思いっきり本筋とは関係ない馬鹿馬鹿しくも主人公だからこそ巻き起こしてしまう日常の一コマです。
読まなくとも本筋が分からなくなる事は無いので、苦手な方はバックしてください。
空飛ぶ浮遊要塞・バーンパレスの一室の窓辺に、一人の少女が窓を開けて細い両腕を外に出し、窓枠に頭を凭れさせてみるともなく外を見ている。
長く豊かな黒髪はリボンでまとめる事をせずそのままであり、超高高度を飛んでいるとは思えない程ピクリも揺らがずに外に向かって垂れている。
本来であれば動いている要塞に吹き付ける風も大気の干渉も、全てこのパレスの主の結界によって跳ねのけられている。
純粋な空気だけが出入りをし、後は埃の一つも入って来ることは無いという徹底ぶりには頭が下がる。
そんな静けさが、昨日の騒がしくも楽しい珍騒動が蘇る。
「・・・・・三度目も健康じゃ、忌々しいほどに健康じゃ。」
「遂にキルの前であっても取りつくろうのをやめましたかジジィ殿。」
「ふん!お主などあと数日の命だあるというのに!何が悲しくてお前の健康など見てやらねばならんのだ!!」
捕まって五日目にして、最終決戦時の時も元気な姿を勇者達に見せつける為に、日に一度健康診断受けろと大魔王からお達しに、何の因果でザボエラは主治医なんだか。
・・いや、これは向こうとしても何度も命を狙ってくる相手の健康診断しなければならんのだから御相子か?
ティファの考えた通り、ザボエラとしては拒否出来るものであればティファの診察なぞ願い下げではあるが、そこは矢張り研究者としての性が疼く。
ティファの体は、それ程までに特殊であった。
死ぬ筈であった者がここまで回復するのはー本来ーであればありえず、そこを研究しようとしたができずに諦めたのだが、それともう一つ。
「しかしお前は面白い位にぺったんこだの。別に筋組織は普通であるのに、-性組織-にでも異常あるのか?」
その年齢に相応しくない体つき。
平均女子にはあり得ないほどに、背丈は同じなのに二次性徴は見られず、とは言え男子の様に無骨ではなく柔らかさは確かにあるのが不思議であったが。
「む!!私の母はナイスバディーだったとバラン父さん言ってました!!いつかは必ず!!」
「・・・身内と違う体形という事はお前自身の問題か・・・肉などのタンパク質取っておらんじゃろう。」
「うぅ!!」
「肉はあまり好きではなく野菜や果物やパンなどの穀物で腹を満たしていったなら当然の結果じゃな・・・・よくもこれで筋肉が出来たもんじゃが、女として必要な部分を育てる脂肪が全て筋肉になっただけの話じゃな。反対の意味で偏食で、ある意味健康的であるから今までなんともなかったが、体は正直の様じゃな。」
まさかの超偏食家であったとは・・こやつ勇者一行の料理人ではなかったのか?
栄養バランスの概念はないのかこやつは?
うぅぅぅ!!ザボエラの癖に!ザボエラの癖になんだか真っ当なお医者様みたいなこと言っているよ!!
そうだよ!お肉嫌い!!野菜美味しい!!お魚焼いたのは半身あればいいじゃない!
真っ当な、ど正論をザボエラに呆れながら言われたティファは反論できず、内心では留められずに悔し涙を流して悶え苦しむ。
その様子にザボエラは日頃の溜飲を下げほくそ笑む中、お嬢ちゃん情報はなんでも欲しいキルは、ティファに聞こえない様にそっとザボエラに質問をする。
「そしたらお嬢ちゃんのこのぺったんな体は偏食から来てるのかい?」
「そうですじゃな。取るべき時期にきちんと肉・魚などのタンパク質を後回しにして、別の意味での栄養不足ですじゃな。」
よくもそんな偏食家が魔王ハドラーとの死闘を演じられたのものだと魔王軍の大幹部キルと、この度ミストの補佐になった幹部のザボエラは若干呆れている。
悪魔の目玉の記録映像見たザボエラは、よくこんなバケモノから命を狙われて生きているなぁと、自身の幸運を噛みしめているその時、扉が左右に吹っ飛んだ。
「小娘!!!!!」
入ってきたのは怒れる冷徹参謀ミストバーン。
大魔王バーンの最側近で、魔界においては宰相の地位に居り、現魔王軍を実質的に切り盛りしている影の大実力者。
あらゆる敵対勢力が主の眼前迄迫ろうとも冷静に対処してきたこの男が、ザボエラの前であっても口を開き、上半身がまだはだけているティファにずかずかと迫ろうとしたその瞬間
ガッシリ
「はいストップだよミスト。それ以上はお嬢ちゃんの色々が見えるから少し待ってね。
お嬢ちゃん、今の内にボタン留めようね~。」
その影の大親友、死神キルバーンが親友を背後から抑え込む。
ザボエラはきちんと医者の立場なのでティファの肌を見るのは有りだが、親友はアウト。え?着替え全般を手伝って、ついでにお風呂に入れている僕はいいのかって?
いいに決まっている。僕はお嬢ちゃんのお世話係なんだから、お嬢ちゃんの心身の健康管理全般僕のお仕事だもん。
とっても碌な事を考えていないキルは、実力は本物でありミストの怒気にも慣れているので平然とミストを押さえつけている。
ボタンを留めるのに夢中なティファも、殺気だ怒気だその他諸々の負の感情になれているのでやはり平然としているが、ティファの後ろでとばっちりのようにミストの怒気を浴びているザボエラとしてはたまったものでは無い。
入ってきた時の気配だけで心臓止まるかと思った程だ。
ティファが衣服を直し終えるとさっさくミストに挨拶しかけた。敵であっても会えば基本挨拶だという平常運転のティファの言葉は、怒声によって遮られた。
「貴様!!よくもバーン様が勝利の祝宴で飲み干す筈だった-エッダ-を菓子酒などに使ってくれたな!!!バーン様が許そうとも!!私が・・・」
ガッッシャン
ミストの怒声もザボエラが片付けていた器具を取り落として遮られた。
それはミストの発言というよりは・・・・・いや、実質無口参謀が喋った事にも驚いたが、内容の方がびっくりじゃわい!!
「エッダ・・・・と、ミストバーン様・・・・・本当に?」
「・・・・・・・・バーン様が余興でこいつに菓子作りをお許しになり、双子の監視の下で菓子作りをして酒も蔵から出していいとの許可を出して使ったのがエッダだ!!!」
「・・・・・はい!!!!?」
「いやミスト、お菓子はその・・・・大魔王が喜んで全て食されましたよね?」
ミスト何怒ってザボエラは何をそんなに驚いているんだろうとティファは不思議そうに尋ねる。
そもそもお菓子作りは料理人名乗っているのならば何か作れとバーン本人から言われて、メイン料理はミストの領域であろうからと、デザートにして簡単なトライフルを作っただけなんだよね。
あれはスポンジケーキと果物と美味しい洋酒があれば出来る簡単レシピ。クリーム入りや無し、チョコチップ入りやヨーグルト入りなどの豊富なバリエーション作ったら、気が付けば一本使って良しの洋酒がスポンジケーキに沁み込まれて空になった。
当然それを全部食べたのは大魔王。七千歳の超高齢おじい様とは思えない健啖家で、アフタヌーンティーで十ッ種作ったトライフル綺麗に完食してくれたよ。
しかも一つ一つを綺麗に味わうように食べてくれたのが嬉しかったな。矢張り料理人足る者誰であっても作ったものを喜んで食べて貰うのが一番嬉しいご褒美だ。
私が大魔王の様子を飽かずに見ているのをミストが何か納得したように一度頷いたのもばっちり見ている。
ミストもまた大魔王の料理人であり、私のその辺の心情をきちんと理解してくれれているのもまた嬉しい事だ・・・・・さっき迄はミスト何にも怒っていなかったのに。
「バッカモンが!!!!!」
「いぃぃぃ!!!!」
不思議そうにしているティファに対し、怒声飛ばしたのはミストではなくなんとザボエラであった。
ちょっと!!何でここでミストが怒るんじゃなくてザボエラが怒ってるくんのよ!貴方関係ないでしょう?
しかも顔が鬼の形相してるし!!
「お前は!!何とんでもないものをお菓子酒になぞしおって!!エッダがなんなのか分かっておるのか⁉」
「え?・・・・香りがリンゴ酒っぽかった。」
ティファのあっけらかんとした物言いに、エッダの価値を知っているミストとザボエラは本気で眩暈に襲われる。
-物の価値-を知らない馬鹿ってある意味最強だ!
そんな物知らずのティファにもめげず、ザボエラの説教は続いた。
こやつは本当に叩き込む様に言わんと通じんのか!!
「あれはその昔神々の置き土産、知恵のリンゴから作られた幻の酒じゃ!!作られたのは数万年の記録が最後で、最後の一本をまさか大魔王様がお持ちじゃとは・・・・ともかく!!金銭では測れない価値あるものなんじゃぞ!!」
「・・・・・・えっと、具体的には?」
知恵のリンゴ
昔神々が知恵を生物たちに持たせる為に作られたという由来のある黄金のリンゴ。
其れは魔界が先代の神のせいで沈められてもしぶとく生き残り、最後一つがとりつくされる数万年前まで存在した。
その味は至福といわれ、一欠けらの為に国が興廃したという噂まで出回るいわくつきのリンゴ。
それを酒として造られたのがエッダであり、数本しか作られなかったのを魔界の実力者たちが血で血を洗う争いをしながら奪い合ってきた。
飲むためではない、其れを所持して守り切っている事が実力者の証として、いわばステータスの為の酒を、若いころ手に入れたバーンは、いつか天界を滅ぼした暁に、神が遺したリンゴ酒で祝おうととっておいたものを、知らずティファが使ってしまったとは、価値を十全に知っているザボエラは頭痛しかしないがともかく・・
「価値か・・・・・お主、テランは知っておろうな。」
「小国でも信仰の厚い国でしょうが。」
「うむ、その国民の数は百にも満たんが、兵士官僚を入れれば結構な数になる・・・エッダはその国を百年養って遊ばせてもまだ釣りが来るくらいの価値がある・・」
「え?」
「ひょっとすれば、意外と質素なパプニカならば優に五十年は・・」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
「やっとか仕出かした事に気が付いたか馬鹿娘!!!」
ザボエラに知識叩き込まれたティファは本当に青褪めた。
私なんてもんを使っちゃった・・・は!!
「ミスト!まさかとは思いますがエッダ使うの止めなかった双子さんは!!」
「・・・・・バーン様は笑って許したが!!」
「ごめんなさい!!それには負けますがとっておきで弁償します!!ハイハニーの蜜酒五百年もので許してください!!」
「な!!あの精霊族秘蔵の酒だぞ!!!なぜ貴様がそんなものを持っている!!」
「お友達の精霊から貰いました!!一番高いのが千年ものですが流石にそれは王族系しか飲めないからって二番手の五百年ものです!!弁償します!!」
・・・・・この小娘ホント何なんじゃ?
精霊の秘蔵酒・ハイハニーの蜜酒は、一滴でも舐めれば常人なれば溺れる程の美味だと魔界でも大評判で、コップ一杯の為に地上に出て精霊達を脅し奪う実力者思いる程の酒の、其れも五百年ものなんぞ聞いた事もないわ!!
「ミストも小物お爺ちゃんも其れで手を打って上げなよ。バーン様別に怒ってないんでしょう?
お嬢ちゃん、お酒何処にあるのかな?」
「はい!場所は・・・」
お酒なんてどうでもいいキルは、ミストたちが怒っている内容が実にくだらなく映り、代わりがあるのならばさっさと取ってこようと提案して単身空間をティファが教えてくれた場所に開けて取りに行き、すぐさま戻ってきた。
其れはクリスタルで出来た壺に入れられており、早速主に届けようと中身を改めかけたミストは困った。
味は分かるようになったが・・・
「・・・ザボエラ、飲んだ事は?」
「は⁉・・・若い頃に一口・・」
「・・・・・・」
言葉少ないが、ミストが何を聞いて何を自分にさせたいのかを察したザボエラは、溜息をつきながら棚に近づき、茶器の横にあるカップを手に取ってミストの前に戻った。
今ティファ達がいるのはザボエラがバーンから下賜されたパレスの一室に作られた研究室。煮詰まった時や休憩時に飲む為の紅茶の類が常備してある。
ミストは無言でカップに壺の中身を注げば、其れだけで甘くも爽やかな芳醇な香りが室内を満たす。
その匂いだけでティファは酔ったように赤くなり、ザボエラも誘われるように口をつければ・・・
「美味いですじゃ・・・・」
ティファの情報で持ってこられた物だけに、毒の可能性を疑ってた。
しかし飲めばそれは若かりし頃に飲ませてもらった本物のハイハニーの蜜酒であり、極上の酒を思いがけずに飲めたことに感動すらした。
「・・・・・・・二度と騒がすな。」
中身を確かめたミストは、主に献上するべく足早に立ち去る。
「あのキル・・・・・ザボエラにもあれ上げてください。小さな瓶が隣にあったと思いますが、あれも中身は一緒です。」
「小娘⁉」
敵で憎んで殺し掛ける自分に、極上の酒を渡すとは何の魂胆がある!!
「騒がせた詫び、それ以上でもそれ以下でも、そうそれですキル。」
「どうせお嬢ちゃんの事だからそんな他愛も無い理由だと思ったよ。受け取っておきなよ小物のお爺ちゃん。」
「・・・・・・ふん!!用が無いのならばもう出てゆかれよ!!!」
様々に意味で切れたザボエラは、キルの手前ギリギリ敬語を使って叩き出し、一人になったザボエラはティファ達が置いて行った壺を睨みつける。
儂を小物じゃからと歯牙にもかけていないというのか!!
馬鹿にされたようで気分が悪く、壺を割ろうと振りかぶるが割れなかった。
騒がせた詫び
そう言った時のあの小娘の顔は・・・・何故申し訳なさそうな顔を・・
何故じゃ・・・何故あの小娘は憎んでいる儂に申し訳なさそうな顔した!!
一昨日に一人は寂しいよと悲しそうに言ってきたあの顔が更に脳裏にちらつくではないか!!
ティファの心情が全く分からなくて、壊す気力も失せたザボエラはハイハニーの入った壺を研究所の机においてそのままにしている。
ティファは珍騒動を思い出しながら、眼下の様子を見ている。
未だにとまる気配のない空中要塞は、先程-リンガイア-の都市から外れた山間にピラァオブバーンを堕としてすぐに移動している。
落ちた瞬間も落ちた後も見ていないが、三神様達の計画通りなれば命は一つも喪われていまい。
願わくば、あの人達と自分の願いが成就して欲しい。
だから、この暴挙を見逃す事を今は許してほしい。
今日で掴まって八日目。私の公開処刑はあと二日だ。
・・・・・・みんな元気だろうか
早く会いたい
今宵ここまで
先に主人公の方を書かせていただきました。
生かすか殺すかはまだ考え中ですが、少しザボエラの扱いを固めてみました。
自己顕示欲あるわりに保身の塊ではありますが、博識であり知識の実力は本物です。
(原作もそうでなければあんな凄い超兵器作れないだろう・・・)
次回はこの話の次の日の勇者サイドのお話で終わります。