勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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何事も準備は大切に

「・・・・うぅ?」

 

赤子が目を覚ましたか

 

薄っすらと開いたティファの瞳をじっと見つめるミストの感想はそのようなものだった。

おそらくあの山間にいるであろうダイ達からすれば待ちわびた目覚めだろうが・・これはここからが長い・・・

 

「ん~・・・・」

 

眠いと矢張り-むずがる-か・・・・

 

自分の衣をしっかりお掴み、ぐりぐりと頭を押し付け寝たいと駄々をこねる・・・起きろ、もう時間なのだから。

 

ミストの腕の中で寝る事もあったティファは、ミストの気配を感じてもそのまま寝る事を敢行しようとするもそのまま舞台の上に降ろされる。

 

乱雑に降ろされるのではなく、優しい手つきでそっと座れる体制で。

 

地面に降ろされたティファの眼は、徐々に開かれて行く。

 

温かい・・・・パレスと違って暖かい・・・これは・・

 

 

お日様を沢山浴びた地面の匂いだ!!!

 

此処がどこなのか気が付いたティファは、一気に覚醒し瞳を欄と輝かせ地面に行こうと立ち上がりかけたがふらつき、そのままドシャリと舞台から転げ落ちた。

当然ミストは助ける気はない。

 

こんな高低差とも言えない高さから落ちてもこいつは痛くはないだろう、などというミストの心中の声を拾えばダイ達は即座にミストも滅殺リストのトップに入れていただろう。

現時点ではなんだかんだと矢張り大魔王がいてはいけないとトップワンで同票でキルがいるが、その次は誰かは決まっていないので今のが知られれば確実に当選確実。

 

ダイ達からすれば、ティファであっても魔王軍の捕虜などという立場は心労を感じる過酷なものであったのだと泣きたくなる。

 

地面に倒れ伏したまま起きないのは、やはり体がまだボロボロなのではないか!

 

だが、ティファはそんな理由で起きないのではない。

 

ふへぇへぇ~、お日様の匂いたっぷりの土の匂いだ~。

 

起きたくないが正解で、土の匂いを思う存分肺腑に満たしてエネルギーチャージ真っただ中。

パレスにはなんとガラス張りの温室があり当然土もあったが、長い年月を掛けて日の光の恵みと大自然の風雨によって育まれた命の息吹の匂いは無かった。

どこかよそよそしい土の匂いだけに、ティファは随分とがっかりしてしまった。

 

十日ぶりの土からする命の匂いに、山から吹き下ろされ自分の全身を優しく撫でていく風の中に生命の息吹を感じ取り、ティファは全身でそれらを堪能している。

自分は地上に帰ってきたのだと。

 

寝ていたいな~、でもこの地上を守らないといけないんだ。ゆっくり寝ていいのはその後か。

 

ぼんやりとしていた頭が次第に覚醒させながら、ティファは両手を地面に付けてゆっくりと体を起こして座り込む。

その顔は締まりなく笑っており、見ている者達全員を唖然とさせるには十分な威力であった。

 

ティファは気が付いていないのだろうか!後ろにはミストがいる事を!!

 

しかし味方の懸念とは裏腹に、当然ティファは気が付いている。ミストが自分を見つめてじっと立っている事を。

それでも気にせず少しだけ好きにさせて貰う。だってこの位の事ならばまだ観察の範囲内で怒っている訳ではないと断言できるくらいにはなっている。

ミストの視線の強さによって、言いたい事や考えを察知できる日が来ようとは、本当に人生歩いていると何があるか分からないのがいとおかしきかな。

 

 

ティファは少し座ったままに伸びをし始める。両手を宙高く伸ばし上げ降ろすのしばし繰り返し、すっきりとした顔になればゆっくりと立ち上がった。

そのままミストの方を向くのかと一同が固唾を飲んで見守る中で、なんとティファは膝の屈伸運動を始めたではないか!

 

うわぁ~体中かパキポキいってる。相当訛ってるなこれは。

パレスでは移動はキルが専らであったが、ミストや時にガーゴイルや極稀に大魔王に運ばれていた生活を十日もしていたので無理はない。

さっきこけたのも単に足がもつれただけであって中身はピンシャンしている。

 

うん!思いっきり動こう!!!

 

 

 

「・・・・・綺麗ですね~お嬢ちゃんのあの動き。ふふ、舞を舞っているみたいですねバーン様。」

「余興にひとさし舞わせれば良かったな。」

「そうですね~。それにしてもお嬢ちゃんは本当に凄い。見て下さいよ地上の連中間抜け面。

お嬢ちゃんの行動についていけなくてポカンとして。お嬢ちゃんこっちに来ればいいのにな~。」

 

ティファの動きはパレス内にてバーンとキルもばっちりと見ているが、当然ロロイの谷の山間にも目玉をしかているのでダイ達の顔もばっちりと映っている。

 

キルとバーンが美しいと評した動きを、ダイ達にとってはティファは一体何をやっているのか分からない動きをしている。

 

今ティファに問えば、筋力と神経の肩慣らししてるんだよと無邪気な答えが返ってこよう。

 

屈伸運動の後に、ティファは体内にある闘気は使わず筋力だけで地面を蹴り上げ高く跳んだ。

 

着地と同時に何度も跳び上がり、腕を体に巻き付け身体を横回転させたり反対に腕を伸ばして独楽の様に回って見せる。

足での着地ではなく手を尽き後ろ返りに前回り、跳んだかと思えば着地と同時に足を開いて低い姿勢で左手を一閃させまた跳びはね一時もじっとしていない。

 

嬉しいのだティファは。

 

おのれの体を存分に使えるのは久しく、自由に動ける事が。

其れはこの世界に生れ落ち、己の足で走った時のあの興奮が蘇る。

生きていればこそ、健康であるからこそできる体の動きをティファは思いっきり存分に堪能している。ただそれだけの事。

 

そして地上に降り立ち始めて発せられた言葉はこれであった。

 

「いい天気だ!!」

 

この地を守ろうや救わねばという勇敢な言葉とは程遠い、のびやかで無邪気な笑みを浮かべ、此処がこれから戦場になるとはとても思えない言葉に、ティファを知らぬ味方どころかダイ達も絶句した程の能天気な一言であった。

 

飛び跳ねる事をやめても辺りを散策するように歩く様は、本当に子供が散歩している様にしか見えず、様々な叡智・知略で翻弄されたフローラを筆頭にしたカール王国勢は、目の前の人物は別人なのではないかと現実逃避したくなってきた。

 

 

そのティファの動きが、ぎくりと一瞬したかと思えばぴたりと止まった。

何事かあったのかと目を凝らすダイ達にも見る。

ティファの顔に、どことなくバツが悪そうな顔をしてミストの方に体を向き直り、頭を掻きながら何やら弁明を始めた。

 

 

「いやぁ~もう少しだけ見逃してもらえませんか?物凄く久しぶりの地上にはしゃいでいただけですよ~。」

「それは・・・確かに自分で捕まりに行ったようなものですけど、あの時点では奇跡的に勝てるか私込みで逃げられるかの方にも張っていたのですから、ただのこのこ捕まりにいったんじゃぁありませんよ。」

 

まるで誰かと会話するように話しながらミストの方にゆっくりと歩き始めている。

 

実際にティファはキルとバーン並みにミストの視線一つで何を言いたいのか大かた察することが出来、今もティファにとってはミストと会話をしているも同然であった。

 

自分がティファに向けている視線の内容も、ティファの返答と概ね一致しているのでそのままの癖で視線と話の会話で済ませるミストも、ある意味ずぼらであろう。

 

そのティファが、何かに気が付いたようにぴたりと止まる。丁度舞台迄半分の距離で止まり、地面をじっと見つめ始めた。

 

ミストも何事かを察し、ティファが止まったのを咎める視線をやめて観察モードに移行させる。

 

あれは一体何を感じたのか。

 

 

困ったな~、此処にいたら-この子達-危ないや~。

 

「あの~、これから闘気発しますが敵対行為ではないのでいいですか?」

「・・・・・・コクリ。」

「了承有難く!!!!」

 

ズバン!!!

 

ティファは何を思ったのか、ミストに宣言し、ミストが首を縦に振ると感謝の言葉を述べながら突如地面に両の掌を闘気諸共叩き付けた!!

 

バキバキバキ

 

ティファの闘気に反応したかの様に、何か固い者がぶつかる音がしたが今はそこじゃあない。

 

モコ・・・モコモコモコ・・・

 

ピぃ~!!ピぃ~ピぃ~!!!

 

・・・・か・・・・可愛い・・・なぁ!!!!

 

ドシャドシャドシャ!!

 

「・・・・・何をしている?」

「うぅう!!地面から出て来た大量のスライムちゃん達に、のしかかられている以外どう見えるんですか!!」

 

呆れ果てるミストに切れたティファが、助けを求められたスライム達にのしかかられたままミストに怒鳴り返した。

 

ティファが察知したのは地面の中に居たたくさんのスライム達。

 

昨夜の雨の中を巨大な其れ跳ぶ物体が来た時、カール山脈のモンスター達は山の外へと逃れたが、地面がぬかるみ山間を登れなかったスライム達は、反対に地面にか潜って何を逃れようとしたのだが、ティファからすればこの後起きるであろう大戦の中では、地面の下にいてはその余波であってもこの子達は死んでしまうと表に引き出した。

それはいいのだが困ってしまった。

 

この子達何処に逃がせばいいんだろう?闘気が何か当たる音が四方からしたという事は目に見えない壁があり、どうやらこの場所には結界が張られている可能性がある。

そんな中で・・・私じゃ~・・・

 

「・・・・なんだ?」

「・・・・・・」

「・・なんだ!!」

「・・・・・・・」

「・・えぇい!!何故そのスライム達を抱え込みながら私に近づく!!」

・・・・・・・・」

「何か言ったらどうだ!!無言でじりじりと近づくな!!!」

 

ティファの意味不明な行動に、今度はミストの方が切れた。

少しどいてとスライム達に言った後、立ち上がったティファは両手に抱えるだけのスライムを胸元に抱いて、残りは両肩と頭に伸してじりじりと無言で自分に迫ってくる!!

しかも瞳をスライムの様に潤ませるな!!言いたいことがあるのならば口で言え!!!

 

それはまさしくミスト自身に対する盛大なブーメラン思考であったが、突っ込める者は生憎とここにはいないのが残念であった。

 

「ミスト~この子達を・・」

「・・・・・・それか・・」

 

ティファの短い言葉でミストは察した。

どうやらスライム達を逃がしてほしいと訴えているらしい。

馬鹿馬鹿しい!地上が消えるのだからどこにいさせても同じだ!!・・とはミスとも言い難い。

何故ならば相手はスライムだからだ。

 

何故スライムだとそう言いづらいのか。その理由はバーンが大事にしているパレスの庭園にある。

あそこには主がいつの頃からか面倒を見ているスライム達の子孫が住み続けている。

そのスライム一族は取り立てた所はなく、能力も平均でメタルだののレア性も皆無な本当に何の変哲も無いスライムばかり。バーンは何が気に入っているのか分からない程スライム達を庇護し、そして亡くなれば遺体を灰にする事なく庭園の隅にある石の前に手づから穴を掘って埋葬している程で、自分も日々そのスライム達に餌をやり体調を管理している。

故に、自分も自然とスライム達に懐かれ目の前にいるスライムとティファの潤目が庭園のスライム達と重なり邪険に振り払えないではないか!!

 

「駄目だよおじょうちゃ~ん。ミスト困らせたら駄目じゃないか~。」

 

風の中をそよぐような甘い声が谷に広まった時の反応は実に十人十色であった。

ある者達は殺気に満ち溢れ、ある者達は困惑をし、何事かと警戒をし、ミストはうんざりとして、ティファはぱっと気色の色を浮かべて声の方を向けば!!

 

「その子達をお外に出せばいいのかな?」

「キル!!・・・できればカール山脈の向こう側に・・・お願いできますか?」

 

空間から出て来たキルに駆け寄り、躊躇いも無くスライム達をキルに託す。

 

「お安い御用だよ。それよりもこの子達庭園に入れて上げようか?-君-も込みで。」

 

渡されるスライム達は、キルの邪気の無さに安心して身を預け、大人しく腕の中に納まり、受け取ったキルは言外にティファに降るように伝えてみるが、ティファはにこりと笑って後はだんまりで返されてしまった。

 

残念、降らないか。

 

予想はしていたが矢張りがっかりとしてしまう。

こうとなってはミストが痛くないようにティファを殺してあげる事を祈るばかり。

痛いのは切っち嫌だろうから。

 

「ミスト、上手にやってあげてね。お嬢ちゃんも抵抗してもいい事ないからね。

其れとこれは返すよ。」

「・・・・これは・・・・いいんですか?」

「うん?これに武器はないんでしょう?」

「まぁそうですが・・・」

「なら返しても別にいいでしょう。それじゃぁミスト頼んだよ。お嬢ちゃんの心残りもこれでなくなるだろうし、-公開処刑-の宣言を高らかに上げてくれ給えよ。」

 

ティファに没収していた金のマジックリングを返したキルは言いたい事を言った後、スライム達を逃がすべくさっさと空間をさっさと通って行ってしまった。

 

・・・・・まるで通り魔に会った気分だとミストは胃薬飲みたくなってきたのを、ティファが白い衣の腰辺りをポンポンと叩いてつい慰めてしまう。

ある意味でティファもミストもキルに振り回されているので、ミストもそこには文句は言わずに公開処刑の幕開けを宣言した。

 

「・・・・・始めるぞ。」




今宵ここまで


えぇ、フラグをがっつり立てた回でした
(まだなんのとは言えない)
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