞くのが都合が悪いのであればミスト諸共結界の中で過ごしますから!!!」
「私では不服だというのか小娘!!」
異議申し立てしようとしておいてなんだが、先にそんなに嫌がられるのは不本意だとミストが怒鳴れば。
「貴方だって変な声出して拒否感丸出しだったでしょう!!キルと是非チェンジで!!!」
「きっさま!!」
「止さぬか。」
言い合いを始めそうな二人を、バーンはため息交じりの言葉でとめる。
「キルから詳しい話を聞く。異論はあるまい。」
「・・・・分かりました、よろしくお願いしますミスト。」
「・・・・・・・」コクリ
仕方がないと観念したティファは、礼儀正しくミストにお願いをし、葛藤の果てにミストも頷きティファをそっと抱き上げる。
今のティファは、少しでも力を籠めれば脆く崩れる土人形と変わらないからだ。
「良い子だティファ。ミストよ、明日のデザートにそれの好きなフルーツタルトを出してやれ。」
「・・・・畏まりましたバーン様。」
「おやすみなさい大魔王、キル。」
反論せず、-良い子で言う事を聞く-褒美にティファの顔はニコニコとなり、二人に挨拶をしミストに連れられて部屋を後にする。
「バーン様もお嬢ちゃんには大甘ですね~。」
親友の心情を察せられるキルとしては、苦笑いするほかない。
「そちだけには言われたくはないな。」
「確かに・・・」
「時に、其方一体何を思い悩む。」
「え?」
「ふむ、己では気付いていないと?」
「・・・・それは・・・・」
バーンの直球的な聞き方に、キルは気圧される。まるで自分の何もかもを見透かされているような感じが落ち着かない。
少し前であれば、落ち着かないなどという感覚を味わう事も無く面白がっていただけで済んでいたのが、ここ数か月で劇的に自分の内面が変化して行く様に戸惑いさえ感じる。
ヴェルザーが与えた自律思考する為に疑似人格とはここまでのものなのだろうか?
其れはヴェルザーへの反逆審も芽生えさせることにしかならないのではないだろうか?
現に今、自分はヴェルザーに逆らう事をしているのだから。
バーンの前で片膝を付きながらつらつらとどういえばいいか考えていると、不意に目の前が暗くなった。
見上げれば、主の顔が目の前にあり、自分の瞳を覗き込んでいる。
「成る程、-悩みを持つ-程に其方は育ったか。」
「・・・・バーン様?」
「-今-の其方に話してもよかろうよ。」
キルの瞳の奥にある懊悩を感じ取ったバーンは玉座に戻り、キルバーンに命を与えて遂には本物の生命体となった全てを話した。
「つまり・・・・僕がこうして悩んで苦しんでいるのは・・・」
「全て余のせいだと言えよう。」
そんな酷い事をあっさりと・・・ここ数日、本当に時折苦しくて、何度叫び出したくなった事か。
其の度にオートドールの自分は変調をきたしたし、このままでは自分は壊れて二度と主と親友とティファに会えなくなるのかと恐れ戦きいていたのが馬鹿馬鹿しくなる。
生き物なれば悩み苦しむ。そのお手本のようなティファを見続けていたキルは、バーンの話を聞いて却って落ち着きを取り戻す。
自分も、これから悩み苦しみ答えを出していかねば。幸いハドラーとティファとの約束を破った事の蹴りは先程ついたのだし。
「しかし、バーン様にそのような能力がおありとは・・・ミストはこの事は?」
「あれは知らぬ。余も其方に会うまでそのような力を持っていた事自体を忘れていた。」
「使い道が確かに・・・・」
記憶を操作するリャナンシー、物体を出し入れするラド=エイワーズに比べ、命を吹き込むマスター=エンゲージは使いどころが限られよう。
其れ死者にも命を再び吹き込ませる、ザオリクを完全慮がする能力だが、発動条件は己の命の欠片を相手に分け与える事。
キル決戦後、ミスト同様に、ミストが何を預かり守っていたのかを教えられている。
それ故に、自分に術を掛けた当時は-無限の時間-がバーンの肉体内には存在をし、故にこそマスター=エンゲージを戯れ事に使えたのだが、本来は己の寿命を相手に分け与える能力え、普通の者ならば最愛の者を助ける為でなければ使うまい。
「すると僕にとって貴方は父親になるのでしょうか?」
「・・・・戯けた事を、もういつも通りか。」
「はい、僕が今どうしてこんな僕になったのかが分かればそれで。変調きたし過ぎて生き物で言うところの死期が迫っているのではと焦っていたので。」
「そうか、なれば話はもうない。疾く行ってティファとミストに追いつけ。」
「畏まりました父君。」
「・・・・・キル・・」
「バーン様、僕の心はもう決まっていました。永遠の忠誠を貴方に、僕の心をミストに、思いをあの子に。
-邪魔な竜の使者-は二度と人前に出ません。ご安心を。」
おどけながらも、真剣な声音で話しながら最上級の礼をバーンにとったキルはおもむろに立ち上がり扉を開けてもう一度振りむく。
「おやすみなさいませバーン様。」
優しい笑顔を、憮然としながらもどことなく面映ゆそうにしている主に向けながら。
余を、父と呼ぶか・・・・
無論あれも照れ隠しの戯れであろうが、-父-と呼ばわれたのはいつ以来であろうか。
力をもって村を始めて作ったあの頃、弱き者達に庇護者の位置として父と崇められていたのが懐かしくなる。
あの時は魔界にも明るい笑顔が確かに・・・・
・・・・バーン・・・ィアス・・・
っつ!!!
パリン
弄んでいたゴブレットを割ってしまったか・・・・近頃は昔に思いを馳せる事が増えた気がする。
其れはあの娘の目が、-懐かしい者-を思い起こさせるのがいけない。巨大な力を持つ余に対し、何も望まず無邪気に笑っていたあの者と。
魔界はじき救われ、あの時のような笑顔が魔界全土に広がる事こそが余の悲願。
誰にも、決して邪魔はさせぬ。
今宵ここまで
これは三部作にして、後秘話で終わりにします。
次回は影さんと料理人さんです。