勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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戦場の庭にて

「あのさティファ・・・皆が俺達の魔法陣完成の為に頑張っているのに、これっていいのかな?」

 

ダイ兄、顔を引き攣らせながら聞くんじゃありません。無論いいに決まっています。

 

「けどよ・・・俺まだ何もしとらんのだけど・・」

 

これからするんだから体力温存しておきなさいよポップ兄。

 

「ティファ・・・私達其の、特訓ではもっとつらい姿勢維持しているからやっぱりこれはちょっと・・」

「マァムの言う通りだ、矢張り敵前でこの格好はいかんと・・」

「立たない!座ってなさい!!少しはレオナ姫見習って!今後の為の体力温存の為にも座って魔法陣完成なさい。」

 

うん、私の言い分を認めたのか立ちかけたヒュンケルとマァムさんもきちんと座り直したか。

良い子にはご褒美。

 

「はい二人共、蜂蜜入りクッキーです。お疲れさまでしたヒュンケル。頑張ってくださいマァムさん。なに、あと少しで大魔王の居城を貫けますよ。」

「ありがとうティファ・・・よし!!あと少し!!」

 

うんうん、マァムさんは本当に素直でいい子だ。それに引き換え・・

 

「ティファ・・・その・・・」

「・・・・・上に行ってから差し上げますから我慢してくださいねヒュンケル。」

 

ご褒美にアメ欲しいと目で訴えてくるアバンの長兄ってどうなんだろう。

色々と切なくなる。

 

ダイ達は今前代未聞な事をさせられている。

 

「結界突破に時間かかりますから、体力温存の為にみんなこの椅子に座って手を握って魔法陣完成させてください。」

 

とか・・・・この戦終わったら絶対に史実に超賛美されるべきこの重大場面を座ってやってくださいって普通ない!!

 

・・・・・史実を伝える時はお父様達王様連合に懇願して、勇者一行全員は頑張って立っていたのだとしてもらうように頼みこもう。

 

間違っても楽な道を選んだわけではない!絶対にない!!ただ料理人ティファの意見がよさそうだから、良い事を実行しただけだと脳内理論武装したレオナは、後は悠々快適さを満喫する事にした。

そうでもしなければティファの折角の心遣いを無駄にしてしまう。

 

あれから30分近くたってようやくマァムにまで回せた間に、ティファはクッキーを口に入れてくれて、程良いぬるさのレモンティーを飲ませてくれてなにくれとなく自分達の面倒を見てくれている。

 

戦場を駆けまわっている間を縫っての事だ。

そしてその戦場は途轍もない事になっている。

 

 

「ノヴァさん!行ってきます!!」

「チウ君!・・ゴメスさん!!一緒に・・」

「ああ俺も付いていくから安心しな大将!!行くぞチウ!」

「いけませんね、敵は減らずにこちらばかりが消耗させられて。」

「・・・・まさか敵があれ程の者達だとは・・」

 

先程からチウ達獣王遊撃隊が有志の戦士達と共に戦場を駆け回り頑張って傷ついた兵達を素早く連れて来てくれているのでどうにか死者だけは出ないが・・・・表面上の傷よりもずっと深刻な傷を負わせられている。

怪我が治っても、果たして線上にもう一度立てるだろうか?

それは有志兵達よりもカール騎士達の方が深刻であり、ノヴァは溜め息が出そうになるのをそっと飲み込む。

 

「ザムザさん・・・魔界はかほどに・・」

「ノヴァ殿、今は相手の事情など無視なされよ。でなければ持っていかれますぞ。」

「そう・・・・ですね・・・・・そうなのですよね」

 

普通なれば、こんな狂気的な敵を相手の事情も思いも全て分かって受け入れた上で止めますと平然と宣言する方がおかしいのだろう。

 

先程のティファの様に

 

 

 

 

そこは戦場だ、血が流れ悲鳴と怒号が飛び交うのが当たり前の場所の筈なのだが・・参ったな、これは本当に不味い。

 

「手足切ったのにどうして!!」

「!!離れろ!そいつ最後の魔力でメガンテを!!」

「く・・・首が半分千切れているんだぞ!どうして止まらない!!」

 

救護部隊の手伝いをしながら勇者達のフォローをするようにと最初はバウスン小父様に言われていたけど、これは本気で不味いな。

 

手足千切れようが首が落ちかけても敵は戦う意志を貫こうと突進をかけていく。

生命を投げ出したその戦いとも呼べない特攻の狙いは唯一つ。

 

「く!勇者様達の下へと近づけるな!!」

「この身果ててもお守り申し上げろ!!」

 

こちらも士気では負けていないけど、士気以前の問題だこれは。

 

「あの魔法陣さえ潰せば我等の勝利だ!!」

「誰か一人でもいい!!アバンの弟子の手の一本でいいのだ!!押し込め!!!」

 

真っ当に戻ったミストが、ロン・ベルクと切結びながら配下のモンスター達に明確な指示を与え、与えられた者達は周りの敵など顧みる事無く一路ダイ達を目指し始め、バウスンが不味いと直ぐに察知し魔法陣の周りに六人一つの組み分けをさせ四方に配置させ、残りの半数を中央突破で敵を搔き乱し、残りを左右から押し包む陣形で迎撃しようと試みたが、中央の兵達は前方からくる魔法でほぼ壊滅しかけた。

 

魔王軍もこの地での決戦を想定していく通りもの戦い方を研鑽し、まとまっての突撃号令が出た時は前衛は魔法が使えるアークデーモン隊が受け持ち、崩れた所を剛力のシルバーデビルや痛みをものともしないさまよう鎧達が、地上軍の中を食い尽くそうと迫った時大音声がした!

 

「地上軍一同下がれ!!!」

 

本来ならば失敗する筈のベビーサタン達のイオラの嵐に晒され、あわや蹂躙されかけたのはリンガイア兵達であったのが幸いであった。

 

号令一下、左右に四散した敵を追わずその場所を通り抜けようとした者達はぞわりと背筋が凍り付き止まろうとしたが止まる筈も無く

 

「マヒャデドス!!!」

 

マヒャドすらをも凌駕する、本来であれば喪われた古代最強の氷系呪文が突進する敵を喰らいつくし、凍り付いた者達を魔法団のイオラの嵐が粉々に打ち砕いた。

 

「ここより先、通れるとは思わんことだ。」

 

剣を抜き放ちながら凍って粉々になった敵の遺骸をものともせずに踏み砕いて地に降り立ったのは、氷の精霊王・ハイ=キングの寵愛を受けし、氷の勇者であり敵を脅かす殲滅の騎士団長ノヴァが、冷たい瞳で冷然と言い放ち敵の進軍の足止めをする。

 

遥か昔に消えた筈の秘術にも近い魔法を行使され、自軍が大量に減らされても、軍の参謀であるミストにとってはノヴァが現れた時の自軍被害は想定内で収まっているのを見て取り、慌てるではないが矢張り軍の被害を被った事に忌々しさを覚える。

 

「・・・出て来たか殲滅の騎士団長・・・・マホカンタ系を持つ者を前に・・」

「お前!!俺相手によそ見して勝てるとでも思ているのか!!!」

「・・・・何の理由あってかは知らんが-本気-を出す気も無い貴様に私が敗れる者か!!」

「っ!」

 

ミストが指示を出しながら戦う事にいい加減苛立ちを覚えたロン・ベルクの言葉に、ミストは易々と論破してみせる。

先程からミストも不快であった。

この地上と魔界の攻防戦の最中、実力を隠す様に戦うロン・ベルクに苛立ちを覚えて。

理由は兎も角、互いに決め手の無い二人の戦いはまだまだ熾烈を極めていく。

 

短く途中までであったが、指示を貰えた魔王軍の中から、ウィングタイガーとキマイラロードの二体がのそりと姿を現した事により、双方魔法は使えず肉弾戦の激突となり、装甲装備で固めた上に肉体的強度の高い魔界のモンスター達の攻勢に、次第に負傷兵が続出し、そして地上軍は恐怖した。

 

敵は手足千切れようがものともせず、首が落ちかけても動くのだ!!なんなのだあれは!!

 

さしものノヴァとても、目の前の異様な特攻が理解できずに気がつけば味方全体が押し込まれていた。

 

不味い!ダイ君達迄の距離があと・・・

 

「繋がりし道よ」

 

・・この声は!!

 

「此方と彼方を繋げ!!契約の名の下ティファが命じる!わが思い!!我が言葉に従い!運と不運の道筋を入れ替えよ!!ラック=バイ=ラック!!!!」

 

 

ガァン!!!!

 

地上軍全体が焦りかけた時、少女の声が朗々と戦場に流れ緑の魔法陣が谷を覆いつくし、大音声の後にノヴァ達の目に映ったのは、谷の端まで送られた魔王軍の姿であった。

 

「・・・・これで少しは時間が稼げるか・・」

 

迫りかけた数十体を一斉に遠くへと動かすというとんでもない事を仕出かした幼馴染は、消耗した力を回復させる薬の瓶をあおりながら歩いて自分達と魔王軍の間にスタスタと歩いて割って入る。

 

少しの距離であれば、送りたいと思う者達を大量に送れるラック=バイ=ラックを遺憾なく発揮し、直ぐにハイ=エントようの魔力補給をしながら両軍の間に立ち雪白を抜いて地面に突き刺し、敵を見て、そして悟った。

 

「・・・成る程、この場にいる・・いえ、魔王軍全軍が()()()()にまで堕ちて勝ちに来ましたか。」

「・・・ティファ?」

「バウスン将軍!この戦が初めての戦いとなる物、十以上戦った事の無い者達は後方支援に回す事を意見具申しましょう!!」

「ティファ!!」

「・・・・最悪ノヴァも下がっていて欲しい。前衛に立つのは古参でないとあれに飲まれておしまいだ。」

 

厳しい目を向けたままティファは言い切る。

自分の考えが正しければあれは・・

 

「ティファ様!我等が何になったというのです!随分と地上の軟弱者達を庇われますな!!」

「なんだと!!」

「おのれ!その減らず口今直ぐに!!」

「出るな!!!」

 

敵の挑発に飛び出そうとした若い兵を、ティファは雪白を横にし、刃を走り抜けんとした兵の方に向けて止めながらも、なおも相手から目を逸らさないでいる。

何故ならそんな事をすれば相手は一気呵成に攻めてくる者達、己の命など端から度外視している

 

「死兵相手に初級・中級者を相手にさせるはず無いでしょう。」

「死兵!!ティファ其れは!!」

「バウスン将軍、彼等の目を御覧ください。皆凪いでいる。逸る心もこちらを蹂躙して嬲ろうとういう気も無い瞳で、彼等は手足千切れんとも、首が落ちんとも動くのを躊躇わなかった・・・」

「・・・・料理人ティファの言う通り!編成を組みなおす!!古参兵前に!若き者達は後方よりの援護を!騎士団長ノヴァは左右挟撃の援護を剣と闘気のみで行え!!」

 

ティファの言った事を理解したバウスンも、敵の尋常ならざる気配で漸く分かった。

あれは死兵なのだと。

 

「将軍・・・死兵とは何なのですか?」

 

傍らで聞いていたフローラも、敵が尋常でない事は分かったが死兵の意味が分からない。

自分も先と今大戦で騎士・兵士達を指揮し、民達の為に命をかけよと命じてきたが、死兵という言葉を聞いた事はなかった。

 

「陛下・・・・我等地上の者達同士が国同士で争うともここ数百年は出なかった者達です。

死兵とは言葉の通りに己達の死を恐れず戦う・・・」

「それは違います!!」

 

バウスンのレクチャーに、ティファが否やを唱える。

確かにバウスンの説明もある意味において正しいが、この場合は間違っている!

其れでは危険だ。この死兵達の恐ろしさが半分しか伝わ無いのは危険なのだ!!

 

「今目の前にいる者達は!()()()()()()()()()()です!!」

 

ティファの言葉に、地上軍は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 

「死んでも戦うなどあるものか!!」

「動けないもの何が!!」

「出来るのです!するのです!!せねばならないと思い定めだのです!!!」

 

その騒ぎを一喝する様にティファの言葉が百雷の如く谷に落ちた。

 

「彼等は勝ちに来た!自分達ではなく魔界全土を勝たせる為に来た!!!」

 

まるで断言するようなその言い方に、地上軍は黙ったが魔王軍からは笑いが起きた。

最初はさざめく様に、徐々に大きくそしてとうとう大笑いとなる。

嬉しいのだ彼等は。

自分達の心情を全て察してくれるティファが、そしてそんな自分達を悍ましげに見ずに、変わらず接してくれるティファの存在が。

死兵なぞ、本来ならば魔界においても忌まれる存在。

何故なら敵対したが最後、塵になるまで闘うと言われる存在。

端から己達の生命など武器の一つとしてしか見ずにいる、生命の理への叛逆の様なものを、忌まずに受け入れ平然としてくれる相手がいようとは!

 

「その通りですティファ様!!我等はこの地を消滅させに来た!!」

「今まさに生命が誕生している事も承知でこの地の全てを消しに来た!!」

「我ら果てようとも!!必ずや魔界の神たる大魔王バーン様が魔界をお救い下さる!」

「なれば我等に何の躊躇いがありましょうや!!」

「血だろが骨だろうが生命の一欠片だろうがそれで地上側の敵全てを倒せるのならば安きもの!!」

「「「我等はその為にここにいる!!!」」」

 

其れは自らが業を背負う事を知った者達であった。地上にも命が横溢している事をきちんと知った上で自分達の生命全て使い切って消すと言っている。

そんな心決めた者達に、さしものノヴァもロン・ベルクすらも青褪める。

 

戦いに長い事身を置いていたロン・ベルクだが相手をしていた者達の中に、これ程の覚悟を決めている者達はいなかった。全員が己の誇りや剣の腕に対する思いなど、個人的な事で戦った者達が大半で、これ程の思いをぶつけられたのは長い年月初めてであり圧倒されるなか、声が響いた。

 

「成る程!成ったか!!成らされたのではなく自らがそう成ったか!!馬鹿が!大馬鹿者達が!そんな思いを背負わされるものの身は堪らんぞ!!!」

 

謎かけの様な事を言うティファの言葉に、矢張り魔王軍は愉し気に笑う。

 

「バーン様には悪いと思う。我等の命をも背負わせることになろうよ。」

「それでも止まるつもりはないと?」

「その通りです!我等がここで敗れれば魔界にはもう後がない!!」

「俺達が行く先は最早前にしかない!!」

「上に!此処しかない!!」

「どのような事をしてでも魔界の悲願の為にも!!!」

「よろしい!!!」

 

ガン!!!

 

その言葉に、ティファは雪白を鞘ごと大地に突き立て不退転を顕す。

 

彼等は本気だ、本気で死んでも戦う事を辞めまい。首が落ちても手足振り回していく足りも殺そうとしよう。

目玉だけになっても食いついて来よう!!ならば私がする事は一つ!!

 

「将軍!彼等を制圧しても止めは刺さずに!!その後は私が何とかします故!」

「ティファ!策はあるのか?」

「ございます!!この場にいないパレスにいる魔王軍にも告げる!!勇者一行の邪魔は!料理人たるティファは許しません。

兄も昔から調理中の料理を盗み食いしようとして私に何度も捕まりました。

料理であれ事象であれ、途中で邪魔する者は許しません!

私の一切を使い!合切を持ち出します!!!」

 

 

その言葉が合図の様に、魔王軍は雪崩うちノヴァを筆頭に迎え撃ち、地上軍が三人一組で敵の手足を斬った後、止めを刺す前にティファが飛び込み筒を敵に向けて唱えた。

 

「イルイル!!」

 

ティファの作戦は単純であった。

 

敵を弱らせ、そして筒に入れていく。

 

味方の消耗を抑えつつ、敵を減らしていく最前手。

止めを刺す時に出来てしまう隙もなくすための策。

 

「どんどん入れますので次に!!」

 

そしてティファは戦場を駆け巡る間にダイ達のフォローもして三十分以上が立つ。

 

本当はまだ出番が来そうにないポップも参戦したいが、自分達が要なのだと言い聞かせて耐えている。

 

ティファとノヴァが揃っているのだから大丈夫だと。

 

それに古参兵をアキームが指揮し、無理はさせずに隊を回して兵の温存に成功している。

 

ティファも筒が切れかければ瓦礫に闘気を通してどんどん作る。

 

そしてノヴァも休みを兼ねて救護隊を指揮ししながらザムザと共に前線を警戒している。

 

何もかもがうまくいくと、ポップは思った。

 

その思いとは裏腹に、この事態を懸念している者達が幾人かいる。

 

マトリフはティファが魔王軍の心情全てを察し、その上で受け入れるような言動を見せる中、相手から様呼びをされているのが気に入らない。

 

これでは嬢ちゃんがあいつ等と親しくなって、この消耗回避の策も敵を庇っている様にしか-カール騎士達-には取られていないかもしれない。

 

先程からずっと嫌な予感がする。

どうしてもそれが振り払えない中、同じように危惧している物がもう一人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困りましたね~。この状況はベリーバットですね。」




今宵ここまで
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