苦しいものだと思っていた。
体内に侵入しするであろうそれを拒絶する為に、体内での攻防となり苦痛と吐き気にのたうち回るものだと。
暗黒闘気を飲んだのだから
「ヒュンケル!!ティファ一体どうしちゃったの⁉」
「あれを飲んだら取り込まれるのを拒絶しようとするか取り込まれるかのどちらかじゃなかったのかよ!!!」
「俺も・・・俺にも分からん!!俺が暗黒闘気を習得する為に飲んだ時にはあんなことは無かった!!」
ミストから渡されたゴブレットを渡されたティファは逡巡していた。
当たり前だ。
何処の世界に処刑の一環であるという物を、其れも暗黒闘気を渡されてそうですかと飲み干す者がいるだろうか。
ティファが逡巡している間、ヒュンケルはダイ達から質問攻めにあった。この中で唯一暗黒闘気を使っていたのがヒュンケルだけだ。
暗黒闘気を飲めばどうなるのかを問われヒュンケルは思い出したくはないが、幼き日に一度だけ飲んだ時の事を思いだす。
打倒アバンを掲げ、暗黒闘気の使い手となる為に極少量であったがそれは苦しくそして地獄の怨嗟のような声に乗っ取られかけ、持ち応え自我を保ち正気に返った時に暗黒闘気が体を巡っていたと。
乗っ取られるか使い手となるか・・・・・死んでしまう事もある。
だからこその処刑の一環。
ヒュンケルの言葉に、少し離れたところで聞いていたフローラ達も青褪める。
もしもティファが暗黒闘気に飲み込まれたその時は、間違いなくダイ達は戦えなくなってしまう!様々な意味で!!
乗り越えられるか、それが無理な時はいっそを願うフローラの心情は幸い表に出ずに済んでいる。
ティファがそれで没した時は、其れがダイ達にとっては何よりも戦う原動力足りえるはずだ。
一人の少女よりも世界全てを考えるフローラとは裏腹に、ダイ達はティファが暗黒闘気に打ち勝つことを願う。
特に暗黒闘気の恐ろしさと悲しさを知るヒュンケルは両掌から血が出んばかりに握りしめ取り込まれないで欲しいと。
あれは魔族達にとって当たり前の力だろうが、人間があれを使う時は怒りとそして悲しい怨嗟の心からしか生み出されない・・・ティファには決して堕ちて欲しくない!
逡巡の果てに、ティファは微かな溜め息を吐いてゆっくりとゴブレットを口につき傾け暗黒闘気をその身に納めていく。
自分が飲まなくとも、じれたミストが飲ませようとするだろう。無理やり飲まされるくらいならば自分で飲む方がましだと。
自分が飲めばどうなるか分からない。苦痛の果てに乗っ取られるのか暗黒闘気を屈させるのか・・・・・しかし、そのどちらでもなかった。
ガラン!・・・・カラン・・・・
悶え苦しむ姿も乗っ取られるのを厭う拒絶の姿でもなく、飲み干したティファはゴブレットを落としながらゆっくりと崩れ落ち、傍らで見ていたミストは両手で崩れ行くティファの体を抱え上げはしなかったが、両脇に手を入れ支え、じっとティファを見つめる。
支えられたティファは瞳を閉ざしたが死んではいない。
心臓は安定して脈をうち、呼吸は深い眠りについたようなと息を立てている。
漸く堕ちるだろうか?
遠目からでもティファの胸が上下に動く事で生存確認したダイ達であったが、気が気でない!目を覚ましてほしいが、起きた時のティファは一体どうなってしまうのかが怖ろしい。
いつも通りなのか・・・・それとも
ティファの体内に入り込んだ暗黒闘気はまるで意志あるが如く、ゆっくりとティファの体内と精神に侵食していく。
強引にではなく宥める様に徐々に少しずつ。
まるで自分を受け入れる事こそが正しいのだと教え込む様に。
それは苦しみではなく心地よさを与えられる様でティファは困惑をする。
暗黒闘気・・・・・なのに心地がいい・・・・私は・・・・あぁ・・・じんわりと私を包み込む様に入ってきて・・・-中-から何かが溢れそうだ・・・・
とても心地よく-抑えていたナニカ-が喜んで表に出たいと訴えてる・・・出たいの?
入ってきた暗黒闘気誘われる様に出ようとしてる・・・ナニカってなんだろう?
まるで・・・・・私が作り替わっていく・・・・
違う、其方は-元に戻る-だけぞ
・・・・・誰?・・・・ううん、違う。私はこの声をよく知ってる・・・・戻る?
そうだ、其方は我等の下にかえってくる時が来たのだ
・・・・・帰る?返る?
そのどちらでもあろうよ
私は・・・・ティファは・・・・・ナニ?
其方は・・・・・・・
ヒィィィイン・・・・
・・・・・ふむ、まだ-マザードラゴン-の力が僅かに・・・
・・・・・カァァァッ!!!!
愚かしき事だなマザーの力の残骸よ。この者の行く末は最早決まっておるのを、哀れな事だ
ティファの魂の中にまで暗黒闘気が入り込まんとしたその時、魂の表層に幽かに残っていた竜闘気の残滓が最後の抵抗をする。
生まれ出でた時よりティファの魂の表層に覆っていた竜闘気の全てがダイに譲渡されたわけではなく、僅かながらティファの意志に逆らいしがみ付く様に残り、ティファの魂を穴だらけであっても包んで守ろうとしていた。
決して、ティファの-魂の本質-を大魔王達に察知されんとして。
だがそれは端から徒労に終わっていたのだ。
キルが知り、バーンもティファがハイ=エントのラック=バイ=ラックを使った事で知られてしまった時点で、マザー亡きあとの力の残骸に出来る事などたかが知れていたのだ。
それでも、僅かであろうともティファの心の平穏を保てる時間を稼いであげたかった。
マザーの残留思念ともう言うべき思いが最後の力を振り絞り、大魔王バーンの暗黒闘気をティファの体内から消し去りたかったが侵入を拒むだけでその力を使い果たし徐々に消えていく。
せめて最後の足搔きとばかりに、-外から侵入してきた-暗黒闘気をも道連れにしてまざーな力は最後の瞬間までも見守り続けてきたティファの行く末を案じる。
文字通りー母ーの様に
子よ・・・・・愛し子よ・・・・其方が何者であっても、其方は其方である事をどうか忘れず、己が信じる道を、どうか迷うことなく・・・・・その為にも起きるのです・・・何か待っていようとも
母の声に応える様に、ティファの目がぽっかりと開く。
体内で誰かに起こされた。
誰か分からないけれど自分が生まれた時からずっと共にいてくれた何かが・・・消えてしま・・・・
「堕ちなかったか。」
消えてしまった何かを悲しむ間もなく、ミストの酷く冷え切った声に、ティファは本能的に体内に残っている闘気を両足にかき集め飛び退ると、すぐさまミストが両手を剣に変形さえ追撃してきた!!
心臓が酷くドキドキしている。思考がくらくらするがそんな事を言っている場合ではない!!
ミストにすぐさま追いすがられ留まる事の無い太刀筋を紙一重ですれすれに躱す。
「大魔王バーン様に逆らうか!!」
「私は・・・・私は!!」
「あのお方に逆らう者には死を!!!」
ミストの両の手から繰り出される網目の様な太刀筋でティファが死の結界の側迄追い詰められた時、足元に暗黒闘気が奔ったのを見たティファは、咄嗟にミストの斜め横に跳び上がる。
傍から見れば其れは悪手。ティファは魔法が使えず空飛ぶ靴すらも履いておらず、空中で避ける術がなく
「闘魔傀儡掌!!!」
「ティファ避けて!!」
「無理だ・・・・・ティファ!!!」
背後に迫る暗黒闘気の糸から逃れる術がない!!
誰もがそう思った時
ダン!ダダン!!!
ティファが空中で-何か-を蹴る動きと音がした時、ティファは暗黒闘気の糸から脱し、遥か上に-立って-ミストを見下ろしていた。
その表情は酷く落ち着いており、慌てた様子も無くミストを観察する様に鋭く冷静な色を乗せた瞳で。
今宵ここまで
ヒュンケルの幼い時、どうやって暗黒闘気を習得したのかを捏造いたしました。
如何にアバンを憎んでいるとはいえ、幼い子供がいきなり暗黒闘気を使えるのか疑問もあったので、ミストの暗黒闘気を極少量飲んで呼び水にしたという事にさせていただきました。
感想欄にてグラビ屯様より面白いネタを頂き、その通り暗黒ティファを誕生させてみるのもいいかと思ったのですが、その後の話の落としどころが見つけられず、プロットよりも暗黒闘気から受けた影響の描写を多めにさせていただき、この数話程後になりますがその後の影響を大きくさせていただく事としました。
処刑の回は二話ほど続けさせていただきます。