その昔、何時であろうか最早覚えもない遠い昔は自分もそれなりの思いで魔界の領地を守り抜き、幾度も死んでは輪廻の輪をくぐり再び-ヴェルザー-となって同じことの繰り返し。
何時までも変わらぬ魔界の後輩振りに身勝手な者達・・・・・守る価値を見出せず幾星霜がわが身に降り積もったか・・・・命など最早自分にとっては玩具と同名。
其れもたかだか人形の体を乗っ取ったからと言ってこの小娘は何を騒ぐ?
「おのれぇ!!その穢らわしい手をその首から離せ!!」
「その身壊そうとも我等は構わん!!」
「「その人形より出て本体に戻らねば破壊するぞヴェルザー!!!」」
そしてあの赤い髪の羽虫の双子もいきり立って居る。ふむ、これは面白い。
「バーンよ、お前の羽虫の双子はこう申して居るがお前はどうなのだ?」
映像とは言えヴェルザーの出現によりいち早く戻ったミストを横に置いたまま、バーンは再び両腕を袂に入れ座ったままだが、その目と気配から発せられる冷気は尋常ではない。
過去に幾度も激突した後に会った時でも、これほどの気配はいまだかつてない。
お気に入りの人形かそれともこの小娘をとったせいか、あるいは両方かは知れないが。
「お前は-どちら-を返して欲しい?余も優しさとやらを見習って、一つくらいは聞かぬでもないぞ?」
聞くだけ聞いて、叶えると言わないところにヴェルザーの質の悪さが窺い知れる。
敵の本陣の中であっても堂々としているのも精神でキルを乗っ取り、たとえこの場でキルを壊したとしてもヴェルザー本人には文字通り何の痛痒も無く、魔王軍の損失を被るだけというところが本当に嫌なるところだ。
その狡猾さが、計算高いところが、人を嬲って喜ぶ残虐性はバーンにとって最も忌むべきところであり、両者が並び立つ事が金輪際ない。
だが、バーンは口を閉ざして黙ってみているだけで何かを仕掛ける気配もない。
ミストを動かす事も、周りの兵達に知らせる素振りも何もなく、ただ冷たい瞳を向けてくるだけ。
何を考えている?
お気に入りを取られ、ここまで煽られたバーンが沈黙を選ぶのが解せない・・・
「・・・・黙れ・・」
「ん?」
「その口閉じろ!!お前如きの偽りの慈悲に縋る気は毛頭ない!!!どちらかを選ばせてやる?偉そうにするなこの-駄竜王-が!!!」
「な!!・・・・・図に乗るな小娘!!!!」
「ッウ!!・・・・・フッフ・・・本当の事言われて腹立てる所がみっともない。お前が王だと?
配下の命を弄び!!たかだか-死んでも同じ身に転生する魂-を持ってるからと言って偉そうにするな!この戯けが!!!
お前が王であるものか!!私の知る王は皆何かを守ってきた!背負っていた!!何かの為に抗い戦い譲らず、守らんとしていた!!!配下の命を弄ぶようなお前が王であるものか!」
死しても輪廻の輪をくぐろうとも魂がまた同じ-ヴェルザー-として生まれてさらに強化されるという、どう考えてもぶっ壊れチートだろうと-とある知識人-であればもう無敵じゃねぇかと言われようが、ティファからすればそれがなんだという代物でしかない。
ティファは-力-に余り価値を見出していない。それらは-守りたい何か-の為に使っているかどうかに重きを置いている。
其れは民であったり配下であったり家族・友・恋人・そして自身と周りの幸せという小さな事でも良い。
何に使うかを重視している。力とは所詮手段であり、それを目的にしている者など評価に値しない。
「フックックック・・・お前は、本当にあの父親によく似ている。あれも矢張り人間の為と綺麗事を抜かしていたぞ?そしてその後どのような道を辿ったかお前は知っている筈だぞ小娘。」
-普通-のものであればティファの言葉に激昂し首の骨を折らんとしようが、ヴェルザーからすれば子犬が吠えているのと変わらず頸に当てている手の力をわずかに強めただけで、ティファの言葉を嘲笑う。
何故なら
「しかし吠えるのは良いが、お前にはさしたる-力-が無かろうに。ただ吠えるだけの者が余を愚弄したところで何も感じんぞ?悔しければ-俺-のこの手を斬るくらいしてみてはどうだ。」
ティファには最早竜闘気が体内に残っておらず、先の戦いで見せたような敵と激突する力が皆無だからだ。
瞳の奥には確かに獣性があれど、肌を通して感じる気配からは竜闘気の気配は欠片も無く、自分の下級配下よりも少々強い位が精々。
ティファは己の左手の竜の紋章を兄であるダイに譲渡した時、その強さの一切をも渡してしまい、最早バーンやハドラーはおろか、最強ではなくなったミストにもキルにすらも勝てない程弱体化をしたのだ。
だからそれがなんだというのだ。それが自分がこの男に屈してやる謂れなど何一つとしてない!!
自分にとっての王とは、ロモス王のように優しくとも国の為ならば戦の中においても毅然として兵を指揮し、リンガイア王やベンガーナ王の様に厳しくも懐深く、テラン王の様に理想と現実の間に苦しもうとも投げ出さずに治世を治め、パプニカ王の様に病の身を押しても国と民を思う素晴らしい方達こそが王である。
そしてハドラーの様に苛烈で己の弱さすらも超えて遂には超一流魔王となり・・・大魔王バーンの様に-己の全て-を投げ打ってでも魔界を真に救わんとする者こそがティファの中の王達。
先の死の大地でバーンを悪し様に言った事に後悔はないが、それでも魔界の現状とこの数日で見続けたバーンの王としても姿勢を知ったティファは、あの時詰った自分を恥じ入っている。
バーンは己の矜持も外聞も全て投げ打ち魔界浮上の害となる自分達を取り除こうとしたのだ。
たとえその為に配下を犠牲にしても、何を引き換えにしても魔界を救う為に。
それを知らずして詰った事を、バーンはさして気にしていない懐の深さにまた打ちのめされ、遂にはハドラーと同じ様な尊敬をバーンに対して持ち始めているこの時に、正真正銘の配下の命を弄んでいるヴェルザーなどに屈する気など欠片もない!!
力が無くなったから尻尾を振るか?殺されかけているから媚びろと?そんな事お断りだ!!!
その敵愾心に煌めく瞳を今すぐ潰してくれる!!
「そうか、屈する気はないか・・・バーンよ、この者は冥竜王たる俺に無礼を働いたぞ。
同盟の誼としてこの小娘を連れ帰って・・・・「お断りしましょうヴェルザー公・・「な!!」
キルの口から、尊大なヴェルザーの言葉を紡いだその口から、ティファのよく知る声もまた紡ぎ出され、其れはヴェルザー本人が愕然とした。
-声-を皮切りに、ティファの首を押さえていた右手が震え出し、のみならず徐々に解かれんとしている!!
「き・・・貴様!!人形の分際で冥竜王ヴェルザーに楯突くか!!人形は人形らしく主の・・・・」
「違う!!!」
忌々しくもそこに沈めて消し去ったはずの人形の自我が、何の奇跡で浮上してきたかは知らないが、再び消そうとしたその時鋭い声が叫び上げる。
「キルはキルだ!!断じてお前の人形なんかじゃない!」
「・・・・知らぬか小娘・・・聞こえるだろうこの人形の歯車音が!!これはオート・・」
「-機械生命体-だからなんだ!!キルには心がある!!お前が百度・千度生まれ変われたとしても届かぬ高潔で優しい心をその身に収めた素晴らしい人だ!!
命の重さを最初から知らぬか幾星霜の年月で忘れはてたか知らないが!弄ぶ貴様がキルを人形呼ばわりにするな!!
戻って来てよキル!!こんな奴に負けないで帰って来てよ!!!!」
ゴォウ!!!!
ティファが叫び上げた瞬間金色の炎が立ち昇り、キルとティファを諸共に燃やし尽くす。
「「ティファちゃん!!」」
それを見た瞬間、アンリとセシルがティファの下に駆け寄ろうと走り出し、ミストもまた駆け寄ろうとしたが、その動きをすぐに止めた。
炎が割れ、その中からティファを優しい手つきで抱いているキルが出て来たからだ。
「・・・・・キル?」
「そうだよお嬢ちゃん。落ちて消えていく僕の意識に君の声が届いたんだよ。ごめんね怖い思いをさせて・・・」
「・・・キルが・・・・・戻ってきたならいい・・・」
「・・・・・本当にごめんね・・」
うぅぅ・・・この人明日戦う人なのに!それでも・・・・消されなくて良かった・・
キルの謝罪にボロ泣きで答えるティファを、キルは愛おしいと泣いている頬に自らも頬を当て頬ずりをする。
その瞳も気配も穏やかで、温かさすらも感じさせる。それはまるで・・・
「馬鹿な・・・・・馬鹿な!!たかだか人形が-俺-の頸木を!!!」
「そなたの負けだなヴェルザー。」
「なんだと?」
「お前にはまだキルが人形と映るか?」
「・・・・・あれは人形だ!!それだけのものだ!!!」
精神を弾き出され、魔界の本体に戻されたヴェルザーは憤然と吠えるのをバーンは冷たい瞳に嗤いを乗せてみ下げ果てる。
キルもヴェルザーが戻ったのに気が付き、ティファを左手一つで抱き上げ右腕を優雅に胸に当て一礼する。
「ただいま戻りました我が主大魔王バーン様。この身は貴方様にお仕えるする者。如何なる命をも果たしましょう。
つきましてはそこな-駄竜王-をこの場より・・」
「うむ、いられるだけ不快だ。疾く叩き出せ。」
「貴様!!!」
「畏まりました。」
キルは優雅に、ヴェルザーへの絶縁状を叩きつけてみせたのだ。
「この子の言う通りお前は王足りえず仕えるに値しない。お引き取り願いましょうヴェルザー公。」
「黙れ!!!!」
確かにこの身は封ぜられているが!やれる事はある!!
キルの言葉を憎々し気に遮ったヴェルザーは、空間を再び開け毒の瘴気を送り込む。
その濃度は魔界の深部の瘴気を濃縮し、魔族と言えど耐えがたく、仮にバーンとその側近が無事であってもパレスにいる魔王軍は無事では済まず、キルの腕の中のティファは確実に殺せる!
何もかもを喪い自分に楯突いた愚かさを嘆くがいい!!!
だがその怨嗟の念も、キルが邪魔をする。
「お嬢ちゃん、さっきの金色の炎出せるかい?聖炎を使えるのは解析済みだから隠す必要ないよ?」
「あり・・・・・しかたない・・・ですねぇ!!」
ゴォウ!!
金色の炎をティファに出させ瘴気を燃やし尽くさせる。聖炎は魔を弾き、故に瘴気に少しでも触れれば全てを消すまで炎が消える事がない。
ティファとしては、使えなくなった力が多い中でも残ってくれたとっておきは隠したかったのだが、ザボエラあたりが自分を解析して知られているのであれば仕方ないと協力をする。
それに自分も相当怒っている!あの馬鹿に!!
「ここは明日!魔界と地上!!そして天界の命運が決する神聖な場所だ!!!先を思わずただ徒に私怨を晴らす者がいていい場じゃない!!さっさと出ていけ!」
「またもやこの子の言う通り。お帰り頂こう!!!!」
スペードのキング!!!
ガシャンと、何かが壊れる音がヴェルザーの開けた空間から聞こえたその瞬間、ヴェルザーの映像が消え果て、数瞬待っても戻ってくる気配が無く、キルはにこりと笑ってティファを両腕に抱きなおし、バーンの下へと歩いて行く。
「あのような輩に付け込まれ言葉もございません。」
「・・・・二度は許さんぞ。」
「はい、肝に命じましょう我が主。」
ティファを手放さぬまま、主に頭を垂れて詫びを入れる。
「・・・・キルの・・・・ぶわぁかです・・・」
「あぁ本当にごめんねお嬢ちゃん。お詫びにミストに美味しいものこさえて・・・」
「・・オムレツまだ途中です・・・」
「・・・・・あれ食べるのは駄目だよ。ミスト新しいの作れ・・・おやいない。」
「・・・ミストバーン様なら・・」
「ティファちゃんの言葉と同時に・・」
「「台所に行きましたわよ」」
「そう、バーン様とお嬢ちゃんの新しいのをこさえに行ったか。」
機嫌を直し始めるバーンとは対照的に、キルに縋りつくティファを見せつけられる双子の機嫌は最悪マックス。
そのままヴェルザー諸共どこかに行って欲しい!!
私達の敵が、あんなの出なくて良かった。
キルにしがみ付きながらティファは思う。
あんな私怨塗れの敵でなく、何かを守り戦う尊敬できる、そんな偉大な敵を止めるのが自分達であると誇りに思える相手で心中で喜ぶ。
そのような相手だからこそ自分の何もかもを投げ打って出も勝ちたい。あの時、ハドラーと戦う時と同じ思いがティファの胸に再び蘇る。一介の戦士として、これ程誇れる戦を明日するのだと。
「キル・・・大魔王も。明日、明日私の全てを使って貴方達を止めてみせます。」
「そう・・・ならどんな手を使ってでも君をまた捕えて上げよう。」
「再び目覚めた時には地上の風景は一変してよう。」
自分からの宣戦布告にも慌てない。本当に天晴な敵だこの人達は。
おのれ!!!おのれ!!!
「ヴェルザーさ・・・・・」
「黙れ!!!」
近づく配下をグシャリと闘気で潰し殺しても、ヴェルザーの気が収まる気配は一向にない。
スペードのキングは、キルが一度だけ嫌々ながらヴェルザーの元に戻された時に、ヴェルザーの封印された台座に細工をした時の奥の手のトラップ。
ヴェルザーは今封印されているため物理攻撃は何一つ・・・とまでは行かないが大概の攻撃は通用しない。
しかし、台座はヴェルザー本体ではない為その台座に細工をした。
其れは空間使いのキルだからこそヴェルザーにも、その親衛隊達にも見つかることなく台座の中に仕掛けたのは黒の核晶とまでは行かずとも、黒水晶を濃縮した暴発するミニ爆弾。
スペードのキングは、威力は小さくとも超遠隔距離であっても発動させられるトラップであり、剣戟の衝撃で黒水晶を暴発させた事によりヴェルザーの足に亀裂が入り、二段構えのトラップで割れたと壺からまき散らされた液体が亀裂から入った時、ヴェルザーは激痛に叫び苦しみ映像どころではなくなった。
壺の中身はキルが地上に出て教会から面白半分で取ってきた聖別された特別な聖水。
地上見物で言った時、余りにも態度の悪い横柄な神官にぶちぎれて困ればいいと秘中の秘であるという聖水がここで役に立つとは、人生何が功を奏すか分からないが、ヴェルザーにとっては散々である。
小娘も人形も容赦せんぞ!!!明日どちらが勝とうともただで済ますものか!
今宵ここまで・・・・・
やっと冥竜王ヴェルザー編は終わりましたが!!此処でもう一つフラグ立てを忘れていたことが発覚!!
(プロットもっと読み込んでおけ筆者!!!)
次回幕間挟んで本編最終決戦編始めます!!
(・・・・・どこのやるやる詐欺でしょう・・・)
ヴェルザーの台詞にて、「が何度も挟まれているのは誤表示ではなく、ヴェルザーからキルに、そしてまたヴェルザーの台詞になったのを表したくあの表記にしてみました。
もっと分かりやすい表記があるかもしれませんが、筆者としては同一人物から別人格になった時はあんな感じかと思い、あの表記とさせていただきました。
冥竜王ヴェルザーの扱いを考えつつご期待に沿えるよう頑張ります。