待ち望んだ人質の奪還は・・・奪還とは言えないが一段落を見た。
何せ目の前で自力で脱出をし、奪還する者達を阻む敵の結界をも自らの手で消さしめたのだから奪還という言葉は出番を喪った。
そして料理人を一行に迎えた勇者達が、勇ましい鬨の声を上げ大魔王の居城へと侵入するべくミナカトールを素早く張りに行くと・・・・そう段取りをしていた。
勇者達がミナカトール張りに専念できるよう有志連合とカール騎士団が周りを固め、その合間に料理人のティファと対面をし。今後の事を打合せするのだと、-自分の中-ではそうなっていたのにと、フローラは現実世界で繰り広げられている光景に、頭を痛める。
「ヒュンケル、私は生きていますよ。ほら、心臓も動いていますし足もあります。ですから安心なさい。」
「・・・ティファ・・・・もう二度と、あんな事をしないでくれ。俺達はもう負けん・・・だからもう二度とは・・・」
「ヒュンケル・・・」
アバンの弟子・その長兄足るヒュンケルがティファを抱きしめ小さな胸に顔を擦り付け泣いて懇願をする。
そのヒュンケルを宥める様にティファはその小さな体でヒュンケルの全てを受け止め、柔らかく微笑み安心する様に言い聞かせている。
ティファが優雅な一礼をするや否や、戦場が敵味方双方入り乱れる前にダイ達が光の如き速さでティファに迫った。
一番に駆け付けたのはトベルーラを使った兄達ではなく、神速の名を欲しいままにしているラーハルトでもなく、剣の魔装という重さのハンディを背負ったアバンの弟子の長兄足るヒュンケルが、誰よりも早くティファに辿り着き、ティファの服に指が掛かると同時に素早く抱き上げ立ったまま大泣きを始めた。
元師で今は敵の大幹部ミストバーンが、パレスに待機しているであろう敵の大軍が、この状況を見ているバーンやキルバーンの目があるのを知っても、恥も外聞も無く泣き崩れた。
ヒュンケルにとって、ある意味ダイ達よりも辛い十日であった。父を目の前で、しかも幼い己が腕の中でボロボロに崩れ死んでいく父を見ている事しか出来なかった無力なあの頃を幾度も夢に見、その骸が父からティファになった時に絶望の声を上げながら目を覚ました。
いっそ狂えればどれ程楽であったろうか・・・だが自分が狂えば、弟妹弟子達の心を誰が守るというのだ?
ダイ兄・ポップ兄・マァムさんを頼みます
今は亡き師に弟妹弟子達を守ると心に決め、そしてティファからの手紙でも頼まれた事を頬り出すくらいならばいっそ死んだ方がましだと思い定め、己の心を騙し騙し過ごしたと十日は地獄であった。
悲しみに暮れ時に泣いているダイ達の前では安心させるように微笑み、ラーハルト達とは軽口を叩いてはエイミに軽くたしなめられてそして笑っていた時、ティファはずっとこの地獄くぐってきたのかと思うと堪らなくなった。
如何なる時もティファはこのようにあった。辛くとも悩んでも誰にも弱みを見せずに軽やかに笑って、その果てに壊れたのは当然であった。
それを思い耐えてきたが・・・・
「ティファ・・」
「はい。」
「ティファ・・・・」
「ヒュンケル・・」
「俺は・・・・・約束を果たせたか?」
「はい、よく守ってくれましたヒュンケル。ありがとうございます。」
この温もりが戻ってきた今、俺も・・・泣いてもいい筈だ。
ヒュンケルが一番にティファに辿り着いた時、ダイ達は何も言わず全員が示し合わせたようにティファとヒュンケルの前でフルブレーキを掛けそのまま周りから敵が攻めて来ても守れるようにヒュンケルとティファを囲んで、周囲を警戒する体制に入った。
ダイ達はよく知っている。自分達の長兄は物凄く頼りになる兄であり、そしてティファを最も慕っているのを。
マァムがティファの中に母を見たと言ったのを知れば、ヒュンケルはこうマァムに言っただろう。
ティファは俺の母なのだと
父を強く温かい温もりを知っても母というものを知らず、柔らかい温もりははティファが教えてくれたのだから。
「マァムさん、無理はしていませんでしたか?この戦は前回よりも長期戦になるのでどこかではちみつレモンティーを飲めるようにしますね。」
「メルルさん、泣いても擦っては駄目ですよ。目が腫れてしまいます。美人さんにはスマイルが似合いますよ。」
「クロコダイン、そんなに力入れられたら・・・・折れたら骨折の万能薬使えば・・あ!怒らないでください。冗談です。」
「チウ君、マァムさんに無理したところは?ない・・・良かった。チウ君達が励ましてくれたおかげだよ。」
「ポップ兄!!痛い!そんなに頭ぐしゃぐしゃされたら取れる・・・ダイ兄!!監禁場所はとか怖い事言わないでよ!!あぁノヴァも同意しないで!」
勇者一行全員がお祭り騒ぎもいいところ。
流石のヒュンケルも程の良いところで弟妹弟子達やクロコダイン達にもティファを差し出した。独占したいが全員がティファを思っていたのだから。
マァムはティファを包む前からワンワンと泣いていた。守れなくて御免なさいと、何度も何度も謝って。
メルルも役に立てない己の無力を泣いて、クロコダインは万感の思いを込めてティファを抱きしめ、チウは小さいのでティファに抱き上げられながら泣くまいとして仲間達の近況を震える声でティファに伝えるという大任を果たした。
誰も無理はせず、無茶だけであったというあのポップ流の言い回しで。
ティファにはそれだけで十分伝わったようで、良かったと安堵の笑みが零れ、チウは役目を果たせたとはにかんで喜んだ。
マァムさんをお願いします
そう手紙で託された事を拡大してダイ達の事も頑張ったのだと内心で誇り、口には絶対に出さない所にチウの器の広さが見て取れる。
それをしてあのキルをも魅了し、ハドラー達迄もが一目置いているのを当人だけが知らない。
精々弱い自分でも皆さんのお役に少しは立てたのかなと思う程度。
そのチウを抱えたままのティファを、ポップは抱きしめ妹の頭をぐしゃぐしゃにしながら泣いて怒って安心してと途轍もなく忙しない。
この後は一行の魔法使いとして動く。即ち魔法使いとはいついかなる時も冷静に、例え一行全員がカッカとしても「魔法使いだけは氷の如く冷静であれという師の教えを守る為に。
だが、ティファを抱きしめるこの時だけは、ただのポップでいる事を誰にも文句は言わせない!
ダイが同じ事をしても文句は・・・ダイ・・・俺もティファに怒ってるけど監禁しようとは賛同してねぇぞ!しているように同意の言葉求めんな!ノヴァも目を覚ませ!!
「お前達!何時までそうやって嬢ちゃんにしがみ付いている積りだ!!!さっさとやる事やりやがれ!!!」
流石に感動の時間が長すぎだとマトリフがようやく重い腰を上げた。
自分もダイ達の気持ちがよく分かると甘やかしすぎたかと反省しながら、ゆっくりとティファの下に向かう。
その自分を見て、ティファはあり得ない物を見たと言わんばかりに目を剥いた。
何だ嬢ちゃんの奴?俺がここに居るのそんな意外に・・・
「ミストバーン!!!」
バサラダンカン!!
ゴォウ!!
「質問に答えろ!!大魔導士マトリフをこの地に呼んだか!!来ねば私を処刑演目なく即座に殺すと脅しつけたか?それを示唆したのは誰か!大魔王か?キルバーンか!!」
今まで穏やかにダイ達の思いを受け止めていた人物とは思えない激昂した様に、戦場に沈黙が落ちた。
ダイ達がティファと存分に再会を喜べるようにとロン・ベルクとラーハルト達を筆頭に迫る魔王軍と激突になっていた場が、ティファの殺気にも似た怒気に、沈黙の帳が落ちたのだ。
ロン・ベルクと激突をしていたミストバーンに聖炎の炎を奔らせる事で。
「・・・・貴様が頼みにする数少ない・・否!唯一の者を我らが見逃すと思うか!」
「ッ!!」
ミストの言う通り、ティファが頼みにする者はマトリフしかいない。偉大なる世紀の大賢者を、バーンが見逃す筈も端から無く、ティファが頼りにしているというのが更に警戒度を上げるきっかけとなりマトリフは強制的に処刑演目観覧チケットを押し付けられたのだ。
それがなくともティファの為とこの場に来ているだろうが、ティファはそんな事は考えつかず、魔王軍が強制的に呼んだとしか考えつかず激昂した。
「百歳にもなるご老体を労われ阿呆が!敬老精神の一つも持てんのか!!!」
御年九十八歳のマトリフの身を案じて。
その言葉に、ミストの方もキレた。
「敬老精神がなんだ!!この戦になにが掛かっているのか忘れたのか小娘!!そも敬老精神を言うのであれば我が主にこそ!!」
「うっさいですよ!!決戦の朝っぱらからベーコンステーキとローストビーフ平らげて!クルミパンを一斤食べておいてアップルパイを胃袋に納めるような人がご老体なもんか!!
そんな事私は認めんぞ!!!!」
あんな健啖家がご老体とか言って誰が納得するってのよ!!
握り拳を固く握って断固認めんを言ったティファに、其れを言われるととミストも微妙になる。
精々、あのお方が健康な証拠だとしか言えなくなるところが辛いが、何時までもティファと話すなとロン・ベルクに突っ込まれながら剣の打ち合いになり戦場が戦場となった(?)のを見届けたティファは、改めてマトリフの側にチョコチョコと寄り、申し訳なさそうな顔をしながらマトリフの袖を摘まんでそれっきり無言となった。
何を言えばいいのか分からない。
ダイ達の様に慰めや安心の言葉を掛けるのとは違い、おじさんが相手だとどうしていいか分からなくなる。
謝るのも違う気がして、どうしていいのか・・・
そのティファの目の前に、父バランも漸く姿を見せた。
ティファとの再会の一番を息子とお世話になったマトリフに譲り漸くティファの前に来た。
「・・・・父さん・・・・あのね・・・その・・」
「いいのだティファ。無理に何かを言う必要はない。あの時お前の決断が無ければ私はおそらくここにはおらず、ディーノ達も・・・ありがとうティファ。辛い事をお前にさせてしまった私達を、どうか許してくれ・・」
父の無くなってしまった右腕を見ながら、全ての事を謝ろうとしたティファを、バランは残った左腕でティファを包み込み反対に謝した。
ティファがこれほど辛い決断をして成した事は、全て自分達の無力さから来ているのだと。
ティファは何も悪くないのだと。
「・・・とうさん・・・・ふ・・っく・・・」
「嬢ちゃん、お帰り。良く帰ってきてくれた。」
「おじさん・・・・・うん・・・・・うん・・」
父に抱かれ、ティファもまた張り詰めていた緊張の糸が溶けて泣き始める。
その顔は幼く、年相応の娘に戻る。
今この時だけは、ただの娘で泣きたいと。
そのティファの頭を、マトリフが泣きながら優しく撫でながらお帰りという言葉をティファに贈る。
その言葉で、ティファは本当に自分は-家族の下-の帰れたのだと心の底から安堵し何度も頷き漸く声を振り絞って返した。
ただいまです
今宵ここまで
主人公が戻ってきた事で、今まで無理をしてきた人たちの心情が溢れ出て癒された回となりました。
そしてフローラ様の段取りが外れもした回です。
少しずつ齟齬が出来始める中での両軍の激突となりました。